装飾と泡






爪弄ってます、剃ってます





「髪の毛さらさらだよね」
尊くんの髪は、さらさらだ。
気を使っているのか、それともなんでもお金をかけられる家だからなのか、あるものは全部質がいい。
イタリア製の石鹸もフランス製のベッドも、ドイツ製の靴も、全部いいものだ。
聞かれれば、すぐ自慢をする。
「フランスから取り寄せたヘアケアシャンプーを使ってますから。」
「ああ、この前なくなってたからアジエンス詰め替えたよ」
「えっ。」
青ざめる尊くんは置いておいて、学校に関する質問をした。
「髪染めてる人、いる?」
「いません。」
「そうなんだ、そういう子に髪のさらさら具合になんか言われてるかと」
「女の子は髪質を褒めてくれますね。」
「ピアス開けたり腰パンしたりとか、いかにもな人いないの?」
「ボクの学校にそんな人はいません!」
あ、でも、と尊くんが止まった。
手で丸い形を作りながら説明する。
「女の子同士でお揃いのポーチや音楽プレーヤーを使う子はいました。」
いわゆる、おそろだ。
お揃いのもの、私と尊くんは持っていない。
「とにかく、学校はピアスも刺青もタトゥーも化粧もワックスも髪染めも禁止です!」
はっきりと言った、優等生のような尊くん。
育ちがいいだけに規則はきちんと守るほうなのだろう。
「彫りもの二回言ってるわよ」
それでも、尊くんの夜の姿を思い出し、涎が出る。
私に責められれば、あれだけ喘いであれだけおっぱいに吸い付く尊くん。
やはり、ちょっかいを出さずにはいられない。
尊くんに抱きついて、頬にキスを何度もする。
慣れてきたはずなのに、ちゅーちゅーやられると尊くんは赤面してしまう。
「じゃあお揃いでへそピアス開けよっか」
「は!?」
可愛い尊くんに、悪戯半分そんなことを言ってみた。
学校の女の子がお揃いをしているんだから、私達だってお揃いをしていいはずだ。
尊くんが飛ぶように跳ねて、ベッドの上に避難する。
「無理です!無理です、断固拒否致します!」
「見えない場所にピアスするんなら学校でバレるわけないでしょ」
「絶対にお断りします!」
ベッドカバーを握り締めて、青ざめて後ずさった。
可愛い尊くんのお腹に指を這わせてさわさわと刺激を与えると、真っ赤になって壁に背をつけたまま体を引く。
服の下のすべすべのお腹を思い浮かべながら、指で触る。
「大丈夫だよ、ピアス開けたことないけどニードルあれば一瞬よ」
「開けたことないんですか!!?」
「うん」
「なのにボクの体に穴を開けようとするなんて!拷問!これは不当な拷問です!」
「じゃあ尾てい骨にタトゥーいれよっか」
「いーやーでーすー!針で肌に色を差し込むなんて、前世紀の遺産です!現代に持ち込むべきではない!ボディペイントをするアーティストがいるじゃないですか!」
育ちの良さが幸いして、抗議の声にも否定の悲鳴にも妙な語彙を感じる。
これが喘ぎ始めると語彙が消えるのだから、面白い、そして可愛らしい。
「いやいやそう言わずに」
笑いながらこちょばしてみると、ベッドカバーを握り締めた尊くんがぐるぐるとベッドの上を回って逃げた。
「ひどいです!なまえさんはこんなに嫌がるボクが見えないのですか!」
「3日くらい前にここで、いやんいやんだめだめなまえさんいやいやだいすきいくいくーって言いながら喘いでたのだーれだ」
そう言うと、尊くんは顔を赤くしたあと、無言になってしまった。
ベッドカバーを握り締めたまま、落ちる。
ドスっと音がしたあとずるずると引っ張られていくベッドカバーを掴んで、落ちた尊くんを覗く。
「あ、じゃあ外でやってみる?尊くんのアンアンが公園中に響くようなやつを」
ベッドの下で赤くなる尊くんが、またいやいやをしながらうつぶせになる。
「公然猥褻だ!警察を呼んでくれ!」
ベッドの横のほうでバタ足の練習でもしているのかというくらい足をばたつかせた。
ぼすぼすぼすぼす、とベッドの横を何度も叩くその足。
反射神経を頼りに爪先を掴んで、靴下を引っ張りぬく。
現れた男の子らしい骨ばった足を見て、思いついた。
「足」
「へ?」
「足ちょっと見せて」
尊くんの足をひっぱり、起こす。
ベッドに登り、私に向かって大人しく足を出した。
もう片方の靴下も取り去り、ベッドの上に素足が現れる。
「爪に色やらない?」
反応は、どうか。
「マニキュア、ですか?」
「ペディキュアね」
やだ!と飛んでくるわけでもなく、さっきよりは大人しい反応を見せた尊くんの足を見た。
いい生活をしているおかげか、白い。
骨っぽいのは男の子だから当然だ。
それに、防衛機関で訓練というか、運動もしっかりしている。
爪の形も、悪くない。
塗ったらそれなりになるだろうと踏み、誘い込む。
「足細いから、似合う」
尊くんは、否定をしなかった。
「ボクがやったら、当然なまえさんも同じのをやるんですよね。」
「もちろん」
そういうと尊くんは頷いた。
待ってましたとばかりに、手持ちしているポーチを鞄から出して開ける。
ベースコートと赤のエナメルとトップコートを出して、尊くんの足元に座った。
ベッド上でするのも見栄えが悪いので、尊くんだけをベッドに座らせ床に足を垂らし、私が床に座る形になる。
ベースを開けて、全ての爪に塗った。
透明なものを塗ってどうするんだろう、という顔をした尊くん。
おそらく、これは初体験だろう。
大丈夫、こういうのは女に任せなさい。
言葉を飲み込んで、乾いた頃に色を乗せる。
白い肌の骨っぽい足が、赤で装飾されていく。
形のいい爪が赤く染まり、光沢を持ち、色を落とす。
色がついていく爪を、珍しそうなものを静かに見る子供のような目で見ていた。
十本の足の指の爪全てに赤を塗り、エナメルの瓶を閉める。
「少し待ってね」
「すごい、赤だ。」
尊くんはベッドにごろんと転がって、足を天井に向けて爪を見た。
見慣れた天井に見慣れた足を向け、見慣れないようなことになった爪を見る。
男の子なのに、珍しい体験をしたのだ。
見入るのも仕方ない。
風呂場に行き、洗面器にしては綺麗な飾りがついた唯我家の洗面器に水をいれて持ってくる。
床に置き、洗面器の横にタオルを置いた。
「足ゆっくり入れて」
水に爪先を入れ、ひんやりしたのかそれ以上入れない。
でも、それでいい。
30秒ほどそのままにしてもらって、いいところで切り上げる。
濡れた足をタオルの上に置いてもらい、洗面器を片付けた。
湿気のない風呂場も、静かにしていればただの無駄に豪華な金持ちの風呂場だ。
ふと、風呂場に剃刀があるのを確認した。
腋毛でも剃っているのだろうか。
足元に戻り、タオルで軽く爪先を拭く。
トップコートを開けると、匂いに気づいたのか鼻を鳴らした。
こういうものだ、仕方ない。
十本の指にトップコートを薄塗りしていくと、尊くんが話しかけてきた。
「こういうのって、三回もやるんですね。」
「うん、爪の保護を塗って、色つけて、カバーを塗る」
「なまえさんもそうするんですか。」
「私は保護だけ塗るようにしてて、お洒落したいときは今やってるこれやるかな」
ごてごてネイルでもいいけど、それだと尊くんとセックスしたときに引っ掛けて痛い思いをさせてしまうかもしれない。
それは嫌なので、爪は当分お休み。
尊くんと色々したいから、爪を弄るわけにはいかないのだ。
トップコートを塗り終わり、爪先を息でふーっとする。
乾かせの合図だと気づき、尊くんが細かく足をばたつかせた。
さっきまでのバタ足とは大違いの努力家そうなバタ足をする尊くんを横目に、ポーチに道具を仕舞う。
「靴下履いてりゃバレないよ、リムーバー置いていくから、飽きたら落として」
ポーチからリムーバーとコットン数枚を出して、机に置く。
きっと、三日後には飽きて落とされているだろう。
それでも珍しいようで、尊くんの視線は足に釘付けだ。
「いいですね、これ、なまえさんがしたら、きっと綺麗です。」
育ちのいい尊くんは、どういうわけかさらっと女性を褒める。
そういうところも好きだよと笑えば、もっと足をバタつかせはじめた。
「ね、剃刀あったけど、どこ剃るの?」
「眉毛整えたり、脇剃ったりです。」
そうだ、男の子でも眉毛を整える、忘れていた。
私は風呂場に向かい、剃刀を手にして思ったことを口に出してみた。
「おそろい、もう一個思いついたの」
「なんです?」
「下の毛剃ろう」
「え?」
尊くんはぽかんとした。
私は剃っている派だから、ついでにという感覚だ。
剃刀をベッドにおいて、しゃがむ。
自分で上を脱いでからゆっくりベルトに手をかけると、抵抗されなかった。
頬を赤くして、私を見ている。
そんな顔したら私が我慢できないわとか言いたくなって、言葉を飲み込んでからズボンを下ろした。
その間に上も脱いで、尊くんがパンツを脱ぐ。
私だけ下半身に衣類を身につけたまま風呂場にいくと、珍しく駄々もこねない尊くんが風呂の縁に座った。
ボディソープを持ってきて、剃刀片手に座る。
手にソープを取り、陰毛で泡立てた。
白い泡で股間が見えなくなったところで、丁寧に剃る。
他人のここを剃るのは初めてなので、慎重にいった。
ここにある剃刀ということは、男物。
男物の剃刀で剃れば、どこの毛でも綺麗に剃れる。
あとはケアをすればいいだけ。
丁寧に、丁寧に剃る。
下半身のものも状況をわかっているのか、勃起する気配はない。
ここで勃起すれば、泡が亀頭にまみれるだけ。
剃った毛を泡に混ぜて、下に落とす。
女性と違って前のほうだけでいいから、男性のほうが楽。
そして、ついでに言ってみた。
「じゃあ次、お尻向けて」
驚いた顔をしてから、言葉を失う。
何か叫びそうな顔をしているが、尊くんを真顔で見つめた。
剃るということは、そういうことだ。
学ぶがいいと念力を送る。
尊くんがすこし考えてもぞもぞしてから、大人しく言う事を聞いてくれた。
縁に手をつき、膝を折ってしゃがみこんでお尻をこちらに向ける。
見慣れた体、でもこの体勢は初めてだ。
女の子がする体勢なことに気づいた尊くんは、赤面したまま顔を伏せた。
泡をたて、尻の内側につける。
円状に気を使い丁寧に、世間でいうところのOラインと呼ばれる肛門周辺の毛を剃った。
剃っている間、たまに肛門がひくっと締まるたびに触りたくなったが、そこは無視してあげた。
ここを剃って、私は何をする気なのだろう、そう、あれだ。
でもそれは尊くんの同意が得られてから。
そうじゃないと語彙の豊かな尊くんに人権団体と報道機関を呼ばれてしまう。
全て剃り終わり、剃刀と泡塗れの手を流した。
「流していいよ」
シャワーを渡し、泡を流させる。
お湯に泡が混ざり、消え、剃った毛と共に流れていく。
「剃り跡に私のクリーム貸すから」
「わかりました。」
白い泡がとれて現れたそこは、運よく剃り残しがない白いつるつるの肌だった。
鏡で見てから、尊くんが苦笑いする。
「な、なんか、子供に戻ったみたいです。」
「そう?」
下半身にシャワーをあてる尊くんのお腹を触る。
「薄めの腹筋のしたにある、がっしりしてきた細い腰、もう子供じゃないよ」
いつだかのようにお腹を撫でていると、案の定尊くんに赤面された。
毛の無い同士でする密着が更に密着するセックスは、刺激が増すだろう。
丸見えのそこにある、まだピンク色をしたそれが少しだけ硬度を持った。
「それに、ほら、女をいかせるのは男」
尊くんの肩に手を置いてにまっと笑うと、もっと赤面された。






2015.08.01





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