匂い立ち溺れる


訓練兵時代設定





訓練兵の姿が見えなくなってくる時間帯になると、愛しくなる。
今日は倉庫で待ち合わせ、それが楽しみで馬小屋近くの藁溜めに藁を落とせば、藁の匂いではない異臭がした。
「泥くさっ!」
振り向けば、泥だらけのナイル。
それも水溜りの泥に突っ込んだのか、ズボンのあちこちが不穏な濡れ方をしている。
ナイルから遠ざかると、がははと笑われた。
泥と汗が合わさった匂いは、男子部屋から漂う匂いよりも不快を極める。
「よう、なまえ!」
近寄ろうとするたびに距離をおきつつも、逃げながら会話する。
「うっわー泥だらけ、またエルヴィンと喧嘩したの?」
「いや、馬に嫌われた。」
「ナイル面白すぎ」
「なまえは馬の扱いうめえからよお、コツ、聞こうと思って。」
ランニングするのをやめて、立ち止まりナイルの顔を見る。
顎まで泥まみれで、かっこわるい。
噴き出すのを我慢するように笑うと、ナイルが苦笑いした。
「人と同じように、思いやりを持って接してごらん、馬は人のパートナーだから心で会話するんだよ」
「馬は喋れねーだろ!」
「だから気持ちを通じさせるの!思いよ!気持ち!」
胸をバンバン叩くと、何故かナイルまで同じように胸を叩いた。
泥が乾いた手からぽろぽろ土が落ちて汚げ。
今のナイルには、近づきたくない。
「わかんねえー!今度教えてくれよなまえ!な!?」
そう思った矢先にナイルが私の肩を掴み、見事に泥がつく。
うぎゃーと叫んで肩の泥を払い落としながら逃げると、ナイルが笑いながら追いかけてきた。
たしかにナイルは友達だ。
でも、これは許さん。
「昼ごはんのパン一個くれたらね!!!」
「わかった、わかったよ!」
取引に応じてくれるところも、友達だから。
ナイルを追い返し、倉庫へ向かう。
これから会う人のことを思うだけで、体が温かくなる。

薄暗い倉庫に入って、外から開けられないように入り口を木箱で固める。
重い木箱も、ここにきてからは簡単に持てるようになった。
扉の半分を木箱で押さえつけ、これでよし。
振り向けば、愛しい人が先に待っていた。
「ミケ」
名前を呼ぶと、ミケが腕を広げた。
そこに収まり甘えると、背中を撫でられる。
大きな手と大きな体。
強くて逞しいのに目元は優しくて、寡黙なのがたまらない。
抱きついて、会いたかったって心の中で何度も言う。
ぎゅうっと抱きしめあっていると、ミケの鼻がスンッと鳴った。
「ナイルの匂いがする。」
「さっき会ったから、かな」
ミケの指が肩をつつき、鼻をひくつかせる。
不快そうな顔に思わず笑ったものの、ミケは鼻が効くから仕方ない。
「ここから臭う。」
「あーうん、肩ぽんされた」
泥まみれの手で女に触るなんて、あいつは絶対モテない。
でも、そういう奴に限って恋人できたりするんだよなあ。
くだらないことを考えていれば、ミケが無愛想な顔をしていたので、からかい半分鼻をつつく。
「やきもち?」
「…。」
「追いかけっこしてただけだよ」
「わかってる。」
「ね?」
「俺とは追いかけっこしてくれないのか。」
「じゃあ、明日追いかけっこしよ?」
ふふ、と笑うとミケに鼻で笑われた。
私とナイルが友達なのは、ミケも知っている。
ふざけあっているのも、本当は気に入らないんだろう。
私はミケのもので、ミケは私のものだから。
「ミケだけだよ」
「他の男の匂いはさせるな。」
優しい目を縁取る睫毛が、金色で綺麗。
伏目がちなミケにキスをして腕を首に回すと、ミケの指が不意に下腹部に触れた。
腰を動かすと、狙っていたと言わんばかりにミケが鼻で笑う。
「でも、ここからは俺の匂いがする。」
下腹部、臍の下、そのまた下。
そこはもうミケの匂いが染み付いて取れないんだろう。
ミケのそこだって、私の匂いが取れない。
大きな手が、私の体に熱を点けるように這う。
「それに、ここと、ここ……ここも。」
尻、太もも、胸、腹のくびれから腰まで、尻と性器の境目。
触られるたびに反応してしまって、恥ずかしい。
びく、と動く腰を撫でる大きな手の動きを期待してしまう。
そこは、もう私の匂いなんかしないくらいミケの匂いでまみれている。
「恥ずかしい」
素直にそう言えば、嫌じゃないことを分かっているミケが煽ってくれた。
腰の力を緩め、足を解放するための準備をする。
「もっと恥ずかしいことを言ってやろうか?」
向き合った体勢のまま足を開かされ、思わず閉じる。
それでも、ミケは開かせては私を見て、言うことを聞けと目で言う。
「この前はこの体勢で強請ったな、何もしないでなまえを見てるだけに徹していたら勝手に脱いだ挙句自慰を始めて匂いを撒き散らして、最高だった。」
前の行為内容を掘り返され、思い出す前に体が反応する。
愛液の匂いを嗅いだミケが鼻を鳴らし、潜めたように笑う。
「ほら、こういうだけで濡らす。」
「…どこまでわかるの。」
足を割り、抱き寄せられ囁かれる。
低い声で鼓膜を刺激され、はあっと漏れた吐息がミケの肩にかかった。
「性器から、俺の匂いとなまえの匂いと、膣内から蒸れた恥垢の匂いがする。」
う、と顔を顰めるとミケに鼻で笑われ、反射的に足の間に手を持ってきた。
隠す意味のない隠し方をして、正直に言う。
「うん、思い出して、つい、でも、でもね、一人でしてても、結局はミケのおっきいのがずぼずぼしてほしくて」
こうして煽りあってれば、もうその気だ。
「したい。」
「私も」
これから数十分間、世界にはミケと私だけ。
ミケの舌が私の口内を支配するように動いて、上顎を舌で舐めあげたあとに歯列をなぞる。
食われそうな勢いのキスに応じれば、ミケが私のズボンを脱がそうとした。
手で遮り、ミケのキスに集中する。
頬を押すミケの舌の間で、ミケの舌裏を舐める。
薄い肉の血管と、唾液。
生暖かく生きた肉同士の触れあいは、熱を産む。
密着した口から音はせず、ただ興奮だけが覆い尽くす。
口を離して、囁いた。
「私、上…」
そう言うと、ミケはおいでをするように腕を広げてくれた。
招き入れられ、そっとズボンを脱ぐ。
なるべく前のめりになって、濡れて糸を引いた下着を見せないようにして脱いでから、木箱の上に置いた。
ミケのものは、大きい。
体の小さい子にこれを挿入するのは至難。
でも、私は違う。
女子で一番背が高いし、そこらへんの男子兵士より良い訓練成績だったりする。
でも、ミケには勝てない。
絶対に勝てない相手を好きになる私は、その時だけ女。
ミケに跨り、性器に熱同士をあてがう。
濡れた膣にミケのものを迎えいれれば、愛しさと満足感と興奮が一気に押し寄せてきた。
ずぬ、と入ればあとは滑り挿れるだけ。
それくらい慣れたここは、ミケの匂いしかしない。
「はあっ、あうっ」
腰を落とし、全て挿入する。
僅かに腰を揺らし、大きさと太さを堪能してミケに寄りかかる。
何も言わずミケはキスをして、私の頭と頬を撫でてくれた。
大きなものを全て包む私と、怒張し熱を孕んだミケ。
唇を離し、ミケに跨ったまま自分の太ももに両手を置く。
露になった胸は腰を揺らすたびに揺れて、すっごくいやらしい。
自分で動いて、感覚を掴む。
ミケがほしくて、膣内はぐちゃぐちゃだ。
太ももと尻が触れるたびに音がして、私とミケの息は合いの手のよう。
揺れて、擦れて、気持ちよくて、愛しいミケは気持ち良さそうな顔をして私を見つめていて、私もミケしか見ていなくて。
性器の擦りあいから生まれる快感に縋るよりも、ミケの思いを知りたい。
どうして嗅ぐのとか、どうしてそんなに大きくなったのとか、どうしてそんなに強いのとか。
私の中は、いつもミケでいっぱい。
ミケの大きな両手が、片方は胸、片方は性器に伸びた。
「これだと両手が空いて、いいところを責められる。」
胸の先端を刺激されながら、大きな指で何度も肉芽を擦られる。
擦られるたびに硬くなって、硬いことがわかって、恥ずかしさが飛んでしまうくらい気持ちいい。
息を詰まらせ、快感に犯されていく。
倉庫は薄暗いのに、ミケの指は気持ちの良いところを的確に責める。
責められても腰は止まらない。
ミケのものを擦り合わせるために息を切らし動く私の胸が揺れて、内臓が押されて、擦りあって。
知り尽くした体同士の行為は、底なしに気持ちが良くて幸せに他ならない。
体内に迎え入れたミケのものが一段と膨らんだのがわかって、腰を振った。
愛液が飛び散る音がして、顔に血が集まる。
汚い音に似た音は肌を濡らし、滑らせた。
「これぇ、これっ、好きぃっ」
膣口で、太くて大きなものが何度も擦れる感覚。
ペニスを受け入れるために存在している器官を酷使しても、好きな人との好意では快感しか生まれない。
腰をがくがくと振っても、手は離れない。
大きな手は、しっかりと肉芽と胸の先端を弄る。
酸素を求めて息を吸えば、ミケがキスをした。
薄い唇に吸い付いて、舌をしゃぶって、唾液同士で音を鳴らす。
ミケの大きなものが私の中の奥を突く。
動いているだけで、気持ちよくてもっともっとと強請る。
愛液が飛び散る音が何度もして、尾てい骨と肛門あたりが濡れれば私の性器が震えた。
飛び散った愛液にわざと触れたミケの指が、濡れた指で肉芽を責める。
硬くなっているのに、ぬるぬると指で責められ声が漏れてしまう。
息も絶え絶えにミケを欲しがる私は、浅ましいだろうか。
こうしている間だけは、目の前の愛しい人に溺れていく。
ミケの瞳を見つめて、すきだよ、と言いたくなれば性器を激しく擦り合う。
言葉のいらない性のコミュニケーションが、ミケとはできる。
好き同士でしかできないこの行為を今できていることは、幸せだ。
子宮のあたりから、じわ、と絶頂感の滲みが溢れ出せばミケが囁いた。
「匂いでわかるぞ。」
「や、はっ」
「熱いな、首元まで真っ赤だ。」
ミケの両手が腰に移動し、掴む。
私の腰を持って、そのまま上下に揺さぶってくれた。
動かされる私の髪が、汗で頬に張り付く。
逞しい体だからできる体位に、太ももに置いていた手を性器と胸にやる。
熱く硬くなった肉芽を擦って指が愛液まみれになった。
くちくちと音がする合間に、ミケの吐息が聞こえる。
声が漏れるたび、ミケが大きく揺さぶり絶頂感が滲んできた。
自らの慣れた手で胸と肉芽を触っていても、ミケが腰を掴んで思い切り動かしてくれる。
「ミケ、は、すきっ」
体の中を気持ちいい針が這う。
気持ちよくてミケに動かしてもらってるのに、腰が揺れて止まらない。
ぐるぐるって、おなかの中から頭の中まで。
声が掠れるたびにおなかの下から快感が滲む。
擦れれば擦れるほどに熱も快感も増せば、腰は止まらない。
ミケと見つめあい、口をぱくぱくさせて強請れば、絶頂感が押し寄せた。
背中を反らし、痙攣する私をミケは動かし続ける。
絶頂を迎えている最中に責め続けてもらうと、性器が敏感になりすぎてしまうのが好き。
痙攣している間も、体の中でミケが動く。
性器の熱さに耐え切れなかったように愛液が溢れ出し、一層濡らす。
滑りのいい性器を堪能するミケが私にキスをして、舌を吸う。
硬くなった肉芽にミケの太くて大きな指が触れて、グリッと弄れば、私の体が激しく縮んで痙攣する。
溢れる愛液と、膨らんでいくミケのもの。
これが気持ちいいことを、ミケは知っている。
腰を掴んで余裕なく振るミケの手の力が強まった。
深く沈んだ体内で早く動かされ、ミケの息が荒くなる。
真剣な眼差しを私に向けたまま息を荒げるミケに、組み敷かれる幸福を感じた。
揺れるこの体は、ミケのもの。
私の体を貪り尽くそうとするミケは、私のもの。
ずりゅ、と擦れた性器の間から濃い愛液が垂れる。
真っ白な愛液が性器から垂れているのを想像して、息をふーっと吐き出す。
抜けば裏筋のほうにべっとりと白い愛液がついているはず。
こんなに気持ちがいいのだから、そのはずだ。
はっはっはっはっ、と激しく息をするミケは、それこそ馬のようだ。
あそこも馬並みだけど、とくだらないことを考える余裕が生まれた瞬間、ミケが達した。
何か出された感じがしてから、性器と性器の間に熱が溢れる。
どろ、と垂れた精液が伝って肛門のほうにいきかけて、腰を動かした。
前のめりになれば、肉芽に精液が伝う。
ミケが私の首に鼻を埋め、スンッと嗅ぐ。
「なまえ、いい匂いだ。」
掠れた声でそう言うミケを抱きしめて、余韻に浸る。
私の中でまだびくびくしているミケのものが膨らんで、縮まって、また膨らんでを繰り返してから、熱が収まった頃に抜けた。
どろりとあふれ出す精液を指で受け止め、体内にも残された精液で遊ぶ。
指の上で粘る精液を肉芽に落とし扱けば、愛液と混じり滑った。
「イッたの、わかる?」
「匂いでわかる。」
「そういうの、違いあるんだ」
「イッたときの匂いは筆舌に尽くしがたい。」
ミケがまた私を抱き寄せ、何度も体を嗅ぐ。
すんすんと嗅がれるたびに嬉しくなる私も、匂いでミケみたいになってしまうのかもしれない。
垂れた精液が太ももに伝って、指で遊んだ。
「もう全身、ミケの匂いでいっぱい」
「俺も、なまえの匂いで…あ、もう一回したい。」
欲望を素直に受け入れ、紅潮した頬のミケを抱きしめ寝転がった。
腰は余韻にまみれて、何をされても快感へ直結する。
砕けるまですればいい、愛し合って壊れるのもいいじゃないかと思っても口には出さない。
それが女だと格好つけたことを思う。
大きな体で、抱かれる。
安心感の溢れる幸せに浸る私の体の中はミケでいっぱいで、ミケは私でいっぱい。
そうしてまた数十分間、世界にはミケと私だけ。
心地のいい匂いと行為は、愛に他ならないと言えるだけの信頼があってこそと思ったことを脳の隅にやり、快感と向き合った。





2016.05.24







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