執拗









本を読む春秋の横には紙が積まれている。
メモと次に読む本の覚え書きと、何故かレシピと旅館の名前が書かれている。
ひとつの情報を手に入れて、そこから知識を広げて新たな知恵を広げていく。
勉強ができる人は、それが簡単にできる。
概念を置きつつ、色んなことを視野に取り込むことが得意ならば、勉学は苦にならない。
経済学と数学の本を読んでいるのにメモに醤油のことが書かれているのは何故なのか、聞いてみようとは思った。
「疲れないの?」
本を読む春秋が、文字に向かって答える。
「目は少し疲れたな。」
洗面台に行って、歯磨き粉の横にある目薬を手に取った。
鏡に映った自分を見て、服を直す。
シャツをしっかり直して、前を引っ張る。
本と共に暮らして何年も経っていそうな春秋に、抗菌の目薬を渡す。
文字から目を離した春秋が嬉しそうに微笑んで目薬を受け取った。
「ありがとう。」
本を閉じて、目薬の蓋を開ける。
慣れた手つきで数滴を目に垂らして、目を閉じた。
瞼を閉じたまま何度か眼球を動かしたあと、疲れた呻きをあげる。
閉じられた目と、半開きの口。
上を向いたおかげで見える首元と鎖骨。
見慣れた横顔を見つめたまま、ティッシュを一枚渡した。
目を閉じたまま、春秋はティッシュを受け取り目を押さえる。
次に目を開けた春秋に、強請った。
「したいの」
口ぶりで、なにをしたいのかは分かったようだ。
汚れたティッシュを本の横に置きながら、目頭を押さえる。
重そうな瞼とは対照的に、充血していない目で私を見た。
「一緒に寝たり、抱きしめたり、そういうのじゃ満足できなかったか。」
「ううん、そんなことない、でも」
丸めたティッシュが何故か憎かった。
目薬の蓋を閉めて本の横に置けば、私を問う。
「性欲強いほうだったっけ?」
冷たいフローリングを這って移動して、春秋の座る座椅子に近づく。
さらさらの黒髪が綺麗に見える位置にまで近づいて、ぶりっこのように振舞う。
「春秋が側にいると、どきどきするの、もっと触りたいし、大好きってしたくなっちゃう」
聞く人によっては張り倒したくなるようなことを言っても、春秋は真剣に聞く。
全部、見透かされている。
要するに、やりたい。
そんなことは春秋も分かっていて、近くにあったクッションと座椅子をどかしてから、私の肩を抱いた。
おでこにキスをされ、目を閉じる。
ふと目に入った鎖骨の隙間から、日焼けのあとが見えた。
「寂しい思いをさせてしまったね。」
春秋の匂いがして、心が躍る。
「俺はなまえが近くにいるだけで満足してるんだけどな。」
真面目そうな顔で、真面目なことを言う。
旺盛な人ではないことは知っている。
無茶を言うなと怒られてもいいのに怒らないのは、真意を見通しているからに違いない。
「してよ」
春秋の腕に絡み付いて、腕を舐める。
舌、歯、唇、熱を触れさせ目で訴えた。
私を犯して。
そんな言葉も、好きな人の前では言えてしまいそうだ。
「じゃあ、いかがわしいことを毎日しようか。」
春秋がそう言って、私にキスをする。
安心感と興奮と満たされる身体が、脳と内臓を浸す。
「女性は淡白だという先入観があったけど、その、頻繁にしていいんだな?」
頷いて、毛布を抱きしめる。
「私としては」
表情の伺えない顔をしたあと、顎に手を当てて私を見た。

照れたように笑ってから、私を撫でる。
大きな手が頬と首を撫でて、唇に触れた。
「なまえ、俺、あのさ。ねちっこいのしてみたくて、いいかな。」
「いいけど、どんなの?」
髪と頬を撫でられてから、抱き寄せられる。
確認するように目を覗き込まれて、囁かれそうになった。
何も言わずに私を抱きしめ、頭の後ろに手をやったままゆっくり寝転がす。
床の代わりに春秋の手を後頭部に感じて、薄い期待をした。
「本気でやめてほしくなったら、左足と左手で叩いて。」
大切なものを扱うようにキスをされ、頭を優しく撫でられる。
指先が髪の毛の中に入って、後頭部に柔らかい気持ちよさが伝った。
大きな手の平と、指。
細かい作業をするけど脆くなくて、抱きしめたりするときに安堵感をくれる手。
手に甘えていると、春秋が私を撫でる。
「挿入だけがセックスじゃないんだよ、なまえ。」
優しいキスのあとそう言って、また優しくキスをする。
抱きしめて、春秋の頭を撫でながら引き寄せた。
頬に髪の毛が触って、春秋の身体の重さを感じて、それから舌が絡み合う。
服を脱いで、私は自分から下着を取り払った。
冷たいフローリングを肌に感じるたびに、興奮していく。
足が冷たいけれど、それはお互いさまだ。
ルームウェアは簡単に脱げて、数える間もなく私と春秋は裸のまま、優しいキスを繰り返す。
腕が股のほうに降りていくのを感じると、自然と足を閉じてしまう。
処女あがりの、性行為になれない動き。
自分でブラジャーを取り外し、部屋のどこかに脱ぎ捨てる。
それも気にせず春秋はそっと私の足を開いた。
恥ずかしくて閉じると、また開く。
ゆっくりと、言う事を聞かない子供に何度も躾けるように足を開かせてくる。
私が受け入れないと、気持ちいいことはしてくれないのだ。
内臓の冷えを感じながら、足を開く。
なにもかも丸見えの体勢で、春秋を見た。
広げた足の奥にある、興奮して欲情した大好きな人の顔。
真剣な目つきをしたまま、自ら足を開いて強請る体勢の私に褒美をくれる。
私より大きくて太い春秋の指の腹が、脹らんだクリトリスに触れた。
ぬる、とした感覚を肉で感じて声を漏らす。
足を開いただけで、濡れていた。
こんなに欲求不満だった私を、春秋はどう思うのだろう。
それだけが恐ろしいのに、腰を動かしてしまう。
こんなことに、理由はいらない。
真剣な目を見てから、一度目を閉じる。
見えなくても触られてしまえば、すぐそこにいることを感じた。
終わる頃には、ルームウェアの匂いで日常に戻されるのだろう。
どう足掻いても、性的な匂いしかしない。

春秋の顔に尻を向け、反り返ったそれを口で慰める前に振り返って春秋を見た。
私の下着を降ろし、行為に及ぼうとしている。
早くして、そう身体が言っていた。
目の前もいいところの眼前といったところで、腰を振った。
太ももに下着が引っかかる前に、布の抵抗感が消える。
声を出すまいと、口にペニスを押し込む。
気持ちのいいところを的確に舐められるたび、背中が反る。
慣れたはずの行為に身体が反応して、熱いペニスを舐めるたびに自らの性器の刺激に震えた。
目を閉じて、春秋が今何を見ているのか考えないようにする。
分かってしまうだけで、頭が割れそうだ。
指がクリトリスの包皮を剥いたのを感じた矢先、柔らかく熱い舌が敏感な先端を舐めた。
垂れる露を掬うように動く舌の反応で、腰が痙攣するように何度も動く。
逃がすまいと春秋の大きな手が私の腰を掴んで、離さない。
大きな手が私の胴体を這って、見つけたものを掴むように胸を揉む。
指が埋まる胸の下にある心臓が高鳴ったあと、耐えた。
赤子のようにクリトリスを吸い、膣口を指先で弄る春秋の熱は、収まる気配もない。
胸を掴まれたまま上半身を起こされるような力を入れられ、思わず身を引く。
春秋はそうしたいようで、身を引く私を虐めるように身体を起こそうと手に力を入れた。
起き上がれば、春秋の顔の上に座る体勢になる。
反る背中と丸まる腰を無視して、力のままに起こされた。
騎乗位のように春秋の上に乗ったまま、腰を引き寄せられる。
唇が体液の糸を引いたあと、反射的に腰を引いた。
「ごめんなさ、い」
「なんで謝るんだ。」
思わず謝る私の腰を何度も撫でて、膝の裏側を指で撫でられる。
「はしたない、こんなの」
春秋は、自分の上半身に向かって私の腰を引き寄せると汗ばんだお尻にキスしてから、愛液の溢れるそこに熱を這わせた。
お尻に肌が触れる。
どういう体勢なのか理解して、恥ずかしさに涙が浮かんだ。
春秋の顔の上に腰を落とすと、待ち焦がれていた熱い舌が性器を舐める。
「痛かったり気持ち悪かったりする?」
首を振ると、腰を撫でられたあと太ももにキスをされた。
大きな手は腰を掴んで逃げられもしない快感に迫られ、春秋の顔の上で腰を振ってしまった。
「やっ、やっ、ごめんなさい、あっ、あっ」
「なんれあやあるお?」
性器を舐められたまま喋られて、子宮のあたりが疼いた。
何故、そのまま喋る。
あんまりにも春秋らしくなくて、笑ってしまいそうだった。
「恥ずかしいよお」
辛うじて言っても、言う事なんて聞いてもらえない。
「ひもひよくあい?」
舐めながら喋らないでほしいけど、震える腰にある大きな手を覆うように、自分の手を重ねた。
爪が肌に食い込んで、骨のどこかが疼く。
「気持ちいいよお」
目を閉じて、今の状況を想像した。
女の私が男である春秋の口腔を蹂躙している。
「ああ、ああああ、ああ」
汗が額から落ちて、春秋の太ももに落ちて垂れた。
透明な汗が、肌に消えていく。
作り物のアダルトビデオのような体勢で、熱に抗えないまま身体の芯を燃やす。
腰の下には、春秋の顔があるのに、揺れる尻の真下に春秋の視線があって見えてるのに、それなのに腰が止まらない。
春秋の顔の上で腰を振り、舌の動きに甘える。
私の性器に春秋の唇が触れることは何度もあった。
ただ、こんな体勢は想像もしていない。
重ねればこういうこともあると学んで、それから喘ぐ。
「春秋、好き、んぅぅ」
苦し紛れの喘ぎを聞き逃さなかった春秋が、舐めるのをやめた。
重い腰を僅かに上げて、春秋と向き直る。
唇から見える舌が、妙に濡れていた。
座った目と、息が苦しかったのか頬が赤い。
腰をどけてから痺れる子宮を押さえて、春秋に覆いかぶさる。
キスをしたら、私の味がした。
「いれたい」
「俺はねちっこいのがしたいんだけどな。」
「なにそれ」
「挿入だけがセックスじゃないんだよ、なまえ、さっき言ったとおり無理だったら左手と左足で合図して。」
軽々と寝かされ、何故か腰の近くにあったクッションをどかされた。
背骨が痛くなるかもしれないのに、と思ったけれど、何をされるのか期待していた。
優しくキスをされ、お腹を触られる。
春秋の硬い両膝が私の足を割り、すこしだけ体重をかけられた。
濡れた股を広げたまま、動けない。
痛くはないし不快でもなく受け入れると、春秋の指が性器の中に埋まった。
探るような動きをしている気がして、腰を揺らす。
男の人の太い指が動いて、身体の中が気持ちいい。
硬くなった胸の先とは対照的に、ふたつの乳房は春秋の動きに合わせて揺れる。
そんなことも気にならないくらい、快感に融けた。
舌ほど熱くはない愛撫が満たす。
探られ、触られ、すぐに気をやる。
拘束具なんてないのに、足が動かない。
気持ちいいことが与えられることを、身体がわかっているから腰を振る。
秘裂の奥から絡まった白い愛液がべっとりとついて泡を立てる感覚がした。
背中を反らして、息を吐く。
達したことは目に見えているはず。

それなのに、指の動きは止まらなかった。
敏感になりすぎているクリトリスを、何事もなかったかのように擦る。
腰を動かして手から逃げようにも、両膝で足を押さえられていた。
感じすぎて苦しいから逃げようと足をずらすと、春秋の手が足を押さえた。
動くな、ということだ。
敏感すぎるそこを変わらず触られ、神経が切羽詰まる。
その動きは、責めのものだった。
充血し敏感になったクリトリスを、潰すように擦る。
勃起しているから、潰そうと擦れば擦るほど硬くなる小さな肉芽を指の腹が責めた。
押し当てられ、撫でるように突いたと思えば包皮に隠れている一番敏感な、大きさにして数ミリだろうか、そこを指で触る。
自分の身体のことだから、見えなくてもわかる。
まずい。
主に排泄器官が警報を出したような気がして、首を振る。
合図はなんだっけ、左足と、それと、ああ、もうどうでもいい。
根元を摘まれ痛みのないように丁寧に包皮を剥かれた感覚を察するに、敏感な器官が丸見えだろう。
大きくなったクリトリスにひっかけて、包皮が戻らなくなればいい。
膣に広がりを感じたあと熱が埋まり、内臓が押され快感に満ちる。
腰と揺れる尻の間に愛液と汗が垂れた。
「んぅ、ん、んん、ん!」
ひとつの刺激で、軽い絶頂を感じる。
それが、一回二回三回四回五回と続けば、涙と涎が浮かぶ。
だらしなく体液を零す膣と目と唇から、悲鳴と歓喜の混ざった淫蕩な強請りを叫ぶ。
合図は、そうだ、左足と左手。
その左足はしっかりと押さえられて動けない。
ねちっこいことの真意を受け取り左手を伸ばして春秋の腕を掴んでも、力が入らない。
「ねえっ春秋っもうっ!もう!もういった!」
結合部から出る愛液と下品な音。
首の後ろが震え始めた頃、胃の下が締まりすぎて胸が張った。
逃げ出そうにも、春秋の両膝が枷の代わりになっていて逃げられない。
飛び出るのは嬌声だった。
「やああああ、あ!あっああああ、ひあ、あああ、ああああああ!」
「なまえ、首元まで真っ赤だよ。」
大きな水音が、小刻みにする。
激しく動く春秋の親指に支配された性器は、既に何度も痙攣していた。
指がクリトリスを挟んで、上下に揺らす。
体勢も、していることも、特別恥ずかしい下品な性行為ではない。
頭の中がぐるぐる回り始め、何もかも出るか吸い込むような気がするくらい子宮が疼く。
目を閉じて悶絶する私の耳の近くで、春秋の声がする。
「もうやめる?」
涎が溢れそうな唇で、欲しがる。
いやいやと首を振れば、刺激が延々と続く。
伸ばした左手は、力なく垂れて汗の滲む股の皺に触れてから背中が反り、体が痙攣した。
天井の光が歪んで星のほうに見えては、目から涙が落ちてはっきりと見える。
いつもの天井が、頭をはっきりさせた。
激しく指が上下し、足ががくがくと痙攣しては腰骨が震える。
春秋の、大きな手と指。
私のそこなんか、弄り倒してしまうことも簡単だろう。
挿入された指を何度も締め付けながら、首を振り快感に抗うこともせず足を震わせた。
股関節の痛みすら快感に変わり、詰まる呼吸のおかげで脳がぼうっとする。
下半身が全部同じになった感覚がしてから、じわじわと薄い針のような痺れが広がった。
この感覚は、覚えがある。
「だめだめだめだめ、だめ、だめはずかしいいい」
興奮とは遠いところにある悲鳴をあげても、春秋はやめなかった。
口の中に髪が入って痒みを感じたけれど、それどころじゃない。
潤んだ目で見ると、相変わらず真剣な目をしていた。
「大丈夫、なまえ、安心して。」
聞いたら安心する大好きな声。
今は安心してる場合じゃない、でも、抗えなかった。
「っく、う」
生暖かい液体が漏れ始めて、濡れた。
呻いて、涙に濡れた睫毛で視界を閉ざす。
愛液ではない液体が漏れても、春秋は指の動きを止めなかった。
本気でやめてほしくなったら、左足と左手でシーツを叩いて、春秋はそう言った。
やめてほしくない自分が勝っただけのこと。
性的快感と失禁した羞恥と、感じたことのない興奮と虚無感を身体に残した。
息を切らす私にキスをして、それから手を離す。
本物の水音がする股を動かすこともできず、春秋が私のお腹を落ち着かせるように撫でた。
涙のあとを触って、おでこにキスをして、頭を撫でる。
労わられても、濡れてびしゃびしゃになった股が温いだけだった。
解放された身体の熱が治まることもなく、ただ興奮だけが引いて、快感の痺れだけが染み付く。
「ね、春秋」
「なに?」
喘ぎ疲れた私に、何事もなかったかのように声をかける。
脳裏に浮かぶ光景に、ふとした疑問を感じた。
冷たいフローリングは今や床暖房のように温まって、股のあたりは失禁して惨事になっている。
足を僅かに動かせば、太ももの裏が濡れた。
「最初にクッションと座椅子どかしたときに、もうこれする気だったの?」
「そうだよ。」
真意を見透かせない自分と、真意に笑う。
動く気のしない私を労わるように撫でる春秋の優しそうな笑顔に、甘えるしかなかった。






2015.08.20





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