桃のスヴィエートは私だけの蠱惑


光ちゃん誕生日おめでとう







ピンクと金と白の装飾を嘘くさくならないよう照らし、絢爛。
甘い香りを混ぜてから慣れ親しんだ庶民の香りを混ぜて、豪華。
作り上げられたそれは、ひと時のために存在している。
光ちゃんがラブホテルに駆け込んだ途端、ベッドに飛び込んで嬉しそうに転がった。
「もぉおぉおぉやべー!なまえ愛してるー!!!!!」
クイーンベッドの上を転がった光ちゃんは、すぐに隣の部屋に突撃していった。
直前までいたカラオケとは雰囲気が変わりに変わって、ラブホテル。
誕生日会の三次会は予約しておいた、と言っていたものの女子会プランでラブホテルの一室を予約していることは伝えていなかった。
いいサプライズになったようで、隣の部屋から光ちゃんの歓声が聞こえる。
「うわベッドこっちにもある!ベッドでか!ひろっ!モニターでっか!つかなにこれシャンパン?」
ジャグジーバスからダーツバーまで、セレブの上澄みだけを堪能することができる。
女子会プランは何かと豪華だ。
立地と提示が良ければ、女性は自然と話題に寄せられて集まる。
部屋から光ちゃんの歓喜の悲鳴が聞こえてから、鞄を下ろした。
「うひゃーテーブル!なまえテーブルすげえぜ!すでにめっちゃある!」
「なにがあるー?」
「バイキングをそのままテーブルに突っ込んだかんじのやつー!」
なんとなく伝わったテーブルの状況を把握したあと、電気をつける。
薄いピンクのミラーボールが輝き出し、淡いピンクのガラス越しの光が反射し艶かしく光った。
ダンスミュージックでもかけて私と光ちゃんが下着姿で踊り始めれば完璧だろう。
でも、そんなためにここを予約したんじゃない。
隣の部屋から戻ってきた光ちゃんが、薄いカーディガンを脱ぎ捨てて大きなソファに座る。
「女子会すんなら飲み無料だろ!?このラブホ来てみたかったんだよなー!」
ソファで伸びる光ちゃんの笑顔を見て、愛しくなる。
「人生初ラブホがなまえとの女子会とか、アタシ恵まれてるわー。」
「光ちゃん、こういうとこ来ないんだ?」
「だなー、家でダラダラしてるほうが好き。ってかカゲから借りて読んでる漫画が面白すぎて最近家から出てない。」
「へえ、何借りてるの?」
「ジョジョとゴルゴとむげにん。」
ソファから立ち上がると同時にベッドに突進してきた光ちゃんがシーツに飛び込み、柔らかく篭った音がする。
ピンクのキャミソールワンピースから見える二の腕にかかる髪の毛には手入れが行き届いていて、だらだらしているのは形だけなんだと思い知らされた。
単に自然体が可愛い奇跡のような子なのかもしれないし、ラブホテル効果でそう見えているだけかも。
大きな目、可愛い笑顔、にかーっと笑うと元気さが伝わってくるような雰囲気。
「ま!せっかくだし女子トークしようぜ!な!」
それらが、全て好き。
「うん」
光ちゃんと同じようにベッドに寝転がると、軽く見詰め合った。
この行為が私にとってどれだけ意味があるか。
知られたくないけど、知ってほしい。
「最近ユズルが女子連れ込みはじめてさ〜、もうなんだってんだ思春期か!って思うだろ、青春だ。」
「ユズルくん彼女できたの?」
「まだ友達みてえなんだけど、そのうち付き合いだすんじゃね?あーいうタイプ好きな女子いんじゃん。」
「好みは人それぞれだよ」
私は光ちゃんみたいな子が好き。
そう目で伝えれば、私がドキドキしてるのも知らずに黙って見つめ返された。
「なまえって睫毛なげえよな〜、美容液なに使ってんだ?」
「CMやってるあれ」
「マジかよアタシも買うわ。アタシ今ピンク系のレギンスとパンプス欲しくてさーウィンドウショッピングしまくり。」
買い物が好きな光ちゃんと何度も出かける。
私は光ちゃんの一挙一動にどきどき、光ちゃんは新しい服や靴や鞄との出会いにどきどき。
同じ空間にいるのに、本質の最下層にある真意だけは分かっていない。
それすらも同じだと思われているのなら、友達としてこれ以上幸せなことはないと分かっている。
「つかアタシモテたーい!」
そう叫んだ光ちゃんが悶絶して何かを呻き叫びながらベッドに包まる。
ミノムシみたくなってる光ちゃんの近くに寝転がって、優越感。
こんなに可愛い子と、こんなところにいる。
同性であることを利用したこれは、本質だけ見れば品性下劣の極み。
「光ちゃん、可愛いから彼氏くらいすぐ作れるでしょ」
「いやーそうでもねえ、出水のヤローは赤点バカっていうしカゲにはうるせーとか言われるし、ユズルにもシッシッってされるし。」
ミノムシ状態のまま顔を出した光ちゃんが転がった方向に戻り、ベッドが皺だらけになる。
鏡張りの天井に映った自分に向かって、光ちゃんが叫ぶ。
「だぁぁああぁあーっ誰かアタシの魅力を理解しろよー!あー!」
とても可愛い光景に、微笑みが止まらない。
光ちゃんから見れば今のこの状態は、友達が自分の痴態を見て笑ってくれているだけ。
「私は分かるよ、光ちゃんは可愛いだけじゃない、明るくて元気で周りを自然と笑顔にしてくれるような御日様みたいな子」
鏡張りの天井から目を逸らした光ちゃんが寝転がったまま私を見る。
ピンクと白のシーツの上に垂れる前髪の毛先が渦になっていて、つい触った。
にこにこしていると、光ちゃんが両手を鏡張りの天井のほうに上げて笑ってくれる。
「うおーなまえありがとう〜!!!!なまえ愛してるううう〜!!!!」
その言葉が本気なら、どれだけいいか。
ミラーボールのピンクの光がたまに当たって、卑しい気分になる。
「でもアタシ今好きがいねーんだよな、彼氏欲しいってか恋がしたい。」
ベッドの上でわさわさと動く光ちゃんを見て、心が沈む。
もしこのタイミングで実は彼氏がいたと言われたら首を括るかホテルの階段から飛び降りるか、適当な罪でも犯して捕まりたい。
安心して、嬉しくて、光ちゃんを見つめる。
「わかるか!?彼氏が欲しいんじゃなくて恋がしたいんだよ!」
恋がしたいという光ちゃんが己の欲望を力説し始め、面白くなった。
光ちゃんがベッドを何回も叩き、恋してえと叫ぶ。
「ときめきなんだよ!ときめき!アタシこいつ好きになってマジよかった〜みたいなさ!そういうの!それがないんだよ!」
「恋すると変わるもんね」
「だよなあ!毎日がエブリデイ?っつーの?なんかそんなん!」
「めっちゃわかる」
恋をしたら毎日そんな風にならないにしても、言っている意味はわかる。
光ちゃんが世界に現れてから、平静と挙動不審が交互に訪れる毎日。
寝転がったり横に転がったりする光ちゃんが、欲望のままに口にする。
「あ〜モテてえ〜痩せてえ〜足長くなりてえ〜恋してえ〜。」
スレンダーで足は十分に長いのに、何を言っているんだろうか。
そんなところが可愛いし、明け透けで細かいことを気にしない性格に何度助けられたか分からない。

手足を虫のように動かして面白い動きをしていた光ちゃんが突如頬杖をついて私を見つめてきて、何かと胸を高鳴らせれば予想していた言葉が飛び出す。
「ってかなまえ彼氏は?」
「いないよ」
「別れたのか?」
「ずっといない」
「まじ?じゃフリーなんだ。」
でも、と告げる。
「好きな子いるんだよね」
光ちゃんが大きくて丸い目を更に丸くさせて、上目遣いで内緒話を求めた。
「うっし、その話聞かせろ。」
「いやいやいや恥ずかしい」
「女子会だぞー!アタシとなまえの仲だろー!?」
ピンクのベッドに突っ伏せば、肩を抱かれ突かれ頬ずりされ促される。
光ちゃんの柔らかくて長い髪の毛が腕に触れて、ぞくぞくした。
仕方なく顔をあげると、光ちゃんは私の真横で頬杖をついたまま女子会トークの体勢に入っている。
もう話すしかないなと顔をあげれば、早速質問された。
「つか今好きはいつからよ。」
いい匂いのする光ちゃん。
シャンプーの匂いでも香水の匂いでもなく、これは光ちゃんの匂い。
まんまるな目や薄い唇の中にある八重歯や小奇麗な髪を見ているだけで、その匂いはしてくる。
可愛らしさと元気さの虜になったのは、初めて見かけた瞬間。
高校入学の時点ではレズビアンの自認は無い。
自分がどうだとか相手がこうだとか面倒なことをふっ飛ばして一目惚れ。
話してから、もっと好きになった。
こうして何気なしにホテルに来れる仲になれたのは、同性だから。
「……去年、から」
同性じゃなかったら、ここまで仲良くなれなかった。
そこだけは自分の産まれ持った性別に感謝して、それ以外を今の時点で恨めしく思う。
大きな目を細めた光ちゃんが、頬を押さえて笑った。
「うっそだろ、まじで!?いっやぁーなまえそれ言えよ〜てかどんだけ秘めたる感じなわけ!?」
「秘めちゃうかな、って感じで実はまだ誰にも」
「は?じゃあなまえに今好きいんの知ってる奴ってアタシが初?」
本気の恋をするのも、この恋を誰かに言うのも初めて。
「なまえほんと乙女すぎだろー!!え、てか相手まったく気づいてないかんじ?なまえ超可愛いー!」
恨めしさも、光ちゃんの笑顔を見ればふき飛ぶ。
この笑顔が側にあるのなら、私はなんだってできる。
「な、それアタシ知ってるやつ?」
光ちゃんだよ。
言いたくても言えないことを秘めて、頷く。
「誰?」
貴女だよ、光ちゃん。
言いたくない、言えない、言いたい、言えない。
私が何も言わないのを見て、何かを察したのか聞くのをやめた。
「まあいいか……てか告らないのなんで?」
光ちゃんの誕生日会、一次会は影浦くんの家であるお好み焼き屋、二次会はカラオケ、そして三次会は今。
カラオケ中に何度も影浦くんに冷めた目で見られ、ああバレていると悟る。
それでも心は痛まず、良心も揺れない。
冷めた目こそ、世間体の体現。
どれだけ綺麗な世界を見ていても、秘める限り最後に行き着く場所はそこなのだ。
不思議そうな顔をする光ちゃんを見てから、俯く。
「やっぱ自信ないっていうか……好きっていっても無理な確率のが高いし、相手も、迷惑だ嫌だ変だって思うだろうし、片思いのままのほうがお互い傷つかないかなって」
弱気な私を許してほしくない。
こんなに可愛い光ちゃんの凄く近くにいるのに好きですと言えない弱虫を許してほしくない。
何も知らない光ちゃんが、私を慰める。
「なまえ、ダメだろそんなんじゃ!初恋拗らせんぞ!」
光ちゃんの言うとおり。
本気で告白したって、無理な確立のほうが大きい。
それならと何も言わずに恋心を腐らせていく私は本当に馬鹿だ。
「いいの、このままで」
「ほんとに?」
腐りかけの恋心に、光ちゃんの心配そうな表情が突き刺さる。
「その人と、話せなくなったりしたらもっといやだ」
そっか、と呟いた光ちゃん。
自分のことだけ考えて告白するには、まだ勇気が足りない。
その勇気はどこから沸かせればいいのか、わからない。
まず自分がレズビアンなのかもわからない上に、光ちゃん以外の子にドキドキすることがなかった。
相談できそうな人はいない。
誰かが同性愛をカミングアウトしてくれたら、そう思うだけ。
恋に支配されて勇気のない私を、光ちゃんは責めない。
黙る私に、光ちゃんが真面目な答えをくれた。
「現状維持の背中押したりはしねーけどよ、それ絶対後悔すんぜ?そいつに彼女できたら嫌すぎね?まあ、なまえはダチだし、あんとき告りゃよかったーってウダウダしたいときは、アタシの胸貸すぜ!ってもあんま胸ねーけど!」
小ぶりの胸を寄せてから笑い始めた光ちゃんを見て、安堵と気まずさに襲われる。
屈託のない笑顔の光ちゃんが、私は好き。
こんなに可愛い子に、もし嫌な思いをさせてしまったら。
気持ち悪い、おかしいと言われて怖い思いをさせてしまったら。
そう思えば思うほど告白なんて出来ない。
目を閉じれば、笑う光ちゃんがいる、怒る光ちゃんがいる、だらけて伸びる光ちゃんがいる、喘ぐ光ちゃんがいる。
何が不満なのか分からない。
光ちゃんはこんなに近くにいるのに。
我慢できなくて目に涙を浮かべた私に、光ちゃんは手を差し伸べて、ついでに肩を抱いてくれる。
「おいおい泣くなよ、な?」
そいつに彼女が、そう言い切ったことに一つの事実が浮かぶ。
私じゃだめだ、だめなんだ。
光ちゃんは涙が溢れてきた私の肩を抱いて、頭を撫でてくれた。
「辛えよなあ……よしよし、なまえは良い子だ。」
小さくて細い手が、私を撫でる。
私に寄りかかり、暫し泣き声に耳を傾けてくれた。
声を抑え肩を震わせるたびに、よしよしと撫でてくれる。
こんなに優しいのは、友達だから。
光ちゃんの脳内にどんな関係図が浮かんでるのか、聞きたくも無い。
関係図、常識、図式、決まりから外れる私。
シーツに沈み込むような私に、光ちゃんが声をかける。
「……カゲはさ、なまえに好きって言われても嫌がらないと思うぜ、な?だから泣きやめよ。」
かすりもしない人の名前を出され、思わず否定する。
「違う」
「ん?」
「違うよ、影浦くんじゃない」
悪い人ではないけど、影浦くんに恋愛感情は抱いていない。
影浦くんは私が光ちゃんに恋愛感情を向けていることを分かっているだろうし、ある意味では私が影浦くんに気味悪がられてる。
きょとんとした顔の光ちゃんが不思議なものでも見たような声で唖然とした。
「へ?カゲじゃねえの?わっりぃカゲだと思ってた。」
違うと首を横に振れば、光ちゃんが途端に難しそうな顔をする。
追試を受けているときにこんな感じの顔をしていたのを思い出して温かい気持ちになったけど、今はそれどころじゃない。
つーか、と続ける光ちゃんにドキッとする。
「アタシが知り得る仲で色々ややこしい奴あといねえぞ?大丈夫だって、なまえ。告ってこいよ。」
疑いのない目、可愛い顔、女の子らしい仕草。
なのに元気で時にだらけていて、それでも可愛い。
「うん」
隠し事だらけの私のことを、きちんと見てくれる。
「光ちゃんがいてくれてよかった」
心からそう言えば、涙が零れる。
にこーっと笑った光ちゃんがベッドに転がりながら嬉しそうにした。
「へへっ、ありがとよ!」
その笑顔が、大好き。
光ちゃんがベッドから起き上がり、部屋を見渡して何かを探す。
「つか飲もうぜ!酒わっかんねーなー、ピーチウーロンとか美味いのか?まあ適当でいいか、頼まれて運ばれてくるまでに風呂入らね?」
入ろうと返事をする前に、光ちゃんがキャミソールワンピースの裾に手を入れる。
暗いピンクの裏地を見せてから、ストッキングを脱ぐ。
ぬる、と音がしそうなくらいの勢いで現れた生足と下着に覆われたお尻を一瞬だけ見て、体が止まる。
「この前読んだ漫画のヒロインがウォッカ飲んでたなー、あれうまいのかな。」
足が露になり、その白さに視線が釘付けになった。
ウォッカだけじゃおいしくない、そう言う気にもならない。
見える太ももを凝視する前に光ちゃんはあっさりとキャミソールワンピースを脱いで、下着姿になる。
ピンクと黒の上下の下着を見につけた光ちゃんがソファの上にキャミソールワンピースとストッキングを投げて、背伸びをした。
伸びる光ちゃん、見える脇、二の腕の裏側の柔らかそうな白い肌、脇腹、腰、脚。
目を閉じれば浮かぶ喘ぐ光ちゃんに、リアルに基づく下着が追加される。
その姿に見とれている私のことに気づきもせず、風呂の方向へ歩いていく。
小ぶりなお尻が揺れて、柔らかくハリのありそうな胴体のくびれをミラーボールの光が照らす。
歩くたびに交差する脚を見つめ、脈打った。
体の割れ目の全てにピンク色が射したような光景が見えた後、風呂場に消える。
「風呂すげえ〜夢の国かよ〜。」
そんな声がしてから、光ちゃんが顔だけでこっちを伺った。
「な、アタシ入っていい?」
「うん」
おっしゃあと叫んだ光ちゃんが風呂に入ったのを見て、私はそっと起き上がった。
ああ、もういいや。
熱がさっと足元へ消える。
風呂場へ求めるように歩き扉を開ければ、シャワーの温度を調節している下着姿の光ちゃんがいた。
「光ちゃん」
声をかければ、振り向いてくれた。
健康的で、少し女性的な体。
「なんだ?」
手首にはいつものシュシュをした光ちゃんが、下着姿のままニコニコする。
「光ちゃんはさ……もし好きな人がいたらチャンス逃さないタイプ?」
「だなー、すぐ手繋いだりしてべたべたすっかもしんねえなー。」
シャワーを止めて、下着を脱ごうとする光ちゃん。
光ちゃんの肩に、唇が触れるか触れないかの距離まで顔を近づけた。
鼻先まで光ちゃんの匂いがする。
抵抗されないのを確認してから、鎖骨に軽いキスをするフリをした。
フリをしたまま、動かない。
頭を殴られることはなく、光ちゃんは黙る。
沈黙が支配する中、私は動く。
呼吸する胸が動いてるのが見えて、それから首にキスをする。
決して舌は出さない、唇だけのキス。
涙で落ちたであろうリップグロスは僅かに残っていて、光ちゃんの首に色をつけた。
見慣れた首を穴があくほど眺めて、掴んでいる肩に熱が篭りはじめたのを感じて顔を離す。
光ちゃんを見れば、真っ赤な顔をしていた。
「……は?なまえ、どしたの?欲求不満?」
「違うよ」
顔を限界まで近づけ、光ちゃんの大きな目と睫毛を飾るマスカラを覗き込んでもキスは決してしない。
瞬きして、光ちゃんの呼吸を吸うつもりで声を殺す。
「……ね?」
それだけで私が先ほどまで何を隠していたか分かった光ちゃんは、私から一瞬だけ目を逸らし、恥ずかしそうに俯いた。
風呂場の音が篭り、呼吸も狭まり聞こえる。
光ちゃんの瞼の下にある眼球がぐるぐる動く。
「ごめ、ちょっとショックかも……。」
罅割れそうな自分の気持ちを、勢いだけで遠ざける。
肩の丸みを撫でて、二の腕に触れてから手を握った。
細い手に私が絡みついた途端、光ちゃんが顔をあげて潤んだ目で私を見る。
「……なまえ、アタシのことそんな風に思ってたのか?」
そうだよと囁いた声は、自分でも驚くほど低かった。
「光ちゃんはさ、恋がしたいんだよね、私と恋してみない?」
誘っても、抱きついてはこない。
細い体を見下ろし、何を言われるか恐れた。
薄く白い肌の下にある肉も骨も同じ、でも光ちゃんだけ特別に感じるのは何故なのか。
肉と骨の中にある何かが欲しい。
恋も愛も、本質だけは同じだ。
影浦くんの冷たい目が、内側から私を冷やし刺し殺そうとする。
刺し殺される冷たさを、熱が埋めていく。
拒絶され去られてもいい、それでもいいと恐れていると、赤い顔をした光ちゃんが私を見てくれた。
「……やっべぇ、超初体験なんだけど。」
頬を染める光ちゃんを見て、これ以上ない興奮が全身を覆う。
鳥肌が体の中すべてを這い回り暴れ、頭の中がぐわんぐわんする。
「アタシ女同士のことわかんねえ……。」
「任せて」
下着姿の光ちゃんを片手で抱きしめながら、自分の体を包む服を脱ぐ。
「あ……。」
同じように下着姿になった私を見て、光ちゃんの体から張り詰めた雰囲気が消える。
逃げる隙を作ったままなのに、逃げてくれない。
それならもう、と両手で光ちゃんの頬を包んであげた。
「私も愛してるよ、光ちゃん」
見つめあい、何秒間も過ぎても、光ちゃんからの威勢のいい言葉が出てこなかった。
それを確認してから、そっと唇を近づける。
寸でのところで唇を止めれば、光ちゃんの呼吸が聞こえた。
吐息が鎖骨と胸の辺りにかかって、温かい。
「すっげえ……エロすぎじゃね……。」
そう動いた唇は、私の唇に軽く触れた。
リップグロスの甘い匂いがして、歯止めが消える。
唇を押し付けあったまま自分で自分のブラジャーを外せば、光ちゃんも同じように自分のブラジャーを外した。







2016.07.27






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