お嫁に行けない







BBF冬島の職業が不明なのが本当に面白い
真木さんの登場を待ちつつコンタクトマンを愛でる、関係性は少し妄想入ってます







写真だけ見れば、どっかの陰のあるハリウッド俳優のオフショットか雰囲気だけはいい怠慢な男性。
眼鏡に髭面、古びたシャツを着て鬼怒田さんの後ろでレゴを弄る男性は長く伸ばした髪をまとめてすらいない。
徹夜したような肌と、荒れてそうな髪。
三日くらいホテルに泊まれていないバックパッカーのような服。
どことなく死んだ目をしているように見えるのは、本人が下を向いている時に撮られたから。
そう思いたいくらいには、今の冬島さんと掛け離れている。
この写真がいつ撮られたものか知らないけれど、当真くんが送信してきた写真を携帯の画面いっぱいに表示した。
撮影角度からいって、たぶん雷蔵さんあたりが撮ったのだろう。
それが回り回って真木ちゃんに行き、当真くんに行き、私に来た。
写真のテーブルの真ん中にご飯があって、手前に鬼怒田さんがいて、その後ろにいる数人の中に特別目立つ機械オタクがいる。
手元にあるレゴと、にやけた目元。
服装こそ違うけど誰だかわかる。
写真としては普通だけど、面白い。
作戦会議室の防音壁がブチ壊れそうな勢いで笑いまくる私を目の前にして、冬島さんが頭を抱えている。
冬島さんが何か産みそうな呻きを放ったあと、問いかけてきた。
「なまえ、なんでその写真がまだあるわけ?」
「当真くんに聞いて」
「なんだよこれえええ、真木に働けって言われた事実の当てつけを今頃になって俺にしてきたってことかよ。」
「わかんないよ、聞いてみなって」
「聞く前から吐きそうだ。」
絶望にまみれた声を聞いて、笑いが止まらない。
「やっぱこれ冬島さんなんだ」
「29歳になってこんな辱めを受けるとか、ちょっとどころじゃなく在り得ない。」
顔を真っ赤にして項垂れる冬島さんが可哀想で気の毒。
記憶しているかどうかも怪しい姿を私が知ることになり、冬島さんがソファを殴りながら呻き続ける。
反応を見る限り、相当前のものだろう。
あくまでも予想だけど、機種変更のために端末内の整理をしていた雷蔵さんが懐かしい写真を見つけ、誰かに送信した。
A級2位の隊長の過去の姿、と言えば色々釣れてしまう。
それが過去の話題を掘り起こし密かな熱狂を生み、今に至る。
写真からは想像もつかないくらいオシャレになった冬島さんのリアルと写真を見比べて、楽しくなった。
「まっじやば、ありえない」
「慎ましくギャンブルもしないし無駄遣いもしないし清く生きるって決めたのに〜。」
「完全に名前負けしたね」
冬島さんが顔を手で覆い演技っぽく叫んだあと、悲惨な声が漏れる。
「これ誰かに見せた?」
「一応大人の人には見せて本当に冬島さんかどうか確認取ってきたよ」
「いやだもう〜〜なまえのせいでお嫁に行けない〜〜。」
悲壮感漂う悲鳴に、笑う。
当真くんは以前の冬島さんを知っていたようで、懐かしいからと送った写真でここまでの悲劇が起きることは予想していない。
年下の隊員に爆笑されっぱなしの冬島さんを助ける人は、偶然にも今ここにいなかった。
運よく当真くんが戻ってくればいいけど、今日の運はそう動かないようだ。
それを分かっているからこそ、冬島さんも私の携帯を投げて怖そうとしない。
「てか冬島さんさあ、眼鏡じゃん、いまコンタクト?」
「おう。」
「へー、コンタクトなんだあ」
写真とリアルを見比べ、思いついたことを口にする。
「カラコン?」
返事はなく、冬島さんは黙ってソファから立ち上がり冷蔵庫へと歩みだした。
悲しそうな背中を見て、腹筋が引き攣る。
「おっしゃれー!」
冷蔵庫の中から水のペットボトルを取り出した冬島さんが、ひとつを私に投げる。
上手いこと冷たいペットボトルをキャッチして、笑いすぎて熱くなった肌に押し付けた。
顔が熱くなるまで笑う私に、冬島さんが叫ぶ。
「俺の記憶が合ってればさあ!それ諏訪が役満振り込んで俺が泣き寝入りした次の日のやつ!なんでよりにもよってそれなんだよ!他にもあったろ!!!」
「写りは悪くないよ」
「泣き腫らした目を褒めるんじゃない。」
水のペットボトルで額を冷やしながら、今の冬島さんを見る。
ちゃらそうな雰囲気が好きであって、見た目だけを好きになったわけじゃない。
でも、これは面白い。
「よくチャラ系イケメン目指す気になったね、昔の冬島さんパリピも嫌いそうじゃん」
古着屋にいそうな感じがする、とは言わなかった。
水を飲んだ冬島さんが、冷静な口調で床を見つめる。
「真木に蹴飛ばされてさー、勇くんと共に働けゴミクズオタク野郎って言われてから、なーんか吹っ切れた。」
冬島隊を支える真木ちゃんに流石にそこまでは言われてないはずだけど、この状況じゃ何を言われても面白いだけ。
整理整頓された部屋の床を見つめる冬島さん。
誇張された真木ちゃんの台詞を、否定する気にもなれない。
話題を変えたいのか、言うことがいちいち誇張されている気がした。
「コンタクトもチーム組んだのも真木のセンスだからな。」
「真木ちゃんほんとセンスいいー、眼鏡あってもイケメンなのに、なーんでオシャレしなかったの?」
「機械オタクだったから。」
「えー、でも髪とかさあ」
「真木がこれやれって勧めるもんを断るわけにもいかねーだろ。」
「髭整えて眼鏡にしててもよかったのに」
元エンジニアとはいえ、長い髪をまとめるくらいのことはしていいはず。
携帯の画面を切り替えてから、今はもう写真の中にしかいない綺麗な浮浪者のような見た目の冬島さんを見て、あるひとつの疑問が思い浮かぶ。

「ね、好きな子とかいなかったの?」
「ああ〜、いた。」
「どんな子?」
「大人しい子だったかな、控えめにいってなまえと真逆な感じ。」
「うわー清純系な感じしかしないんだけどー」
水を飲む冬島さんの二の腕にうっすら浮かぶ筋肉。
あれも実はトリオン体の設定でしたとか言われたら、どうしよう。
それはそれでいいと思いつつ、おじさんをからかった。
「告りは?」
水を一口飲んだ冬島さんが、また水を飲む。
また飲んで、また飲む。
真木ちゃんによって整理された机と、片付かない冬島さんの机周辺。
この部屋は真木ちゃんがいなかったら、箱や紙だらけで凄く汚い。
水を一口飲んでは飲む冬島さんの顔から、血の気がどんどん引いていく。
「なんで黙るの」
奇妙な空間に私と冬島さんだけ、水を飲むおじさんは質問に答えてくれない。
「ねえカラコンさん」
からかっても、水をまた一口飲まれる。
「ねえねえねえ」
このままペットボトルの水がなくなるまで黙る気かと思えば、消えそうな声が聞こえた。
「もっ、モテなかっ。」
理由にしては不透明な言葉に、疑問が増える。
「別にモテなくてもいいじゃん」
冬島さんが水を一口、また一口。
震える唇が、悲しそうに動いた。
「モテたかっ、た。」
よくわからない言い訳の示す事実は何か。
男性が考えてることは察せないけど、もしかしてと思い憶測を口にした。
「モテなかったしモテてる気がして真木ちゃんに逆らえないわけ?」
顔から血の気が引いていく冬島さんを見て、映画の結末を見るのと同じくらいワクワクする。
冬島さんがペットボトルの蓋を閉めて、ソファに戻った。
一枚の写真から始まった短い悲劇は、冬島さんの中だけで響いていく。
「冬島さんってさー、アラサー男性の闇を通り越してブラックホールと化してない?諏訪さんとかに影響してるよね」
「あーーー!あー!!なまえのせいでお嫁に行けないーー!!!」
まったく関係ない諏訪さんの名前を冗談半分で出すと、何故か冬島さんが悶えだす。
諏訪さんと冬島さんの共通点なんて麻雀仲間なくらいしか分からないけど、何か思い当たることでもあったのか。
今度ちゃんと聞いてみようと思い、ソファに座ったまま叫ぶ冬島さんを見て、笑いながら腕を掴んだ。
血の気が復活した顔のおじさんに纏わりついてみると、顔が引き攣っているのが分かった。
これをネタに、強請られると思っているのだろう。
額と鼻の下にうっすら汗をかき、コンタクトがずれそうな目をしている。
「じゃあ私にも逆らえないの?」
腕にしがみついてみると、掠れた声した。
「なまえ、ぶん投げてもいいか。」
ぶん投げられても、どうせまたくっ付いてやる。
「今からでもモテたくない?」
無言の冬島さんに、立場を利用して迫った。
これが男女逆なら私は最低だ。
傷つかない程度に使えるものは使っておかないと、冬島さんは逃げてしまう。
「私さ、昔の冬島さんもわりと好きだよ」
言い続けて、どこで殴られるか興味がある。
からかい半分、本気半分。
それは伝わったのか、冬島さんが驚く。
「は?」
間抜けな声が嬉しくて、もっとからかう。
「なんかさー、冬島さん昔モテなかった理由は見た目と性格と言動だけだと思ってない?」
「それ全部じゃねえの。」
「雰囲気があるじゃん、いまの冬島さんの遊んでそうな感じ、好きだよ」
今度こそコンタクトがずれたのか、私から目を逸らして目頭を押さえた。
口元が緩んでいる冬島さんに絡んでいると、コンタクトが戻った目でこっちを見る。
にやけた目と口、緩そうな雰囲気。
真木ちゃんが本当にこのオシャレをさせたのなら、感謝しなきゃいけない。
雰囲気にぴったりの格好をした冬島さんが、私の目の前にいる。
ものすごいお願いしたら、昔の浮浪者スタイルもしてくれるだろうか。
寝起きとかに遭遇してみれば、見れるかも。
「なまえ、それ本気で言ってんならガキのうちに悪いのに引っかかるぞ。」
「え、なに、自称悪?まじワルだね」
言い返してみると、すぐに固まってしまう。
こういうところだけ見ると、モテたいとかモテないで引っかかってたのかもしれない。
冬島さんは冬島さんなのにイマイチわからないところで壁を感じた。
本物の悪なんて太一くんだけでいい。
呻く冬島さんがソファの背もたれに寄りかかって転がり落ちるような姿勢になった。
「あ〜、もうお嫁に行けない。」
何度聞いたか分からない悲鳴の常套句を聞いても動じない私に、冬島さんがぽつりと告げる。
「俺もうお嫁に行けないから、なまえがお嫁に来て。」
ほら、こういう性格だ。
「行くー」
水のペットボトルを冬島さんのシャツに突っ込むと、冷たさに驚いて飛び跳ねていった。
片付けてないレゴの箱に足をぶつけて、大きな音がする。
だらしない冬島さんが面白くて笑う私が、本当にお嫁に行けるかどうかは分からない。
お嫁に行けばボサボサの頭をした冬島さんが見れるのなら、是非ともお願いしますと言おうとしてレゴの箱に足をぶつけて呻く冬島さんを眺めて、また笑った。








2016.03.24








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