ことのはじまり





:)酔狂の愛に遺憾なき罵倒を
のシャーディス団長時代と視点が訓練兵時代の話。









書類を手に廊下を歩いていると、中庭で誰かが嘔吐し泣く声が聞こえた。
覗く気にもならないのは、よくあることだから。
日差しが頬に当たって、一瞬だけ目の血管が視界に浮かぶ。
ぼうっと浮かぶ血の証は等しく存在し、捧げた心臓だけが等しく調査兵団のもの。
私がここに来るまでに、嫌な訓練も苦手な長距離走も数字の勉強も、どれだけ頑張ったか。
新兵の女の子が嘔吐する横で、私は心臓を捧げた。
狭すぎる世界故に言われる侮辱も、私は無視した。
調査兵団を志望した理由は、未知の世界があるなら触れてみたいと思ったから。
毎回生きて帰るというキース・シャーディスを、調査兵団の帰還で一目見た幼い時から。
総合的に見て良いとは言えない寂しい人生を過ごした女でも、あの人の下で兵士になれるなら。
入団し、訓練で疲れ果ててもなお浮かぶシャーディス団長の顔。
成績を収め、そして調査兵団入団希望者が集められ、目の前にシャーディス団長が出てきた瞬間、もうどうでもよくなった。
身につけた生きる術をすべて使い果たしても、シャーディス団長の側にいる。
決意してからは早かった。
シャーディス団長の側で執務を手伝い、兵士として出来る手伝いを全てこなす。
これをやってくれと私の名前を呼んでくれるだけで、嬉しくて眩暈がする。
兵士の皮を被った卑しい女の私に、本来ならば明日は無い。
シャーディス団長の近くにいたい、そのためだけに、今日も私は生きる。
団長専用の執務室の扉を叩き、声がしてから入った。
「シャーディス団長、朝の便で届いた手紙です」
私の声に、書類から目を離し顔をあげて立ち上がるシャーディス団長。
背が高くがっしりとした体つきなのに仕草に下品さが見えない。
物静かに受け取り、ありがとうと言う表情を浮かべない顔。
手紙を渡し、息を、止めて、殺す。
獲物を狙うときは、いつもそうした。
気づかれてはいけない、だが仕留めなければ飢えてしまう。
胃袋も恋心も同じだと知る私は、最低の兵士。
手紙を受け取ったシャーディス団長が、私を見る。
健康的な肌に包まれた顔にある目の色だけが映えて、見つめられるだけで満足。
見つめて記憶したあとは、一人きりのときに私の中で反響して私だけの恋が破裂する。
「なまえ、この前の誘いのことだが。」
名前を呼んでもらえるだけでいい。
今日の仕事が終われば、三日間の休暇。
シャーディス団長も明日に用事があるらしく、それなら夕方に食事でもしませんかと誘ったのが数日前。
その返事だ、と期待して向き合う。
表向きに装った笑顔のまま、シャーディス団長を見つめる。
「用事の準備をしなきゃいけなくてな、時間が合わなさそうだ、すまない。」
断られたものの、黙って見つめる。
短い前髪の下にある目の輝きを見て、そうですか残念ですと丁寧に言う。
その間も、私の頭の中は期待でいっぱいだ。
「いえ、また時間が合いましたらご一緒したいですわ」
「ああ、そうしよう。」
表向きは丁寧な笑顔が浮かべられることだけが女の利点。
世話になっている兵士と飯のひとつくらい、としかシャーディス団長は思っていない。
それでいい、それだけでいい。
私がシャーディス団長に恋をしていることを、知られたくない。



路地の入り組んだ先にある、暗い店。
女性用の下着のみを取り扱う珍しい店で、休暇は毎回ここに来ていた。
胸が大きく、尻も大きい私は値が張ってでも女性用の下着には金を使わないといけない。
同期にも私と同じように女性的な記号を大きくした子は何人もいて、そういう子は上手いこと憲兵や駐屯兵に回り大きな胸と尻を痛めないように徹していた。
調査兵団にいるのは強い人ばかりで、行動を起こす前に私は浮く。
見た目以外の滲み出る何かが浮かせる原因なんじゃないの、と同期のリコに言われたことがある。
頭の中はシャーディス団長のことでいっぱいだから、それが原因だろう。
真面目で可愛いリコ、聡明だけど奇抜なハンジ、凛々しく爽やかなナナバ。
全員とも違う自分が嫌いかと言われても、あまり考えたことがない。
いくつかの下着を買い込み、通りに出る。
明るいうちの通りは賑やかで、心地が良い。
通りをざっと見渡して、周囲の建物の壁の色を流れるように見てから空の色を見て、遠くを見た。
視力は良くて遠くまで綺麗に見えるから、ミケの鼻とハンジの研究の次くらいに役立つ。
これで戦闘訓練も完璧だったのなら最前線に行けてシャーディス団長と戦えたのに、と思うことがあっても口にしない。
遠くまで見渡して、賑やかな色をしているのを見つけた。
あの賑やかさは、パーティーだろうか?
見つめる方向にあるのは金持ちの家と教会と孤児院。
どれかがパーティーをしているんだろう、そう思い見ていると一瞬だけ幻のようにスーツ姿のシャーディス団長が見えた。
え、と声が漏れて目で追う。
シャーディス団長を見間違えるわけがなく、取柄の視力で追った。
スーツを着たシャーディス団長は地面を見つめた後、普段は絶対に見せない無気力な顔のまま住宅地の方向へ歩いていく。
シャーディス団長の用事は、あの賑やかな場所にあったのだ。
なんのパーティーに出ていたのか、まだ知らない。
個人の休暇に踏み込むのは、と思いつつも妙に寂しそうな顔をしていたことだけが気になって、通りを少しだけ歩く。
鼻先に焼きたてのパンの匂いが掠めたけど、今は確認が先だ。
50メートルほど歩いてみれば、教会で結婚式をしているのが見えた。
金持ちの家も、孤児院も、今日は静かだ。
新郎新婦は見えないけれど、皆楽しそうにしている。
まさか新郎がシャーディス団長ではと思い暫く見つめて、会うわけもなく、諦めて帰る頃には昼ごはんが欲しくなった。





顔を見たら、スーツ姿で何をしていたのか聞こう。
短く切ったはずの髪はもう伸びてきて、いっそナナバのように刈り上げてしまおうかと考えて、やめた。
朝起きてまずシャーディス団長のことを考えるから重篤だと思う。
執務と仕事と雑用を終え、夜の帳がかかった時刻に団長執務室の扉を叩く。
声が聞こえず、もう一度扉を叩いても返事が無い。
不審に思い、扉に手をかけ不躾ながらも開ける。
「シャーディス団ちょ」
う、と言いかけて止まった。
団長執務室に団長がいないのだ。
何事かと執務室に入り、見渡すと奥の部屋の扉が開いていた。
踏み込んでみると、狭苦しい形の古びたソファに腰掛けているシャーディス団長が私を見る。
妙に暗い瞳のまま座り込んでいるのを見て、一瞬言葉がつっかえそうになった。
「ここにいらっしゃったのですね、お休みのところ申し訳ありませんが書類をまとめましたのでご確認を」
それでも上辺だけは丁寧にできるのが、女のいいところ。
私の声に反応したシャーディス団長がソファから立ち上がり、私を通り越して執務室へ向かう。
「ああ、今確認する。」
高い身長、真面目そうな髪型、神経質そうな目元、何を考えているか分からない雰囲気、下品さのない仕草。
「シャーディス団長、先日スーツを着ていませんでした?」
それらが全て好き。
「見ていたのか。」
「偶然です、格好よかったなと思いまして」
「声をかければよかったものを。」
「いえ、500m先にいたので見ただけです」
「正装も礼服も好きではなくてな、それにああいう場所は気が引けて仕方ない。」
「似合っていましたよ」
にこやかに言うと、私から目を逸らし書類に目を通し始めた。
疲れの滲む目元が冷たく動いて、書類の上を這う文字に目を通す。
「友人の結婚式でな、賑やかな場所は居心地が悪く早急に帰ったがスーツはどうも性に合わない、私にはこの服が似合う。」
「賑やかな場所はお嫌いなのですか?」
「あまり好きではない、目的もなく酒場に行くのも躊躇うほどなのでな・・・普段なら執務室に私となまえだけで静かなほうがいくらか過ごしやすい。」
ふっと抵抗感が消え、シャーディス団長の横顔を見つめる。
ミケのような鷲鼻でもなく、ハンジのように明るい目ではない。
潜んだ雰囲気が好きな理由もわからない、でも仕草と手の内を明かさない考え方も言い方も好き。
書類を机に置き、印を押すために机に向かおうとする足を止めるために腕を掴んだ。
太い腕に私の手が触れ、胸が高鳴る。
子供じみた恋は、時に破裂し暴走してしまう。
「シャーディス団長」
腕を捕まれ何事かと私を見るシャーディス団長の顔。
いつもこんなに近くにいたのに、今までこうしなかった理由はなんだっけ、思い出せない。
上っ面だけの自分で覆い包み思い人に近づくことを許していたのはシャーディス団長ではない、卑怯な自分だ。
不躾、下品、はしたない私。
背伸びをして両手でシャーディス団長の顔を掴み寄せ、乾いた唇同士を押し当てる。
顔に熱が集まり、私の唇だけが熱くなった。
唇同士を押し当てたら、どうするんだっけ。
リコにキスの仕方を聞いたら照れられたことがあったっけ、あの時はハンジが乱入してきて楽しかったな。
キスをしても、次がわからない。
不慣れ極まりないキスをしてから、このあとどうしたらいいか分からず何度か唇を押し当てた。
突き飛ばされる気配はなく、顔に熱が集まりすぎて脳から血の気が引いたところで顔を引き、シャーディス団長を見つめる。
いつもどおりの顔をしていて、ぞくぞくした。
「なまえの成績なら、こんなことをせずとも憲兵団に転属できる。」
期待通りの、冷たい言葉。
足元からぞわぞわと這う言葉を感じながら、平静を保つ。
「シャーディス団長、お伺いしますが・・・ご結婚は?」
「していない。」
「よかった、不貞になるところでしたわ」
もう一度キスをしようとすると、冷たく断られる。
「やめろ。」
殴られるわけもなく言葉だけで刺すシャーディス団長を見つめ、表情を目に焼き付ける。
目に軽侮が浮かんだシャーディス団長を見て、私の中の何かが悲鳴をあげた。
「いけませんか?」
「そうではない、ただなまえは・・・。」
「シャーディス団長、私が小娘に見えるというのなら、シャーディス団長から見て私が女になったと思う日まで待ちます」
「小娘には見えていない、だがなまえの今の行動は娼婦そのものだ。」
「私は娼婦じゃない、私は貴方のものです、貴方との間に金を挟めて抱き合いたくない」
団長執務室に誰かが入ってくる可能性を微塵も感じないまま、御託を並べた。
「一目見たときから決めていましたの、私の運命の人は貴方だと。今は振り向いてもらえなくてもいいし小娘だと思ってもらっていい、今は貴方に尽くします、きっと貴方は私に夢中になるわ、私は貴方をまだ知らなくても、こんなにも愛し」
言い終わる前に、シャーディス団長が私の体を抱えてキスをしてきた。
大きな腕に抱えられる妄想を幾度となくした夜の報いが今やってきて、体が歓喜に震える。
喋りかけの口の中に太い舌が入り込み、目の前が霞む。
口腔内をぐるっと嘗めまわすように動いた舌に背筋が張り詰め、引き抜かれた舌を名残惜しく思えばシャーディス団長が私の髪を掴むように頭を抱えた。
顎が上を向き、無理矢理見上げるような形にされて眼球が動く。
侮辱とも軽侮とも言いがたい色を目に浮かべたシャーディス団長が、低い声で囁く。
「後先考えず動き、私が女性に対し粗野な可能性を微塵も消し飛ばす頭のなまえが、私に対し愛だの運命だの知らなくてもだの、頭が高いにも程がある。もし今この場で、私が女性に対し理性のない者だと分かればどうするつもりだ。
泣き喚いても誰も同情はしない、あわれな姿のまま廊下に放り出された後のことを少しでも考えたか?それとも私はそんなことをしないと思っていたか?
自分に酔い、相手も酔わせようとかかる。自己満足の酌しか注げない女は酒場の蓮っ葉に後ろ指を指され、馬鹿にされ、嫌われ、おしまいだ。なまえはそんな女じゃないだろう。
私が、そう思いたいだけだが。」
興奮で体中の穴という穴が開き、瞳孔が震えて開き、はしたなく息を切らした私を見て、シャーディス団長が冷たい目を向けた。
「なまえ、ここじゃよくない。」
髪を捕まれたまま先ほどまでいた奥の部屋に連れ込まれ、シャーディス団長が扉を閉める。
足が引きずられたあと、ソファを通り越した壁に押し付けられ、体を離された。
はあっ、はあっ、と気持ち悪く息を切らす私を冷たく見据え、シャーディス団長が命令する。
「なまえ、そこで休め。」
それだけ言ったシャーディス団長は私から離れ、ソファに横になった。
古びたソファの上で寝るということは、今日はここに泊り込むのだろうか。
自室に戻らず仕事をすることは何度もあったけれど、そのたびに朝はミルクを淹れて渡していた。
壁際で休憩の体勢を取り、頭を冷たい壁に押し付ける。
後頭部が冷え、私の頭が焼けそうなほどに熱いことに気づく。
きっと、酷く醜い顔をしているのだろう。
夜の帳が深くなる中で、古びたソファの上で寝るシャーディス団長を見つめた。
シャーディス団長が、私に言い放ったことを思い返す。
乱暴にされ、甚振られる。
馬鹿にされ嫌われ蔑まれ腫れ物扱いされる。
それでも私は貴方が好き。
シャーディス団長の冷たい目が、私の中を掻き乱す。
粗野な可能性はなかったのか、理性のない、あわれな姿で泣き喚いても同情しない、廊下に放り出され後ろ指を指される。
もし、そんな扱いを今頃されてしまったらどうするのだろう。
泣き喘ぎ全裸で廊下に放り出され、別の男たちに見つかって、受け入れ難いものを受け入れて、それを見つめるシャーディス団長。
下品な笑い声と液体にまみれてゴミのように扱われ、玩具みたく乱暴にされる。
シャーディス団長がしてくれるなら。
そんなことはない、そうならないように、もっと、もっと。
休憩の体勢を作るのに疲れ、そっと壁にもたれかかり床に座り込む。
綺麗とは言えない床に座ってから、言われたことを何度も頭の中で繰り返す。
歪んだ夢想に、現実からのご褒美が加わる。
これほどまでに幸せでいいのだろうか。
シャーディス団長が私に「犯されてこい」と命令すれば、私は犯されにいくだろう。
吐き気を催すようなことも、シャーディス団長の意なら。
目を閉じて、いつものように考える。
威厳と畏怖を抱く相手に、命令され、叩かれ、蹴られ、罵られ。
汚物のように扱われてもいい、シャーディス団長が私のために何かを命令するなら。
命令してもらって、私は何かを刻み付けてもらえる。
その夢想の欠片にひとつでも近づいた、そう実感すればするほど全身が熱を持つ。
シャーディス団長がいる手前、自慰をするわけにもいかない。
静かに、目を閉じて待つ。
火のついた夢想は無限に焼ける、それを悟り、座り込んだまま体を休めた。



「なまえ。」
声がして目を開ければ、まず目に飛び込む自分の膝。
座り込んだまま寝てしまったことに気づき、朦朧としながら立ち上がる。
「おはようございます、シャーディス団長・・・」
昨日のことは覚えているので申し訳程度に挨拶をした途端、シャーディス団長が私のズボンに手を突っ込んだ。
声は、出さない。
驚いてシャーディス団長を見れば、今にも殺しにきそうな顔で私を見ていた。
肺が震え、逆らいたくない気持ちが膨れ上がる。
険しい顔と潜んだ目つき。
下着の中に、何度も妄想したシャーディス団長の指が性器に触れ、愛液でどろどろの肉唇を指で軽く弄った。
「あ」
びり、とした快感に身悶えする暇も無く、シャーディス団長が手をズボンから引っこ抜く。
シャーディス団長の指先がべっとりと濡れ、私の目の前で指が何度も動いた。
「声も聞こえなかったのに、これはなんだ。」
動くたびに粘着質に糸をひく女くさい液体と白く垂れた愛液。
シャーディス団長の手についた愛液を見て、赤面した。
蔑むような目を見て、私が薄く笑ったのを見てシャーディス団長が愛液まみれの指を私の口に寄せる。
黙って口を開け、自分の愛液とシャーディス団長の指を舐めた。
どちらかと言えば不快な味を舐め取ってから、シャーディス団長の指を舐る。
初めて舐めるシャーディス団長の皮膚に唾液が止まらずに必死で舐めとれば、汚れていないほうの手をズボンの中に突っ込まれた。
ひっと息がつまり腰が震える。
性器にまたシャーディス団長の指が触れて、恐ろしい光景でも見たような声を耳元で吐かれた。
「ひどい臭いと粘り気だ、ほら、まだ溢れている。下着を替えろ。」
口から指を引き抜かれ、焦点が定まりそうにない目で見つめる。
下着の中で蠢く指に感じて体を震わせれば、指と性器が擦れるたびに音が鳴った。
目の前に火花が散るような感覚がして思わず瞼を閉じそうになっても、気力だけでなんとか目をこじ開ける。
「なにもしてやらなかったのに、何故だ。」
ゆっくり動く指。
私が何度も夢想したことが起きている。
どれだけ私がこのチャンスを待ち望んだか、知らないんだろう。
愛液の味がする舌で、素直になる。
「団長と、キスしたあと、二人きりになってえっ、団長とぉっ・・・するのを考えたらっ」
「する?何をだ。」
「・・・・・・そういう、こと」
「口にできないようなことがしたかったのか?お遊戯か、泥遊びか?」
「セックス、セックスですっ!」
「卑猥な女だ。考えただけでこの有様か、品性の欠片もない物欲しそうな顔のまま朝を迎えた気分はどうだ、まだ濡らすか?濡らし溢れさし垂れる前に俺の上に跨がればよかっただろう。」
俺と言ったのを聞き、これが素なのかと気づく。
私も気が抜けたときは目も当てられないくらい怠けるけど、シャーディス団長のこれは性格そのものだ。
指が性器の中に入り、頭の中が所々破裂するような感覚に似た快感が襲う。
「来い、と命令されなかったので」
「命令を求めていたのか?」
「そうです、緩い女だと思われるのは嫌で、呼ばれたらいきました」
蔑む言葉と声色に、頭の中がチカチカする。
情けなさと、精神的に組み敷かれ丸見えになる愚かさと、後ろ暗い快感。
「俺に命令されれば股を開いたか?命令されれば、外で全裸のまま自慰をしたか?それこそ娼婦のようだ、なまえ。犯されてこいと命令されれば、俺の顔を浮かべながら知らぬ男に豚扱いされたか、なまえが今言ったのはそういうことだ。
言葉に気をつけろ、なまえの誘いは少しずれている、そういう誘いをしているようなものだ。」
身震いし、冷たい体に言葉と視線が刺さる。
待ち望んでいたものを、シャーディス団長は私だけに全てくれた。
「私はっ、娼婦」
ガチガチと歯が鳴り、唇の端から涎が垂れた。
「貴方のためだけの娼婦」
歪む視界でシャーディス団長を見つめれば、ゆっくりと性器から手が離れた。
手が離れても腰の疼きも興奮も収まらず、頭がぐらぐらする。
酸素を求めれば、目に涙が浮かんでしまったのを見てシャーディス団長が悲しそうな顔をした。
「なまえ、いじめすぎたな、すまない。」
突如謝られ、我に返る。
申し訳なさそうな顔をしたシャーディス団長を見て、一気に疼く。
「あっ…あ」
「焦るな、試したわけでもないし下心がなかったわけでもないが、なまえが理性のある女なのを知りたかった。突然ああしてくるから、なまえの気持ちを知りたかった。」
だからと続けようとして目を伏せたシャーディス団長を見て、期待が確信に変わる。
「団長、私はとてもはしたない真似をしました、こんなのいけません」
ずるずると壁に寄りかかったまま床に座り込み、四つん這いの体勢をとる。
下半身をシャーディス団長に向けたあと、自分からベルトを外しズボンを太ももの付け根あたりまで下ろした。
無駄に大きいお尻を出したまま、片手を壁に、開いた手は申し訳程度に隠すために股の間に。
驚くシャーディス団長を四つん這いのまま見上げて、してやったとばかりに笑う。

「お仕置きを」
私がにやあっと笑い興奮したのを見て、シャーディス団長は気づく。
優しさなんて、私を見てくれるのなら要らない。
興奮しきって尻を差し出す私の真の意図を知ったシャーディス団長が固唾を飲む。
微笑んだまま腰を上げ、尻を強調するように這う。
そういうことか、と顔に浮かべたシャーディス団長が短く息を吐いたあと私の横にしゃがんで、私の顔をじっくりと見た。
何度かお尻を撫でる間も、ずっと見つめる。
見慣れた顔が色一つ変えずに、私のお尻を撫でる間にも股の間にある手に何か湿っぽいものが触れた。
大きな手、これが今から大好きなことをしてくれるはず。
期待だけで濡らす淫乱を早くお仕置きしてくれと体が強請り性器から溢れるものがあるけど、そんなものには触らなくていい。
私が、私が欲しいのは。
目に灯る暗い光を見て、期待と興奮が昂ぶる。
シャーディス団長の手が、指が、私の汚い部分に一番近い部分に触れていく。
丁寧にお尻を触られてから、バチンと一発叩き込まれた。
「あっ!」
出したかったわけじゃないのに、声が出る。
好きな人に叩いてもらった途端に疼き熱を持つ。
脳から溢れ出すものが全身を火照らせ、歯を食いしばれば胸の辺りが妙に熱っぽくなった。
股の間に挟んでおいた手の、ちょうど手首のあたりに性器が擦りつけられ、次の一発が欲しくなる。
息を切らし、渦巻く体の奥から欲望が滲んでくる私を見たシャーディス団長が嫌そうな目をした。
「こうしてもらいたかったのか、変態め、自分の立場を言ってみろ。」
「へ、いし、です」
掠れた声で答えれば、顎を片手で捕まれた。
頬が押され、舌が出る。
「もっとはっきり言え、役立たず。」
冷たい目が、私を見下ろす。
「兵士ですっ!」
「醜い尻を出して痛みを強請る女が兵士だと?落ちぶれたものを期待を見越し痛みで教育する価値も見出せんな。」
大きい手が、強めの力で尻の下の部分を叩いた。
体が大きく動き、まっすぐに伸ばしていた手に性器が擦れ、腕が攣るような痛みが肩を刺す。
「アッ!!!!」
「誰がそんな淫猥な声を出していいと言った?」
顎から手が離れ、頬に一発。
脳が揺さぶられたのもつかの間、腰を捕まれ力の限りであろう一発が尻に叩き込まれる。
腰の付け根にある骨が軋む感覚と快感と痛みと手首に擦り付けてある性器から何かが溢れるのがわかって、白目を剥きかけた。
「んぎっ・・・いいっ」
「汚い声だな、ほら、喋ってみろ。」
頭を大きな手が這ってから、髪を捕まれる。
半開きの唇にキスされ、腰が揺れた。
舌が入り込み、こちらもと舌を動かせば尻にあった手で胸を叩かれ肩を震わせる。
シャーディス団長の目元の皺を縁取る影が暗く、目の光を一層際立たせた。
唇から垂れた涎が床に落ちて、震える唇を動かす。
「わ、私は汚いっ、雌犬ですっ、もっと躾けてください!」
叩かれて熱くなった胸の下で、心臓が痛いくらい動く。
鼓膜にまで響きそうな鼓動はシャーディス団長にも聞こえてしまうのだろうか。
「犬が無駄口を利くな、貴様は恥知らずの豚だろう。」
「豚です、私は豚ですっ」
「奴隷の餌にもならん糞女め、人の言葉を理解するよりも肥溜めで暮らしていたほうが幸せだろう。」
シャーディス団長が目の前で自分の指を舐めて、それをそのまま私の下半身に持っていった。
濡れた性器の中に指が埋まり、息を飲む。
私の口元に笑みが零れたのを見たシャーディス団長が、音を鳴らすほどの勢いで性器を弄り、快感と刺激に戸惑い歯を食いしばった。
動かされるたびに、体が動く。
「腰が揺れているぞ、動物のようだ。」
「は、はひっ、発情期です!私は動物です!!」
「動物もなまえと一緒にされて哀れだな、知恵のない者が覚えた言葉は悲しくも愚かさを露呈させるだけだ。」
食いしばった歯の間から涎が垂れる。
爪で膣内が傷つくかもしれないけど、シャーディス団長だからいい。
先ほどから、シャーディス団長は私の顔しか見ていない。
随分とお仕置きの一挙一動が被虐心を把握して痛みと音に手馴れていて、非常に嬉しかった。
あからさまに気持ちいいのは、好きじゃない。
目で訴えれば、シャーディス団長はそれを悟ったのか手のひらと性器が触れる音が耳障りになる頃に指を引っこ抜いてから、数日は椅子に座れなくなるほどの力で尻に一発お見舞いしてくれた。
「っひ!あ!!!」
腫れていく皮膚に焼き付けられた痛みが広がる感覚がして、痺れる。
耳の中で音が反響するような歯の浮く痛みが広がり離れることがなく、血が巡る度に広がる熱が他のところに行き渡るまで時間はかからない。
痛みがじわじわと広がり、眩暈がした。
思いきりを息を吐き出すと唇の端で泡を吹いてしまい、汚らしい顔に飾りがまたひとつ増える。
「おしまいだ、立て。」
尻を覆う痛みに耐えながら、立つためにズボンをあげる。
痺れ攣りそうな痛みが残る腕を動かし、床に這う。
もぞもぞと動く私を見ながらシャーディス団長が立ち上がり、私を見下ろした。
見下ろされる快感を得るために少しだけ見上げたあと、布が触れただけで棘を踏んだような痛みがする尻を覆ってから立ち上がる。
「団長」
「キースでいい。」
思わぬ言葉を貰い、真顔になった。
本心で言えば嬉しいものの、口の周りは涎にまみれ目は焦点が合わず下着の中身がひどいことになっている私には、喜ぶことができない。
「今日中に荷物をまとめろ、なまえに兵士は向かない。」
ぞっとした言葉のあとに続くことを期待し、シャーディス団長に向き合った。
何を言われても、全て聞こう。
それが私の願いであり性癖だと分かりきった上での言葉を、しっかりと受け止める。
「愛に本気になる者の居場所は訓練兵舎にはない、躾けてほしいなら俺の元で品なく過ごし誰か来る可能性がないところで思い切り強請るといい。」
唇の端に浮いた泡を舌で舐めとり、頷いた。






2016.09.04






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