常に残りの1%




巨人中9巻読んだらやっぱり教官好き
キース長編の巨人中設定です








齢13くらいだったかしら、ええ、でもどうでもいいの。
歳なんて、私自身がどういう人間か理解してもらえた今じゃどうでもいい。
目の前に貴方が現れて、あの時は全体向け生徒指導の書類を準備していたわ。
貴方を見た瞬間、体がすっと冷えるように固まって、貴方から目が離せなくなって。
「貴方が好き」と燃えるような目を向けて、そう思った。
威厳ある横顔も、堂々とした立ち姿も、他人の子なのに指導する職業に就いているところも好き。
なにより、あの目が好きなの。
誰かに聞かせるわけでもない惚気を、キース先生を見るときだけ目に浮かべる。
どうせ気づかれない、でも気づいて欲しい。
貴方から見れば、私なんてただの通り過ぎていくアホんだらな子供。
「バカみてえな名前の刑」を受けている生徒を見て笑い、私にもやれと迫ったら額を強い力で一撃。
頭突きされている生徒を見ては、私にも頭突きをやってと迫り、追いかけ、追いかけ、最終的に他の先生に捕まり教室に戻される。
構ってとしがみつけば、仕方なく話くらいはしてくれた。
怖そうな顔して意外と優しいというか、見た目に反して人間味がある。
そういうところも、大好き。
分別のつかない頭でふらふらして怪我して迷惑ばかりかけて、教師にとってこの上なく面倒くさい存在。
でも、私は違った。
最初から浮いてて友達になろうとクラスメイトに近づいても、友達にはなれなかった。
話しかけても、偶然会話できても。
私ではなく向こうが何かを察知し、引いてしまう。
なにがそうさせるのか。
人より成熟した見た目か、滲み出る何かか。
仲間外れ云々以前に最初から浮いてたし、成績だって良くない、流行りは興味ない、私服も派手。
行動や仕草からそう思われるのか、変な噂もたくさんあった。
事実なんてひとつもない噂を丸ごと信じてしまう周りのアホらしさに耐え、なんで学校に行き続けたかっていうと、キース先生が大好きだったから。
いまは、先生とつけなくていい。
その事実だけで、周りと馴染めず見た目だけ成熟した私は満足。
買い物袋から取り出した風船アイスを胸に挟んで、キースに近寄る。
「はい、おっぱいアイス」
キースが飲んでた紅茶を咽て、私は笑う。
おっぱいの間が冷たいけど、挟んでいるうちに中身は溶けていく。
早く食べろツルパゲおじさんと谷間にアイスを挟んだまま迫ると、お決まりの罵倒が飛んでくる。
「この淫乱バカ女!壁でも舐めてろ!」
無駄に大きなおっぱいを下から叩かれ、肉の間で風船アイスが擦れた。
「ひどーい!最高!」
アイスの蓋を取り、少し飲む。
冷たくていいかんじのバニラアイスが口の中でとろけ、美味しい。
「今日バカ共二人がそれを食ってたが、それ、流行ってるのか?・・・おっぱいアイス。」
首でも痛めたのか、首と肩を回しながら横目でおっぱいアイスこと風船アイスを見る。
頷くと、そうか、と呟かれ夕飯を食べ続けた。
ミネストローネと牡蠣グラタンを食べる口元を、自然と見てしまう。
「流行ってはいないけど、男子の年頃なら早い子もう色々手に入れてるでしょ」
「どこで買えるんだ。」
「小さい駄菓子屋か、ジョークグッズ量販店」
牡蠣グラタンを食べるキースの目元が、いつもよりも疲れている。
疲れと緊張の糸が緩んだのか、天井を見て呻く。
「私が主任のときには条例違反なぞひとつもなかったのだぞ!私が主任を外れてから、生徒の風紀が乱れているんだ!」
胃でも捻じ切れていそうな顔を見て、きっと今日学校で何かあったなと察する。
今の主任は、たしかスミス先生だったような。
明るい学校でも暗い学校でも、大事なのはそんなことじゃないと思う価値観の私が口出しすることではなさそうだ。
「ミネストローネ、そんなまずい?」
「なまえの飯は今日も美味い。」
「ついでにいうと明日の朝はチーズハンバーグよ」
「そうか、美味そうだ。」
褒められたはいいものの、囚人飯のようにミネストローネを食べるキースが心配になる。
「なんでそんな怒ってるの、エログッズくらい許しなよ」
ザウアーブラーテンに口をつけたキースに、それとなく探ってみた。
「今の主任さんに、キースと私が法的な意味も通ずる暮らしをしてるのバレた?」
「バレてない。」
結婚式なんてしてないし、愛する人が近くにいればいいし。
その考えが一致したようで、今日も普通に暮らしている。
ただ、キースは教師。
たまに生徒と教師にもみくちゃにされて帰宅し酒を煽ったりしている。
疲れてるときは触れないでいても、部屋から叫びが聞こえたりはしない。
「校内での逸脱行為に一ミリでも触れるものは禁止。」
牡蠣グラタンを食べ終えて、紅茶を飲む。
手つきも見慣れたはずなのに、まだどきどき。
真面目なやつが多い世代もアホな世代にも、確実にバランスの中に歪みが生じる。
教師という職業は、面倒くさいことに歪みまで後々始末しなきゃならない。
逸脱行為の極みである違法薬物なんかは言語道断。
法に触れることは未成年のうちにしない、やったとしても隠れてやるものだし、法を犯した自覚もないアホのうちに大人がすることを生徒がするのが一番困る。
牡蠣グラタンの皿を見つめ、綺麗に食べてもらえて嬉しくなり、色々思い出す。
「すごい前に学校のトイレでセックス手前のことした人たちいたのよね、今でもそれがあったトイレ封鎖されてる?」
「されてる。」
「学校で、なんて分からないわ、私は貴方の家でしかしたことないものね」
「当然だ。」
ザウアーブラーテンのフォークを置いたキースが、紅茶を置く。
皺のある手を揉んで肩を揉んでやりたいけれど、本人曰く体育教師で日々鍛えているから結構とのことだ。
せめてもに牡蠣料理を毎日出しているけど、頭はつるつるのまま。
毛を好きになったわけじゃないから、今のままでいいのよと言っても影で育毛剤を試しているのを知っている。
キースの膝の上に跨って肩を掴み、ショーガールのように腰を振る。
「学校にしても隠れてやるもんよね」
横から上下に振り、キースを見て微笑む。
「殴られたいか?」
「言えないようなところを思いっきり、強い力でね」
キースが座る椅子の背を持ち、お尻を横に大きく振りながら膝に触れるか触れないかまで腰を落としてみると、キースが観念した。

「なまえは何をしたら懲りる!昔から、昔からだ!」
怒鳴るキースの上でポールダンサーのように体をくねらせ、風船アイスが挟まった胸を顔に押し付ける。
大きな手が私の両胸を掴み、押し返そうとした。
押したおかげで風船アイスが谷間からポンと飛び、キースの顔にぶつかる。
白いアイスがキースの顔に垂れ、ものすごく面白い。
きゃははと笑うとキースがまたしても怒る。
「どんなに真面目に指導しても!何度説明しても!数分後には笑いまくって場を沸かせて全員に鳥頭を感染させたのはなまえ!お前だ!」
「えー、だって楽しいのにサガるとかやだ」
額にかかったアイスが垂れ、髭についた。
面白くて笑っていると、キースが私の腰を掴んでまた怒鳴る。
「性だの提げだの知らんが!なまえの鳥頭は感染する!なまえのクラスだけアホがどうにも多かった!年度唯一の喫煙者は大体なまえのクラスだった!」
「でもキースに鳥頭感染した?」
「してるわけがないだろう!!!」
キースの顔にかかったアイスを拭いて、ついでに食べ終わった皿を片付ける。
なんだかんだ綺麗に食べくれるので、嬉しい。
アイスを谷間に戻し、キッチンへと向かう。
自分の皿とキースの皿を重ねて、さて洗おうかと思えばさっきの光景が過ぎる。
アイスまみれの姿を生徒が見たら、延々ネタにされるだろう。
生徒は大人の隙を求めてるものだ。
私がキースの隙を見るために、生活態度もきちんとして、不順異性交遊一歩手前の頭の中を隠して、いい生徒だと思われるためにどれだけ苦手な体育を頑張ったか。
「家と学校くらいしかない世代の子は、嫌でも学校来るでしょ」
水を出し、食器を洗う。
ミネストローネと紅茶とザウアーブラーテンは、まだテーブルにある。
自分の分だけでも済ませようと洗っていると、珍しく洗い物中の私にキースが話しかけてくれた。
「なまえは何が楽しかったんだ?」
「楽しいって?」
顔をあげて、キースを見る。
その目つきで、何を聞かれているか分かった。
「ああ、学校?」
皿を泡まみれにして、ひとつひとつ洗う。
「まあ、私浮いてたしねー、浮き方が不登校児予備軍か素行不良児予備軍でしょ、もっといっちゃえば援やってそうとか陰口叩かれてたし」
「生徒指導会議で素行確認児童の中でなまえの名が挙がる度、否定していた。」
「そんな会議あんの」
「事前対策だ、学校を完全な閉鎖空間と捉える生徒には指導が必要だ。」
教職という闇を見た気分になっていると当たり前のようにキースは後押しする。
「なまえがそうじゃないことは俺が分かっている、昔のことは忘れろ。」
洗い物中に言わないでほしかったくらい、水に流してしまいたくない一言。
皿を放り投げて、私は世界一好きな男前と結ばれた穢れ無き女ですと街中を叫び周りたい。
黙ってても喋っててもかっこいいと思える、こういうところが好きなのだ。
「私が覚えてるのはフサフサだった頃の」
「黙れ!」
「大丈夫よー、今は髭がフサフサでしょ!」
冗談を言いかけると、叫ばれてしまってまた笑う。
皿を割らないようにしながら洗い物を続け、フサフサだった毛が今の状態になるまでの日々を脳内で追った。
スライドショーのような脳内で笑っていると、ある日突然「もういい!!!もういい!!!」とまだらな髪の毛をバリカンで剃った時のことを思いだす。
あれはたしか新婚時代だった気がする。
涙目の怖いおじさんが鏡にガンを飛ばしながら毛刈りをする光景は、最高だった。
でも未だに棚のコロンの後ろに育毛剤があるのを、知っている。
諦めない気持ちだけは人一倍あるキースが面白くてますます笑いが止まらない私に、キースが近寄り腹をくすぐってきた。
洗い物の水を止められ、濡れた手の私にキースが抱きついてきた。
何かと思い、笑う。
手が濡れているから抱きしめ返せない私に、キースが問いかけてくる。
「今日、色々あってな、今の主任と私が主任だったときの具体的な差を突きつけられて、思ったんだ。
なまえは、いつも赤点だったし、いつも上履きを無くしていつもスリッパだった、なのに何故かいつも笑ってた。あれは何故だ?今のなまえを見てても、四六時中笑顔ということはない。
でも生徒だったときは、毎日にこにこと私に近寄っては付き纏い・・・。」
抱きしめる力を緩めてくれたので、腕から抜け出しキッチンにあるタオル手を拭く。
ホームセンターで、キースが選んだタオル。
にこにこマークのような柄がマーブル状にあるタオルで、なんでも丸い輪郭に目と口があるのがいいそうだ。
教師時代にそんな感じのキースのサイン兼落書きを見たことがあったから、喜んで買った。
赤点なのは頭が悪いから、上履きはそもそも買ってない。
キースに付きまとい、休憩時間は職員室に走り、大好きな先生がいるから体育を頑張り。
素行不良児だと思われてるのを分かっても、学校に行き続けた。
アホに真面目に怒るキースには、私のようなやつは分からない。
「赤点に関しては今の主任が赤点基準点数下げたとかじゃない?キースのときって50点以下は赤だったじゃない。」
あ、と呟いたキースを見て、察した。
きっと、生徒の学力を見た上で上手くやる主任なのだろう。
たぶんキースと正反対の雰囲気で、怖くもないし堅くもない人であることが想像できた。
「中学じゃなくて高校とかも、頭悪いとこだと赤点が平均点だよ?」
「そこじゃない、どうして毎日、そして今もそんなへらへら笑っていられるんだ。」
ああ、そういうとこだけ鈍いのも、大好き。
やっぱりまた笑ってしまい、拭いたばかりの冷たい手でキースに抱きつく。
首に腕を回し、鼻先でキスをした。
皺のある目元、毛のない頭、威厳のある口元、高い背と眼力と筋肉だけは現役。
「大好きな人の顔を見たら笑顔にならない?毎日ドキドキしてたら、周りなんてどうでもいいの」
真意を伝え、キースから離れ洗い物を再開する。
洗い流し、乾燥棚に置く。
「あと私バカ女だから」
怖いおじさんを誘うと、キースがついに折れた。
「もういい、もういい。なまえ、それを食べる。」
谷間を指差し、あったまってそろそろ楽に飲める頃になった風船アイスを取り出す。
乳首、いや、風船アイスの飲み口をキースの口元へ持っていった。
「はい、あーん」
風船アイスを掴み、飲み始める。
不味くはないようで、洗い物が全て片付く頃には飲み終わっていた。






2016.03.22





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