眼差しの言うとおり


影浦隊のために隊室お菓子パラダイスを建国しよう
眼差しの無い会話の続き









影浦さんと話せたことを、村上先輩には報告しなかった。
嬉しかったし、話せたと言いたい、けど言ったら、好きな影浦さんと話せましたと言ってしまいそうで。
好きな人と話せただけでも、嬉しい。
次会ったときは、ちゃんと話すんだ。
そう思った次の日には、影浦さんを無意識のうちに探してた。
うろついて、人の多いラウンジにでも行けば会えるかと思い足を運ぶ。
ぼさぼさの頭だけを探せば、すぐに見つかった。
駆け寄って挨拶をして、隣に座る。
「おい、なんだ。」
怖い目つき、怖い服装、ぼさぼさの髪にギザギザの歯。
私の大好きな人。
できれば出会い頭に頭を撫でてほしいけれど、そんな関係にはまだなれない。
ノートとシャーペンでの会話が一度で終わりそうなのも、幸運。
「この前のお菓子、どれが美味しかったですか?」
だったらこの幸運を生かしていく。
初歩が肝心と思い、お菓子の感想を聞いた。
「あー、茶色のやつ。」
茶色と言われても、クッキーは大体茶色なことがある。
でも、味のことも含め茶色というと、たぶんチョコレートクッキーのことだ。
「チョコレートですね、影浦さんはチョコレートが好きなんですか?」
私が聞くと、顔を逸らしたまま答えた。
「ああ。」
「じゃあ次はそれにします」
人の多いラウンジでソファに座る影浦さん。
ここに一人でずっといるわけはない、誰かを待っているか、誰かと戦う待ち合わせをしているのかも。
「今はランク戦の…」
「いや、隊員待ち。」
言い終わる前に答えが返ってきて、とんでもなく嬉しくなる。
すごい!今!大好きな人と会話できてる!
幸せと叫びそうな気持ちを押さえ、笑顔になった。
「そうなんですか、優しいんですね」
言葉に反応したように、眉を顰めて口元を歪める。
あまり好きな言葉ではなかったようで、影浦さんの顔がみるみるうちに怖く変貌した。
「優しい?俺が?何言ってんだなまえ。」
軽く睨まれて怖いと思うけれど、それもかっこいい。
他の男子とは違う、でもヤンキーでもない、荒れた感じ。
でも悪い人ではなさそうなことは、分かっていた。
「優しいですよ、冷たい人なら他の隊員なんてつーんってしますもん」
だから冷たい人ではない。
そう言いたかったけど、なんだか生意気な物言いになってしまった。
すぐに、開いた扉から二人の隊員が出てきた。
背の高い大柄な人と、隣にはユズルくん。
ユズルくんの話を思い出す限り、影浦隊全員が今揃った。
「お、カゲー!」
大柄な人が、影浦さんに近寄る。
にこやかな笑顔を見る限り、いい人そうだ。
ユズルくんはやはり、いい人を見分けて友達を作るのが上手い。
「なまえ、また来たの。」
私を見たユズルくんが、いつもの調子で話しかける。
クッキー以来の遭遇となったユズルくんに手を振ってにこにこしていると、影浦さんが立ち上がって大きな声を出した。
「一気に来るんじゃねえ!おい!」
待っていたんじゃないのかな、と立ち上がった影浦さんを見る。
ぼさぼさの髪から見える、鋭い目。
マスクで一見わからないけど、顎にマスクを落とせばわかる。
影浦さんは、顔が整っているほうだ。
きっとキチッとした格好をしても、かっこいいんだろうな。
でも今のままでもかっこいいし、要するに大好き。
隊員が来たから、このままランク戦をするのだろう。
じゃあここでお別れかと思ったとき、影浦さんが私に向かって怒鳴った。
「あーあー!あー!もう!なまえ、お前なんなんだよ、言いたいことさっさと言え!いい加減にしろ!!」
呆然としていると、大柄な人が私を庇った。
伺うように声をかけてくれて、冷や汗が流れる。
「ごめんね、カゲも大変なんだ。」
心配そうな大柄な人を見つめていると、ユズルくんに手を引かれその場から退場した。

やっぱり、しつこかったのか。
当然だ、初対面とほぼ変わらないのに、お菓子を持ってきたり。
いるからって話しかけたり。
仮にも、B級上位の人。
それに先輩だし、気軽に話しかけられて、うざったかったのかもしれない。
相手は、大好きな影浦さんは年上。
そう思うと急に悲しくなったけれど、ラウンジから出てすぐのところで立ち止まったユズルくんに聞かれた。
「なまえ、もしかしてサイドエフェクトのこと、知らない?」
思いもよらぬ事実が飛び出す。
サイドエフェクトが何かくらいは、知っている。
でも影浦さんがそれだということは聞いていないし、聞こうともしてなかった。
「影浦さん、あるの?」
そう言うと、ユズルくんはやってしまったという顔をして、説明を始めた。
「感情受信体質、視線が特に感じるらしい。」
「え、それって」
ノートを使っての会話。
視線が刺さる、不愉快になる、怖気に近い、キレる、嫌。
そう書いてあった言葉の真の意味がわかりハッとした。
「例えばなまえが怖がって見たら、それがすぐわかる、不快な気持ちとか負の感情は凄く嫌に感じるんだって。」
そのサイドエフェクトだと、知らない人ばかりのところに行ったらパニックになってしまいそう。
便利なようで、とても大変なものだ。
不快な気持ち、負の感情。
それは、影浦さんにとっての、だろうか。
もしそうじゃないなら、もし、もしだ、そうじゃないなら、私の今までの視線が全部ばれてることになる。
「そっか」
影浦さんを見ながら、何を思ったか。
大好き、かっこいい、大好き、大好き、できれば出会い頭に撫でてほしい、かっこいい、大好き。
急に血の気が引いた頭を抱えて、呻く。
「どうしよう、もう会えない」
絶望する私を励ますユズルくんの顔が、見れない。
「怖がらなきゃ大丈夫だよ。」
「ううん、そっちよりまずい」
どうしようと行き詰る私を置いて、ランク戦始まると言い残しユズルくんは戻った。
確実にばれている。
そりゃあ、会ったばかりの女に大好き視線を飛ばされたら、影浦さんだってびっくりする。
私はなんてことをしてしまったんだ。
そうか、サイドエフェクトだ、だから村上先輩は文字での会話を薦めたんだ。
村上先輩の判断とアドバイスに感謝すると同時に、自分の愚かさを呪う。
呆然として、次に会ったときは「サイドエフェクトのことを知りませんでした、ごめんなさい」と謝ろう。
そう思ったときだ。
「おい、なまえ、こっち向け。」
聞き覚えのある、胸がきゅうんとなる声。
でも、今一番聞きたくない声。
振り向くと、至近距離に怖い顔をした影浦さんがいた。
「胸糞わりい、いいか、よく聞けなまえ。」
私に近寄り、しっかりと私を見ている。
感情を受信する、それなら、ああ、もういい、やけくそだ。
大好きです、影浦さん。
そんな思いを視線に込めた。
「はっきり!!!言え!!!言え!!言ったら全部納得してやるから言え!!!俺の気が落ちつかねえんだよ!!!」
「はい!」
「ほら!言え!何してほしいか言え!際限なく見るな!やってやるから言え!オイ!」
「はい!!」
思い切り怒鳴る影浦さん、大好き。
怒るときのギザギザの歯がガタガタ動く感じも好き。
ぼさぼさ頭が怒って噴火してるみたいで面白いところも好き。
私は一目ぼれしました、そう視線に込める。
でも言えって、ここで告白しろってことなのか。
人気はそんなにないけど、大声はたぶんラウンジ手前あたりには届いている。
すこし、恥ずかしい。
影浦さんに対して思うことを、そのまま口に出した。
「頭を撫でてください!!!」
暫し黙り込んで、私を見た。
私と影浦さんの間の時間が、凍りつく。
殴られる間合いを取られるには、十分すぎる時間と距離。
冷や汗がまた復活しそうになったとき、ギザギザの歯がガタガタするのをやめて、それから大きな手で私をわっしゃわしゃと撫でる。
髪の毛が大好きな人の大きな手によって、ぐしゃぐしゃになった。
毛先が大暴れしてから、我に返る。
撫でてもらえた。
影浦さんは怒ることもなく、私を見つめていた。
殴られもしない、怒られもしない。
とても嬉しくなり、にこっと笑ってから飛び跳ねた。
フンと鼻で笑った影浦さんが、また頭をぐしゃぐしゃに撫でた。
今度は嬉しすぎてきゃーきゃー言うと、両手を使って撫でられる。
撫でられる音が、ごわごわと聴こえた。
大きな手が私に触れている。
あんまりにも嬉しくて、気持ちよくて、言葉を失っていると、手が離れてしまった。
影浦さんは、怒っていない普通の顔をしている。
「これからなまえがこの視線向けたら、こうすることにする。」
この視線、ということは、やはりばれているのだ。
でも、好きだという視線を向けに向けまくっていたことは、ばれているのか。
感情受信体質。
そういう体だから、仕方ない。
視線でバレているから好きなら好きって言えよ、そういうことだ。
恥ずかしさに意気消沈しかけていると、影浦さんがまた訪ねる。
「頭・・・だけでいいのか。」
「え」
「いいのかどうかって聞いてんだよ!」
「え、あ」
「もういいんだな!?これ以上やんねえからな!!」
「抱っこもお願いします!!!」
思い切り言うと、影浦さんがそっと私の脇に手を入れた。
影浦さんが、私を更に触っている。
一気に顔面が噴火しそうになりながらも、軽く抱えられた。
ぬいぐるみを高い高いするように、思い切り抱き上げるのは無理と判断した影浦さんが、軽く抱っこしてくれる。
これ以上ない幸せが、突然襲った。
数秒よしよしされたあと、体を離される。
これでいいな、と言われたけど、返事も言えない。
怖い人ではなかったのだ。
私からの大好き視線を送られて、何がなんだかわからなかったのかもしれない。
怒鳴りながらも、私の視線への対処をしてくれた。
影浦さんなりの処世術かもしれないし、そんなことは影浦さん本人にしかわからない、でも、影浦さんのことが大好き。
にへーっと笑うと、また頭を撫でられた。








2015.08.01





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