どこにいるかも分からない、気まぐれな同級生へ。








仮眠室でもなんでもない、空き教室の一角で堂々と昼寝をする当真くんにそっと声を掛ける。
「当真くん」
起こすつもりで、囁くようにそう言うと、当真くんは目も開けずに返事をした。
「当真は席を外しております。」
長い足は机の上で組まれていて、随分と偉そうな体勢のまま寝ている。
先生方に見つかれば、怒鳴られるだろう。
見つからないように、こっそりと、そして隠れた先では堂々と寝る。
それが彼だ。
眠そうな声に微笑んで、もう一度名前を呼ぶ。
「当真くん」
ようやく片目を開けた当真くんに、にっこりと笑いかける。
眠そうな顔のまま、身体を起こして私と向き合う。
「なまえが昼寝の邪魔すんの、珍しいな。」
空き教室を見つけて、昼寝をしていることは分かっていた。
でも、どこの教室かは分からない。
探すのに1コマ潰すつもりで探して、陽のあたりやすい階を探せば、すぐに見つかった。
当真くんは猫のように、暖かいところで昼寝をしていることが多い。
寒いところで隠れて昼寝をするような人ではないし、保健室で堂々と仮眠しているところも見たことがなかった。
あくまでも自分の自由のために動く。
自由を最優先して、かつ人の邪魔を避ける。
当真くんは、そういう人。
優雅な昼寝の邪魔をした埋め合わせを渡した。
「はい、あげる」
袋から箱を取り出して、当真くんに差し出す。
「あ?くれんの?」
箱を受け取って、眺める。
受け取ってもらえて安心してから、当真くんの反応を見た。
猫の形をした、妙に小奇麗な箱に仕掛けがないか確かめるように、色々な角度から見ている。
小奇麗に包装された箱と、ラメの入ったリボン、なんとなく漂う甘い匂いに、中身を察したようだ。
「バレンタインか、そーいや男共がそわそわしてたな。」
照れた様子もなく流れるように喋る当真くんは、やっぱり大人っぽい。
もし、照れ隠しなら、隠していないところも見たい。
いやいや、それはできない。
私と当真くんは、まだ付き合ってもいない。
チャンスを掴むのはいいけれど、期待をしてはいけない。
「お腹いっぱいだった?」
「いや?まだ昼飯くってねえし。」
「もう貰ったチョコ食べてるのかなって」
昼寝をしている当真くんを見つけたら、チョコレートまみれで寝ていた、なんてことがあってもおかしくない。
見た目が怖いけれど、性格は悪くない。
人によっては嫌みったらしく憎たらしく思えるのかもしれないけれど、私はそう思わない。
悪いことばかりしている不良達とつるんでいる様子がないところを見れば、どういう人かは大体わかる。
かっこつけていいくらいの自信がある、普通の男の子。
「俺くらいになると、貰わなくても食えるんだよ。」
いい感じに意味のわからない発言を聞き流した。
お菓子を貰ってくれるくらいには、余裕のある人だ。
当真くんは猫の形をした蓋を開けて、にんまりとした。
「これ可愛いじゃん。」
鑑定士のように、開けた箱の蓋を眺めている。
猫の絵が大きく描かれた猫の形をした箱が、気に入ったようだ。
当真くんの猫好きを考えて買ったものなだけに、にんまりとされるのは嬉しい。
猫の形をしているのは箱だけではない。
入っているチョコひとつひとつが、色々な種類の猫の形をしている。
「猫チョコのほかにもあるんだよ、犬とか牛とか」
「俺は猫がいい。」
猫が好きだと言っていた当真くんにぴったりのチョコは、気に入ってもらえたようだ。
ラメ入りのリボンをまじまじと見つめ、リボンに猫の柄が印刷されていることに気づく。
「リボンも猫柄じゃねえか、完璧だな。」
嬉しそうにする当真くんを見て、つい笑顔になると、当真くんは得意気にした。
「俺の好みをガッチリ押さえてるな、気に入った。」
チョコをひとつ手にとって、食べる。
当真くんの舌の上でチョコが溶けていくたび、にやりとする。
美味しいらしい。
にんまりとしたまま、箱を私に差し出す。
「一人じゃ食い切れねえから、なまえ、これ食おうぜ」
「いいの?」
どれにしようかと定めて、茶色の猫チョコに手を伸ばそうとした。
当真くんの長い指が、そっと私の手を止める。
「でも、茶猫チョコは全部俺のものだ。」
長い指で、手の甲をとんとんと合図されるように触られた。
悪戯をしようとした猫を叱るような手つきに、思わず手どころか動きまで止まる。
別の白と黒の縞々のチョコを手に取って食べると、当真くんは茶色の猫チョコを早い者勝ちと言わんばかりに食べた。
可愛らしい一面に、笑みが零れた。
「なまえ、今度ラーメン奢るわ、ホワイトデーそれでいい?」
「ラーメン?」
「うん、俺ラーメン好きだから、あとバナナも好き。」
チョコを頬張る当真くんが、嬉しそうにした。
「ありがとう」





2015.02.14





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