おとこはおおかみ







「今度の演習だけど。」
「エルヴィンのことか、それなら聞いた。」
「ええ、本当?おっかしいな、最速の情報のはずだったんだけど。」
ハンジさんの残念そうな声を聞いて、ミケが鼻で笑う。
演習の時期になると、二人はいつも話しこむ。
真面目な話をしているときのハンジさんは、眼鏡がきらっと光るのだ。
あの光る眼鏡を見たくて、ミケのマントの中から顔を出す。
「ん?」
ミケのマントの中に入って、顔だけ出して伺う私を見たハンジさんは、考え込んだ。
そして、合点がいったように笑う。
「あれだ、こういう光景は市街地で見るね、お父さんが子供をおんぶしている姿にそっくりだ。」
後ろ頭に一度隠れてから、もう一度ハンジさんを見た。
小さくなる私を見て、ハンジさんは明るく笑う。
「ハンジさん、いじわるー」
「意地悪じゃないよ!なまえ、その姿、自分で見てごらん?」
「あったかいんです」
おんぶの体勢のまま離れずにいたら、ミケはそのままマントを着てしまった。
離れるわけにもいかず、意地をはっていたら、今日の雑務諸々に取り掛かってしまう。
軽い身体の私は、背中にいればちょうどいい筋力の鍛えになるのかも。
マントの中で丸くなる私を見たハンジさんは、もっと笑った。
「まあー、ミケの背中なら寝床代わりにもなりそうだ、仲のいい親子みたいだな、君たちは。」
仲のいい、親子。
見ただけなら、それ以外に感想を抱く人はまずいないのではないだろうか。
それが当然であり、今はもう悲しくない。
あたたかいマントの中から降りて、冗談半分でハンジさんに飛びつくと、抱えられてぐるぐると回された。

ミケの指が、私の身体をなぞる。
汗まみれの股の皺に、大きな指が食い込む。
ミケの身体は大きいし、私は小さい。
天秤にかけるのも躊躇うような身体の差があっても、気持ちがあれば、そんなものは簡単に埋まる。
同期の女の子達の会話を思い出す。
最近身体だけで、気持ちのほうは全然なの、もう続かないのかな。
イッたら、それでおしまいなの。
舐めてあげる気にもならなくなっちゃう。
別の男としたら、あそこがでかくてよかったから、今のとは別れる。
男なんて皆、狼なんだよ。
そんな話は、寮の片隅から聞こえてきた。
そういう話をしない子は女の子じゃないと言い切るような子は、たしかにいた。
女の子らしいこととは、なんなのか。
考えれば考えるほど答えのなさそうなことは、出来るだけ考えない。
私は偶然にもそうじゃなくて、できるなら遊ぶ時間は皆と遊びたいと考えるような気楽な子だった。
可愛いペトラは、恋をしていた。
恋と愛情を求める心が一緒になっていた私も、恋をしている。
同期の女の子達の会話を、嫌にしていたわけではない。
なんとなくどういうものか、それは分かっていた。
何度もしても、私の身体の中に入ってくることはない。
なんとかして慣れれば、半分くらい入るかもしれないとか、そういうことを考える。
それをすることは、ない。
ミケさんは、私が気持ちよくなることだけを目的に行為をしているようだった。
私は何度も気持ちよくなって、行為が終わる頃には、顔が涙と涎と時々鼻水にもまみれるくらい、快感に追い詰められる。
今日もそうだ。
寝転がっても、腰が浮いてしまう。
「ひう、う」
声が漏れて、お腹の下が締まる。
思わず足を閉じると、太ももの内側がぬるりとした。
焦点の定まらない潤んだ目で、ミケを見る。
気持ちよさと心地よさと恥ずかしさで、すぐに目を閉じてしまう。
そうすると、視線を合わせようと指で気持ちのいいところを探る。
唇に何かが触れれば、舌を出す。
キスをされている間も、指の動きは止まらない。
恥ずかしい音が、たくさん聴こえる。
足を閉じようにも、大きな腕は私の足の間にあって、閉じられない。
「も、やだ」
快感に責められる身体に慣れず、ついそう漏らす。
やだ、という言葉を聞き取るとミケはすぐ手を止めて、私の様子を伺う。
「苦しかったか。」
心配そうな気持ちが孕まされた声が、私を撫でる。
苦しくない、と首を振ると、頭を撫でられキスをされた。
濡れた唇が触れて、ちゅうと音がする。
「おなかのなか、ぎゅうって、きもちい」
目の前にいるミケに、苦しくて出た声じゃないと伝えた。
私ばっかり寝転んでいては、頭が気持ちよさに疲れてしまう。
痺れかけの腕を伸ばすと、軽々と抱き上げられた。
筋肉の塊のような胸板に寄りかかって、ミケの肩をぽんぽんと押す。
目があって、それでもぽんぽんと肩を押すと、ミケは私を抱きかかえたまま渋々寝転がった。
腕からするりと抜けて、下半身のほうに身を寄せる。
「やりたい」
大きいそれに触れると、なにかぬるっとしたものがついた。
透明な何かが、先のほうについている。
「おい、なまえ。」
ミケの声は、怒ってはいない。
跨るふりをすると、先っぽが私の臍のあたりにきた。
「ちんちん、おっきいよねえ」
私がにやりとすると、ミケが照れた。
今更なにかと思っているのだろう。
上手くミケを寝転がせたので、上に乗る。
「なまえ、それはいい。」
いやと言いつつも、いやがっていない。
まるで、気持ちよくされているときの私のようだ。
困ったような照れ方をするミケを弄るように、腰を降ろす。
太ももで挟んで、自分のそこと密着させて、脚を動かす。
手でするより、こうしたほうが上手く出来る。
遊んでいるように太ももで擦りながら、ミケの顔を伺う。
「おおかみって、くんくんするよね」
まったく関係ない話題を、出してみる。
「狼?」
意味がわからなさそうな話題を振って乗ってくれるのは、何かから逸らしたいはず。
赤い顔のミケを、からかった。
「鼻がよくないと獲物を見つけられないし、おとこはおおかみだって、みんな言ってたの、でもミケは狼じゃないなあって」
ずりずりと、太ももを動かす。
息が、だんだん荒くなって、眉の間に皺が寄っていく。
嫌がっていないミケを見ていると、反論のように呟かれた。
「なまえが可愛い顔をしていたら、それを見過ごせない程度、だ。」
「なあにそれ」
私のように目を閉じたりはしないものの、いつもより顔が赤い。
なんだか、わくわくしてくる。
いつも、ミケはこんな気分で私を押し倒していたのだろう。
それならわかると太ももで扱く真似をしていると、ミケの大きな手が制止にかかった。
「なまえ、こうしろ。」
ミケが、しっかりと私の腰を掴む。
私の腰を掴むと、ミケのほうがそのまま腰を動かした。
思いきり擦れて、仕掛けたはずの私が喘ぐ。
がっしり掴まれて逃げられない。
「ん、あ、こすれ、るっ」
腰を捕らえられて気持ちいいからと、つい足が伸びる。
こういうときになると、何故か足が伸びてしまう。
ぴんと伸ばした足、自然と擦りつけてしまう腰。
擦れれば擦れるほど、足がぴんと伸び、太ももに力が入る。
ぬるぬるした太ももと、そこが擦れる様子がすぐ真下に見えた。
とてつもなく、恥ずかしい。
ミケが、首を起こして、私の足先に届く距離に口を添えたかと思えば、私の右足の親指がミケに食べられた。
薄い唇とぶ厚い舌が、指先を包む。
「わひゃ!?」
反射的に出た間抜けな声は確かなものだった。
大きな口に、爪先が食べられている。
足の爪が歯に当たって抵抗感が生まれても、すぐ舌に含まれて消えた。
食べられてしまうように、口に含まれる。
でも、噛まれはしない。
優しく愛撫する舌と、たまに当たる歯が、刺激へと変わる。
足先から、ばりばりと食べられてもおかしくない。
だって男は狼だから、と言った誰かの言葉を突然思い出す。
私の狼さんは、食べない。
食べないかわりに、私をいつか食べてしまうために、ずっと餌を与え続ける。
そのうち食べたとき、美味しく食べられるように。
冗談めいたことを考えたものの、大きな身体のミケが狼と同じように獲物を抱えている姿は、想像に難くない。
私が獲物なら、裸になっているうちに食べられてしまう。
いつ、食べてくれるのかと待っていると分かったら、嫌われてしまうかな。
ミケの大きな手が汗ばんでいる。
ひとつは私の腰に、もうひとつは私の胸を刺激し続ける。
思い切り掴まれて力を込められてしまえば、私は崩れてしまう。
それをしない、私を愛撫しては、愛でるだけ。
ミケの髭が足にあたって、くすぐったい。
熱い吐息が肌の触れるだけで、身体が火照る。
伸びた足先を焦らすように舐める口が、唾液の糸を引いた。
「なまえのここも、柔らかい。」
足の指の隙間に、舌が入り込む。
甘噛みをされる足の指と、擦れる性器。
粘液の音と衣擦れのような音が、混じって耳の中で浸る。
「んんっ、い」
締まる太ももと声に察したのか、ミケの腰の動きが緩やかになる。
刺激が僅かに減っただけなのに、自分の腰が揺れた。
「やめ、ゆっくりしないで、もっともっと」
わがままを言うと、ミケは遠慮なく腰を揺らす。
気持ちいいのと、揺れるたびに擦れて刺激されるのが好きで、だらしない声ばかり出る。
「ミケぇ、きもちい、もっと」
腰のあたりが締まってから、背中が伸びる。
太ももと足先が、余計にぴんと伸びて、身体の奥のほうから登ってくる感覚に息を詰まらせた。
「ひっ、あああ、んっ!」
身体は締まるのに、腰だけが動く。
達してしまえば、余計敏感になってしまう。
それでも、欲する身体がある。
寝起きみたいに、ぼーっとする頭と、感覚だけはっきりした身体。
虚ろな意識の中を、快感だけが支配する。
気持ちいいのは達したはずなのに、与え続けられる快感と揺さぶりと、お尻と太ももにあたるミケの肌が、愛しい。
ぎゅうっと締まる身体、一瞬だけ遠のく意識。
すぐに戻ってきても、意識は快感にごちゃごちゃにされる。
太ももにすこしだけ力が入って、耐えた息を吐き出す。
唇から、透明な涎が、だらーっと垂れて、すぐ切れて落ちる。
身をよじって前かがみになると股の間の熱が増した。
頭の熱が、外に飛んでいくような感覚を受け取る。
太ももで挟んでいるものが、びく、と動いた。
自分の足が痙攣したのかと思えば、挟んでいるものの先から白い精液が勢いよく飛び出す。
反射的に目を閉じれば、顔に熱くて重い、べたついたものがかかった。
「きゃあっ」
頬と鼻にかかった精液を指ですくう気にもならず、おそるおそる目を開けた。
目にはかかっておらず、精液を顔につけたままの私に快感を揺すりつけるミケを見た。
据わった真剣な目つきと、男の人の顔。
べたつくものがかかった顔を見て、ミケの顔が
ミケの腰の動きが止まって、ようやく顔に手を伸ばす。
指で精液をなぞると、ぬとりとした感触が指先に滑りついた。
べたついた精液を舐めると、ずっしりした重たい味が舌の上に広がる。
舌でも歯でも噛み切れない液体を口の中で転がして飲み込もうとすると、喉にひっかかった。
飲み込んでいいのか、喉が判断し兼ねている。
舌の上で渦巻く味が広がり、僅かな違和感を感じ始めた。
口の中は、いつでも正直だ。
飲み込むか飲み込まないか悩んでいると、ミケが私を抱きしめたまま起き上がり、軽くキスをしてくれた。
精液を飲み込んだ唇を開かずに、頬を膨らませる。
いつものように鼻をつつかれてから、鼻で笑われた。
それでも、またキスをしてくれる。
何度もキスをされるうちに観念して唇を開くと、熱っぽい舌が割って入った。
自分の唾液と、ミケの精液と舌が、絡まってべたつく。
耳の、限りなくすぐ近くでする粘液の音が恥ずかしくて、また目を閉じた。





2015.02.20






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