おとなのはからい






目を閉じて開けたら、昔の光景は見えない。
どうか見えますようにと願って眠っても泣いて起きることくらいしか起きなかった。
見えてるもの、聴こえてるもの、それが全部。
いやいやと泣いても、状況は変わらない。
一人で隠れて泣いたりしてたほうが、まだマシ。
だから安心する場所では、思い切り甘えてしまう。
だいすきな人がいればいい、だったら女子寮で聞いた会話は、なんだったのか。
最近身体だけで、気持ちのほうは全然なの、もう続かないのかなと言った子の不安そうな顔。
イッたら、それでおしまいなのと言った子の面倒くさそうな顔。
舐めてあげる気にもならなくなっちゃうと言った子は翌日には違う男の子と遊んでいた。
別の男としたら、あそこがでかくてよかったから、今のとは別れると言った子は戦死した。
男なんて皆、狼なんだよと言った子も、戦死した。
一瞬だけでも現実がどっかにいくなら儲けもんなんだよと口癖にしてた子の真意が、いまならわかるかもしれない。
なんにも気にせず跳ね回る私と、今の私は同じ。
変化はいつもあること、仕方ない。
でもぺトラがいなくなったことは、とてつもない空洞を私に開けていった。

私の目の前にいるのは狼でも熊でも巨人でもなく、ミケ。
適切な言葉が見つからず、頭がぐらぐらする。
ミケの大きな手が私の頭を覆って、そっとキスをしてくれた。
唇が触れて、お腹の中がぎゅうっと締まる。
キスだけで、感じているときの体になってしまう。
骨の中から好きっていう気持ちが滲んで、肉に染みて、私の体になる。
部屋の僅かな灯りが消えたとしても、行為はやめない。
髪の中を垂れる汗が背中に落ちて、伝って伝って股の皺に落ちる。
動かすたびに一度ぬるっとして乾く足の繋ぎ目が熱くて仕方ない。
ミケ、だいすき。
適切な言葉を見つけたところでミケを抱きしめて、腰に跨る。
例のごとくミケのちんちんは半分くらいしか入らないけれど、それでもミケは気持ちいい気持ちいいって言う。
私も気持ちいい。
何も言わずとも私の腰に大きな手が添えられて、私が腰を落とす頃合を見て腰を突き上げ、ぐぬ、ずる、と挿入される。
いれて、と言っていないのに、はいっていく。
私の中いっぱいに、ミケの熱が感覚のない奥へと。
不思議と変に痛かったり苦しかったりとかはないので、これが阿吽の呼吸というものなのだろうか。
重なる肌が、熱が、全てから快感に繋がる痺れがおなかの中から滲む。
最初は無理無理と言っていた行為も、求める愛しいものへとなった。
私の腰がどんどん丸い線になっていくのを見て、体は変化していくことを知る。
こどものままも、ありえない。
大人のままでいたい。
そのうち大人でいれないことも、あるのだろう。
繋がる、とか、埋めあうとか、そんなんじゃない。
体が繋がって無くても、一緒にいればそれだけで幸せなのに、大好きな気持ちが破裂してベッドの中にいく。
抱き合って、ミケの吐息をきくだけで私はどきどきする。
「なまえ。」
低くて静かな声で、そう呼んでくれた。
うれしくて、返事をする。
「ミケ、きもちい」
声だけで、おなかの中が締まる。
「なまえ、気持ちいい、俺を見てくれ。」
言われたとおりミケを見ると、優しげな目元が気持ち良さそうに蕩けていた。
ミケも気持ちいいんだ。
好き同士ですれば、こんなにも満足感のあるもの。
腰を揺らして、動くたびに擦れる性器の外側の感覚に背筋に快感が這う。
ぱくぱくと動く口は酸素を求めているせいで乾いている。
なのに舌だけ濡れていて、情事を感じさせた。
最初に何を考えていたっけ、思い出せない。
ミケの真剣な顔つきに、額に浮いた汗。
筋骨隆々な体に甘えて腰を振る気持ちよさに震えていると、ミケの大きな手が支えてくれる。
腰を揺らして、性器を擦り合わせて、そのたびに気持ちよさが痺れてくる体はよく出来ていると思う。
恥ずかしいだけのことじゃない。
大好きでたまらないひとの、恥ずかしいところも見てしまう。
ミケの顎鬚から汗がひとつ垂れて、首に落ちた。
首の筋肉の間を伝って落ちていくのを見ながら腰を揺らし、やっぱりどきどきする。
酸素を求めて喉が鳴る、出るのは喘ぎ声。
汗以外の何かが出そうな体も、おかしく思わない。
これが正しいんだ。
子供でいる時間より、大人でいる時間のほうが人は圧倒的に長い。
だからこれが正しい。
太ももの付け根まで濡れた私の性器は、ミケのちんちんで蓋をされているはずなのに溢れてくる。
何回かしかしてないのに、どうしてこんなに気持ちいいんだろう。
ミケが、ミケが好きだから。
ぎゅ、と締まる性器を奥まで招きいれ、腰を揺らして振る。
目の裏が痛くて目を閉じる。
決して目が痛いわけじゃないのに、この感じはなんなのか分からない。
腰の奥の突き当たりが分からないようなもので内臓の奥がどこかわからない、どうせなら全部はいったらいいのに。
重なっているだけで気持ちいい、だいすきでどうしようもない。
垂れた汗がミケの体に落ちても熱しか沸いてこなくて、背中を反らす。
自分で肉芽を触りながら腰を振っているうちに、達する感じがした。
腰を揺らして、途切れ途切れ喘げばミケが腰を掴んだまま下から突き上げる。
息がつまり、肉芽を触る指の動きを速くした。
きもちい、きもちいとうわごとのように呟いては喘ぎに消える。
たまに下顎が浮くような感覚がして歯を食いしばれば、痛がっていると思われてミケの静止の腕が伸びてくる。
そうじゃない、と笑えば静止の腕は私から離れていく。
ほんとはずっと抱っこしてくれててもいいのに。
わがままを言いたくても、喉が締まるのも指の動きが、止まらないし止められない。
顎の先から汗にしては粘り気が強い体液が垂れて、唇を閉じる。
気持ちいいところを目指したら、もう止まらない。
びく、となった途端に掴まれている部分は熱が溜まるような感覚がして仰け反った。
何度も体を痙攣させる私のあとに、ミケの腰が何度か動いて満足したように熱が漏れ始めた。
体を曲げて、繋がってる部分を見ようとする。
髪が顔に張り付いてとても邪魔だけど、精液が垂れたそこが熱い。
ぬとりとした精液がシーツに垂れて、私の性器は真っ白だ。
歯を食いしばるような口の動きをするのを察したのか、ミケが私の口に指を突っ込んだ。
太くて大きな指が口の中に、と思えば腰を捕まれ易々と性器を引き抜かれ咽て反射的にミケの指を噛んだ。
骨っぽい指に歯が食い込んでも、血は出ない。
呻く私の頭を撫でて、汗まみれの私を優しい目で見る。
ミケの指が口から抜かれ、げほっと咽て乾いた息が舌の奥を刺した。
糸が何本も喉に張り付いたようで、背中の裏側がぞくぞくする。
喉が渇きすぎて気持ち悪くなった不快感を唾液で押し込んで、喉を一時期的に潤す。
水のバケツに頭から突っ込むつもりで、這うようにミケの胸元に近づき倒れる。
頬に髪の毛が張り付いて、指で払う。
指から性的な匂いが漂ってきて、すぐに目を閉じた。
腰の骨が軋むかんじがして足を動かせば、踵が痛んだ。
呼吸をするたびに嗅覚も味覚も視覚も元に戻ってきて、事の終わりの体の重さが戻る。
大きな手で抱っこしてもらえば一時的に体の重さを忘れられても、部屋の匂いがどうなっているか考えたくない。
喉の渇きからくる気持ち悪さと、嘔吐の不快感はすこし似ている。
胃の辺りの感覚が違うから分かるけど、気持ち悪いものは気持ち悪い。
息を荒げる私を抱きしめて、すぐ隣に寝かせてくれた。
全然動かない体、でも意識だけはある。
「ミケ、わたし変なの?」
ミケの腕に頭を乗せて、だるい瞳で放心した。
「おかしくない。」
「すごいチビだし、変だよ」
「そうしたら俺はなんだ、デカい。」
すぐにそういうミケも手で額の汗を拭いて息を吸って、吐き出した。
喉仏が動くのを見て、またどきどきする。
「熱くて、くらくらして、おなかがぎゅーってして変だよ、初めてのときも、あんな」
初めては痛いことくらい知っている。
それなのに、それなのに私はどうして。
すこし不安になっているのを察したのか、ミケが撫でてくれる。
「体の相性だ、安心しろ。」
正気に戻る頭の後ろで、感覚が鳴るような感じがした。
においが鼻について、それから汗が冷えていく。
「相性が悪いと、どうなるの?」
体をどうにかしないと死んでしまいそうな気持ちのまま、ミケを見た。
「何度しても痛かったり、気持ち良くなかったりするらしい。」
「すっごいやだ」
「俺も、それは嫌だ。」
シーツから起き上がる気にもならなくて、ぼうっとする。
「まだ疲れてるか。」
「もう動けない」
「一生おぶってやる、と言えば起き上がる気力も沸くか。」
「けっこう沸く」
だるいのはなんのつもりなのかと体を怒鳴りつけたくても、動かないものは動かない。
体が軋む程度で済んでいるだけ、いいほうだ。
「痛くないか。」
「疲れただけ」
優しい目、触ると楽しい気分になる髭。
筋肉だらけの体のミケが、ずっと好き。
「ミケを初めて見たときから好きだったの、でも、今までの好きと違ったのは、体が合って、心も合ってたから?」
本能的なことしか言えない私は、私らしくない。
「そうかもしれないな。」
なんでも、うんうんと聞いてくれるミケはずっと変わっていない。
最初からずっとこう。
大人になれば、余裕もできて私みたいな奴も分かりきってくれるのか。
私はもう大人じゃないかと思っても、そうじゃない気がするのは心の部分がどっか足りてなかったから。
今はそれに気づける。
「誰にも言うなよ?」
「うん」
「恋をしている女の匂いって、独特なんだ。」
「え、私、ばれてた?」
「なまえの匂いは、似ているけど違う匂いだった。」
似ているけど、という部分にひっかかってもなお話を聞く。
ミケの優しい目は、私を見たまま動かない。
「最初は俺にひっつく小さい子としか思っていなかった、ハンジから聞き出す前になまえは兵士としては真面目で訓練も戦果もあげる優秀な子だと知った。
決して見た目から伝わる印象だけが全てじゃないと分かって、それでもなお俺の布団を蹴飛ばしてくる理由を知りたかった、それが最初だ。」
ミケが大好きで、ミケさんミケさん言いながら足元をくるくる回ってたこともあった。
あの頃から、大好きで大好きで。
おとうさんみたいな人を欲していたのは、ミケにはもうばれている。
でも、おとうさんじゃない、それでもミケが好き。
私を撫でる手は、おとうさんよりもずっと大きい。
「なまえと、したくなかったわけじゃない。なまえから迫られてもなまえが痛いって言い出したらと思うと出来なかった。」
「こわがりさん」
「女の泣き顔を見るのが好きなやつはロクなやつじゃない、わかるだろう。」
「それでもやっぱりこわがりだよ」
前に似たようなことを言ったような気がする。
汗が冷えた部分が寒くなって体勢を変えてみると、次は冷たい体が体温が残ったシーツに触れた。
生ぬるい皮膚の下は冷たくないはずなのに、どういうわけか空気に敏感だ。
ミケに触れてみると、同じような体温だった。
「なまえを抱きしめると気持ちがいい、腕から伝わる安心感と、性的刺激を薄めたような感覚がして。」
私以外の誰にも聞かせないように、静かに喋ってくれた。
「それから、イッてるときのなまえの匂いを嗅ぐと俺もイく。」
「やだ」
軽く腕を叩いても、鼻で笑われる。
上半身を起こしたミケの影で隠れて、視界が暗くなった。
汗をかいた背中を見る前に瞳孔が開いて、ミケの影の中からミケを見る。
「明日から南区に新兵を連れていく、なまえは?」
「分隊死傷者の手当てに周る」
「そうか。」
掠れた低い声のミケが全裸のまま立ち上がって、机まで歩く。
床を裸足で歩いているけどいいのかと聞く気にもならないくらいぼーっとした頭とだるい体。
全裸のミケを見て、背が高いなと思う。
特にお尻の引き締まり方が良いミケの背中を、なんとなくじーっと見た。
何かを探して、それが見つかったようで机の上にあった封筒を手にとって即座に戻れば、私の目の前に置く。
シーツの上に直に置かれた封筒は、真新しくて開封したあとも見当たらない。
「遅くなるかもしれないから言うが、一週間後にこれを空けてくれ。」
「一週間後?」
喉に糸が張り付いた感覚が消えなくて、また唾液を飲み込む。
口の中がいつまでも乾くだけで、解決しない。
水のバケツが欲しい、今すぐに。
わがままはいわないことにして、黙って受け取った封筒を見つける。
見たこと無い淡い色の封筒で、中に重要な書類があるのは分かっていた。
「ああ、発行開始が一週間後なんだ。」
なんでそんなものを今もっているのか、聞いてみたい。
私の知らない何かが入った封筒を部屋の僅かな灯りを遮るように透かしてみた。
当然、なにもみえない。
部屋がもっと明るければ中身が見えたかもしれない。
この中身がなんなのか、想像できた。
自分の分隊に私が来るように手配しておいたのだろう。
その証明に違いないと思った私は、まだ、やっぱり子供だった。
「いってくる。」
そう思いたいと、いつも思う。
ミケの大きな手が私の頭を撫でて、えへへと笑って抱きついてみる。
あったかい、ずっとこのままでいたい。








2016.04.17









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