到底敵わない、大人の人へ。








「おー、レゴだ。」
「そうよ」
袋から出して、箱を眺めて、のほほんとしている。
冬島さんは箱の蓋を丁寧に開けながら、嬉しそうにした。
「おいおい、これ以上俺のレゴコレクションを増やす気かあ?」
散らばっているかのように見えるコレクションは、実は規則性がある。
タワーの隣には、戦車のような何か。
砲台のような何かの隣には、議事堂のような建物がある。
隣接されたレゴスペースと冬島さんのパソコンの位置は近くて、遊び心を忘れていないんだな、と思う。
「そうよ、コレクション増加を手伝ってあげる」
蓋を開けて、レゴをひとつ手に取る。
「タワー部分に乗せる。」
これとこれ、と三つ手に取って、置こうとしたときだ。
指先からの違和感を感じ取ったのだろう。
レゴを見て、指の間で転がす。
一個一個はパーツのようでも、何かが違う。
たとえば、表面。
中身に触れて、ようやく気づく。
つるつるしているわけでもなく、かといって無機物ではない。
ひとつをよく見て、それから箱を見る。
パーツの匂いを嗅いだ冬島さんが、ようやく正体を把握した。
「なんだ、これ、チョコレートじゃん。」
呆気に取られたような、間抜けな声だ。
トラッパーをしている人が、気づかないわけがないと思っていたが、予想外だ。
本当にレゴだと思っていたらしく、なんでこんなものを、と言おうとしたのだろう。
赤い顔をした私を見て、冬島さんが気づく。
「あ。」
ケアレスミスを防いだ学生のような顔をした冬島さんと、目を合わせる。
恥ずかしさで、倒れてしまいそうだ。
赤い顔をした私とチョコレートを交互に見て、にやりとする。
「そっか、そうだったな、ありがとう。」
レゴブロックが好きな冬島さんのために買ってきた、レゴブロックチョコレート。
遊び心が効いたものなので、おもちゃ屋に近いお菓子屋に行かないと無かった代物だ。
「どこで見つけたんだよ。」
そんなとこにまで言って買ったとは言えずにいると、冬島さんはレゴの模造品のような袋に包まれたチョコレートを積んで、遊び始めた。
縦にどんどん積まれていくチョコレートを見て、責任を食べ物に押し付ける。
「食べ物で遊ばないの!」
「はいはい、なまえさん。」
レゴチョコレートのひとつ、あれは工事現場の人を模したものだろうか。
それの包み紙を取って、チョコレートを食べる。
もごもご動く頬を、じっと見た。
男の人らしい、髭のある顎と、ぱっと見は柔らかくなさそうな頬。
「おー、これうめえじゃん。」
食べ終わった冬島さんが、美味しいと言う。
次々にチョコは冬島さんの腹に収まっていった。
たしかに嬉しかったが、冬島さんは顔を赤くした私を見て、それからにやっと笑う。
「にやにやしないで!」
「なまえ、顔めちゃくちゃ赤いぞ。」
指摘され、熱が頭に集まる。
恥ずかしいのと、照れくさいのと、嬉しいのが、一気に襲ってきた。
「うーるーさーい!!髭おっさん!ひきこもり!」
からかっても、馬鹿にしても、無駄。
きっと、バレンタインだということには気づいていた。
本当にひきこもりなら、バレンタインだと気づかない。
「インテリエンジニアって呼んでくれよ。」
「やーだー!おっさん!」
レゴチョコをひとつ手に取って、冬島さんはそれにキスをした。
「はいはい、なまえ、おっさんは嬉しいです。」
チョコにするくらいなら、私に。
と言いかけて、はっとする。
冬島さんは箱を私の目の前に置き、差し出した。
「食い終わってない分で遊ぶか、ほら、これをこうして。」
積まれたものは、けっこう色々な形がある。
組み合わせができそうなものとか、人型とか、車型とか。
文字もあるし、マークもある。
これだけあれば、昼寝と酒のつまみに消えてしまうだろう。
「おっさん」
照れ隠しに、そんな言葉しか言えない自分が、腹立たしい。
だって、目の前には、チョコレートを受け取ってくれた大好きな人。
「なんだよ、なまえ。」
レゴの形をしたチョコレートを、ひとつひとつ並べていく。
特に規則性もなく、ただ並べているつもりだった。
それに、こちらのことなんて気にしていないと思って、好き勝手にする。
ひとつひとつを並べて、形を頭に思い浮かべて並ばせれば、なにかになっていく。
恋も、そういうものなのだろうか。
自分より年上の男の人に恋をしても、それがきちんとした愛になるとか、そんなことを考えては、頭の中の煙を消し去る。
冬島さんから見たら、私はずっと子供のまま。
どれだけ背伸びをしても、私自身が大人にならないのなら、冬島さんは振り向いてくれない。
積み上げていくうちに、思いは完成するのだろうか。
チョコレートをひとつひとつ並べて、英字の単語に並べた。
LとOとVと、Eを完成させようとしたときだ。
ふと冬島さんを見ると、いつも以上ににやにやしていた。
私の手元を見て、悪戯をする子供のように笑っている。
恥ずかしくて、冬島さんの腕をぺしぺし叩く。
「いてえ、いてえ、やめろ。」
本当は痛くないくせに。
赤い顔をして、泣きそうになるのを堪えながら、冬島さんを伺った。
「馬鹿にしてねえよ、そんなに赤いと熱出してぶっ倒れるぞ。」
ぶっ倒れたら、全部冬島さんのせいだ。
そう言うまでもなく、冬島さんは笑う。
「ありがとう。」
バレンタインとしては成功なのだろう、でも、私の気持ちは沸騰してぐらぐらしっぱなしだった。






2015.02.14





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