幸せのあたたかさ







メルさんリクエスト
みんなの前では夢主とケンカばっかりしているジャンだけど、隠れてはイチャイチャ→それがみんなにバレる。な話





「おいおいエレン、そりゃねえだろ。」
ジャンのこういう一言で、いつも喧嘩が始まる。
トラブルメーカーというほどではないけど、どうもエレンに対抗心を燃やしているらしく、丁度いい闘争本能の捌け口なんだろう。
聞き流しながら、テーブルにいる女の子たちと話す。
今日のライナーはかっこよかったとか、実はコニーが好きなのという珍しい子の話を聞いて。
密かにマルコに思いを馳せる子は、今日はこっちのテーブルじゃなくてマルコと一緒にご飯を食べている。
頑張れと応援する女の子たちは、各自思いを抱えていた。
私は、ジャンとこっそり付き合っている。
付き合うことになったとき、付き合うことがバレるのが恥ずかしいという理由で普段は喧嘩ばかりしようということになった。
恥ずかしい理由としては、人前でいちゃつくのは嫌だし、私はクリスタみたく可愛くないし、ユミルのようにかっこいいわけでもない。
とにかく恥ずかしいから人前で仲良くするのをやめて、夜に会うときに思い切りいちゃつくことにした。
するとどうだろう、捗る。
決め事をして正解だったと思うため、今日も私は守り続けることにした。
「ジャン!あんたさあ、エレンに喧嘩ばっか売ってぎゃーぎゃー騒いで恥ずかしくないの?」
「なまえの価値観なんか聞いてねえよ!」
約束したとおり、私にきつく当たる言葉を吐く。
「みっともないって言ってんの!」
ジャンを蔑むような言葉も、決まりごと。
「ったくよお、なまえ、てめえだって成績いいくらいで調子のってんじゃねえよ!」
「はあ?あんたの座学が最低なだけでしょ?」
「俺を見下そうったって百万年はえーぜ?なまえが俺に勝てることなんてない、野郎気取ってんじゃねえぞ!」
「女に向かってそれはクズの言い分ってやつじゃない!?意味わかる?ク!ズ!」
なんだと、と言ったジャンから笑いながら逃げるまでが、コース。
きゃははとわざとらしく逃げれば、誰もが私がジャンをからかって退散したと思うだろう。
今のところこのコースでジャン以外に追いかけられたことはないので、成功している。
喧嘩ばかりしてる腐れ縁だと思われていればいい。
女子寮で転がっているだろうと思わせてしまえば、あとは私とジャンの時間。
先に食堂裏の小屋に行って、待つ。
焚き火もないここは暗闇で、遠くから漏れる光が星に見える。
冷たい空気の中で、早くジャンに触れたい。
ここで待てば、ジャンが来てくれる。
暗闇を見つめて思い出す。
ジャンが「好きだ。」って言ってくれたときのことを思い出せば、暖かくなる。
手を握ったことも、へたくそなキスをしたことも。
その先にはまだいけてなくて、いけたとしても上手くいく自信がなくて出来ない。
でも、幸せ。
訓練兵なんて地獄みたいなことを続けるためには、目的が無いといけない。
私は、途中からジャンと夜にいちゃつくことが目的になってしまった。
兵士失格ではあるものの、幸せだからいい。

考えを読んできたかのように、ジャンの足音がする。
目を凝らして待てば、ジャンの姿が見えて一歩近づく。
すぐに抱きしめられて頬にキスをされ、背中を撫でられまくる。
「追いかけてくるかもよ?」
耳元で囁けば、ジャンがへたくそなキスをしてくる。
口元に涎がついたし、舌が絡まるたびに歯にあたって痒い。
音は鳴るし、呼吸の仕方も雑。
それでも抱きしめられながらキスされるのは、あったかくて気持ちがいい。
とろけそうな目をしたジャンが、息も絶え絶えに否定する。
「死に急ぎの馬鹿が、追いかけて、くるかよ。」
言い終わればキスをしたまま座り込んで、私の背中とお尻を撫でた。
いつか一線を越えたいのだろうけど、していいよとは言ってやらない。
その言葉は、ジャンから聴きたい。
誘いの言葉に応じる気はないけど、とにかく、その言葉はジャンから聴きたいのだ。
土のうの上に座りなおして、向き合ってキスをする。
ジャンの頭を撫でてキスをし直せば、今度は優しく舌を絡ませた。
長い指が頬に当たってから後頭部へと這う。
頭を軽く押さえられ、ゆっくりとキスをされながら体勢を変えられそうになる。
そうはさせないとジャンを押し倒す勢いでキスを仕返して耳たぶを舐めてから、ジャンの肩を掴む。
膝の上に乗れそうだったので軽く乗ろうとすれば、ジャンの手が腰に来る。
からかい半分で腰を落とし、ジャンの膝に座った。
頭をホールドして額に何度もキスをしながら、ジャンの顔を胸に押し付ける。
熱い吐息が胸にかかって温まるたびに、母性本能に似た何かが刺激された。
なんとなく股の筋肉が強張っているから、勃起しているんだろう。
でも、絶対触ってあげない。
ふんふん鼻を鳴らして胸に顔を埋めたジャンが、私の胸を両手で掴む。
自分の顔に胸を押し付けてきて、やだあと笑えば胸を刺激された。
声を出さずに動いてみると、片手で腰を抱かれる。
ジャンの今夜のオカズにはなるだろうと思う動きをして、散々からかう。
からかってから、たまに額にキス。
楽しんでいたときに「ジャン?」と後ろから聞こえたときの戦慄は教官の怒号とは比べ物にならないくらい驚くし、びっくりするし、怖い。
ふき飛ぶ勢いで立ち上がった私とジャンが、声のするほうを向く。
暗がりに、誰かが立っていた。
黒髪で細身の男の子、大きな目、エレンだ。
「ジャン…なまえ…なにしてんだ!?」
「バッカ!エレン、でけえ声出すな!!!!!」
「ジャンの声のほうがでけえよ!」
最悪の状況で喧嘩が始まり、狼狽する。
すぐに遠くから声が聞こえて、こちらに数人集まるのが分かった。
決めていたことは、もうなくなりそうだ。
開き直る覚悟を決めた私に対して、ジャンはしぶとい。
エレンに殴りかかろうと必死になっているので肩を掴んで止めると、エレンが驚きを隠せない声を出す。
「お前ら2人って…。」
その先を言う前にミカサちゃんが駆けつけ、後ろにはクリスタとユミルがいた。
コニーとサシャがいなかったことに感謝しつつ、状況を把握しているかしていないか微妙なミカサちゃんがジャンに言い放つ。
「ちゃんと仲良くしなきゃダメ、仲良くしないのは悪い。」
ジャンも一度は一目惚れしたというミカサちゃんは、私から見たってかっこいいし綺麗。
何もいえなくなっているジャンの代わりにお礼を言うと、エレンが目を伏せた。
「ありがと、ミカサちゃん」
「なんで仲が悪い振りをしてたの。」
状況と関係性を完全に把握していたミカサちゃんの一言に凍りついた私を見て、ユミルが笑い出す。
クリスタが咎めるものの、ユミルの爆笑は止まらない。
顔に熱が集まり、正直になった。
「恥ずかしかった。」
「同じく」
情けなく言えば、エレンが疑ってかかった。
「ジャン、おまえ…恥ずかしかったってだけでなまえにも仲悪い振りさせてたのかよ!?」
「恥ずかしいのは私も一緒なの、ほんとよ」
ユミルが笑いつつ、ジャンに見せ付けるように私の肩を抱く。
頬を寄せられ、ジャンとは違う柔らかくて肌触りのいいユミルの頬と私の頬がくっついた。
口元がジャンの涎まみれなのに気づかれたのか、ユミルがにやあっと笑う。
「次からはアタシとクリスタのように、堂々とするんだな!」
「うるせー。」
照れまくって爆発しそうなジャンを見て、ユミルが笑う。
この場にいてユミルの有難さに気づいてしまい、ジャンの手を握る。
「ジャン、行こ」
微笑めば、ジャンは目を逸らして手を握り返す。
強く、ぎゅっと。
「…おう。」
ユミルがひゅーっと囃して、ジャンがまた怒鳴る。
後ろでミカサちゃんが「エレン、手、繋ごう。」と言っている、私とジャンの手は暖かくて、とても幸せな気持ちだった。








2016.06.24








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