のぼせの手前






二人分の冷えた体温のおかげで、湯気はすぐ薄くなった。
「あったかいね」
濡れた髪をまとめた春秋が、こちらに向かって手で水鉄砲をしてくる。
得意げに避けていると、自分の髪留めが取れて、お湯の中に落ちた。
慌ててお湯の中から拾って、髪を纏めなおす。
「おふろーおふろー」
誤魔化し程度に歌う。
濡れた髪をまとめる髪留めに、雫が垂れる。
肩まで浸かって一息ついてから、洗った髪をまとめた春秋を見た。
風呂だということもあって、いつも隠れている首筋が丸見え。
男らしい骨っぽい鎖骨に雫が垂れて、色っぽい。
「この入浴剤どう?柑橘系なの」
お湯をすくって色を見る。
浴槽は不透明だけど、手にすくえば、ある程度薄まって手の平が見えるくらいの色をしていた。
「うん、いいね、俺は柚風呂とか好きだよ。」
柚風呂に入って、日本酒片手に露天風呂をする春秋を想像する。
似合うかもしれない。
そのうち温泉にでも行きたいな、と思いつつ、自宅での風呂タイムの充実を勧めた。
「次は泡風呂やってみようよ、泡風呂!」
「鼻に泡つけて、サンタとかやるつもりだろう。」
「なんでわかったの」
「なまえのことだからな。」
「お風呂には拘るのよー」
「なまえは風呂が好きなのか。」
「うん、美容と健康には風呂でしょう」
わざとらしく唇を作って頬を押さえて、ふざけたポーズをすると、春秋の視線が私の顔から胸に降りた。
「なまえの胸元、綺麗だよな。」
なんとなく、胸元を隠す。
足を抱えて体を隠して、わざとむくれた。
「今更隠さなくていいじゃないか、見慣れたけど、見てると触りたくなる。」
「もう」
むくれてお湯とにらめっこしてから、思いついたことを喋る。
「こういうとき、なんかおもちゃでもあったらいいのに、アヒルさんとか」
「バスタオルとかあれば遊べるぞ。」
「浮かせて泳がせるやつがいい」
小さいときは風呂で遊ぶおもちゃが必ずあった。
大人になってから、そんなこと考えたこともなったけれど、一緒に入る人がいれば別だ。
「子供がいたら、風呂場って遊び場でもあるから、自然とそういうの増えるよな。」
「そうだねえ」
丸い入浴剤を風呂に入れると、中から小さいおもちゃが出てきたりとか、そんなものもあった気がする。
それよりも新しい入浴剤に手を出してみたいと考えていると、春秋がふと呟く。
「子供か、欲しいな、二人くらい。」
「私も」
思わず返事をして、春秋と顔を合わせ、それから赤面した。
暫し、静寂が流れる。
風呂で温まっているだけにしては、春秋の顔が赤い。
話題を逸らすように、春秋が世間話を始めた。
「おもちゃで思い出したんだけど、冬島わかる?」
その名前を聞いて、すぐに顔が思い浮かぶ。
「ああ、冬島さんね」
見るからに今でも遊んでそうな、春秋の先輩。
何度か会ったことも話したこともあるし、どういう人物かもわかる。
冬島と名前が出てきた瞬間、この世間話は面白いものだと確信した。
「あいつがこの前、釣りのおもちゃ作ったんだよ、魚とかコンドームが釣れるような案の定のやつ。」
なんとか笑いを耐える。
この笑いを耐えれば、素晴らしいオチで盛大に笑えるに違いない。
笑いに耐える私を見て、春秋が噴出しそうな顔をして話を続けた。
「それを、佐鳥あたりにやらせようとしたら女の子達に見つかっちゃって、おもちゃ取られて遊ばれて、セクハラだの変態だの叫ばれてボコボコにされてた。」
「想像できる」
「あいつ、女子高生に逆らえないから。」
面白くて笑うと、春秋も笑った。
女の子達に殴られても、一切反撃できずにいる冬島さんは、想像に難くない。
大体そんなおもちゃを作って、何がしたいというのだろう。
そこは、冬島さん本人にしか分からないことだ。
ひとしきり笑うと、心地よい温かさが身体を巡った。
「のぼせてきた」
風呂の縁に上半身を乗せて、一息つく。
お湯から出た身体は、風呂の蒸気を肌に感じて潤ったまま。
半身浴をする私を見て、春秋が髪をかき上げた。
「出ないのか。」
「ここで汗を出すのが半身浴の醍醐味」
縁に腕を置いてだらけていると、春秋が少し身を乗り出した。
「柔らかそうだな。」
言った矢先に、春秋は私のお尻を掴んで揉んだ。
温かい肌同士が触れ合って、心地いい熱を孕む。
長い指が肉に埋まっては弾力で押し返される。
手つきが、冗談半分本気半分といった具合だ。
「身体が温まっていて、余計柔らかくなってる。」
濡れた尻を、春秋が撫でる。
あ、きもちいい、と身を委ねそうになりつつも、理性はまだあった。
「ね、ここ風呂!風呂だって!」
身体をよじると、春秋が迫ってきた。
ゆっくり伺われたあと、抱きしめられる。
今にもキスしてきそうな春秋にたじろいでると、お湯の中で腰を撫でられた。
「じゃあ足湯みたく、縁に座って。」
嫌という気持ちも沸かず、おずおずと立ち上がり、縁に腰をかける。
膝下が、お湯に浸かった。
温まった身体は、今度は別の熱のおかげで冷えそうにもない。
足の前に春秋が身を寄せて、私を見る。
爪先の熱さを感じながら足を開くと、春秋が招かれた。
腕を伸ばして私の肩を掴んだ後、身体を寄せてキスをする。
熱い唇に、汗がついた。
掴んだ肩をそっと離したあと、私の太ももにキスをして、痕をつける。
男の人の薄い唇と私の白い太ももの間から、ちゅ、と音がした。
私の足の間にいる春秋が、私の胸を揉みながら、性器を舐める。
熱い舌が雫と混じるそこを割って、慣れた舌の動きを感じた。
洗ったばかりの身体が、熱にまみれていく。
大きな両手に胸を揉まれ、気持ちいい。
血流がいい状態では、随分と効くマッサージのようにも思える。
揉まれていく両胸の形は、春秋の指の動きで変わっていく。
濡れた春秋の髪は、艶めいていた。
髪と、濡れた首と、腕。
私に触れるたび、お湯で濡れた筋肉が光る。
大きな手が、私の膝の裏を撫でるように触った。
「んっ、あ」
春秋が舌を離すと、ぬとりとした感触がした。
舌を当てて動かすたび、小さな水音がする。
音は次第に、キスの時のような音へと変化していった。
粘着質な音がするたびに、恥ずかしくなる。
舌の動きと音で、どれだけ濡らしているのか自分で分かってしまうからだ。
「や、も」
吐息も、声も、反響する。
当然だ、ここは風呂場なのだから。
静かな密室には、私の吐息と、声と、春秋が舐める音がする。
下から上まで舐めたあと、臍の下まで舌が伝う。
「なまえの声、隣に聴こえるかもな。」
私の股の間で羞恥心を脅す春秋にも、燃え上がってしまう。
ふいに口を押さえると、悪戯っぽく春秋が微笑んだ。
「冗談だよ、風呂での声が聞こえる設計の家じゃないから。」
薄い唇が、また私の股に潜る。
太ももの裏に力が入って、自然と膝から下が真っ直ぐになる。
ぴんと伸びた足は春秋の身体に触れて、春秋の後ろで組む。
やめないで、もっとして、と口より先に身体が言っている。
かかとが春秋の背中に触れると、薄い唇は肉芽に吸い付き舌先で焦らすように愛撫された。
足に、力が入る。
もしここで、これだけで達してしまえば、確実にのぼせて気を失うだろう。
それに、ここで自分の昂ぶりをおしまいにしてしまいたくなかった。
ゆっくりと、腰を引く。
春秋を見て、嫌悪がないことを視線で伝える。
痺れそうな足を動かし体勢を変えて、恥ずかしげもなく、春秋にお尻を向けた。
春秋の顔の目の前に、私のお尻がある。
当然そこも丸見えだ。
のぼせかけたおかげで、頭がぼやけているせいだろうか。
誘うように、軽く腰を振る。
太ももに軽いキスをされたあと、私の後ろに春秋が覆いかぶさった。
身体をすこし折って、尻を突き出す。
なんの抵抗もなく体の中に異物感が現れて、喘ぐ。
尻に触る春秋の肌は熱い。
呼吸をするたび、入浴剤の匂いと、春秋の匂いと、自分のいやらしい匂いがする。
熱い身体同士が、重なる。
尻を振って擦り付けるように動かすと、硬くなったものが奥に押し込まれた。
体が温まったおかげで、筋肉が柔らかくなっているのかもしれない。
挿入されたまま、春秋にお尻を擦り付ける。
春秋の吐息は、風呂場特有の反響の中に消えていく。
後ろから抱きしめられ、内腿を雫が伝う。
なんの雫なのか、気にもならない。
腰を動かす春秋の吐息が乱れる。
私のほうから腰を振ると、片手で押さえつけられた。
我慢ならないといった具合に、膣内が押される。
奥に、奥に、と突かれる動きを受けながら、先ほどの会話を思い出す。
子供欲しいね、二人ほしい、そう言ったあとの春秋の赤い顔。
付き合っている期間は長いものの、こういう関係になったのは最近のことだ。
こうしている時の春秋は眉間に皺が寄ったり、気持ち良さそうな顔をしたりと、まだ知らない表情を見せてくれる。
のぼせかけて熱い頭でも、春秋が好きなことはしっかりと分かっていた。
春秋の腕が、私の体を強く抱きしめて、私が腰を振る余裕も与えなくする。
腕に込められた力を受け入れて、滲む汗と押される肉が息を圧迫した。
ぎゅうと抱きしめられたまま、腰を振られる。
首筋にキスをされて、痕をつけられた。
汗が伝い、春秋の腕と私の体の隙間に垂れ、興奮した吐息が耳にかかって、くすぐったい。
膣内で膨れたものが、動くのが分かる。
奥に押し付けるように、ぐっと腰が動いた。
押し付けられ、体内に熱を吐き出され、内臓が締まる。
春秋の吐息に耳を澄まし、熱を伺った。
中で滲む快感と、春秋の吐息。
硬さが僅かに残るものを引き抜かれ、残された熱が垂れないように締める。
どのみち漏れてくるものは漏れてくるけれど、ここは風呂だ。
すこしくらい悪あがきしても、なんともない。
春秋が私を後ろから抱きしめて、静かな声で呻いた。
「したいときは、ちゃんとしたいって言って、そのほうがそそる。」
そうね、と言ったあと、性欲が抜けた身体は正気に戻った。
「あつ・・・」
「もう出るか、本格的にのぼせてしまう。」
沸騰しかけの血が、頭に上りそうだ。
私を抱きしめる春秋の声が、ぼやけている。
盛り上がったのはいいものの、軽くのぼせかけてしまった。
ふらつかないだけ運がよかったと思いつつ、お湯から抜け出しシャワーを下半身にかけた。
どろりと漏れ出した精液を洗い流して、首元の汗を流す。
ついでに春秋の身体にシャワーをかけると、春秋は思い出したような顔をした。
「防水性のおもちゃ、冬島なら作って持ってたりするかな。」
「なんのおもちゃよ」





2015.02.08



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