13.5



:)男子高校生と如何わしい関係になったら死にかけた
ここから分岐してます。終わり方が違うやつです。







服の縫い目が剥がれ落ちる音がする。
糸が千切れ布が裂ける音は、悲鳴。
詰まる息を押さえるのは、恐怖。
太い腕から逃れようと身を捩れば、肩を押さえつけられ髪の毛が視界で跳ねた。
軽く後頭部を打ちつけ、顎の裏がぐらぐらする。
息と一緒に飲み込んだ唾液が喉に張り付いた感じがして気持ち悪くなる前に、服を脱がされた。
肌の薄皮が氷のように冷たくて、内臓は恐怖で暴れ、脳内だけ世界のどこかへ行く。
気道から食道にかけて異物感が襲い、何度息をしても体に届かない感じがした。
頭をいやいやと振れば髪の毛が顔から退くだけで何にもならない。
重い体が圧し掛かり、腰骨が軋む。
心地いいはずの重なり合いが恐怖の儀式へ変貌し、この後に生き残れる確信が薄れる。
声を張り上げて罵倒したい、逃げたい、どうかやめてくれ。
それを叫ぼうとしても重さと苦しさと恐怖と襲い掛かる力でねじ伏せられ、耐えるしかない状況に脳裏が渦巻く。
手を縛っているのに上半身から服が消えたのを感じて、寒気がした。
ブラジャーに手がかけられ、一気に引っ張られてワイヤーが肌に強く食い込んでから千切れる。
食い込んだ痛みと、弾ける音。
不吉で重い音に鼓膜が歪んで、ようやく悲鳴が出た。
私の声を聞く余裕があったライナーが、私の太ももを掴む。
「なまえさん、なんでなんで、俺は!俺は!」
生暖かい涙が、私の頬に落ちる。
顔を覗き込まれているのが分かって、抵抗する気にならなかったのに瞼を開けた。
痙攣する瞼と眼球のまま、ライナーを見る。
妙に幼い目つきをしたライナーが、泣きながら私の体にある布を剥ぎ取っていた。
歪んだ目元、食いしばった歯、強ばった表情。
可哀想になるくらい気の毒な顔をしたライナーを見ても、かける言葉もない。
目が合って、ライナーはすぐに私の顔の上から消える。
下半身に目をやれば、ちょうどライナーが私の下着を噛み千切っているところだった。
縛られたままの手でライナーの顔を押しやっても、何もなかったかのように引っくり返される。
物のように床にうつぶせにされて太ももの付け根を強い力で噛まれ、痛みに目が霞む。
性器に舌が這っているけど、痛みのほうが大きくてまったく気持ちよくない。
歯が鳴りはじめて、喉が震える。
自分の背後に猛獣がいるような気がして、本当にそこにいるのがライナーなのか、わかりきったことを尋ねた。
「ライ、ナー、ライナー」
呼びかけには反応してくれて、腰を掴んで床に押し付けられた。
床と肌がぶつかる情けない音がしてから、背中の真ん中に重みを感じる。
ふと浮かんだのは亡骸の自分。
全身に暴行の痕がある女性の遺体が、そんな言葉をよくニュースで聞く。
それだけは、と思っても、今この瞬間私の命を決めるのはライナーだけ。
耳の近くで荒い息が聞こえて、それから涙が私の肩に落ちた。
「なんだよ、俺のことなんかもうどうでもいいんだろ?なあ?そう言いたいんだろ、言わせない。」
「よくなんか……」
「こんなになっても、お姉さんはよくなりたんだろ?」
ライナーの手が私の股の間に入り、揺らす。
擦れ揺れる性器から水音がして、ライナーが悲しそうに笑う。
「やりたいんだろ、俺に犯してもらいたいんだろう。」
躾けられていない猛獣が私を今にも食い殺そうとしている。
そう思えて仕方なくなって、涙が溢れた。
「やめ、やめてやめて」
「やめたらなまえは俺から逃げるだろ、ベルトルトはやめとけよ、アイツのはデカいだけでイカせ方も知らない。」
何を言っているんだと言う気にもならなくて、逃げようにも逃げる気にならない。
自分よりも体が大きく力の差も圧倒的な相手から逃げようと思えるほうがどうかしている。
性器から垂れる液体は、愛液だけじゃない気がする。
怯えきって引き攣りそうな喉を酷使して、喋るしかなかった。
「どこにも行かないよ、私はどこにも行かない」
「来るやつ全員とヤッてんだろ、二度とそうさせない。」
「そんなことしてない」
「じゃあなんで煙草なんかあるんだよ!そいつが来たときのためだろ!!」
思い切り怒鳴られ、全身が萎縮する。
冷たい床に爪を立てたまま握り締め、爪が折れた。
指先が燃えがる程痛いのに、気にもならない。
「ああ、ほら、爪が酷いことになってる、これじゃ結婚指輪に差し支えがあるだろ。」
肩甲骨のあたりに、涙が落ちる。
生暖かい涙が冷水に感じるほど、内臓が熱い。
「何か言えよ、言え、言え、言え、言え。」
言えるはずのない私を物のように引っくり返し、仰向けにする大きな手。
本気で殺したいなら顔に向かって全力で殴れば潰れるのに、殺意ではない何かで私に襲い掛かっている。
涙を垂らすみっともない顔でライナーを見つめれば、ライナーが怒りとはまた違う感情を浮かべたまま私を見下ろした。
近隣住民が音に気づいてくれたらいいのに、気づかない。
そんな運があるなら、こうなってない。
尻から床へ血が一滴伝って落ちるのがわかって、歯形の熱が刺さる。
今のライナーには、私のどんな言葉も葬られてしまう。
状況的にはライナーが悪いとしても、事が起きた経緯については私が全面的に悪い。
「煙草…なんで捨てなかったのかなあ、物簡単に捨てられないしなあ」
「言い訳はもういい、そいつとまだ会ってんだろ、なあ、俺そんなに信用なかった?簡単になまえさんを捨てるように見えた?お姉さんを性欲処理にしてると思った?」
「会ってないし、信用してるし、見えてないし、思ってない」
「お姉さんさあ、なんで俺のこと、なあ!!!」
怒鳴られてもなお、殺そうとしてこない。
首を絞められてしまえば、ここで終わり。
殺そうとしないライナーが何を欲しがっているのか、咄嗟に出てこなかった。
私への永遠の好意か、愛か、執着か。
見たことも無い感情を浮かべたライナーが殴りかかりもせず涙を浮かべているのを見て、思い浮かんだ姿。
これは、子供だ。
何かを失って泣いている子供が助けを求める術が襲い掛かることくらいしか分からない、そんな子供。
「ここには私とライナーしかいない」
そう言えば、怒鳴られなかった。
物のようにひっくり返されることもなく、ライナーが狂気の沙汰を纏ったまま私を見下ろす。
「ライナーが現れてから、他の人に恋愛感情を向けようって考え、浮かばないよ」
当然、ライナーの瞳が明るくなることはない。
いつ縛り上げられてゴミ袋に詰められてもおかしくない状態のまま、ライナーの気持ちを言い包める。
「煙草…それもう捨てて良いよ、私が物を捨てられないだけだから」
「違うだろ、違う。」
ライナーの声が震えたのを聞いて、冷え切った両腕をライナーの目の前に持っていく。
「ちゃんと謝りたいから、これ解いて」
あっさりと却下され、両腕を押さえつけられた。
「逃げたいなら逃げたいって言えよ!!!」
「違うって!!」
反射的に身を捩れば、今にも体を重ねそうな体勢に持ち込まれる。
ライナーがズボンのチャックをおろせば、すぐできてしまう。
体の真上にある熱が皮膚の間で篭って、不愉快なくらい熱い。
ライナーが迫りくる目のまま、私の目を覗き込む。
「いいよ、このままでいい、俺もお姉さんもこれがお似合いだ。」
随分な言い草。
でも、こうなったきっかけはお互い様。
それでも負はこちらにある。
肩の筋肉が強ばって、痙攣した。

それでもと腕をなんとか持ってきて、縛り付けられ動かない手でライナーの頬を撫でる。
冷や汗が浮かぶ頬、窪む目元、薄い金髪。
全部愛しいライナーであることには間違いないけど、何せ状況が怖い。
引き攣る腕のまま、ライナーの頬から顎にかけてを撫でる。
もっと、と言いたいのか、ライナーがようやく腕の縛りを解いてくれた。
手首の血管が浮きあがるように痺れてから解放されて、息を吐き出す。
骨まで凍ったような指先でライナーの頭を撫でて、髪の下にある汗で指に熱を戻した。
理解し難い感情を熱で包んだようなライナーの頭の中に何があるか。
本人しか知らないことへ、触れる。
そんな資格が自分にあるのか疑問だが、それどころじゃない。
腕の関節が腐りそうになりながら、呼びかけた。
「逃げたりしないよ、なんでも言って、泣いていいから、自分を傷つけたりしないで」
ライナーの左腕の丸い火傷の部分近くを触って、ごめんねと呟く。
大きな腕が私の体を抱え、そのまま起こす。
力だけは大人のライナーに血の気を戻されるように上半身が床の冷たさから離され、髪の毛で視界が遮られる。
じわじわと感覚が戻る腕と痺れ。
しばらくは麻痺したままだけど、これでまずはどうにかなる。
「痛いでしょ、熱かったでしょ」
ライナーの左腕を労われば、根性焼きの痕がもう薄れているのに気がついた。
あれだけ勢い良く押し付けたのに、こんな短時間で薄れるだろうか。
おかしい、と思いよく見ようと体を動かしたけれど、痺れに勝てず上半身が蹌踉めく。
どこまでも運が悪いことに、根性焼きをし終わった用済みの煙草に手をついてしまい、短く叫んで手のひらを見る。
痕はないけど、冷やさないと火傷になるだろう。
「あ、お姉さんお姉さん、それ、駄目だろ。」
「平気」
熱がじわりと広がるけど、冷え切った指先にはちょうどいい。
ふと視界に入った煙草の箱を掴んで、ブン投げる。
「こんなんもうどうでもいいわ」
勢い良く部屋の隅に飛んでいって見えなくなった煙草が、転がっていく音がした。
「足も解いてくれない?」
「…ああ。」
ライナーが狂気を押さえ込んだような顔のまま私の体の上から移動して、足に構う。
感覚のない脚に触れて、縛りを解く。
こんなきつい縛り方を何故知っているのか、わからない。
解放された脚と、千切れまくった服。
普段着をまるっと1セット失ったけど、この際もうどうでもいい。
隠し事をしていた私だっていけない、そう反省しているとライナーが申し訳なさそうな目で私を見た。
「ベルトルトには何て?」
「ライナーの様子に気づいて心配して、私にコンタクトとってきたの。いい友達ね」
そうか、と寂しそうに呟いたライナーから、狂気が薄れる。
猛獣のような雰囲気も薄れ、いつものライナーに戻っていくのが分かった。
そう思うのは、手足が解放され血の気がきちんと全身に戻っていくからかもしれない。
立場的には私が悪い、でも、いくつかきちんとケジメをつけないといけないことがある。
「何を言ってるか分かってるの?」
「は?」
「付き合っていても、そういうことは他人に言わないものよ」
話題をふりだしに戻す。
唖然としたライナーの頬を引っぱたいたとしても、解決しない。
言って聞かせるのが、一番の方法。
「ベルトルトくんしか知らないことがあるんでしょう、それは私に言わなくていいから」
「…お姉さん。」
「ライナー、私はなまえよ、もうお姉さんなんて呼ばなくていい」
「そう、だな。」
冷静になって気づく、何故ライナーが私のことをなまえと呼んだりお姉さんと呼んだりするのか。
額を押さえて呻いたライナーが「そうだよな、そうだった。」と何回も言うのを見て、段々状態が見えてくる。
ベルトルトくんがあそこまで心配してきた理由は、間違いなくライナーの不安定さが原因だ。
何かの理由で異様なまでに不安定になり、時々区別がつかなくなることがあって、それを暗黙とする仲で埋めるつもりだった。
そこに現れた私という存在。
危険だと判断したベルトルトくんは、優秀。
「ライナー」
項垂れるライナーが何も言わないのを見て、怒られて黙り込んで感情を殺し息を止める子供が浮かぶ。
大人びているのは見た目だけだったように思えるライナーと、どうしようもない私。
何も言わず私を突き飛ばそうとも殴ろうともしないライナーが散らばった衣類に目をやって、それから青い顔をする。
ようやく状況を把握したのか、ライナーの顔色がどんどん悪くなっていく。
「ベルトルトに…俺ともう会うなとか言われた?」
「言われてないよ、でも言われたとしてもライナーに会ってる」
「…俺、なにやってんだ?」
震えた声で、今にも悶絶しそうな目元を片手で覆ったライナーが呻く。
苦しそうな顔を見つめながら、痺れた体を戻すために血の気のままに手足を放り投げる。
「変なもの見つけてびっくりしたんでしょ、もう平気」
「…なまえが平気じゃないだろ。」
「大人になると分かるの、辛い思いをしている人の側にいてあげたいって。なのに私、ライナーに酷いことをした、許さないで」
そう言っても、ライナーは何も言わない。
答える気力まで切れたライナーに、なんとか言葉を届けてみる。
「ライナー、あなたがどんな人なのか関係ないの、私はライナーが好き。私はライナーと向き合っていきたい、ライナーが辛いときに側にいて励まして抱きしめてキスしてあげたい。これがうざったく感じたら、これきりにしましょう」
引き攣りかけた肩に血の気が戻り、背筋が痺れる。
髪の裏を這う痺れがいつ取れるのか分からず、静けさに向かって話す。
「誇れないような人生歩んできたよ、ライナーみたく楽しい時期は楽しかったし、苦しいときは苦しかった」
「……なまえの辛かったことって?」
「言いたくない」
「俺も。」
全部を知りたいわけじゃない、そこは同じ。
それに耐えられるほど、ライナーは大人じゃなかった。
「ベルトルト……あいつは平気なんだ、そういうのが、でも……。」
とっくに壊れて干からびた地から沸いてくる水のように、浮かんだ言葉を逃がすまいとライナーが続ける。
「俺自身は上手くやってるつもりなんだが、ベルトルトによく止められることが多いから上手くやれてないんだ、その度にゾッとするんだけどな、俺一人じゃ気づかないことがあるから俺が駄目なだけだ。
たまに制御できなくなる、空想と現実が、作ってる自分が…作った自分が現実の中で空想を演じていたりする、気づかないうちに同じになったり入れ替わってる、ああ、作る理由はあるんだ……くだら、なくて………………だからめちゃくちゃになる、そうベルトルトに言われた。
たまにテスト範囲忘れたりするし、喧嘩した奴と仲直りしたの忘れてまた喧嘩したりする。でも、なまえとは違う。演じてもいないし作ってない、でも、こうなる。ごめん、なまえ、俺はおかしいんだ。」
「おかしくないよ、大丈夫」
あまりにも閉じこもった声で言うライナーが気の毒になる。
低く、棘もなく、響かない声。
泣き出しもしないライナーを見つめた。
「私より事情を深く知ってる友達がいるんだよね、その友達と沢山遊んで、それから私に話して」
返答もしないライナーを見つめて、伺う気にもならない。
おかしいと自覚すること、それは崩壊の一歩。
狂うことを何より先に気づくのは、他人ではない。
「私はライナーのことを全部知らない、だから私で安心して。ごめんね、不安にさせたね」
崩壊の一歩を止めるために出来ることは限られる。
なにかの力になれる範囲に自分が存在すればいいと思い、項垂れて動かないライナーの手を握った。
「私は誇れない人間だけど……ライナーのことを助けたい」
「鍵のこと…。」
ようやく言った言葉も、ふりだしのこと。
「それももういいの」
「携帯…壊れたかな。」
順に事を追うようになったライナーを落ち着かせるべく、軽く抱きしめる。
それでも動かない。
さっきまで私を食い殺さんばかりに襲い掛かったライナーと同じ人物だと思えず、戸惑いを腕に込める。
何かを知る前に、ライナーに好意を抱いた真実。
それを曲げたら、ライナーは取り返しのつかない傷を負い、私はまた誇れない人間へと堕ちる。
千切れた服が舞い花に、なんてことは起きない。
静かな部屋に、私達だけ。
ライナーが落ち着いたら、一緒に風呂に入ろう。




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2016.07.11

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