縄のいらない私達






ディスペンパックさんリクエスト
精巧の技(村上鋼)の続編で鋼くんの童貞卒業回想含まれます
ちょっとだけBBFネタ










「言え、本当のことを。」
穂刈があまりに真面目にそういうから、足を止めてしまった。
廊下で呼び止められるときは大体ふざけあうとき、その認識だ。
隣にはカゲもいて、何かしてしまったかと思う。
カゲの凄い目と、穂刈の威圧感。
何かとんでもないことが起きている、そんな気がする。
穂刈がオレに威圧を与えながら、告げた。
「一緒に歩いてた女は誰だ、日曜の夜。」
日曜の夜、と聞いてなまえとの行為を思い出して赤面しそうになったのを必死で抑えた。
抑えても隠しても、目の前にいる感情受信体質には完全にバレてしまい、カゲがそっとじゃれあい喧嘩の構えをとる。
カゲの構えを見て悟った穂刈が筋肉の節を慣らした。
恐ろしい音にぞっとしていても、突然出されたなまえのことで頭がいっぱいになる。
一緒に買い物をして、近くのコンビニでお菓子を買って、なまえの家に行って、一緒に風呂に入って、それから。
日曜の夜の移動中でも見られていたのかと思う反面、日曜の夜オレの隣にいた女性が一体誰なのか二人は察せるだろう。
なのにこの状況。
完全に楽しみにきている。
わざと言わせる気だ、と思うとカゲがじりじりと近寄ってきた。
一歩下がると、一歩近づいてくる。
これから何が起きるかわかって、逃げ道を確保する方向に走る体勢になった。
その途端カゲが襲い掛かり、逃げようとすれば穂刈に捕らえられた。
笑いながらカゲがオレに掴みかかる。
「あの女、この学校の女子じゃねえしボーダー関係者でもねえよな?」
「うん、全然違う。」
あっさり否定すれば、穂刈が突っ込む。
「年上だ、明らかに。」
なまえは見るからに同年代の女子ではないし、見ようによっては姉にだって見える。
でも、そうじゃないことをカゲと穂刈は見抜いた。
オレに姉がいないことを、二人は知ってる。
「つーか、なんで俺らに言ってねえんだよ、オイ、彼女できたことくらい言えよ。」
「うーん…言うタイミングが…。」
「言え、友達なら。」
穂刈が気味の悪い笑い声を出し始め、カゲによる魔女狩りのような尋問が始まる。
「いつからだ。」
「かれこれ一年近い。」
「日曜の夜どこ行った?」
「彼女の家。」
「オイ、鋼、チェリーどうした?」
「もう無いんだ、ははは。」
「ざっけんなあああこのクソ鋼!!ケツに精子詰まらせろボケ!!!」
カゲの絶叫と穂刈の気味の悪い笑い声を聞きつけた当真と北添が、こちらを見る。
面白そうだと近寄ってくる当真と北添を、今だけ吹き飛ばしたい。
にやにやした当真が状況にノリ始める前に逃げないと。
そんな思いも無駄に、穂刈がオレにプロレス技をかけようとしてくる。
腕を捕まれ持ち上げられたところで、当真の笑い声が聞こえた。
やめなよ〜と冗談めかしく言う北添の声も聞こえないので、もう助けは来ない。
絶望的な状況の中、カゲはまだ笑っている。
笑うときだけ息を吸う穂刈の笑い声は近くで聞くと本当に怖く、持ち上げられて思い切り足掻く。
「どこに行った、一日でアスキーアートと猛虎弁を取得したおまえ。」
「大丈夫まだ覚えてる!」
持ち上げられた体勢を抜け出したものの、俊足の穂刈がオレを羽交い絞めにようとしてきて、逃げる。
カゲが猛虎弁もどきを叫びながら飛び掛ってきて、寸でのところで避けた。
背後に回っていた穂刈から当然逃げれるわけもなく、カゲがオレを軽く殴り制服の上から何度もふざけて攻撃された。
「どこまでヤッたんだよ!オイ!」
デリカシーの無さが爆発するカゲは、もう止められない。
「一通りって言えばいいか!?」
「ぶははは!寝るたびに鋼の鋼がハガネになんのかよ!!彼女のアソコかわいそーじゃねえか!」
「別にそこまで凄いのは…。」
「おめーよお!潮吹かせすぎて女殺したら事件だからな!」
「おいおいカゲ!声でかい!」
カゲに言ったのに、何故か当真が叫び始める。
「あーーーーーーん!いやーん!」
喘ぎ声が大きい、の意味で叫んでいるのだろうけれど、ふざけたリーゼントの喘ぎの真似は気持ち悪いだけだ。
当真の声に北添が笑い出し、穂刈がオレを追いかける。
「イカせすぎて殺す気、鋼は。」
とんでもないことを言い出した穂刈から離れるために渡り廊下に逃げても、穂刈とカゲが凄い勢いで走ってくる。
後ろをまったりと追いかけてくる当真と北添だけが良心だ。
渡り廊下を抜ける前に、穂刈とカゲに捕まった。









ということがあったらしく、鋼の髪はボサボサ、制服の上はひっぱられた痕がいくつもあった。
心なしかスクールバックがへこんでいて、シャツはよれよれになってるけど体は無傷。
無残とまではいかない面白さのまま私のところへ来て、蕎麦茶を飲んでいる。
「災難だったねえ」
私が笑いながら言うと、鋼が微笑んだ。
つい最近事に及んだけれど、事に及ぶ以前より鋼は前より笑うようになった。
自意識過剰な考えだけど、鋼に「普通じゃないって最高」だと、そう教えてあげたせいかもしれない。
椅子に座り行儀よくする鋼の落ち着いた瞳は、いつ見ても同じ。
「でも年頃の子で、そういうのに興味があったりあけすけな子だと小学校くらいでしてるでしょ」
「そういう人、知り合いにいます。」
鋼が蕎麦茶を一口飲んで、鋼が来る前からリビングのテレビで流れている映画に目をやった。
ポールダンサーが踊る店内を忍び、ターゲットの背後にまわり銃を突きつけるシーン。
面白くなってきた展開と共に映るポールダンサーの尻、おっぱい、脚、おっぱい、尻、ピンヒール、網タイツ、セクシーランジェリー、酒、酒、酒。
青少年には刺激が強いと思えど、鋼は既に微妙な年齢だ。
なにもかも自分の意思で受け入れられるけど、すこしでも間違えば何気ない出来事でも大きな傷になる年齢。
それらがボーダーに所属することで癒えたり抑えられていることを祈り、私にできることをする。
何時の間にか付き合うようになり、好きだと言い合い、私に本気になる鋼を見つめる私だって、本気になっていた。
年の差はあれど、鋼が背伸びしていたとしても、受け入れてあげる。
恋愛に関わる壁や障害は、とっくに見えなくなった。
盲目状態、誰か私の手をひいて。
鋼が蕎麦茶を飲み、微笑む。
「友達は、すげえなとか、一足先に大人になりやがってとか、どうだったとか言ってました。」
「聞くだろうねえ」
「それで、オレは…内容は言わないで、好きな相手だから気持ちよかった、って言いました。」
「うん、それでおっけー」
「友達は、どんなプレイしたとか何やったとかドンくらい出したとか聞いてきて、それってそんな大事かと、あ、友達はデリカシー足りてないだけで良い奴なんです。」
鋼の友達二人が目撃したことにより鋼の交友関係に衝撃が走ったのは想像に難くない。
初体験が遅い人は30すぎてから、早い人は年齢一桁。
性はあらゆる意味合いを含む事柄に繋がるから、ひとくくりにしてはいけない。
「そういう言葉を聞くたびに、男性がどれだけ性を信じて理想を向け善いものだと思っているか思い知らされるわ」
男は刺すほうで、女は刺されるほう。
たまに逆転することもあるけど、基本はそんな感じ。
鋼が蕎麦茶のコップを置いて、私に問いかけた。
「あの…その、なまえは、セックスをどういう行為だと捉えてるんですか?」
「学習したいの?」
無言で頷いた鋼に、思うことを教えてやろうと言葉を選ぶ。
この子は、なにもかも覚えてしまう。
だからこそ大人がしっかりしないといけない。
そうね、と呟くと鋼が私から目を離さなくなった。
「体を売ったことはないから商売的な観点からセックスのことは述べられないけど、私は好きな人としかしない、許した人にしか抱かせない体なの」
「そう思うに至った経緯は?」
「性とは関係ない人生面で痛い目みちゃったからからなあ、でも恋愛面ではまだ」
緊縛関係と、そこから派生する家族関係で痛い目をみたけど、それはどうでもいい、緊縛師にはよくあることだ。
目の前にいる鋼が聞きたいこと、知りたいことに答えてあげようと微笑んで、自分の分のコップを手に取る。
蕎麦茶のボトルの蓋を開け、コップに蕎麦茶を注ぐ。
「性器があればできるわけじゃない、気持ち、思いやり、愛、それらがないとセックスは成り立たない」
コップの中を満たしていく蕎麦茶のように、満たされるようなセックスは愛がないと出来ない。
思いやりのない行為も、性的な暴力も、愛のコミュニケーションも、セックスに分類される。
けれど満たされ、愛されていると感じるためにはお互いに溺れないといけない。
「性行為は繁殖行為であるが、同時に大切なコミュニケーションでもある。」
「いまの保健体育の教科書そんなこと書いてあるの?」
「書かれてます。」
最近の教科書が見たい、と言おうとしたら鋼が蕎麦茶を一口飲んだ。
行儀がよくて静かな横顔。
この顔が、快感に喘ぐのを知っている。
「痛い目みせてくれるの?」
優越感に任せてからかってみると、真面目な答えを返された。
「いえ、絶対みませません。」
その言葉に感心して、勝てないなあと思う。
「鋼はいい男になるよ」
心の底からの本音。
正直、私には勿体ないくらいの良い男。
せめて、私が教えてあげられることは教えてあげたい。
縄の縛り方と飯の作り方と掃除とおしゃれくらいしか教えることがないけど、鋼が好き。
本当はもっと一緒にいたいけど、鋼にはボーダーがある。
鋼がもしもボーダーで疲れてしまったら、拠り所でありたい。
そう思うから、欲望を全面に出すことはしない。
それなのに、鋼は可愛い顔をする。
蕎麦茶のコップを置いて、伺うような目で私を見た。
「オレ、下手じゃありませんでした?」
底抜けに笑ってから、蕎麦茶のボトルを持ったまま鋼が座る椅子があるテーブルに歩み寄る。
鋼の頬に軽くキスをして、ボサボサ頭を見下ろす。
「何を勘違いしてるんだか知らないけど、セックスは思いやりと気持ちがなきゃいけないの、気持ちよかったよ」
自信になる言葉をかけて、笑顔。
「テクニック面なら鋼は問題ないでしょう、色々読んで見たりして寝ればいいし」
セクハラを言って、笑顔。
「ううう…。」
赤面した鋼を褒める勢いで鋼に蕎麦茶のおかわりを注いで、ボトルを机に置く。
「一回したら覚えるんだから」
ボサボサになった鋼の頭の上に顎を置いて、腕を鋼の首の横から垂らしてテレビを見た。
映画の中では、主人公が敵の情婦兼ストリッパーと戦っている。
激しい銃撃戦が繰り広げられる画面を見て、面白いなあと思っていると鋼が私の手を握った。
健康的な手が、私の手に張り付く様。
構うように握り返しておしまいにすると、鋼がゆっくりと舐めるような手つきで指を絡ませてきた。
この手で何度も触れられたと思うと、いけないことをしている気持ちになる。
顎の下にあるボサボサ頭に胸を押し付けたあと、頬にキスをしようと屈む。
鋼がこちらを見て、すぐに舌が絡まった。
蕎麦茶の味。
初めてしたときも、鋼の唇の奥からはこの味がした。
可愛く思えて、鋼の体を上から準に優しく抱きしめていこうと思い体を横にさせようとすれば、鋼の手が腰に回る。
ズボン越しに手が這ってきて、腹の底が疼く。
鋼のもので突かれているときも、子宮がぎゅうっと疼いて仕方なかった。
それを察しているかのように貪る鋼は、男の子というには大人すぎる。
後頭部に手を這わせようとすると、鋼のほうから抱きついてくれた。
脚が緩んだところで太ももの裏側から膝裏に手が這って、心地よさに腰が砕けそうになる。
鋼と触れ合う唇から唾液の粘着質な音がして、短く息を吐き出す。
あの時、初めてのあの時。
私の上に圧し掛かって、快感まかせにしても収まらない熱と何度もした。
鋼は向かい合ってするのが好きかもしれないと、最中に思ったのは覚えている。
あと脚が好きらしく、寝転がらせた私の脚をわざわざ持ち上げていた。
無駄な言葉も使いたくないようで、している最中の鋼は「なまえ、好き。」とか「なまえ、きもちいい。」とか。
コンドームの中に射精するたびに息を詰まらせ、んっ、と喘ぐ。
使い終わったコンドームの中にある精液の量を見て、若いねと言えば鋼は顔を赤くする。
そういう子だ、とても可愛い。
揺れるおっぱいに釘付けになってる顔とか、横向きで互いの性器を愛撫するときに妙に脚を触るところとか。
初心な鋼が可愛くて、しすぎてしまったけど後悔はしてない。
コンドームは全部なくなるし、ローターとバイブも電池が切れるまで使った。
いくらあっても足りないコンドームと、唾液と、性欲。
今からするのは軽い触れ合いだと思いたい。
腰から膝までゆっくりと撫でられ、下着の線を確認される。
ズボンがずらされ、履き古しに近いTバックが外気に晒された。
鋼のズボンに両手をやってベルトを緩めれば、鋼の指が布の隙間という隙間を潜り抜け秘部に触れる。
もう濡れてきたのがバレてしまい、お返しに強く舌を吸った。
ん、と漏れた声に恥ずかしくなりながらベルトを外し、下着の上から軽く勃起したそれを指で撫でる。
指の腹で撫でれば昂ぶり、第一関節の窪みで鈴口が滲む。
服の下に入れようとした手を絡み取られて、ふと気づく。
キスをしている唇を無理矢理離して、鋼に笑いかける。
「私の動きまで覚えた?」
「はい。」
笑うと、鋼がブラジャーのホックを服の上から外した。
咄嗟に胸を押さえて、鋼を見つめる。
「あの時の鋼、男の子じゃなくて男だったし、頼りになるって感じだった、それに可愛かった」
「オレは可愛くないです。」
キスをして、囁く。
「大切なのは心よ」
目を覗き込んでも、暗い影はない。
「オレ、県外スカウトでこっちに来てるんです、だからなまえに会えて嬉しかった。」
突如そんなことを言い出したので、鋼の髪を撫でた。
ボサボサだけど、洗えばすぐに直る。
「ああ、こっちの人じゃないんだ。私も引越し組だよ」
有名な緊縛師がこの付近にいるので教えを乞うために引っ越してきたけど、最近は一人で生計を立てている。
それでも縄から逃れられない頭をした人生なので、引っ越そうが何かをしようが変わらない。
私の人生には、縄、縄、縄。
でも今はそこに鋼が加わっている。
鋼の頭を撫でれば、心を許してくれたように喋りだした。
「オレは今までサイドエフェクトのせいで場を壊してきた、スカウトされて来たときは少し不安だったんです、新しいとこで、ボーダーで上手くやっていけるか、場が壊れないかって。
普通じゃない能力で得たもので戦うオレを、みんな腫れ物扱いするんじゃないかって。
そんなことはないって分かってても時々不安になるからボーダーで友人と戦うんですけど、一度すごく不安定になったときは仲間が助けてくれて、オレも場にいていいんだって思えたんです、ようやく思えた。」
目に暗い影を宿さない鋼を、何度も労わり撫でる。
サイドなんちゃらは詳しくないけど、驚異的な学習能力を持つことがきっかけで悲しい体験をいくつか経験したんだろう。
でも、普通じゃないのは最高だと思うと何度も伝えた。
普通じゃないなら、普通の上に立てばいい。
普通の下にいるだけじゃ、いつまでも悲しい思いをするだけ。
それだけ凄い能力を持つのなら、普通じゃないことが楽しくてたまらないと思える日が、いつか来る。
その日に、側にいてあげられる人でありたい。
「オレのことを何も知らないなまえと出会えて、好きだって思えて、良かったって。」
そう言って微笑む鋼が、愛しい。
「鋼、あなた良い男よ」
抱きしめて、撫でる。
さっきまで性的な雰囲気になっていたけど、すこし抜けてきた。
鋼が愛しい。
性行為がなくても、鋼を抱きしめると安心する。
それは、鋼も同じだといいと都合よく思う。
緊縛師になろうが、私は浅ましいと自己分析の結果が浮かぶ。
「目の前の相手におぼれてこその愛、愛にのめりこみたいなら相手に溺れなきゃ。」
「寝たら覚えます。」
そうだね、と呟いて笑ってから腕を緩めた。
抱きしめ終わって鋼を見ると、口元が僅かに緩んだ鋼が目の前にいる。
頬を撫でても、キスをしても、微笑んでも、鋼の薄い唇は大人しい。
「昼寝する?」
黙って首を横に振った鋼が、私をそっと抱きしめた。
ブラジャーが外れているおかげで、胸が鋼に押し付けられる。
「なまえ、好き、大好き。」
「私も」
大人になっていく鋼の手を引いていきたい。
それが私にできることなら、それ以外にも出来るのならなんだってする。
縄で縛らなくても、私から離れない鋼。
抱きしめ返すと、蕎麦茶の香りが漂ってからテレビから流れる映画のエンディングも流れてきた。




2016.06.20












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