また、やりました





もう、しませんの続き

最高に続かなくてよかったと思うけど書いた
ギャグです








酔った諏訪さんは、風間さんのことを蒼也ぁああぁと呼ぶ。
語尾が異様に伸びはじめたら、諏訪さんが酔った合図。
付き合い始めてすぐに蒼也くんと呼び始めたけど、恥ずかしいのは最初だけで、すぐに慣れた。
酔って更に陽気になった諏訪さんを望ちゃんの横で見守っていると、携帯が鳴る。
酒の席で携帯を取るわけにもいかず、携帯から離れようとキッチンにいるレイジさんの元へ走った。
器用にスクリュードライバーを作るレイジさんの手元には、何種類もの酒がある。
ウォッカ、焼酎、ウイスキー、ジン、日本酒、ラム酒、そして割り組のためのジンジャーエールと牛乳と、各種リキュールと柑橘系のジュース。
床にビール瓶が転がっているのは、ここが諏訪さんの家だからとしか言えない。
手伝いますと言うと、愛想なくカシスリキュールを渡された。
レイジさんもほろ酔い気分なのか、口数が少ない。
蒼也ぁ、と絡みはじめた諏訪さんを鬱陶しそうに見る彼氏を見る。
レイジさん特製アルコール薄々カルーアミルクを飲む蒼也くんの頬は、既にほんのり赤い。
蒼也くんと目があった、と思えば諏訪さんが蒼也くんに絡む。
「んで聞いたらよー!バイト先のお得意様の一人があの教授とか言い出しやがって、あいつ弱み握ったから単位取れたんだぜ!?」
「それ座るほう?立つほう?」
望ちゃんが世間話に割って入り、諏訪さんが酔っ払い特有の目つきのまま望ちゃんを伺う。
「あ?なんだそれ。」
「キャバクラかスナックかって意味よ。」
「加古ぉー!限定的すぎー!おっパブはどっちになるかわかんねえー!」
「座るほうになるっちゃなるわね。」
「でも客のあそこは立つだろうがーわっかんねえーーーー!」
下ネタをさらりと言い、眩暈がする。
酔った人はみんなこうだ。
内側に隠していたものも全部酒のおかげで引き出され、日頃隠しているものまで出てきてしまう。
その結果により私と蒼也くんは付き合うことになったけど。
健全なお付き合いをしているしいいよね、と思いつつ片手間にカシスソーダを作り、望ちゃんに持っていった。
「望ちゃん、これ作ったよ」
「なまえ、ありがとう。」
にっこり笑う望ちゃんは、酔ってない。
二人で飲み明かしてクラブを何件も梯子しても、望ちゃんが酔う姿もナンパを相手にする姿も今だお目にかかれたことがなかった。
元々お酒に強い人は、宅飲みの席で最後まで残る。
「あの教授あの面でおっパブとかホント渡る世間は鬼ばかりみてーな話だよな。」
グラスに残っていたビールをぐいっと飲み、諏訪さんがまた絡み始める。
「おーいー二宮ぁー来週おっパブ行こうぜーオメーのシケた面にも花が咲くだろー!」
「行かない。」
「って言いつつ二宮の顔あっけえー!!」
下品な笑い声を出す諏訪さんの横で何も言わずカルーアミルクをちびちび飲む蒼也くんが、赤い顔をしているという二宮くんを見て噴出した。
噴出す蒼也くんの珍しさに感動して、望ちゃんの影から二宮くんを見るとジンジャーエールで割ったお酒を飲んでいたはずなのに顔が真っ赤だ。
キッチンにいるレイジさんが、二宮くんに声をかける。
「おい、もうやめとくか?」
「ああ。」
レイジさんの問いかけにも感情を殺したような声で答える二宮くん。
いつもこういう雰囲気の二宮くんが酩酊したら、どうなるんだろう。
まさか蒼也くんみたいに、と思えば蒼也くんが立ち上がり諏訪さんの家の床に散らばるものを跨いで歩み始めた。
「トイレ。」
どこへ行くかだけ告げれば、とろんとした目の諏訪さんが笑う。
「蒼也ぁあぁ〜吐くなよ〜!」
「大丈夫だ。」
そう言ったあと、私と目を合わせてくれる。
蒼也くんの目はまだぐるぐる回りそうな瞳孔をしていないのを確認して、安心した。

「なまえ、いま蒼也と付き合ってんだよな?」
絡み相手が一時離脱したことを受け、諏訪さんは絡むターゲットを私へと変える。
「うん」
「あのあとさー、どういう流れで付き合うことになったのかすげえ気になるんだけど。」
「ちゃんと告白されました」
囃したてる諏訪さんの目の前に、レイジさんがビールを置いてからドスッと座る。
座椅子を抱きしめるような形で座り始めたのを見て、レイジさんはほろ酔いでも限界が見えるんだと知った。
ビールを一気にいった諏訪さんが、空のジョッキで顔を冷やす。
「なまえと蒼也が付き合うきっかけになった日さあ、電柱がゴミだの全人類犯罪者だの蒼也のヤロー色々すげえこと叫んでたじゃんか。」
「まあ酔ってましたし」
「それはわかる、酔うとトイレと郵便受けを間違えることくらいはある。」
酔いの回りそうな諏訪さんが、突然真面目そうな顔をした。
「俺、気になることがあるんだ。」
そう言って、座椅子の真後ろから大吟醸を取り出す。
いつから用意してたかわからないそれに気を取られているうちに、諏訪さんが切り出した。
「蒼也が言った俺が食ったトイレットペーパーってよお、居酒屋で食ってた一番人気メニューの大根の花じゃねえかって。」
瓶を開け、中身を蒼也くんの飲みかけのカルーアミルクに注ぐ。
とんでもない光景に言葉を失うと、二宮くんが声を出して笑い始めた。
こんな光景は始めてみる。
顔を真っ赤にして笑う二宮くんを放置したまま、諏訪さんが続けた。
「つまりだ、本指名料金割引が5000円という文字に見え、なまえが見えた途端に路上をボーダーだと勘違いした、これから分かることは・・・あいつは酔うと何か違うものが見える性質・・・そう思わねえか?」
「真面目な顔して、すっごいこと言ってません?」
「なまえ、これは推理小説好きとして確かめておかなきゃいけねえんだよ、意味不明な言葉が実はなんなのかってことをよお・・・。」
「気になりますけど、でも」
蒼也くんがトイレから戻る前にカルーアミルクを片付けなければ、と思った矢先に望ちゃんが乗る。
「そうね、私も気になるわ。」
望ちゃんが鞄に手を伸ばし、鞄の中から新品のスピリタスを取り出す。
テープが貼ってあるので、諏訪さんの家に来る前に買ったものだろう。
空気を読まなくてよかったのに読んだレイジさんが、抱きしめていた座椅子を蹴っ飛ばし太く筋肉質な手で大吟醸とスピリタスを奪い取る。
「牛乳割りとジンジャーエール割りにアレンジしたカルーアミルクなら出来る。」
ほろ酔いの時点で相当キてるレイジさんに、諏訪さんが盛大な拍手をした。
「レイジやるじゃ〜ん!?」
囃したてる諏訪さんを背に、レイジさんがキッチンへ向かう。
二宮くんは笑い転げた体勢のまま動かないので、たぶん寝てしまった。
望ちゃんはわくわくしているし、私はまずいんじゃないかと思いつつ止めない。
レイジさんが物を投げ捨てるような手つきで何かを作り、諏訪さんが横に合った缶ビールを開けた。
ぷしゅ、といい音がする。
ビールが好きなだけあって、諏訪さんは飲む。
望ちゃんはもうすこしでカシスソーダを飲み終わる。
着々と進む宅飲みの中、二宮くんは相変わらず起きない。
蒼也くんにとって非常にまずい状況が繰り広げられたまま、何も知らない蒼也くんがトイレから戻った。
足取りも目つきも普通で、顔にも嘔吐した気配はない。
酔って楽しく企てた諏訪さんが、にこやかに蒼也くんを迎える。
「おー蒼也!」
「諏訪、もうすこし抑えて飲め。」
何も知らないから言える蒼也くんの目の前に、レイジさん特製の大吟醸とスピリタスがミックスされたカルーアミルクが出される。
色だけならイチゴミルクのようで、匂いだけなら柑橘系リキュールを使っている。
事の発端の諏訪さんが、蒼也くんに勧めた。
「ほらよ、レイジがオメー用に可愛く割っといたからセーブしとけ!」
蒼也くんと付き合うことになった事の発端も、きっとこんなかんじだったんだろう。
作り終えたレイジさんが蹴飛ばした座椅子の上で伸びきっているのを横目に、蒼也くんが特製カルーアミルクを一口飲んだ。
なにか違和感を感じたような顔をしてから、口を開く。
「セーブ?レポートじゃないのか。」
もう酔ってきてる蒼也くんを見て爆笑する諏訪さん。
味は普通なようで、一口また一口と蒼也くんが飲んでいく。
飲んだ瞬間になんだこれふざけんなとグラスを投げられなかったことに安堵したのか、諏訪さんが絡み始めた。
「蒼也ぁ、なまえとはどうなんだよ。」
「健全。」
「そりゃわかってるけどよー、具体的に。」
「俺となまえは健全としか言いようがない、諏訪とは程遠い世界だろう。」
だよなあと笑う諏訪さんが缶ビールを空にして、座椅子の上で伸びていたレイジさんが立ち上がりキッチンへ行く。
冷蔵庫から取り出したチーズを持ち、キッチンで何かし始めた。
おつまみでも作ってくれているのだろう、と察し自分のお酒を一口飲む。
そろそろ別のものが飲みたいと思いつつ蒼也くんを見た。
背はとても低いけど、それを覗けば良い人。
冷たい雰囲気と態度を嫌う人もいるけど、冷静な人は落ち着くから好き。
無口なわけでもないし、と思うと蒼也くんが諏訪さんと話しながら特製カルーアミルクの残りを一気飲みした。
うおおおと叫ぶ諏訪さんの声で起きた二宮くんが呻き、床に丸くなる。
「レイジ、これ甘くないか?」
「そうか?気のせいじゃないのか。」
飲みかけに大吟醸を注いだカルーアミルクのほうにも手を出した蒼也くんを見て、もう戻れないと確信する。
キッチンで包丁を使うレイジさんを差し置いて、諏訪さんが喋りだした。
「なあ蒼也、俺らのこと好き?」
「気持ちの悪いことを言うな、嫌いだったら宅飲みに参加するわけがないだろう。」
「言うねえ〜!じゃなまえのことどんくらい好き?」
「世界一。」
諏訪さんが叫び、蒼也くんの思わぬ言葉に照れると望ちゃんに肩を抱かれた。
「なまえは幸せね。」
「うん。」
お酒を一口飲んで、顔が熱いのはお酒のせいにする。
さらりと言った蒼也くんのほんのり赤いほっぺに、そっとキスしてあげたい。
でも今は駄目。
レイジさんは本格的におつまみを作り出し、何かを切ったり叩いたりする音が聞こえてくる。
「アツいよなー初々しいカップルとか若すぎね?」
そうよねと同意した望ちゃんが、追い討ちをかけた。
「諏訪くん、彼女は?」
望ちゃんが聞くと、諏訪さんがまた新しくビールを開ける。
水を飲むようにビールを飲み、そっぽを向く。
刈り上げた髪の側にある耳が真っ赤だ。
「ねえねえ諏訪くんの彼女は?」
「黙れ!!!黙れええ!!!!!」
机の下に潜り込むように倒れた諏訪さんを見て望ちゃんと私で笑うと「お、加古となまえのパンツの色一緒だ。」と言い出し望ちゃんが机の下で足を素早く動かし強烈な一撃を食らわす。
絞ったカエルのような声がして、もっと笑った。
反射的にショートパンツを押さえ、足を広げすぎて隙間から見えていたのを知って恥ずかしくなる。
蒼也くんもいるしと一応いいとこの下着をつけてきたので、不意打ちを食らい見透かされたような気分になった。
机の下で悶絶する諏訪さんの声で、二宮くんがようやく起きる。
寝ぼけた顔をした二宮くんが状況を把握しようと望ちゃんと諏訪さんを交互に見た。
何が起きたかわらない犬のような顔をした二宮くんに、望ちゃんが笑う。
大好きな蒼也くんと目を合わせようとすると、蒼也くんがいなくなっていた。
諏訪さんに気を取られている間にトイレに行ったのかな、と思えば外からAC/DCのHighway to Hellが聴こえる。
所々音程がおかしいものの誰の声がすぐに分かる、蒼也くんだ。
歌声を聴いた全員が窓のほうを見て、全員でアイコンタクトを取る。
数秒の間が重苦しく流れ、全員酔いの中から正気を探し当てた。
諏訪さんが立ち上がり、部屋の窓を開けて外を伺う。
外で何が起きているか確認した諏訪さんは爆笑し、窓から離れた。
「おい!ちょっとおいレイジ!あれ!あれ!」
「どうなってるか口頭で。」
「やべえわ、これはやべえ。」
笑うにしては鬼気迫る声色をした諏訪さんを見て、望ちゃんと目を合わせてから立ち上がる。
外で歌いながら気分良くなっていると思っていた私の脳天を突き刺すような光景が、夜の道に広がっていた。
諏訪さんの部屋にある窓の真下の道路には「止まれ」の標識がついた鉄棒、お隣さんのガレージ、ポスト、町内会のゴミ箱がある。
どうやってやったのか分からないけど「止まれ」の標識を自分のズボンで巻いて隠して、下半身はパンツ一枚のまま「止まれ」の標識の鉄棒部分でポールダンスをしながら歌う蒼也くんがいた。
珍しく爆笑する望ちゃんが顔を覆いながら恥ずかしそうに蒼也くんを見る。
諏訪さんは責任を感じたのか部屋を飛び出し、蒼也くんはHighway to Hellのサビを絶叫した。
蒼也くんの英語が訛りすぎて「はーうぇーいヘアー」と言っているようにしか聞こえないのを見て、望ちゃんを凝視する。
「ねえ望ちゃん、どうする?」
「諏訪くんに任せるわ。」
そう言って携帯を取り出し、黙ってビデオモードにした望ちゃんの強かさに憧れた。
よく見ると蒼也くんの靴はガレージの上にあって、これもどうやったか分からない。
急いで駆け下りてきた諏訪さんを確認した蒼也くんはCorinaのMunky Funkyを歌いながらサビ部分のダンスをし始め、蒼也くんがお尻を小刻みに振ったあたりから諏訪さんが耐え切れず爆笑する。
「おい!蒼也!蒼也あああ!」
「うるせえんだよ!名前呼ぶだけならダッチワイフにしとけ気持ちが悪い!」
「俺が悪かった、悪かったから!もうやめてくれ!」
「お前よお!常に自分のIQが自分の身長より高いやつの生き様知らねえから無駄口叩けるのわかってねえだろ!」
ふと見えた蒼也くんの目は、この前よりもぐるぐると渦巻くような瞳孔だった。
「止まれ」の標識に巻いておいた自分のズボンを引っ張って取り、諏訪さんに向かってズボンを投げる。
間一髪避けた諏訪さんがズボンを放置し、下半身はパンツのみの蒼也くんを宥めにかかった。
ばっちり見える足に履かされた黒の靴下がひとつずれてコンクリートの地面に落ちる。
「蒼也、ここ外!俺んちじゃない!」
「半径5キロ以内くらい買え!クソったれ!」
「買えねーよ、いいからもう降りてこい!」
ポールダンサーのように標識に跨る蒼也くんが腰をくねらせ、諏訪さんに絶叫する。
「なんだ!!!!んだゴラてめえ!ホームズヤクザがイキってんじゃねえぞ!おっパブになればいいだろ!」
「誰がヤクザだ!おい!」
路上に現れた小柄な不審者と酔っ払いのあまりの笑い声と歌声に近隣住民が窓をあけているのを見て、まずい、と思う。
ふと横を見ると哀れなものでも見るような目をした二宮くんが窓から外を見ていて、噴出しそうになる。
外の空気に混じって生地とトマトが焼ける良い匂いがしたのを感じてレイジさんのいるキッチンを見ると、レイジさんが熱心にピザを焼いていた。
怒声と罵声は止まらず、蒼也くんが荒れる。
「お前何が見える?なあ?おい、借り上げアポロ野郎、なあ?お前には何が見える?」
「えっ、蒼也。」
「ゆめにっきじゃねえんだから人生のイヤホンアクセサリーくらい引っこ抜いてから俺に接しろ!現実わかってねえな!デリケートなんだよ!!!俺はなあ!!デリケートゾーン!!!俺の世界は優しい!!!!」
諏訪さんが焦った声で「は!?なにそれ!?」と言ったところで、部屋を飛び出した。
サンダルを借りて外へ出れば、悲惨極まりない奇怪な光景と対面。
近所の人が笑いながら窓の隙間からこちらを見ているのが見えて、蒼也くんの真下に行く。
「蒼也くん、もう降りてきて!」
「あ?なまえ?」
「私だよ、ね、降りよう?」
「嫌だ。」
「ここじゃ寒いよ、いまレイジさんがピザ焼いてるし部屋戻ろう?」
「降りたらパイズリしてくれるか?」
下ネタに言葉を詰まらせると、諏訪さんが飛び掛り無理矢理標識から引き摺り下ろした。
ポストに腕をぶつけた諏訪さんが呻きながら蒼也くんを引きずり、部屋へと戻す。
「クソが!!!諏訪ァ!お前人がパイズリ独占してるからって、お前ぇええ、座禅組んだまま沈んでしまえ!!!」
意味不明なことを叫ぶ蒼也くんを、必死で諏訪さんが抑える。
諏訪さんの後を追い、暴れる蒼也くんの上半身を抑えに掛かるとなにか硬いものに触れた。
まさかと思い手元を見ると、上に来ていたパーカーのポケットに触れていただけだった。
携帯か何かだろう。
酔っているのに携帯を持っているということは、理性のある証拠。
これ以上酔いが回り正体不明になる前に外に出しておくわけにはいかないと、暴れる蒼也くんをピザの焼ける部屋に連れ戻した。













ここまでが昨日の出来事で、私は隊室のド真ん中で蒼也くんに土下座されている。
いくら起こそうとしても土下座の体勢をやめず、顔もあげない。
「許さないでください。」
敬語になった蒼也くんの目の前に座り、手をそっと握る。
あのあと朝方に酔いが冷めた蒼也くんは冷たくなったピザを食べながら、暴れたことや私に下ネタを叫んだことを全員に謝罪した。
ズボンや靴は諏訪さんが回収し、望ちゃんが撮影した証拠動画を、蒼也くんは知らない。
「あのね、あの時わたし止めなかったの、皆が蒼也くんを酔わそうって空気に流されて・・・」
「許すな。」
握った手を払うこともしない蒼也くんを心配に思い、こっちこそごめんねと肩を撫でれば悔恨された。
「約束を破りました。」
最初にした約束。
蒼也くんは「今後、なまえに対して全てが偽りなく健全であったとしても、酒が事のきっかけというのは、女として嫌か。」と言った。
もちろん健全なお付き合いをしているけど、蒼也くんとしては昨日の出来事が許せないらしい。
諏訪さんは酔うと蒼也くんに何が見えるか分かったらしく、満足そうにしていた。
意地でも自分が悪いと言わない諏訪さんに感動しながらも現実は厳しく近所で噂になったのはもちろん、蒼也くんの靴下は片方見つかってない。
「また疾しいことを言いました、申し訳ない。」
「いいよ、下ネタだし」
「デリケートさを失ってすみませんでした。」
「大丈夫だよ、お酒の失敗は誰にでもあるよ」
「本当に申し訳ない、いっそ殺せ。」
謝るのはこちらなのに、と無理矢理蒼也くんを起こせば、恨めしそうな青白い顔をしていた。
酔いは冷めているはずなのに調子が悪そうで、不安になる。
「蒼也くん、お酒ね、みんなで盛り上がっちゃって蒼也くんがトイレ行ってる間に強いの作って飲ませたの、止めなかった私もいるんだ、だからそんなに謝らないで、謝るのは私のほうなの」
「・・・そうか、諏訪の有り金を全て豆腐に変えるのはあとにして、だ。」
パーカーのポケットから蒼也くんが何かを取り出し、私に差し出す。
「これ、昨日宅飲みのあとなまえに渡そうとしていたんだ。」
蒼也くんの手には、小さな箱。
受け取って開けると、白い指輪が飾られて入っていた。
昨日抑え込んだときに触れた硬いものの正体は、然るべきものでも携帯でもない、これだった。
唖然としていると、蒼也くんが私の手に触れた。
一番最初の時のように、そっと、手が触れて体温が伝わる。
「なまえ、これからもよろしくお願いします。」
「もちろん」
感動に包まれ指輪を受け取ると、蒼也くんは笑った。









2016.08.21







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