理性の塊の閨へ





自らのケツに立体機動のアンカー突き刺す勢いで教官夢書いた1年前
諸々の続きとか書くことにした、萌えに抗えるわけなかった





昨日の寝る間際に何があったか、覚えていない。
疲れているなら早く寝なさいとか会話したような、してないような。
もうとっくに、兵士達を絞りに行ったのだろう。
今日も今日とで怖い鬼教官をしているのだと思えば、肩と背中くらい労わりたくなる。
ひとりぶん空いたシーツの上から抜け出して、陽の当たる場所に毛布を干す。
毛布に包まってたおかげで温かくなった足にサンダルを与え、足の裏が冷える。
台所に、飲み終わったお茶のカップがあった。
行く前に、時間があるから茶葉でも弄っていたのだろう。
髪に櫛をいれて梳かし、服を着る。
窓を開けて手を空気の流れの中に突っ込むと、ひんやりとした。
出かけるなら、ちょうどいい上着が必要そうな肌触り。
クローゼットを開けて、キースの服がかかっている下にある古い箱を引っ張り出した。
兵団所属時のブーツやコートが、箱の中で萎びていた。
コートを取り出し、叩く。
埃は舞わないものの、なんとなく古い匂いがした。
袖を通して、気温を体で感じる。
これなら、大丈夫そうだ。
そう直感して、コートを着て外へ出た。
教官が寝泊りしているところは、訓練所にも街にも近い。
小さな路地を選んで歩けば、すぐに街に着く。
足の裏は軽快で、遠くを見ても視界不良の不快感がひっかかることはない。
時間は昼。
うろつき飽きる頃には夜になると踏み、懐かしく見慣れた街並みを眺め、歩いた。
街の風景を見る。
懐かしい街並みを見て、ひたすら歩く。
立ち並ぶ家の角や街角を、目につく限り見ていく。
仕立て屋から始まり、パン屋、酒屋、花屋、金物屋、本屋、眼鏡屋、靴屋、靴屋がもうひとつ、それから夜から開く酒屋がひとつ。
その向こうに、もうひとつパン屋と花屋があったはずだ。
何年も前、まだこの上着を正式に着ていた一時期はそこまで悠々と見えていた。
もうひとつの靴屋の看板の細かい字が見えず、行きかう人々の足取りが、その先から見えなくなっている。
明らかに目が悪くなっていた。
長いこと遠くを見る生活から遠のいていることが原因。
もうひとつの靴屋の看板にだけ視線を置いて、歩き出す。
こんな昼間から何をしているんだという人の目がいくつか突き刺さったが、それを全部上着のせいにして歩いてみると、気にもならない。
上着の色が目に入らないのか、なんなのか、素性が伺えない男性に話しかけられ、立ち止まる。
その間も、ずっと遠くを見ていた。
話す内容が酒場の女の人手不足になったところで、一瞥もせずまた歩き出した。
節穴の目をした男は、いくらでもいる。
歩めば歩むほど、遠くだったものが近くなった。
立ち止まり、振り向く。
遠くのほうに、訓練所の壁が見える。
見えなくなるまで遠くにいけば、きっと見えなくなる。
ようやく靴屋の看板の文字が見える距離に立てば、今度はその向こうの別の店がなんだったのか思い出せない。
仕方ないと思いつつ、足をそのまま眼鏡屋に向けた。

人に時間を聞けば、そろそろ夜だねと言われそうな時間になって、帰宅した。
眼鏡をかけたまま階段を上り下りしたせいで、足元が浮く感覚がする。
扉を開けると、書類整理か何かをしているキースがいた。
後ろ手で扉を閉めた後、鍵をかける。
「聞かれる前に答えるね、昔の服を着ただけでも堂々としてれば何も言われないよ」
呆れと驚きを取って間を掬ったような顔をしたキースを見て、眼鏡をくいっとあげた。
「キース、どう?これ」
「不自然だな。」
「似合ってない?」
「合う合わないのことではない。」
よろしくはない反応を見て相応の態度に戻る。
夕方の薄暗い空と、残りが漏れたような陽射しが教官室を薄暗くない程度に照らす。
「うん、まあ、遠く見る用に作ってもらった」
本棚に近寄り、適当な本をひとつ取る。
眼鏡をかけたままの視界に字を入れてみても、手元の範囲であれば裸眼と変わらない。
ぐるっと辺りを見渡しても、眼鏡があるときと無いときで何が違うのかと言われれば、壁の細かい染みまではっきり認識できることくらいだ。
「リコいるじゃない、あの子みたく丸眼鏡が似合う顔つきじゃないし、必要なときだけ掛けるわ」
懐かしい同期の名前を出して、本を元の場所に返す。
「なまえ、どこに行っていた。」
「眼鏡作ったから慣れるために歩きまくってた」
「上着はどうした、追い剥ぎでもしたのか。」
「捨てるのも気が引けるから、残してたの」
上着を脱いで、椅子にかける。
着慣れたものも久しぶりに着ると、重く感じた。
「兵団以外の所持は認められていない、返すか捨てるかしておけ。」
「それもそうね」
壁のあたりを見てそう言っても、キースはまだ何かの書類に目を通してはサインをしている。
何かの始末書か、はたまた請求書か。
「懐かしいわよ、貴方が団長してたときは、私まだ壁のこのへんにいたじゃない」
部屋の端の、なにもない壁を指差して言う。
こういう狭い部屋についていっては、後ろで控える。
隊長が教官の言い渡しを聞く間、ひたすら背後にいるのだ。
「そうだな。」
無難な相槌から、不穏な思いは含まれていない。
たぶん、報告書の末端。
ここに持って帰ってやる内容ということは、たぶん遅れてやらかした誰かのものだろう。
キースの肩に手を置いて、軽くもたれかかる。
「ああそうだ、街歩いてたら酒場に勧誘された」
昼間にあったことを、ぽろりと口に出す。
眼鏡を外して、書類の隣に置いた。
光が反射して眼鏡を照らし、僅かな眩しさを注ぐ。
手元を照らすものくらいにはなりそうな光を見て、影が恋しくなる。
「ずっとここにいるのもあれだし、夜の間だけ働こうか?」
いいだろう、すこしは外に出ろ、そう言うと思った。
「やめろ。」
険しい顔が更に険しくなったキースを伺う。
怒りはしないものの、了承もしそうにない雰囲気だ。
街に行く隙は与えても、夜の街に消えるかもしれない隙は与えたくないことが分かった。
「なんで」
「どんな者にも等しく媚びて上辺を繕い、美味くもない酒をなまえは振舞いたいのか?」
「あー、酒場行ったことないの?そこまで変なとこじゃないよ」
「そうじゃない、同等に落ちるなと言っている。」
「そうかなあ、娼館じゃあるまいし」
一緒に暮らし始めてから、飯を作る、掃除をする、本を読む、たまに徘徊するくらいしかしていない。
その生活にも慣れてきた。
酒場じゃなくたっていい、それこそ靴屋や花屋で昼間だけ働ける。
なにもしない生活は、そろそろ終えてもいいのではないか。
「小銭稼いでベッドとか買い換えるよ、ぎしぎしうるさいじゃない、大丈夫だって、ね?」
子供でもないのだから、酒場くらいなら働ける。
それでも、キースは了承しなかった。
「やめろと言っているだろう。」
そういったものに抵抗があるようには、見えない。
確かに、派手な生活とは離れていそうな印象はあっても、大人だ。
酒場くらい行ったことがあるはずだ。
「酒場にトラウマでもあるの?」
そう聞いても、はいとかうんとか返ってくるわけでもなく、単純に詮索するはめになった。
「酔って吐いたとか、記憶なくしたとか?ぼったくられた?自分の妹が酒場にいたとか?そういう同期にいたよ」
「詮索するとは珍しいな、なまえ。」
吐き捨てるようにそう言ったキースを目の当たりにして、直感する。
なにかあるに違いない。
「待って、当てる、なにがあるか当てる」
額に指をあて、椅子に座る。
書類を片付けるキースの手は、止まりかけていた。
もしかしたら、この怖いおじさんの秘密を手に入れられるかもしれない。
キースを見ながら、考え付く例をひたすら挙げていく。
「酔って財布なくして一晩帰れなかったとか」
「そんな馬鹿をするように見えるか?」
「宵越しの金もない状態で飲んだとか」
「金の心配はするな。」
「じゃあ、酔った勢いで散財して帰れなかったとか」
「酔っても自制心は残るものでな。」
「酒場の女の子に一晩申し込んでフられたとか」
「そこまで馬鹿じゃない。」
「酒場の女の子に変なこと言ったとか」
「自制心が残ると言っただろう。」
「じゃあ酒場の女の子の尻を舐めたとか」
「酒場の女から離れろ!」
「わかった、酒場にいる女の子のこと好きだったんでしょ」
無言。
キースが口を噤んだのを見て、嬉しくなる。
「やったあ、当たり」
禿げた頭に抱きついて笑うと、キースの書類を弄る手は完全に止まった。
「ね、その女の子可愛かった?」
「ああ。」
「その話、もっと聞きたい」
「その女性は数年前に死んだ、昔話は好きじゃない。」
キースの声が暗くなり、呟くように言ったのを聞いて、好奇心を仕舞う。
「そっか」
心なしかキースの表情が暗い気がして、申し訳なくなる。
よく考えなくても、この時代に兵団所属をして生きていれば、死に目にも遭う。
「人生には付き物でしょ、私は昔話も好きだよ、起きたことしか起きないんだから」
申し訳なさを仕舞って、首と肩を抱きしめる。
がっしりとした骨を皮膚の下に感じながら、大きな体に甘えた。
「問題児の昔話って、大体面白いじゃない、ねえ、やっぱり問題児っている?」
禿げた頭に顎を乗せて、腕をキースの体の前に持っていく。
胸板を触ると、固い大胸筋に触れた。
「なまえほどではない奴も、それ以上のも、毎年いる。」
「どんな子?」
「調理場の芋を半分以上食った者がいる。」
「うわあ、それはすごい」
訓練兵時代にした、頭痛のしそうな悪戯の数々を思い出す。
そのたびに教官室に呼び出され、当時の教官に怒られたりしたことを噛み締める。
懐かしくなり、椅子にかけた上着をまた着て、キースの上に立ったまま跨る。
お尻が机の縁にあたって、それから太もも同士が触れ合う。
私とは違う柔らかくない筋肉質な足の上に座り、書類を遮られたキースの眼前で、それっぽく敬礼した。
禿げた頭のてっぺんと、頬と、唇にキスをする。
それから目を見て、そういう気分だと伝えた。
「シャーディス教官、脱走兵のなまえです、処罰をお願いします」
背後でペンを机の上に置く音がする。
呼吸の音も耳を澄まさねば聞こえない空間が、どんどん狭まった。
古びた上着を着た私を見て、軽蔑のような視線を注ぐ。
「豚小屋と男子寮、どちらの便所になりたいか言え。」
威圧感の抜けない堅苦しい言葉のキースの目を覗き込んで、口元を甘えさせた。
「教官室がいいです」
「恥知らずな口だ、慎め。」
ペンを持っていた手が、私の尻を一発だけ下から強く叩く。
パアンと鳴った音と共に、呼吸が僅かに漏れてしまった。
叩かれて揺れる肉のだらしない音に、後ろ暗い興奮が引き寄せられる。
怖い顔に近づけられ、目を伏せながら興奮して体を寄せた。
節くれだった手が私の胸元を掴んで、引き寄せる。
「兵舎中の床を掃除して回ったあと、兵団以外所持は認められていない上着を返してもらおうか。」
「私物ですが」
「剥ぎ取られたいか?」
キースの体に胸を押し付け、柔らかさを押し売るように腰を振った。
上着同士が擦れる音がしてから、キースの頭を抱くように腕を伸ばす。
「下着を剥ぎ取る勢いでお願いします」
膝の上に座り込んで、上着を着たままの兵士の姿で腰を動かす。
禿げた頭にキスをして、胸を押し付けた。
力なく、だけどしっかりと長い髪を掴まれ、引き剥がされる。
加減が分かっている人がやる暴力ほど、気持ちのいいものはない。
痛みの無い暴力に自分の唇を濡らすと、怖い顔が目の前に見えた。
自分からキースの唇に舌をねじ込んで頭を抱こうとすると、腕を下に向けられ上着を脱がされ、床に落ちた上着の行方がわからないうちに、髪を掴んだ手が緩む。
私の髪の毛の中を掻き分けるようにキースの指が押し込んで、背筋に感覚が這う。
「丸裸で性欲処理をするのと汚泥に塗れて家畜小屋の掃除をするなら、どちらがいい。」
「教官の言う事なら、なんでも」
「身の程を弁えろ、糞のほうがマシだ。」
「はい、教か、ひっ」
舌を絡ませるたび、わざと音が鳴るように尻と太ももを叩かれ、下半身に熱が集まる。
尻を強く掴まれ、声が裏返る。
痛みで肩が震えたあと、大丈夫だと目で伝えた。
腰を振るのを覚えたばかりの動物みたく強請れば、破裂するような音を立てて尻と腰を叩かれ、胸を揉まれる。
唇の端から唾液が垂れて、指に落ちた。
濡れた指を自分の下着の中に突っ込んで、秘核を触る。
指先が愛液で糸を引いたのが分かって、足をすこしずらして脱ぎ捨てた。
滑りのある音を掻き消すように尻を叩かれるたび、声が漏れ、腰が震える。
「この脳足りんの糞女、兵士達の汚物を掻き集めるか、敷地内の便所掃除でもしてこい。」
「はい、私は駄目なゴミ以下の、ひうっ」
震える腰を、強く叩かれる。
痛みに反応して、尻を突き出す。
私の手の動きに気づいたキースが、嫌悪を連想させるような声で罵った。
「これ以上締まりのない無様な声をあげ続けるのなら、このだらしない尻を発情した牛に満たしてもらうといい。」
殴打に近い力で尻を叩かれ、腰が落ちる。
腫れそうな予感がする尻がキースの膝に触れて、染みていった。
ひりひりと痛むたびに、目尻に涙が浮かぶ。
キースの膝に座り込んでも秘核を触る指の動きを止めず、鎖骨あたりに顔を埋めて息を詰まらせた。
下半身が痛みと熱に、滲む。
「俺の目を見ろ。」
頭の真上から聞きなれた低い声がして、頭から胃の辺りまでに響く。
優しくそう言われ、痛む尻に耐えながら体を起こす。
膝の上に座ったまま、キースを見た。
痛みで滲んでくる涙でよく見えないまま指を動かしていると、腕を掴まれた。
「去勢前の猫のほうが、もうすこし愛嬌よく喘ぐぞ。」
「はい、教か、ん」
腰を抱かれ、引き寄せられ、下着の中に覚えのある大きな手が入ってくる。
乾いた大きな指が濡れたそこに触れて、私の背筋が強張るほどの快感が、一気に這った。
言葉にならない声が、吐息に混じって漏れ出す。
強張る太ももを撫でられ、腰の中に冷たさに似た痺れが走る。
「誰が返事をしろと言った、声をあげるだけなら豚でも出来る、出来損ないの頭にやる知恵はない。」
「ん、うっ」
動かされるたびに、目の前に光が見える。
涙が光に反射して眼球が潤んでいるだけだ。
どこかを決定的に触られたわけでもない、愛撫に掠るか掠らないかの指の動きで、腰が跳ねる。
息が詰まって、全身が痺れて、足がぴんと伸びて、それから疲労と虚無を足して微睡ませたような感覚が入れ替わった。
だるい頭と腰をキースに預け、抱きつく。
震える腰を撫でられ、足が跳ねた。
敏感極まりない体を預けて、キースが潤んだ私の目を見たあと、下半身から手を離す。
背中を撫でられ落ち着かせられ、もう大丈夫だと頭を丁寧に撫でられる。
皺のある指が髪を梳き、頭の熱がすこしだけ出ていく。
さあ続きをと強請ろうとすれば、キースがなんでもなさそうな顔で言い放った。
「書類が終わってからでいいか。」
ベッドの上で濡らして待つはめになりそうな一言を聞いて、狼狽する。
「すっごい理性、そりゃあ酒場でトラウマつくらないはずよ」
膝の上から動けない腰と伸びた足をどうにかする気力が戻るまで、キースの肩に顎を乗せて抱きついた。







2015.07.11






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