愛飲の喉




微妙に続いている





大人になれば、性と切り離せなくなる。
誰かがそう言ったのか、自分でそう思ったのか。
最低でも、大人になってから好きな人が出来てしまえば性は切り離せなくなるのだろう。
可愛らしい年下の彼を愛撫しては、そう思う。
薄い唇から出る若い男の子の声は内臓を締め付けるような興奮を与えてくれる。
「あっ、あ、あ、あっ。」
尊くんが喘いで、腰を浮かせた。
シャツの裾から手を忍ばせ、お腹を撫でる。
敏感なところに触らせたかのように腰を跳ねさせる尊くんが、可愛くて仕方ない。
浮いた腰の瞬間を見逃さず、亀頭を喉の奥で愛撫する。
飲み込めるのなら、喉仏で刺激してあげたい。
人体はそこまで上手く出来ていないので、咥えこむだけだ。
「なまえさん、あ、すき、あ、あ!」
それだけで可愛い声を出してくれる尊くんにめろめろになっていると、喉の奥に青臭い液体を吐き出された。
射精したそれを全て飲み込むように口をすぼみ、ペニスの根元を軽く握る。
零さないように口の中で精液を溜めて、唇を離した。
顔を赤くして、涙を浮かべる可愛い尊くんを見上げると、息を切らしながらも私を見る。
「はぁ・・・んっ、なまえさん、ボクの・・・。」
「んむ、ほむお」
うん、飲むね。
そう言って顔の近くで飲み込んで嚥下音を聞かせようとしたときだ。
口に精液を含んだままの私の顔を丁寧に掴み引き寄せると、そのままキスをされた。
舌に苦いものが当たり、顔を引かれる間もなく欲の塊のような口腔内を舌が這う。
取り込むような動きをしたあと、絡み合う舌の間で精液が移動する。
引っ張り合うような粘液が舌の上で移動し、ずるずると唾液じゃないものが交換された。
口の中から苦い味が消えた途端、尊くんは唇を離す。
「ぷはっ。」
唇が離れて、互いに息を吐き出した。

喉が鳴ったあと、私のピンクのリップが色移りした尊くんの顔が凍り、手の動きが止まった。
尊くんの喉から嚥下音が二回聞こえた後、みるみるうちに眉間に皺が寄る。
きゅっと結ばれた口が緩んで、目の焦点がずれた。
それから吐きそうな顔をして唇を拭き、呻く。
「美味しくないです!!」
涙目の尊くんが当たり前のことを叫んだ。
「体から出るものに美味しいものなんてないよ!?」
「不味いです!!」
「当たり前!」
「ボクが騙されたみたいじゃないですか!」
自らの精液を飲んで涙目になる尊くんが、シーツの上に仰向けに倒れた。
唇を何度も拭いていくうちに色移りしたピンク色は取れて、自分が飲んだものの不味さに驚いている。
手の甲に痕のようなピンク色を何度もつけながら、口の中の味をどうにかしようと必死だ。
尊くんはおええと呻いて二、三度転がったあと、私の服の端っこを掴んできた。
「なまえさん、いつもこんなの飲んでくれてたんですね。」
シーツの上に嘔吐されたらどうしようかと危機感を覚える。
ゴミ箱を掴んで持ってくるべきか悩みながらも、服の端を掴む手を払いのける気にならなかった。
「なんの疑問も抱いてなかったけど、美味しい体液なんてあるはずがない。」
「あるはずないよね」
「不味いなら飲まなくていいのに。」
「尊くんのだから」
起き上がって、上品なズボンのチャックを閉めてから頭を抱えていた。
「本当に不味いです、おえ。」
いいものばかり食べてきた尊くんが、死にそうになっている。
顔を顰めて今にも吐きそうな顔をする尊くんの肩を撫でて、赤い鼻を見た。
泣き出して鼻水を垂らしそうになるのを、必死で耐えている顔だ。
赤い耳の下まで真っ赤で、鎖骨が浮かんでいる。
「尊くん、飲まなくてもいいのに何で飲んじゃったの」
テーブルの上の水を取って、渡す。
勢いよく水で流し込んでから、溜息に似た呼吸をする。
私を見つめる尊くんは、今にも嘔吐しそうな顔をしていた。
「なまえさんのは色々舐めたり飲んだりしましたけど、ボクが出したものが不味すぎて自分に引いてます。」
水がなければ、戻していたような顔色をして呻く。
口直しになにかないかと悩んで、甘いものにしようと思えば空になったコップを見つめて言った。
「自分の精液と付き合っていくのはマナーですから。」
突如言い出したその言葉に、止まる。
「だけど不味いです。」
味の感想も、至極真っ当なものだった。
男性のそれは、間違っても美味しいものではない。
口に出されれば、反射的に顎を引いて吐き出したくなるような味。
匂い、味、出てくる場所、液体としての形状、どれを取っても良いものではない。
頼まれても飲みたくないものではある。
なんで飲めるのかと聞かれても、尊くんのだからとしか言えない。
いまだ顔を顰める尊くんが、不味さに呻く。
「なんでしょうこの味、なんだろう。」
「美味しくはない」
「不味い。」
「食べ物によって味が変わるとは聞くね」
「昨日何食べたっけ、ポワソンとジビエと、フロマージュと。」
「肉が原因かもね」
「ううう。」
「掴んで飲むゼリーに海産物と塩を入れたような味だったよ」
「ううう・・・。」
出した主は例えを出しただけで、青くなって倒れこむ。
空になったコップを受け取り、テーブルの上に戻す。
吐きそうな声で潰れ、致していたシーツの上で口を押さえる尊くんの顔色が悪くなってきたことを心配して、焦った。
背中を撫でてあげると、今にも泣き出しそうな目から可哀想な光が少しだけ引っ込んだ。
「ボクのために不味いの飲んでくれてたんですか。」
「好きな人のは飲めるよ」
頷くと、撫でるために伸ばしていた手を掴まれる。
手首を軽く握られ、体調が悪くなりかけている人の神経を逆撫でしないように微笑むと、腕に甘えられた。
「嬉しい、なまえさん。」
冷たい手に熱い頬が押し付けられて、体温の差を感じる。
当たり前のように微笑むと、また甘えられた。
「だって、私は尊くんより年上だよ、大人だから私が」

甘えられた腕を引き寄せられ、片手で軽く抱きしめられる。
尊くんの口から精液の匂いが僅かに漂い、唇に鼻を近づけた。
「なまえさん、忘れた訳ではないでしょう、なまえさんには唯我なまえになってもらう予定です。」
そんなことも言っていたなと思い、尊くんを抱きしめ返した。
笑顔のまま、何も言わず。
お金持ち独特の自信と、失敗してもいいと思えるくらい恵まれた環境にいたこと、失っても自分は死なないと分かっているから言えること。
結局のところ、男の子に勝てるわけがない。
私は尊くんが好きで、尊くんも私が好き。
だったらそれでいいけれど、その先になると躓きかけて、それを尊くんが助けて立ちなおす。
その時に、私は尊くんの顔を見つめられるだろうか。
大人になると、余計なことばかり考える。
「だからなまえさんはボクに甘えたっていいんですよ?」
まだ顔色の悪い尊くんが、頼もしいことを言ってくれた。
彼なりの強がりは所謂虚勢で、沸き立つ場所が不明な自信を肯定するわけにもいかない。
私は大人だ、尊くんに甘えるわけにはいかず、お世辞を付く。
「嬉しい、ありがと」
微笑むと、尊くんが私の頬を撫でる。
精液臭い呼吸をお互いにしているわけではあるものの、愛情の前にはそんなことなんでもない。
「なまえさん、口に残ってませんか?」
「大丈夫」
「じゃあなまえさん、キスしましょう。」
唇が触れあい、喉にひっかからない液体が交わる。
精液に比べれば、唾液なんて簡単。
触れ合う音、絡み合う音、離れまいと吸い付く音。
それが耳の近くでするのだから、興奮する。
口腔で愛し合い、唇が離れ、舌の奥で確かめる味が不味くないことを知った。
精液は飲み込まれる。
「不味くない?」
また唇が触れ、今度こそ不味くないことを確かめた。
「もう味は残ってないですね。」
喉の奥へと液体を流し込むために息を止めれば、尊くんが覆いかぶさった。
尊くんの手によって、髪が乱れる。
傷ひとつない指が髪の中を探るように撫でて、額や頬にまでキスをする。
音の鳴らない、丁寧な口付け。
触れたあとが濡れることもない、上品な熱さ。
何も教えられずとも、普段の行いがこうさせるのだろう。
恐ろしく甘やかされるお姫様みたく、何度もキスをされた。
下品さの欠片もない愛し方に、私のほうが照れくさくなる。
探られて撫でられるたび、気持ちよくなった。
落ち着いて寝てしまうような気持ちよさで支配されつつある私を、尊くんが見る。
このままでは、寝こけてしまう。
大人として、子供の前で情けない姿を見せるのは頂けないことだ。
「年上の女を甘やかすの、楽しい?」
尊くんが、私を撫でる。
手の甲にはピンクのリップの残骸のような色がついているはずだ。
尊くんの薄い唇をよく見れば、端のほうにピンク色が残っているかもしれない。
年齢は上でも、尊くんは男の子。
あっという間に男性になる。
今のうちから精一杯背伸びをされようものなら、追い越されてしまう。
だから、そのままでいてもらわないと大人である私が困るのだ。
目で撫でても、足りない。
まだ幼さが残る男の子の手で、私の髪を梳かすように撫でた。
育ちがいいだけあって指使いは綺麗で、手も汚れていない。
短い爪に、日焼けもしていない手首。
上腕についた僅かな筋肉は服の上からでは見えず、目で追うしかない。
甘やかされている小さい子のように、何度も撫でられた。
「こうすると、なまえさんは時々ボクに優しい目を向けるんです、それが楽しいです。」
優しい目なんて、しているのだろうか。
尊くんがそう言うのだから、そうだと思いたい。
大人になれば、その優しそうな目が何であるか、わかってしまう。
優しい目をした尊くんが、どこかの高い店で気取った甘い言葉で金持ちの玉の輿を狙う狡猾な女を落とす。
金をちらつかせ、遊んで、気前のいいところで離れる。
金持ち独特の大人の迫りかたで色々と学ぶのだろう。
そういうことが出来る大人になるまで、あともう少し。
品の良い環境で成長しているはずなので、余程のことがない限り糞みたいな大人にはならない。
世間に溢れる、自制心を規律で抑えこむような締まりのない大人。
出来ればそんな駄目な大人にならないでほしいのが本音だけど、どういう大人になるかは尊くん次第。
周りが決めることではない。
だから、いつまでも私と淫猥な日々を送ってはいけない。
尊くんのほうから私を撫でて可愛がっていて甘えさせようとしては、いけないのだ。
「楽しいというか、そそります。」
それなのに。
下心のない笑みを浮かべて、尊くんは迷いもなく言った。
思いもよらない言葉に顔に血が集まったのが分かって、空いている手で顔を覆い隠す。
「いやだ、もう」
尊くんを抱きしめるべき両手で顔を隠し、目を逸らす。
横に寝転がると、首の辺りにまで追撃のようなキスをされた。
「なまえさん、もっと照れてください。」
一体どんな男性になるのか、楽しみであることは間違いない。
撫でられる私が、恥ずかしさと嬉しさに近い何かで叫びだしたい気持ちになるくらいには、楽しみだった。








2015.09.11









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