眩しさに揺らぐ






恋をして、好きな女性に一世一代の告白ができる男性は、偉大だと思う。
きらきらして、可愛くて、話すだけでどきどきする。
手を触ると柔らかくて、側に寄ると良い匂いがして、好きな女性は誰一人として振り向かず、高嶺にいる。
破裂しそうな恋心を胸にしても大好きと伝えられる。
恋した女の子は、皆可愛い。
そんな人を側に得ようと、思いを伝える。
好きですと言えてしまう男性の心強さがあったところで、私はこの思いを伝えられるのだろうか、
たぶん、きっと、無理。
私は今日もそう思って、光ちゃんの隣に座って世間話に花を咲かせる。
サイドテールの髪の毛先が、陽に当たって薄く輝いた。
「なまえの髪、プリ並みにめっちゃ艶ってんだけど。」
光ちゃんが気づいてくれたので、笑顔で答えた。
「ヘアパックしたんだよね」
「うわまじー!いきなりすぎね、なんだ彼氏かー?彼氏かー?」
彼氏なんていない、光ちゃんのさらさらの髪みたくなりたかったの。
そう言えず、当たり障りのない返事をする。
「いやいや違うよ」
「なまえの可愛さに気づいた奴とかいたら、まじライバル。」
元気に喋る光ちゃんの横顔を、友達の立場を利用して脳裏に焼き付ける。
可愛くて明るい、大好きな光ちゃん。
絶対に私の気持ちには気づかないだろうし、気づいてほしくない。
「それ言ったら光ちゃんに近づく人は全員私のライバルだよ」
「照れるわー!」
きゃーと言って頬を押さえて夢見がちなふりをする光ちゃんが、財布を漁る。
「なまえのプリ並みの艶髪で思い出したんだけどさ。」
お札とレシートを掻き分け、何かを探して、それを見つけたようだ。
「つかこれ見て!こなみと昨日プリ撮ってきたんだけど、まじ盛れてね?」
こなみ、というと、桐絵ちゃんのことだろう。
一応確認したいのと、プリクラに映る光ちゃん目当てで覗き込む。
小南ちゃんと光ちゃんが、綺麗に盛れているプリクラがあった。
きらきらの目がもっときらきらになって、ふわふわの毛先はさらっとしてて艶があって、足が長くなっている。
「あ、ほんとだー」
「帰りさ、なまえも一緒に行かね?ゲーセンの近くにパスタ屋あるし、ついでに飯もどうよ!」
とても嬉しいことを言われて、思わず笑う。
「行く!」
友達からの、ただのお誘い。
私にはデートのお誘いにしか受け取れなくても、光ちゃんは楽しそうに笑う。
パスタもプリクラも、全部光ちゃんと一緒にいるための口実に使うしかない、そんな意識だ。
友情への信頼感しか私に向けない光ちゃんは、いつも眩しい。
いつかこの眩しさに、私は目を瞑るだろう。
「盛りと足長機能まじパねえよなー!」
プリクラを見て、悦に浸る光ちゃんの目を見る。
長い睫毛、大きな目。
いつでも笑っているような可愛い目つき。
「盛らなくても光ちゃんの睫毛いい感じじゃん」
「まじー?なまえも常に足長じゃね?」
笑っている光ちゃんの体は、どこもかしこも綺麗。
歩いている姿も、何をしてても、大好き。
友達の手前、下手なことはできない。
私は今日も友達の仮面を頭と顔に貼り付けて、光ちゃんの側にいて、歩いて、喋って、遊んで、一緒に帰る。
やっていることは、彼氏や特別親しい人と変わらない。
そこに、肉体的な触れあいがあるかないかの違いだ。
それならもう、このままでいいじゃないか。
そう思っても、光ちゃんの元気な笑顔を見るたびに、思いは揺らぐ。
だから私は、告白をする男性が偉大であると思わざるを得ないのだ。

作戦室を開けて、光ちゃんが既にいた隊員に声をかける。
「おっすユズル!」
本を読んでいるユズルくんが、先客だった。
私に気づいて、そっと会釈する。
なんの本を読んでいるかは見えないけど、ハードカバーの分厚すぎない普通の本。
ソファに座って読むユズルくんに、光ちゃんが絡んだ。
「ユズルこれ見ろよー、まじよくね?」
本から視線を逸らし、光ちゃんが差し出したプリクラを見る。
数秒見つめたあと、表情を変えずに呟いた。
「なんかいつもと顔違うね。」
プリクラに対する、もっともな意見。
目も大きいし肌も白くなるし足も長くなるし、きらきらになるし、可愛くなる。
髪や目の色も変えられるし、スタイルもよくなる。
だが、それは出来れば言ってはいけない意見だ。
プリクラを自慢した光ちゃんが、ユズルくんの頬をつついた。
「あったりめーだろ!おまえも雨取さんと行ったらどうだよ、カップルならOKなんだぜ?」
雨取、と聞いて、ユズルくんが頬を染める。
本を読んでいただけなのに何かの図星を突かれたようで、焦り始めた。
「なんでオレが雨取さんと…。」
急に反応したユズルくんが、可愛らしい。
そうか、君も気になる子がいるのか。
妙な親近感を抱き、一気にユズルくんに馴れ馴れしくしたくなる気持ちが高まった。
「だってなあ、な?なまえ?」
にやにやする光ちゃんがユズルくんの側を離れ、冷蔵庫を開ける。
「んでプリあるゲーセンなんだけど、そこが男子禁止で・・・。」
作戦室の冷蔵庫を開けた光ちゃんが凍りつく。
よほど冷気が冷たかったのかと思って後ろから覗くと、冷蔵庫が空になっていた。
辛うじてクッキーとカロリー補充用のバタークッキーが数個冷やしてある。
大体の事の予想はつく。
勢いよく冷蔵庫を閉めて、本を読むユズルくんに声をかけた。
「ねえ、7本あった飲み物どうした?」
本を読みながら、ユズルくんがあっさりと答える。
「ゾエさん。」
「7本だよ、ユズルも飲んだの?」
「ゾエさん。」
同じ言葉だけを、二回も言うユズルくん。
全てを察した光ちゃんが作戦室を飛び出し、ゾエー!と叫んだまま走っていく。
これから起こることの予想はつく。
面白そうなので追いかけると、階段を降りた角を曲がってすぐあるラウンジで光ちゃんが北添さんを襲っていた。
細くて可愛い手で何度も叩かれる北添さんを見た半崎くんが笑っている。
最初から近くにいたであろう倫ちゃんと摩子ちゃんは、なんとか笑いを堪えようと必死だ。
肩が震える倫ちゃんの顔が真っ赤だ。
怒りが止まらない光ちゃんが、叫ぶ。
「ゾエー!てめーふざけんなよー!!!」
「痛い痛いやめてやめて、ヒカリちゃーん、やめてー!」
北添さんの悲鳴なんか聞きもしないで、光ちゃんは大きな体をひっぱって椅子から引き摺り下ろそうとした。
攻防戦になっているのも無視した光ちゃんの肘が炸裂する。
「7本だぞ、7本!四人で軽く3日持つはずの量を何一人で消費してんだ!あと冷蔵庫のお菓子どうした!」
「賞味期限が明日だったから、つい。」
ついじゃねえよ、と言いたいが、怒る光ちゃんが可愛いので言葉を飲み込んだ。
慣れ親しんだ友人を怒る光ちゃんが、椅子から落ちまいとする北添さんを力の限り引っ張った。
「ざけんなー!冷蔵庫に鍵つけてやる!」
引っ張り合いを続ける北添さんから、余裕が溢れる。
「いやー、美味しかったからつい。」
「ついじゃねーよ!お前にとっての小さなエネルギーは一般人の昼飯分だ!」
光ちゃんのその言葉で、とうとう摩子ちゃんが笑い出した。
それにつられて、倫ちゃんが座ったまま顔を伏せる。
前髪で顔が隠れていて分からないけれど、顔が真っ赤なのが一瞬だけ見えた。
笑い声に気を取られた北添さんが力を緩めたのか、光ちゃんにずるずると引きずられていく。
北添さんも、これはふざけているんだろう。
本気なら引きずられていくわけがない、けれど光ちゃんの拳と肘は、本気半分。
べしべしと叩く音に、力が籠もっていた。
これはいけないと上着を脱ぎ捨てた北添さんが逃げようとして、また捕まる。
食べ物の恨みが止まらない光ちゃんを押さえにかかると、何故か関係ないはずの半崎くんに止められた。
「これはこのままでいいっすよ。」
「まあ、でもねえ、ね?」
「止めるのダルくないすか?」
「そうでもないかなあ」
半崎くんは、猫が熊を襲っているこの光景が面白くてたまらないようだ。
それに関しては、私だってそう。
怒りまくる光ちゃんは可愛いけれど、いつまでもこうしていられない。
床に残された北添さんの上着を持って、差し出す。
私が仲裁にかかったとわかると、光ちゃんは私に抱きついた。
いい匂いが、近くでする。
肩に柔らかいものが当たって、この状況を作り出した北添さんに感謝しながら、一気に幸せな気持ちになった。
「奢れよー飲み物とお菓子の分をアタシとなまえに奢れよー。」
そう言う光ちゃんを横に、北添さんに上着を差し出す。
「可愛い子に優しくすんのは常識だろ!な!なまえ!」
「光ちゃんはいつだって可愛いよ」
本音が零れる。
当然気づかない光ちゃんは、ふざけて私に頬ずりしながら笑う。
私の大好きな、元気な笑顔。
「ほんっと照れるわー!なまえまじ愛!ゾエも見習えよ!」
照れるのは、私のほうだ。
くっつく光ちゃんを横に、私も微笑んだ。







2015.08.05






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