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発掘しました修正しました2016.04.11
なつかしいです、すこし読みやすくなったと思います









髪の毛を、更に短髪にした。
ハサミをこれほどまでに頼りにする日は、この日だけ。
ざくざくと切って、坊主に近いショートヘアになった。
坊主に近いといっても地肌は見えないけど、髪型だけじゃ誰も女だとは思わないだろう。
ハサミが錆びかけていたことに気づいたのなんて髪を切り終えてからで、ハサミを持つ自分の手が妙に冷たい気がした。
特別綺麗な黒髪というわけではないが、短く切ってみると毛は柔らかいと思う。
首筋、うなじ、耳も丸見えだ。
切った理由は、エルヴィンさんからのリアクションが欲しいから。
あの夜の沈黙を、どうにかして破りたい。
どうすればエルヴィンさんを荒げた声にさせて怒らせられるか、気になった。
大変動きやすい髪形は過ごしやすいものの、女の子達は、どうしたのって話しかけてくる。
ミカサちゃんは、驚いていた。
切りすぎだ、女の子らしくない。と言われて、つい言い返してしまった。
似合っていないと言われ、エレンにも不思議そうな目で見られた。
状況だけが過ぎ去っていく。
いつも通りの生活をしようとしたら、驚かれる。
ぺトラは、しばらく私を見つめたあと、どうしたの?と心配してきた。
ああ、やめて、私はもういらないの、高い声と優しい言葉と柔らかい体から滲む性欲はいらないの。
私が、私が欲しいのは。

「なんだその髪は。」
髪を切り終わった次の日の夜中に、エルヴィンさんの部屋に突撃した。
私だと確認したあと、髪を見て驚いている。
「だめ?」
「切り方が雑すぎる!」
そっちか。
笑いつつ髪を自慢しながら部屋に踏み込んでも、怒られない。
「動きやすいよ」
「粗末過ぎる髪になっている事実からは目を背ける気か。」
「うーん、そんなにひどいの?」
「酷い。」
出て行けと言われそうなのに、つまらない。
もっとわくわくするような怒られ方をして、懲りたいのに。
私の髪を撫でるように触ったあと、切り方がばらばらだと言われ、部屋の椅子に無理矢理座らされた。
異様に物がない部屋を眺めて、思うことがいくつか。
本が少しと難しい書類と、ベッドと綺麗とは言えない大きな箱がある。
女子寮よりも綺麗で殺風景な部屋だけど、男の人の部屋はこんなものなのだろうか。
髪切り鋏じゃない、普通の鋏で、エルヴィンさんは私の髪を切り始めた。
ざくざく、しゃき、ざく、と耳元で髪が切れる音がする。
どこまで雑に切られるのだろうと思ってしまう。
切る、といっても、気になるところを調整するような切り方だった。
頭を探ってざく、ざく、さくさく、と音がしてはエルヴィンさんの指が髪に触れる。
自分で切ったから、後ろ髪がひどいことになっていたのだろう。
先ほどからエルヴィンさんが、私の後ろ髪ばかりに感けている。
「この頭で歩いてたのか?」
「昨日切ったばかりだよ」
「信じられない、なんでこんな髪に。」
後ろから聞こえるエルヴィンさんの声は、憂いを帯びていた。
その反応が嬉しい私は、きっとどうかしている。
床に、ぱらぱらと髪が落ちる。
あとで掃除したらいいとしても、エルヴィンさんの部屋に私の髪が散らばるのはいい気がしない。
短い髪は、切られる感覚が髪を伝わって頭皮にこない。
軽くなり続ける自分の頭に、すこし不安になった。
しゃきん、しゃきん、さく、ざく、しゃきん、後ろ頭から聞こえる音。
床をひたすら見つめていても、聞こえるものは聞こえる。
でもエルヴィンさんの吐息は全然聞こえなくて、耳の悪さを呪った。
しばらくして、髪を切る手が止まった。
後ろから、小さな鏡を持った手がにゅっと出てくる。
鏡に映った私は、まあまあ綺麗な坊主に近いショートになっていた。
「これで大丈夫だ。伸びるまで、かなりかかるぞ。」
ふっと目を閉じて、また開けた時には目の前から鏡は消えていた。
「どうしてこんな切り方したんだ。」
振り向くと、鋏を拭くエルヴィンさんがいた。
床には私の髪が散らばっている。
なんとなく服の中に切った髪が入ってムズムズしたけど、そんなことはいい。
「ねえエルヴィンさん」
「なんだ、まだ切り足りないか?」
見つめ返された綺麗な目を見ながら、椅子から立ち上がって近寄った。
私は女にしては背が高いほうだけど、エルヴィンさんよりは低い。
自分より背が高い人には、無条件でときめいていた。
けれど、そのときめきは感情が邪魔する。
男っぽいから、女の子に好かれる。
他人の気持ちに押されて、自分の気持ちはどこかに隠していた。
隠して隠して隠して、出てきた時には何のストッパーもかかっていなかったのだ。
私は、エルヴィンさんを見つめて、軽くキスをした。
きっと見た目だけなら、細めの男が凛とした男にキスをしたような光景なのだろう。
それでも、私は女だ。
自分からこういうことをしたことがあったか?
ない、ただの一度もない。
エルヴィンさんから拒絶の手は伸びてこないまま、性別に対してかけていたブレーキはいとも簡単に外れてしまった。
女の子の唇とは違う、柔らかくないけど弾力のある唇。
男の人は、皆こうなのだろうか。
表情ひとつ変えないエルヴィンさんに、物凄く惹かれた。
キスは好きな人にする好意だと当たり前のように刷り込まれているから、女の子はキスをするとすぐに表情を変える。
それがわかっているから、私は表情を変えない。
エルヴィンさんは、まだ私を突き飛ばさない。
ぽつり、と言葉が落ちるように唇が動いた。
「君は子供だ。」
放たれた言葉は、なんとも正論めいた、それでいて単純なものだった。
もっと怒鳴っても、叱り付けても、部屋から追い出してもいいのに。
からかったら、怒られるだろうか。
私は口元に底意地の悪い笑みを浮かべて、ねっとりと呟いた。
「それさ、子供だからってのが唯一のストッパーになってるだけだよね」
「違う。」
「違わなくないよ、私は子供じゃない」
「君は、子供だ。」
強めの口調のエルヴィンさんの口を塞ぐように、キスをしてみた。
腕を首にまわして、動かせないようにする。
煽ったつもりは、そこまでなかったけれど、エルヴィンさんの両手が私の胴体を掴んだ。
ふわ、と上下感覚が消えたと思ったら、ベッドに押し倒されていた。
押し倒されたというよりは、お互いにくっついたまま倒れこんだ体勢だ。
体重がのしかかってきて、心地いい。
女の子の柔らかい体とは違う。
口を離して、エルヴィンさんの顔を見た。
暗がりでもよくわかる、目が据わっている。
首のあたりに電流が走るように、ぞくりとした。
欲情しているのか興奮しているのか分からないけれど、射抜かれるような視線。
覆いかぶさったエルヴィンさんの背中に、手を回してみた。
筋肉が凄い。
背中を触ると、シャツ越しに逞しい体だということがよくわかる。
体格差を感じて、改めて興奮した。
ふと、エルヴィンさんの股間に目をやると、ズボンの中で勃起していた。
閉じていた足を、恐る恐る開き、股の間にエルヴィンさんの腰を招き入れた。
エルヴィンさんの腰を、足を絡めて固める。
「なまえさん、君は。」
「あ、は、私で興奮してるんだ、あはは」
妙に嬉しくなって、笑った。
「私、女が好きなんじゃないよ」
「じゃあ、あの時、どうしてぺトラと。」
「全然わかんない」
私から飛び出した、わからないという言葉に、エルヴィンさんは顔を顰めた。
「男にされるがままだったんじゃないよ、女の子が寄ってくるからするがままだったの」
自分で言ってて、悲しくなるような、高揚するような、そんな事実。
男と遊んだ女、女を遊んだ女、どちらがいいのだろう。
いいとか、わるいとか、なかったとしても、エルヴィンさんはどう思うのだろう。
それだけが気になった。
答えの見つからないようなことを投げかけた自分に罪悪感を感じながら、エルヴィンさんを見つめた。
「なまえさんは、なまえさんだ。」
それだけ言うと、唇が首筋に落ちてきた。
私の冷たい肌に、熱い唇が押し付けられる。
ぞわりと、覚えのある感覚が走った。
腰から首にかけて、逆流する痺れ。
でも、その感覚と共に、ミカサとぺトラの顔は出てこなかった。
ちゅ、ちゅ、と何度も首筋にキスされる。
感覚だけで、エルヴィンさんのベルトに手をかけた。
こうしたら外れるだろうと思ってベルトをいじったけれど、体勢からして見えない。
仕方ないので手を移動させて股間を撫でると、何か硬いものに触れた。
見たことないから、手で形を確認するように触っていたら、エルヴィンさんの息が乱れはじめた。
すこし、荒い息遣い。
大きな手で胸を揉まれ、本格的に体が疼きはじめた。
「あっ」
自分でも聞いたことのないような、甲高い声が漏れた。
なんだ、こんな声もでるんじゃないか、と胸を揉ませてたら、シャツをめくられた。
体の正面が外気に晒されて、すぐさま胸を大きな手が覆った。
肌と肌のぶつかり合いのように揉まれる。
このまま下も脱がされてしまう、そう思った、まさにそう思ったときだった。
部屋のドアが、盛大にノックされた。
大きくて鈍い音が、部屋中に響く。
「おいエルヴィン!!!!」
リヴァイ兵長の声だ。
その声を聞いて、ぴたりと動くのをやめたエルヴィンさんと私。
開けられたら、けっこうまずい。
そっと体を引き離して、めくれたシャツを元に戻すと、私から離れたエルヴィンさんがゆっくりとドアに向かっていった。
すぐに私はベッドに潜り込み、うつ伏せになり、平静を装った。
覗かれたら、ベッドのふくらみで誰かがいることはばれてしまうだろうけど、誰だかわからないだろう。
二人の会話は、聞かなかった。
このベット、エルヴィンさんくさいなあと思いながら、シーツに顔をうずめる。
シーツの匂いなんて、今までいっぱい嗅いだのに。
目を閉じて、先ほどの感覚を思い返すと、体がじんわりと熱くなった。
頭がくらくらする。
目を閉じたり開けたりを繰り返しながら、今リヴァイ兵長の襲来がなかったら、私はどうなっていたんだろうと考えた。
このまま流れでされていたのか。
いいところで切り上げられて、部屋を追い出されるか。
甘い言葉は囁かれない。
切ったばかりの髪と涼しい首元に、熱が篭りだす。
そうしているうちに、話が終わったようで、リヴァイ兵長の声が途切れた。
毛布がめくられ、エルヴィンさんの顔が見えた。
「戻りなさい、しばらくリヴァイと別の部屋で話す。」
「こんな夜中に?」
「ああ、いつものことだ。」
エルヴィンさんは私をベッドから引きずり出すと、そっと部屋から出した。
改めて顔を見たけど、さっき見た欲情にまみれた顔はしていない。
脳内の対応スイッチの切り替えの早さに感服していると、申し訳なさそうにエルヴィンさんが笑った。
「髪は伸ばしてるほうが、似合うだろう。」
「そうなの?」
「髪が伸びる頃に、もう一度考えなさい、その時まで気持ちが変わってないなら、その。」
そこでエルヴィンさんが言葉をつまらせ、顔を赤くし、ゆっくりとドアを閉めた。
閉まったドアを見つめて、静寂に耳を澄ませながら、廊下の窓から射す月明かりに視線をずらした。
なんでもない満月が、見下ろしていた。
随分と静まった廊下を歩いていても、自分の心臓の音が聞こえてくる。
目を閉じて歩くと、頭がくらくらした。
きっと、私は赤い顔をしているのだろう。
こんな姿、誰にも見せられない。







2013.07.01







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