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発掘しました修正しました2016.04.11
なつかしいです、すこし読みやすくなったと思います









「なあ、香水つけてる女子っていたっけ?」
コニーが珍しく難しそうな顔をしている。
向かいのテーブルから見えるアホ面に、食べながらため息が出そうだった。
意外性たっぷりのコニーの発言に、男子が食いつく。
「今日の訓練で、女子のほうからなんか嗅いだことのある香水の匂いしてさ。」
「俺も嗅いだ!」
これはジャンだ。
気を遠のかせようとしても、何かが気を引っ張る。
これが勘というやつか。
ややこしいことになりそう。
「香水なんてつける女子いたっけ?それもああいう、きつめの匂い。」
「ああ、それはなまえだよ。」
エレンがあっさりと答える。
その答えに目を丸くした男子達が、不思議そうにした。
そりゃあ、そうだ。
なんで発臭源をエレンが知っているんだという話だ。
けれど、そんな男子達の疑問はすぐに解決された。
悪意もないエレンの笑顔が、そこそこ眩しい。
「いい匂いだなって言ったら、そう、って言ったぞ。」
ちらちらと、男子がこちらを見てくる。
もちろん知らないふりだ。
隣で繰り広げられるクリスタとユミルの会話を聞きつつ、男子の会話にも耳を傾けた。
「でもさ、あの匂い、香水っていっても・・・。」
エレンが思い出したように言う。
「たしかに、香水ってかあれはコロンだろ・・・男用の、俺の父さんも出かけるときにつけてたぞ。」
随分いい父さんだねと思い、エレンの口走り癖を憎む。
ジャンの額に、ふと汗が浮かんだ。
お前が、何故焦るんだ。
どうせ妄想でも加速させているのだろう。
でも、一番早く気づいたであろうことは、認めてやることにした。
偉そうな気持ちで食べていたパンが全て胃の中に納まったので、もうひとつのパンを食べ始める。
ぱさぱさした食感を、唾液で柔らかくしなきゃいけない口内での作業がめんどくさい。
「俺さ、あのコロン、どっかで嗅いだことあるんだよ。どこだっけなあ。」
これを切り出したのは、ジャン。
どうせ答えなんか分かってるくせに。
そして、妙に冷静な自分にも驚いた。
その冷静さを、察したようにアルミンが言った。
「コロンをつけてる人?」
うわあ、頭がいい人が話題に参戦した。
パンを食べながら、腹の中で覚悟を決め、言い訳を考えることに思考を変える。
当たり障りのないことを言うんだ。
焦ったり、恥ずかしがったりしたら駄目。
アルミンがすこしばかり考えれば、すぐにわかる。
コロンをつけるような、そんな男性。
「エルヴィン団長。」
男子が静まり返った。
女子は相変わらず、きゃいきゃい騒いでいる。
一人の男子が、パンを食べている私を凝視してきた。
物珍しい生き物でも見るかのように、私を見てくる。
わざと男子に目を合わせると、視線の一騎打ちになった。
堂々とパンを食べる私を、男子の視線が襲う。
もぐもぐと口を動かす私に、エレンがまたしても悪意なく喋りかけてきた。
こいつはこれだから、ミカサの思いにも気づかないんだ。
「なまえ、なんで団長と同じコロンつけてんの?」
コロン、という覚えたての言葉を使うエレンに対しての笑いを堪えた。
答えようとしたとき、他の男子が遮った。
「ってか、なまえって、女?」
その言葉に、真っ先に反応したのはミカサだった。
すっと視線だけをこちらに向けて、ひたすら反応を見ている。
この中じゃ、そうだろう。
僅かな女子が、話題に気づく。
むっとしたクリスタが、私の代わりに言い返した。
「ちょっと、女の子にその言い草はないんじゃない?」
「いいよクリスタ、なんでもないことだから」
クリスタの肩を押さえ、無理矢理据わらせると、不満げな吐息が聞こえた。
よくあることだ。
髪が、顎のラインが隠れるくらいに伸びたのを見て、男子は口々に切れと言ってきた。
寮や男子風呂にいないことは、視野に入れてすらいないのだろうか。
もっと言えば、男にしては線が細いことも見てないのだろうか。
苛立っても仕方ない、私は笑いかけた。
「ああ、どっちにも見えないだろう?」
ミカサちゃんと目があった。
なんとなく、言いたいことと思っていることはわかる。
とても、殺気が伝わってくるから、とてもわかる。
穏便に事を済ませることは、エルヴィンさんの尊厳を守るためでもある。
「団長さんから、コロンを貰ったんだ。」
私は、何の惜しげもなく軽い嘘をついた。


「ということがあったのよ」
机に向かって書類を片付けるエルヴィンさんの背中を見ながら、話し終えてしまった。
ベッドの上に膝をかかえて座る。
昼間に尋ねたものの、エルヴィンさんは激務に追われていた。
仕事は、たくさんある。
大変だなと思いつつ、据わっているベッドに視線を移した。
整えられたシーツと毛布、二人は寝れる大きな枕。
ベッドを見つめていたら、思い出してしまう。
初めて経験してから、何度もした。
真っ先に思い出したのは、エルヴィンさんとかなり激しくしてたら、ベッドの足のほうから割れるような音がしたので見たら、本当にベッドが壊れていたこと。
エルヴィンさんが激しいため、ベッドじゃなくて、抱えられてすることも多かった。
私が慣れてきてからは、それはそれはもう、荒々しい。
慣れるまでは痛かったりきつかったり、どこが気持ちいいんだと思っていたけれど、慣れたら話は別だった。
私が上になって腰を振ったり、興味津々ではあるのでエルヴィンさんの下半身をいじりまわしたり。
朝まで抱き合うから、コロンの匂いは移ってしまう。
こそこそと朝に一緒にシャワーに入ると、そこでもいちゃつきはじめてしまうから、匂いは移る。
私はエルヴィンさんのことが好き。
相思相愛だと、思いたい。
思いたいというのは、エルヴィンさんは大人だということ。
どうも身構えてしまう。
大人だから、いつ、子供とは遊びなんだと言われてしまうか、ひやひやしていた。
信用していないわけではない。
ただ、子供である自分に怯えているだけだ。
「面白いよね、みんな噂大好きなんだって。」
そっと呟いただけのことなのに、エルヴィンさんが反応した。
「そういうものだ。」
「ばれるとかより、エルヴィンさんと一緒にいられなくなるほうがやだ」
ふと、扉が音もなく開く空気を感じたので、後ろを見ると、掃除婦のような格好をしたリヴァイ兵長が部屋に入ってきた。
音もなく入ってくるのが、この人は得意なのだろうか。
私とエルヴィンさんに軽い一瞥をくれると、黙々と掃除に取り掛かった。
無言で部屋を、綺麗に掃除している。
端の本棚の埃が、どんどん取り払われていく。
きっと仕事に疲れて埃を駆逐しはじめたのだろう。
この人が掃除に耽るのは、これが初めてではない。
掃除が趣味なのだろうか。
あの神経質そうな顔に随分と似合った趣味だ。
エルヴィンさんは、リヴァイ兵長の襲来に気づいていない。
気づいていても気づく気力もないのか。
私は、入り口付近にある本棚のあたりをひたすら掃除するリヴァイ兵長を見つめた。
この人に、あの女臭い女子寮を掃除させたら、どこまで綺麗になるのだろう。
きっと掃除婦100人分の掃除テクニックがあるに違いない、と思っていると、書類に向かいっきりのエルヴィンさんが喋った。
こちらを向いていないので、多少くぐもった声だったけれど、はっきりとその言葉は聞こえた。
「内地に家でも買おう。」
うん、いいよ、と返事をしようとした。
けれど内容を理解して、疑問に言葉を詰まらせた。
「は?」
私のまぬけな声に、リヴァイ兵長がこちらを見たのが分かった。
今、この部屋にはエルヴィンさんと私とリヴァイ兵長。
エルヴィンさんは、多分リヴァイ兵長に気づいていない。
この状況に悩んだ。
数秒悩んだ結果、私は先に疑問を口にすることにした。
「え、なんで。話してなかったっけ。私、内地出身だよ。内地に家はあるから、買ってどうするの?」
そうだ、私はエルヴィンさんに、内地のほう出身ということを仄めかしていない。
内地のほう、と言うと、贅沢ばっかしてたからそんなに背が高いんだろう、とからかわれたりした。
実際は、背が高くて男なのか女なのか分からない顔と見た目をしていて、特にやりたいこともなかったから、ここに来たという体たらく。
それが嫌で、色々と言わない癖がついてしまっている。
そんな癖があるから女の子達と色々していたのだが。
自分の情けない癖まで思い出して、焦燥感が襲いかけたが、振り払った。
エルヴィンさんの背中を、じっと見つめた。
書類がすこし片付いたようで、右手に詰まれた紙束の上に、もうひとつの紙束が増えた。
ぽん、と紙束が置かれ、エルヴィンさんがため息をつく。
ゆっくりと、リヴァイ兵長のいるほうに背を向ける形で、エルヴィンさんがこちらを見た。
「君、絶対座学の成績よくなかっただろう?」
エルヴィンさんが、赤い顔をしたまま笑っている。
その笑顔は、私が初めてエルヴィンさんに迫った時にされた笑顔と同じで。
ぐわっと、体と頭を熱が襲う。
「え、あ」
私の間抜けの声に対抗するかのように、エルヴィンさんが照れくさそうに笑う。
「絶対よくなかっただろう。」
断言され、戸惑った。
この人は、一体何を言っているんだろう。
大体、なんでこの話題からエルヴィンさんが赤面するんだ。
内地に、家でも、買う?
ここでようやく、私は気づいた。
いやでも、そんな、まさか。
私に対して、まさかそんなことを。
エルヴィンさんの言っていること、そして自分の頭の悪さに、恥ずかしくなる。
「あー、悪かったよ。でも同期のスプリンガーよりは良かった。」
静かにエルヴィンさんが笑い出し、私も気が抜けた顔で笑うしかなかった。
たしかに、私は子供だ。
でもエルヴィンさんは、大人だ。
子供じみた私のことを含めて、考えてくれていたのか、単に下心があるのか、それは分からない。
心配は杞憂に終わった。
エルヴィンさんが立ち上がり、私に寄り、そっと頬を撫でる。
大きな手に撫でられて、締め付けられるように、ときめく私の鼓動。
私にそっと視線を合わせ、優しく言葉を投げかけるエルヴィンさんに、初めて抱き合ったときと変わらない感情を抱く。
「なまえと私の、帰る場所があってもいいかとね。すまないな、不器用で。」
照れ臭そうなエルヴィンさん。
どうしたらいいのか分からない顔をして笑っていると、エルヴィンさんがまたしても笑いかけた。
「無理は言いたくないが、もし良いのなら、そこに・・・。」
ここでようやく、エルヴィンさんとリヴァイ兵長の目が合った。
途端に、エルヴィンさんがいつか見た表情の凍り方を披露する。
掃除の襲来に、気づいてなかったのか。
エルヴィンさんとリヴァイ兵長の顔が、凍りついている。
兵長の顔が凍りついているのは、いつものことだが、それにしたって冷たい。
こちらをひたと見据えたリヴァイ兵長が、口から漏れるような声で呟く。
「塵と化してから俺の前に現れろ。」
はたきと雑巾を持って、消えるように部屋を出たと思ったら、やり場のない怒りでもぶつけるかのように派手に扉を閉められた。
随分と綺麗になった本棚周辺。
そして今だ凍るエルヴィンさんの顔。
笑ってほしい、と思ったのでエルヴィンさんの頬に、ちゅ、とキスしてみると、こちらを見てくれた。
驚いたエルヴィンさんの顔に、追う様な言葉を吐く。
「うれしい」
嬉しいので笑う、という至極簡単なことをすると、エルヴィンさんからキスの嵐が降ってきた。
またしても、嬉しいのでへらへら笑っていると、大きな腕で抱きしめられた。



「なまえ!なまえ!エルヴィンと結婚するって本当!?」
「どうやったらそんなに話が飛躍するんですか!!!!?」
つい大声を出した私に、ハンジさんはきゃあきゃあ騒いだけれど、まずい、ぺトラの視線が私に突き刺さっている。
書類のお使いを頼まれ、そっとハンジさんの部屋に現れた私を待っていたのは、迎撃のような質問だった。
部屋には、モブリットさん、オルオさん、ぺトラ、ハンジさんがいる。
ハンジさんに書類を届けに来ただけのお使い私が何故、その話題で持ち上げられる。
「え、でも暮らすんでしょう?」
ふと、視界の端にモブリットさんの凄い顔が見えた気がした。
悪気は感じられない。
ものすごい笑顔のハンジさん、そして後ろに座っているぺトラから発されているであろう、視線。
オルオさんからは疑問の視線が発せられているように感じる。
ここまで他人の視線に敏感になってしまったか、と思っていると、オルオさんが焦りだした。
後ろのほうで「え?団長とシェアハウスでもするの?」とか聞こえてくる。
ありがとう、オルオ。
君も私を男だと思っていたのかい。
しかし、待て、何故ハンジさんがそれを知っているんだろう。
あの場にはエルヴィンさんと、私と、兵長。
まさか、いやまさかでも、もしかしなくても、兵長だ。
「なんでそれを」
私はぽつりと言い放つと、ハンジさんから予想どおりの回答が出された。
「リヴァイがさっき言ってたよ!掃除の邪魔だって!」
あのチビ。
と、心の底から思ったのは内緒。
「すいません、書類、これだけですので」
ハンジさんに背を向け、扉を突進した。
気づかれてはいけない、そう思ったものの、察されるのは簡単。
ぺトラのほうを見ないようにしていたが、振り返って扉に突き進む際、目が合ってしまった。
まるで汚物か巨人でも見るかのような目で、私を見ていた。
そりゃそうだ。
扉を開けて、兵長のいる部屋まで走った。
走っている間のことはよく覚えていない。
特に怒っているわけでもないが、もはや突き動かされるまま、といった具合だ。
兵長のいる部屋をノックして「入れ」という声が聞こえてから入ると、すぐに兵長と目があった。
ドアノブを握る手に、じんわりと汗が広がる。
私の顔はきっと、焦りと戸惑いにに歪んでいるだろう。
走ったおかげで息が荒い私を見て、目元を歪める。
「なんだ、気持ち悪りぃ息使いだな。」
相変わらず、意地汚い表情だ。
どうしたらこんなにも悪そうな顔が出来上がるのだろう。
兵長に対するヤジを飲み込み、精一杯落ち着いた様子で話しかけた。
「あの、兵長」
「ああ?」
「なんで、ハンジさんに」
間髪いれずに飛んできた言葉は、なんとも意外なものだった。
「俺は元々よく喋る。」
理由になってない。
理由になっていないが、相手は兵長だ。
ぐっと、言いたいことを飲み込むと、私の気持ちでも読んでるかのように言い捨てた。
悪い顔はしていたが、不思議と悪意は感じられない。
「ああいう風に言うくらいだ、あいつの気持ちは受け取ってやれ。珍しいぞ、あいつがあんなこと言うの。俺らはただでさえ、何もねえ男共だからな。」
やさぐれた雰囲気から言い放たれる言葉は、全部冷たく乾いた気がして。
こういう男の人は、好きな人にも冷たいのだろうか。
そして途端に思い出す、ぺトラの喘ぎ声と混じる兵長の名前。
ぺトラは、兵長の何がいいのだろう。
きっと、お互いにないものをねだるのが、常なのだ。
「私、これでいいんでしょうか」
弱気な私の声に、めんどくさそうに回答を吐き捨てる座学の教師のように兵長が吐き捨てた。
目つきの悪い眼球が、私を捉える。
「自分でわかってんだろ、いちいち聞くな。わかんねえ答えなら感情に聞いておけ。迷っている時に感情に逆らうのが、一番の悪だ。」
あっさりと言われた言葉の意味を汲み取っていると、用がねえなら出て行け、と押された。
特に言いたいことも残っていなかったので、部屋を出て行った。
扉を閉める際、また一瞬兵長と目が合った。
目が合った一瞬が、いつまでも脳内で反響する。
鋭い目、捉える視線、それをあの人は常に出していた。
静かに、扉を閉める。
「感情、ね」
なんでここまで兵長の言葉が木霊するのだろう。
感情にまかせて、動いていた自分に対する戒めのようだ。
きっと兵長は、私が感情で動いたということを察しているんだろう。
全部見抜かれている。
あの人なら、私が女々しいということも分かっている。
ふらふらと戻る際、歩く道を変えて、エルヴィンさんの部屋に戻った。
何度も何度も、歩いた場所。
この道を歩けば、エルヴィンさんの部屋にたどり着いて、ぎゅっと抱きしめてもらえる。
部屋の扉をそっと開けると、ふわりと嗅ぎ覚えのある匂いが鼻腔をついた。
この部屋で、いつもエルヴィンさんと一緒にいる。
いつか、この匂いを嗅ぎわけられなくなってしまうのだろうか。
扉を開け、部屋の中を見ると、まだ書類と格闘しているエルヴィンさんがいた。
「ねえエルヴィンさん」
「なんだ?」
すぐにこちらに視線を向けてくれて、嬉しかった。
綺麗な目が、私を見てくれる。
こちらに視線を向けられているだけでも、幸せ。
それだけでも、私は幸せなのだ。
「好き」
ぽつり、そう放った本音はすぐ汲み取られた。
「そうか、私もだ。」
即答してくれたが、すぐに書類に向き合ってしまった。
仕方ないので、ベッドに座り、背中を見つめていたが、疲れが押し寄せそのまま寝転んでしまった。
ふんわりと匂ってくるベッドの匂いは、エルヴィンさんの匂いとコロンの匂いと、私の匂い。
私は、兵士でいることよりも、好きな人を選んでしまった。
訓練兵としては、最悪な部類だ。
時代は常に、混沌と平常を繰り返す。
今は混沌とした時代の真っ只中。
そんな中で、好きな人を愛することを選んだ私は、どう考えても愚かだ。
こんな立場で、愛していいのだろうか。
それでも、こうして何事もなく安堵して寝転がっていられる。
はたしてこれが、平和なのかは、わからない。
目を閉じて、寝ようと思った。
何分そのままでいただろうか、目を閉じて、しばらくした頃、エルヴィンさんの気配がした。
ベッドで寝転んで目を閉じている私を見下ろしている。
大きな男の人に見下ろされるのは、視覚的情報がなくても威圧感があるな、と思っていると、また気配が移動した。
たぶん、しゃがみこんでいる。
今、目を開ければ、エルヴィンさんの綺麗な目が見えるだろう。
目を開けず、寝たふりをしていると、起こさないようにとでも言った具合に囁かれた。
「愛してる」
大好きな低めの声が、私に向かって、囁く。
寝たふりをしていてよかった。
きっと、今、私はとんでもなく赤い顔をしているだろうから。
そっと、ばれないように目を開けた。
睫の先から見えて、それから瞼が開き、光景が露になる。
それでもエルヴィンさんと目があった。
綺麗な目の色。
包んでほしくて、手を伸ばしたら、なんなく抱きしめてくれた。
同じコロンの匂いが、混ざり合う。
口元には、エルヴィンさんの耳がある。
「私も愛してる」
そう言うと、頭から背中にかけて撫でられた。
私は一体、どこへ行くのだろう。
きっと、好きな人の人生を全て受け止めて愛するだけの、そんな人生が待っているのだろう。
とても素敵だと思ってしまった私は、もう性別にかけていたブレーキなんか、どこかへ行ってしまった。
撫でられる心地を堪能しながら、大きなエルヴィンさんの背中を抱きしめた。
こんなこともあるんだ、そう思っても、今抱きしめている人以外のことは考えられずに、再び目を閉じる。
鼻をつくコロンの匂いを、不快だとも思わない。
このまま、この匂いに包まれて生きていたい。






2013.07.05





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