無駄といえず恥の智





お題 荒船とローター ギャグです





最近まで汚物の部屋と言われても仕方ないくらい片付いてなかった荒船隊作戦室は、最近綺麗になった。
けれど、また汚くなりつつある。
埃やゴミなどの汚れではない、物だ。
ダンベル、映画のDVD、各種寝具、粘土と油絵道具。
キャラメルもあればお好み焼きセットもあるこの作戦室は、きっと色々な戦いでも作戦を練れるだろう。
そんなときに邪魔にならないように、定期的に掃除をしている。
だから物が多い。
誰のものなのか大体わかるけど、休日を挟むと色々な物が増えていく。
そうして掃除のときに、倫ちゃんに怒られる。
それがいつものことだから、気にすることもないのかもしれない。
けれど、ここにある丸い棒の先には線が延びていて、けん玉ともピンポン玉ともいえない丸いものがついているこれは、誰のものだ。
長いコード、先端には特徴的な機械、色はピンク色。
誰のものか、察することもできない。
連想されたのはイヤホン。
倫ちゃんがキャラメル柄のイヤホンをつけていて、可愛かったことを思い出す。
可愛さの欠片は色くらいしかないこれは、イヤホンなのだろうか。
もしかして、この丸いネジがボリュームだとすると、両耳分ないといけない。
コードの先にひとつだけ。
もしかしてこれは、小型スピーカー。
真相を確かめるべく、覚悟を決める。
そっと耳に入れてみても、音はしない。
丸いネジを緩く、力なく、そっと、ゆっくり回すと、重い音を出しながら揺れた。
耳元で不快を催す音を切り、今一度見つめなおす。
音楽プレイヤーではなさそうだ。
それでは、これはなんだろう。
荒船隊の誰かが、使用用途不明のものを持ってきたのだろうか。
一度持ち込んだ物でめちゃくちゃになったことがあるから、あり得ない話ではない。
でも、あの四人はこんなものを持つ人だろうか。
荒船隊作戦室に出入りする、荒船隊員以外の人。
思いついたのは諏訪さんや堤さん、村上くん。
でも、その人達はこんな玩具みたいなものを持つ人だろうか?
諏訪さんは煙草、堤さんは整理整頓、村上くんは、なんだろう。
蕎麦とか、食べ物のイメージが強い。
全員、この玩具の所有者ではないと勘が言っている。
テーブルの上に置き、丸いネジを指で滑らせる。
途端に線の向こうにあるピンポン玉が突然震えだし、テーブルの上で踊った。
何事かと思い見つめていても、ピンポン玉は小刻みに踊り狂い、ガガガガと音を鳴らす。
丸いネジをまた指で滑らせると、動きは止まった。
静まり返った空気をまた揺らすべく丸いネジを思い切り指で滑らせると、今まで以上に踊りだした。
釘でも打ち込んでいるような音を鳴らしながら揺れ、テーブルの上を移動するピンポン玉を見つめ終えたところで、丸いネジを戻した。
一体これはなんだ。
呻いていると、誰かが戻ってきた。
いっそ聞いてみるべく、鎮まったピンポン玉を手に駆け寄る。
帰ってきたのは、哲次くんだった。
「哲次くん」
「なまえ、おはよう。」
爽やかな笑顔をした哲次くんに、ピンポン玉を見せる。
「ねえねえ、これ誰の?」
私の手の平に視線を落とし、そのまま数秒。
じっと見たあと、これは俺のだと言い出す気配もなく見つめてから、顎に指を当てた。
「なんだこれ。」
「だよねえ」
哲次くんではない。
それどころか、哲次くんも私と同じようにピンポン玉が何なのか、わからないのだ。
私の手からピンポン玉を取り、眺める。
コードをつまみ、そこまで頑丈な作りではないことを確認した。
丸いネジのついた棒、コード、ピンポン玉。
コードを確かめるように、哲次くんがピンポン玉の部分を振り回すように手首を回した。
揺れるピンクのピンポン玉、そして丸いネジを回すと、震えだす。
床に置こうものならガタガタと五月蝿い。
「釣竿みたく持って、こう、にしては短いな。」
「そうそう」
「スイッチを押すと揺れる。」
手元に引き寄せ、形状を確認したあと、哲次くんが閃いた。
「猫じゃらしだ。」
その一言に、はっとする。
揺れるおもちゃ、猫をじゃらしつつスイッチで振動のオンオフ、そしてまたじゃらす。
猫のテンションがバリバリになってしまう玩具なのではないだろうか。
頭のいい哲次くんは、なんなのか分からなくても解いてしまう。
「当真に渡すか。」
素直にすごいと思った哲次くんは提案をして、ピンポン玉を握り締めたまま退室した。

訓練場に行くわけでもなく、真っ先に足を運んだのは、冬島隊作戦室。
この時間なら隊長さんもいるのに、いいのだろうか。
哲次くんと当真くんは同い年だから、そこらへんの気も許しているのだろう。
作戦室の前で、事務的に名を呼ぶ。
遅れて出てきた当真くんは、眠そうだった。
「おー、荒船、おはよう。」
「おはよう。」
ピンク色の猫おもちゃらしきものを、哲次くんは差し出した。
それを見て、眠そうな当真くんの視線が一瞬止まる。
「これ、猫のおもちゃみたいなんだ、お前にやるよ。」
「はあ?」
眠そうな声でも、猫と聞けば反応する。
当真くんがコードを摘み、ぶらんと下がったピンポン玉を見つめた。
「猫の?」
疑うように言う当真くんに話しかけると、口元が歪んでいるように見えた気がした。
気のせいだと思いつつ、説明する。
「荒船隊作戦室にあったんだけど、誰のかわかんなくて」
「はあ。」
「猫にぴったりなおもちゃみたいなの、だから当真くんにあげる!」
当真くんは、うんともすんとも言わなかった。
ぶら下がったピンポン玉は揺れも収まり、催眠術すらかけられない程になっていく。
無言の当真くんは私を穴が空くほど見つめてくる。
焦ろうか、と思えば当真くんがいつもの笑顔を見せた。
片方の眉を上げ、悪そうに笑う。
「俺を選ぶネコ助の為に、気ぃ利くことしてくれんのは有難いんだけどよお。」
ピンポン玉の部分を揺らし、遊ぶ。
猫が好きすぎて当真くんがそのうち猫になってしまうのではないか、と思うような光景が目の前で繰り広げられたあと、また悪そうに笑う。
「うちの隊長に渡そうか?」
「え、なんで」
「いや、これ誰のものかわかんないんでしょ?うちの隊長なら分かるかも〜と思ってさ。」
「よろしくお願いします」
当真くんに頭を下げると、作戦室にひっこんでいった。
扉が閉まり、中から会話が聞こえる前にもう一度扉が開き、入ってこいと手で合図される。
哲次くんのあとをついて入ると、同じように寝起きの冬島さんがピンポン玉を持っていた。
揺れるかどうか確認して、なんども揺らしたり止めたりしている。
冬島さんが哲次くんを確認して、たった一言だけ言い放つ。
「荒船となまえちゃん、風紀乱れすぎじゃない?」
言われただけでは、事情を知らないおじさんが口を挟んだだけにしか思えず、何も言えないでいると当真くんがフォローした。
テーブルの上のカップラーメンの空を片付けながら、背筋を伸ばしている。
「なまえちゃんが拾ったってさ。」
「ああ〜、誰のかわかんないのはマジ?」
「そうです」
冬島さんはピンポン玉の部分と丸いネジの部分を見たあと、電池の蓋を開けた。
確認したあと、蓋を閉めて戻す。
眠そうな髭面が面倒くさそうに言うたびに、胃のあたりがそわそわした。
「どうせこれ二人で使うんでしょ、新しいの買えば?」
「二人?」
哲次くんが不思議そうな顔をして、耳打ちした。
「猫のおもちゃだし、たしかに二人かもよ」
私達の会話に耳を澄ませていたのか、冬島さんが即座に反応する。
「はあ?ネコ?」
猫です、と頷くと、冬島さん特有のいやらしい笑みを浮かべた。
金を目の前にした大人の笑顔だ。
なのに、なぜ今この状況でそんな笑い方をするのだろう。
「ネコの玩具、ね、ああ〜はいはい。」
へらへら笑った冬島さんは、パソコンに電源を入れ、デスク付近のレゴを移動させた。
飲みかけの温そうなペットボトルがデスクの上にあって、冬島さんの起床時間を思わせる。
大人の人だから、仕事は真面目にやっているはず。
この笑みからして、冬島さんはピンポン玉の正体を知っていて、私達にいつネタ晴らししてやろうか考えているのだろう。
わくわくしているに、違いない。
これが猫のおもちゃじゃないなら、一体なんだというのだろう。
ボールペンの下にあったメモ帳を棚に突っ込んだ冬島さんが、私達に言葉を投げかける。
「やっすい店に行けば新しいのあるじゃん。」
「どこですか。」
哲次くんが聞くと、冬島さんはデスクの下に手を突っ込んで、黄色いビニール袋を取り出した。
旗のようにひらひらさせ、哲次くんに見せ付ける。
「これの6階。」
「えっ?」
「そこにいけばあるんですか」
「うん、あるよ、玩具コーナーだから。」
「そうなんですか!じゃあ今度行きます!」
あの袋は、なんだろう。
哲次くんも行くスーパーの袋だろうか、でも、それにしては妙にくしゃくしゃだ。
近くにある紙袋も、全部汚れている。
「ね、哲次くん、行こうよ」
冬島さんのデスクの下汚いと思って哲次くんを見ると、何故か赤面していた。
驚いて二度見した私を見て、冬島さんと後ろのほうにいた当真くんが爆笑した。
何が起きたかわからず、ぽかんとする私を見て笑い出したのか、真っ赤な哲次くんを見て笑い出したのか。
両方だろう。
ソファの上を転がって笑う当真くんのリーゼントが段々解けていくのを見て笑ってしまったものの、状況は掴めない。
黄色いビニール袋をデスク下に投げ戻し、呻いて笑う冬島さん。
息を吸いながら喋る冬島さんの顔も、赤い。
「いやー、荒船、分かっててやってたんじゃなかったのか。」
赤面したまま何も言わない哲次くんが、心配になる。
一体、今の会話に何があったというのだろう。
もしかして、私の知らない世界が冬島さんのデスク下にあるというのだろうか。
あのデスクの下は男性にしか見えないモンスターがいて、哲次くんはそれを見て興奮しているのかもしれない。
「行こうよ、誰のかわからないけど。」
一応平静を装い哲次くんに声をかけると、何故かそっと頭を下げられた。
「勉強不足でした。」
そしてそう言われ、当真くんが震えながら自分の好物のバナナを哲次くんに差し出した。
受け取ると、当真くんは火がついたように笑い出し、視界から笑い転がり消えていく。
当真くんはバナナが好きなのに、それを哲次くんに渡してしまっていいのだろうか。
よくわからなくとも、冬島さんと当真くんは更に爆笑した。







2015.10.16







[ 170/351 ]

[*prev] [next#]



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -