狭間の熱



櫻雪さんリクエスト
・冬島さんが好きな子の誘惑に耐えられず手出しちゃうお話





冬島隊の扉を、勢いよく開ける。
充電が切れて音沙汰のない携帯を握り締め、どうか部屋に冬島さんだけがいてほしいと願う。
いつもは、ソファで当真くんが快眠してるかラーメンの出前を当真くんだけが美味しそうに食べている。
面白い光景は好きだけど、当真くんのことは特別好きではない。
嫌いではない、もちろん友達としては好きだ。
でも、私が訪れる目的は別にある。
運のいいことに普段は当真くんが寝ているソファには冬島さんだけがいて、嬉しくなった。
「冬島さん!充電器ない?」
「ない。」
あっさりそう言われ、扉を閉めて携帯を殆ど何も入ってない財布と定期入れの入った鞄に仕舞う。
「えー、ほんと?ショックー、家帰るまで携帯使えないんだけど」
「早く帰れ。」
「やだ」
「そこらへんで充電はやめとけよ、盗電でシバかれるぞ。」
「しないよー冬島さんに借りるつもりだもん」
「小型充電器買ってこいや。」
冬島さんの隣に鞄を置いて、ここは私の座るところ!と目配せする。
見慣れた小型の冷蔵庫の中から、以前自分で調達したお茶を探す。
当然、誰かに飲まれている。
適当な水を取り、冬島さんの隣に駆け寄ろうとした。
胸元のドックタグがよく見える位置に近づいて、早くおじさんをからかって遊びたい。
水を手にして部屋を見渡すと、目に留まるものがあった。
ソファと反対の方向にある、小型の古いパソコン。
電源は入っていて、レゴの一部を壁紙にしたままアイコンがいくつか並んでいるだけの質素なものだ。
仕事用機器にまみれて鎮座するレゴと一緒にある、冬島さんの私物。
鞄の中にある携帯は、充電器を差さないと使えない。
そもそも、ここに来る気になった理由は携帯が使えず、ものが探せなかったから。
いい口実になるだとうと踏んでいたこともあり、パソコンに近寄る。
「冬島さん、借りるね」
水を冷蔵庫の近くに置いて、いいよと言われる前に椅子に座った。
そこそこの時間、電源が入っているようで、パソコンがほんのりと熱い。
勝手に使うなとか、そう言われる気がしてたけど、冬島さんは焦ったような声を出した。
「あっ、なまえ!」
とても刺々しい声がしたけれど、特に考えてなかった。
「時枝くんが昨日駅近くの猫カフェに木虎ちゃんと行ったらしくてさ、住所しりた」
冬島さんのパソコンに近寄り、マウスを握って検索ブラウザを開く。
「くて」
裸、水着、裸、裸、おっぱい、制服、裸、裸、おっぱい、裸、セクシーポーズ、裸、尻、婦警さん、フェラ、セクシーポーズ、裸。
「うわあ」
表示される画像に、思わず引く。
隅にある画像は、画像ではなさそうだった。
目を引く奇妙な動きをする女の子が見て取れそうになったとき、背後からパソコンを取り上げられた。
今のは何だろうか。
冬島さんの反応の限りでは、運悪くウイルスにでも引っ掛けてしまったというわけではなさそうだ。
何も考えずブラウザをクリックしたので、先ほどまで見ているものが表示されただけ。
おそるおそるパソコンを取り上げた冬島さんを見ると、顔を青くしていた。
ソファにドスッと座り、閉じたパソコンをクッションの隙間に隠す。
バツの悪そうな顔を見て、思わずにやける。
「うっわー、見てるんだ、やっばあ」
男の人は皆そういうのを見ているはずだし、当然冬島さんだってそのはず。
かっこつけてても、何かしらそういうものは見ている気がしていた。
冬島さんの冷や汗は止まってない。
きっと、大きいおっぱいと大きいお尻が好きなんだ。
ブラウザに表示されたということは、あれはそういうサイトなのだろう。
「勝手に見たなまえが悪い。」
「他人が触れる距離にパソコン置く冬島さんだって」
「なまえがずかずか入ってくるんだろ、基本ここ冬島隊員以外立ち入り禁止だそ、基本は!」
クッションに挟まったパソコンに触れようと近寄ったら、隠された。
見たこともない怪訝な目と、赤面。
どうしても、さっきの光景を忘れてほしいように思える。
「やっぱおじさんじゃん、エロい」
パソコンなんてなかったように、冬島さんの隣に座った。
「大人をからかうな。」
「からかってないよ」
怒ったように照れる冬島さんが、吼えそうな顔をしている。
「ったくよお、なまえはまだかわいいんだから、ませんのは程々にしとけ。」
思わぬ言葉が冬島さんから飛び出し、我が耳を疑う。
冬島さんの肩をつっついて、笑いながら聞き返す。
「なによ、私のこと可愛いって思ってるわけ?」
「ものの例えに決まってんだろ!」
相変わらず吼えそうな顔をした冬島さんの顔に、またひとつ汗が増えている。
先ほど一瞬だけ見えた画像の群れを思い出し、にやにやしながら冬島さんを問いただした。
「冬島さんさあ、やっぱ女子高生とか好き?」
「はあ!?」
「ね、好き?好きなんだ?」
「そんなわけねえだろ!」
赤面した冬島さんを見て、みるみるうちに私の心は優越感で満たされた。
冷や汗が蒸発しそうなくらい赤くなったあと、真顔になっていく。
大人をからかうのは楽しい。
怒られるか怒られないかの瀬戸際を、常に歩くような気持ちだから、すごくどきどきする。
冬島さんに対してのどきどきする気持ちに、別の理由をつけたいだけなのは、自分でわかっていた。
「だってさっきのやつさあ、ねえ?」
全裸になっておけばいいような画像と、なんか動いてるやつ。
思い出すと、おっぱいが妙に印象的だ。
縦に揺れてて、すごく大きいおっぱいだった。
ああいうものを見て、冬島さんは何をどうしていたのか、考えるまでもない。
「そういうのと現実は別だろうがや・・・。」
両手で顔を覆った冬島さんが呻く。
もちろんわかっている。
弱々しく項垂れるのが可愛くて面白くて、からかった。
「私ね、イケメン好きだよ」
冬島さんが、嫌々と顔を逸らした。
「あーそうかい、なまえくらいの女子はそうだよな。」
私から顔を逸らして、話題を終えたそうな冬島さんに寄りかかる。
がっしりした肩に顎を乗せて、それっぽく言う。
「でもね、みんなと話合わないんだ。髭生やしてるようなチョイ悪が好きなの、だからみんなに何でって言われちゃう」
両手と顔を床に落とすように屈んだ後、起き上がる。
背中を勢いよく伸ばしただけのように見えるけど、確実に呻いていた。
「見た目で選ぶな、中身だ中身。」
冬島さんにしては珍しくもっともなことを言った。
真面目になりかけた冬島さんを、逃がしはしない。
「冬島さんさあ、どんな女の子好きなの?」
聞いたあとから私の胸が痛む。
成長期の胸でも、走りすぎのあとの痛みでもない、別の痛みが胸を締め付けた。
この痛みを、まさか冬島さんと話してる時に体験しようとは。
どきどきが襲ってくる前に、冬島さんが呟いた。
「俺が好きな可愛くて巨乳の女の子。」
やっぱりおっぱいだ。
冬島さんが好きな子は、可愛くて巨乳の女の子。
可愛くて巨乳の子が、冬島さんのことを好きでいる。
言葉としては、どっちの意味にも取れた。
冗談半分を残して、本気でからかう。
「ね、さっき私のこと可愛いって言ったよね」
人差し指で、冬島さんの首筋をつっつく。
「ものの例えだっつったろうが!」
冬島さんが、襲い掛かるように私をくすぐった。
突然の構いに、笑う。
脇腹に飛びつく大きな手が思い切り動いて、身を捩った。
それでも離してもらえず、笑いながら逃げても、脇腹は延々とくすぐられる。
くすぐったくて笑い転げてソファの端から下半身がずるずる滑り落ちていったところで、ようやく許してもらえた。
「あー、面白い」
ソファから落ちて笑えば、冬島さんはようやく私を見た。
いつもの、偉そうな目線。
髭の生えた顎が、よく見える。
這うようにソファに登って、猫のような四つん這いになってから、また冬島さんに懐く。
「ね、冬島さん」
今度は、呼んでも返事がなかった。
頬の顔の赤みはすっかり引いて、もみあげにあった冷や汗もどこへやら。
また大人の顔に戻ってしまったと残念になって、冬島さんの肩を触る。
「ねえってば」
冬島さんの肩に置いた手が、しっかりと捕まえられた。
さっきのようにくすぐられるのかと、冗談半分で逃げるように身を引いた。
手首を掴まれて、腰が何故か引き寄せられて体ごと冬島さんに寄る。
足元がぐらっときたあと、すぐにわかった。
腰に手を回された。
手首の血が止まる感覚がじんわりと広がる程度の力で腕を掴まれたと思ったら、視界が薄暗くなった。
同時に、口のあたりに薄くて柔らかいものが押し付けられる。
びっくりして目を閉じたけど、抵抗しなかった。
息を止めて状況をなんとなく理解する。
顎のあたりに、冬島さんの髭が触ってちくちくした。
私の首筋に冬島さんのドックタグが当たって、冷たい。
唇が触れ合ってずれたときに、ちゅ、と鈍い音がする。
手首を掴む手の力は緩まっていないけれど、私の抵抗がないと分かったのか、唇の柔らかさに熱がこもった。
腰を撫でた大きな手が、お尻から太ももにかけて何度も行き来する。
スカートなんか捲れてて、後ろから見ればパンツだって丸見えだろう。
服もお構いなしに撫でられて、頭の後ろにあった手の変わりにソファの背もたれがぶつかる。
頭の後ろに鈍い違和感を感じたら、体の上に冬島さんがいた。
足をうごかそうにも、太ももの付け根に大きな手がどっかり乗っていて、動かせない。
お尻を触っていた手がするする伸びてきて、胸を揉んだ。
揉まれた途端、覚えのある感覚が胸を締め付ける。
お尻の形を確認するように揉む手の指先が、触れられたらいけない部分に触った。
腰が跳ねると、手は腰から太ももにかけてを何度も触って、揉んだ。
息ができないせいもあるけど、腰のあたりのお腹の中が痺れるように締まる。
どういうことなのかは分かるけど、相手は冬島さん。
腕を回そうにも、体の下のほうに腕があって動けない。
ずっと閉じていた口も、息が上手く出来なくて苦しくなって、仕方なく唇の力を緩めたら、しつこくキスをされた。
押されるがまま、身体の上に冬島さんを乗せる。
唇を開けたら、熱い舌がぬるりと唇を割った。
舌の先のほうを舐められたあと、口の上を舐められる。
冬島さんの舌が入りやすいように唇を開いてみたら、今度は頬に髭が当たった。
真似っこみたく冬島さんの舌を追いかけて絡ませたら、頭と背中を抱きしめられる。
唇の間からぬちゅりと音がしたら、背中と耳の裏がぞくぞくした。
口元が苦しくなって少しだけ呻いたら、冬島さんが唇を離した。
離す時に、ちゅっと恥ずかしい音がしてから、目を開ける。
冷たい空気が鼻から喉に流れ込んできて意識がはっきりしたあと、体を起こして目の前の冬島さんを見た。
妙に座った目をした冬島さんが、近い距離で喋る。
「懲りたか、この態度のまま俺以外の男の前で今みたく売りっぽくませたりしてみろ、これ以上のことされても文句言えねえぞ。
なまえがどんだけでかい声出しても、室内からじゃ分からないからな。」
静かな気配を纏った冬島さんが、私から体を離してそう言う。
体の上から冬島さんは退散したものの、私の体の横にある二本の腕はソファから離れない。
くすぐってきた冬島さんじゃない、ふざけるのをやめた大人の人。
しーんとした部屋に耳を澄ましても、私と冬島さんの吐息だけが聞こえる。
上下する私の胸と、すこしだけ荒い息遣いの冬島さん。
「やっだ、冬島さん息荒くない?」
体の下にあった腕を伸ばして、額の汗を拭く。
痺れそうな腕を伸ばすついでに、冬島さんを腕で招き入れる。
腕を叩かれるかと思ったら、私の腕の間に大きな体がやってきた。
私の首筋に、またドッグタグが触れる。
目と鼻の先にある冬島さんの顔をよく見ると、やはり顔が赤い。
「慣れ行きくさいの、俺は嫌だ。」
「私も、よく知らない人とキスするのとか、そういうのはやだ」
腕を回すと、ごつごつした骨に触った。
肩甲骨とその間を触ってみると、冬島さんが私に吸い込まれるようにキスをする。
唇の力を緩めていたら、飲み込む前みたいな舌が私の口の中を舐めた。
お互いの息が顔に触れて、くすぐったい。
舌を動かすと、口の中で音がする。
聴いたことがないような、ぬちぬちした音。
舌の上で広がった唾液を混ぜるような音が、顔の近くでする。
唇同士が濡れて、触れるだけで音がした。
冬島さんから唇を離されたあと、自分から頭を動かして軽くキスをする。
「髭、すっごいちくちくする」
頬のあたりを差して笑うと、冬島さんの目の力がようやく緩む。
「ね、冬島さん」
「なんだ。」
「好きだよ」
嫌いなら、冬島さんが顔を離したときに股間でも蹴り上げている。
散々からかって、遊んで、ようやくかと思えば、冬島さんが優しく抱き上げてくれた。
「なまえが女子高生終わるまで言うつもりなかったけど、俺も。」
体を寄せてキスをしたら、ドッグタグが冬島さんと私の肌の間に挟まった。






2015.06.10





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