玩具に非ず






単行本9巻カバー裏にて「女子高生には逆らえない」と判明したネタ




「新しいトラップは完成しましたか?」
冬島さんが籠もっている部屋に突撃して第一声が、いつもこれ。
たまに冬島隊の人が打ち合わせをしていることもあるので、第一声だけは私語を抜く。
パソコン周辺を弄りながら、冬島さんは私に目をくれる。
「出来てても教えない。」
にやついた目が、今日もいつも通り。
大体部屋にいるから半袖のままで、見た目だけは遊んでそうな人のまま、何かしら手を動かしている。
トラッパーの位置の大変さは全て分からなくても、部屋にあるレゴブロックが形を保っているうちは、きっと大丈夫。
「なまえ、学校は?」
「午後サボった」
「またかよ、それで俺のとこ来て部屋ぐっちゃぐちゃにすんの、やめろや。」
「人聞きの悪いことを、片付けてるだけよ」
積まれたレゴブロックのひとつを弄る。
久々に新しいものが増えたのか、レゴのすぐ近くに解体された箱と、お菓子が入った袋があった。
机の下には服屋の紙袋もある。
午前中に、重い腰を上げて買い物をしてきたことが伺えた。
「そういうことするの、うちの隊員だけでいいから。」
「お節介でーす」
「ちゃんと学校行っとけよ。」
「やだよ、ここにいるほうが好き」
お菓子が入った袋に手を伸ばし、花柄が印刷された長い袋の束を掴む。
そのうちの一つを千切って、手が汚れないように袋に口をつけて中身の飴を食べる。
こういうとき、長い爪は便利だ。
「先生とか携帯持ってきたくらいで怒るし、きらーい」
「多分、なまえは目つけられてるんだろうよ。」
「そうかな」
「学校にお洒落していったら、センセー方は邪険にするだろ。」
「言われてみればそうね」
冬島さんのペンダントと同じ色のネックレスを学校にしていった日は、怒られて大変だった。
同じようなものを見つけたから、と言って冬島さんに見せたら、笑ってくれた。
年頃相応にお洒落をしても、怒らない。
にやついた顔をして雰囲気は緩くても、怖い人ではない。
そういうところが、凄く好き。
口の中で飴を溶かし、何味か堪能する。
気に入れば、この飴をどこで買ったのか冬島さんに聞くつもりだった。
だが、おかしい。
舐めても舐めても、味がしないどころか、奇妙な違和感が味覚を襲った。
舌の上で何度転がしても味は広がらす、それどころか面積が増していっている気がする。
溶けるわけでもなく、噛んでも噛み切れない。
歯にくっつかず、弾力が随分と不自然な食感だ。
涎と同化することもない。
間違いかもしれないと思って、しっかり舐める。
噛む勢いで歯を立てても滑って食べれないこれは、これは。
そう、これは、もしかして、食べ物じゃない。
「うえっぷ!?」
「どうした?」
「おえ、なにこれ!?」
明らかに飴ではないその感触に怖気を感じて、吐き出す。
自らの手にある袋を確認して、たしかに中身だけ上手いこと食べたのを確認する。
飴だと思った吐き出したものは、薄い袋のようなものだった。
口からびろんと伸びて、舌の奥にまでくっついている。
えづきながら取り出す私を見て、冬島さんがなんとも言えない顔をした。
「おい、それ・・・。」
お菓子ではない異物を食べた私を、心配するどころか何も言わず呆然と見ている。
口の中にあるものにも、冬島さんにも弱々しい怒りを覚えた。
手の平に吐き出して、冬島さんに詰め寄る。
「なにこれ、飴じゃない!飴のおまけ?不良品?なにこれ?」
お菓子ではない何かを持って私を見て、冬島さんは気まずそうにした。
それどころか、本気で驚いている。
何も言えないような顔をした冬島さんが、抑制の無い声を出す。
「えっと、それは・・・知らないの?」
「わかんないから聞いてるんでしょ!」
私が怒ると冬島さんはまさに苦笑、といった笑顔を見せた。
にやついた目が、もっとにやつく。
気まずそうな口元が歪んで、三日月のような形になる。
「いや、冗談だよな?知らないとか。」
信じられないものでも見たかのような目と、見たこともない苦笑い。
明らかに私を疑っている。
「なに、馬鹿にしてんの!?」
苦笑いの冬島さんに突っかかると、両手でガードされた。
骨っぽい両手が、私を遠ざけようとする。
その様子に何か重大な秘密を感じ取った私は、更にじりじりと詰め寄った。
「ほんとに知らないのか?さすがにちょっと知識と言うか意識が・・・。」
「うーるさい!教えなさい!なにこれ!」
誤食したついでに、この謎のものの正体を聞きたい。
冬島さんは私をチラ見してから、呆れ顔を険しくさせた。
「コンドームだよ。」
「え」
「ちんこにつけるやつ。」
平気で吐き出された下の単語に、言葉が止まる。
なんの気もなしにそう言った冬島さんを見て、もう一度確認する。
口から出たそれを伸ばしてみると、先端のほうに突起のような丸まりがついていた。
袋のようなものではなく、ゴム。
広げてみると、色がピンク色なだけで、確かにコンドームだった。
恐ろしい過ちに赤面すると同時に全身の血の気が引く。
「な、あ、あ」
「最近は授業でそういうの習うって聞いたんだけど。」
冬島さんが立ち上がり、自失しそうな私を通り過ぎて、袋を回収した。
通り過ぎる際、改めて袋に目をやると、確かにお菓子も入っていたが食品以外のものも袋に同居している。
手を出したが最後、冬島さんのプライベートの塊だった。
恥ずかしさに耐える私を無視して、冬島さんは袋を隠す。
「ぴ、ピンク色して花柄書かれてる袋に入ってるとか、聞いてないし・・・」
静かにしなさいと人差し指でジェスチャーして、にやっとした目で、私を見る。
下の単語を簡単に言った唇を見つめて、当然だけど男の人の唇にも色があることを知った。
「色々あるんだよ、色々。」
仕方なく、吐き出した涎まみれのコンドームをゴミ箱に捨てた。
手持ちのティッシュで口の中の涎という涎を出して、僅かな無機質の味を吐き出す。
凄まじいミスをしたものの、冬島さんは何もなかったような顔をしている。
ここで引き下がるわけにはいかなかった。
「これ全部で何種類?」
冬島さんに近寄り、真面目な質問をする。
「え、そっちいっちゃう?」
「あるんでしょ、見せてよ」
「えー。」
「見せて」
半袖から見える腕を叩き、ついでに肩も叩く。
見せろ見せろと迫ると、渋々先ほどのお菓子の袋を手にした。
冬島さんの顔が、焦りに満ちている。
袋の中身を見せられる前に、お菓子をかきわけてコンドームを見つけた。
ピンク色の箱と、銀色の箱のものを手にする。
私が誤食したものは、既に箱が開いていて、中身を確認したまま袋に入れていただけのようだった。
まだあると思い引っ張り出したものは、うさぎ柄の箱。
「おおー!これ可愛い!」
シンプルなうさぎと、リボンの柄と、英語のブランド名が書かれた箱。
中には当然、あれが詰まっているのだろう。
「これいくらするの?」
「800円ちょっと。」
「思ったより高い」
他の箱を見ると、どれも蓋にはきっちりと包装されていた。
開けようと爪を立てても、簡単には開かない。
男の人の力なら、簡単に開くのだろう。
開けるのを諦めて他の箱を見ると、見慣れた猫のキャラクターが目に入った。
お菓子かと思ったけれど、これもコンドームのようだ。
「えー、これキャラものじゃん!めっちゃ可愛い!」
ピンクと赤と白で可愛くデザインされたキャラクターのコンドームの箱をきらきらした目で見ていると、冬島さんがため息をついた。
睨みつけると、気まずそうに目を逸らす。
大人がこんなにも気まずそうにしているのは、見ていて楽しい。
「で、冬島さんはなんでこんなに持ってるのかな?」
「自作トラップの材料。」
「素直に趣味の悪戯グッズ制作の材料と言いなさい」
「はい。」
多分、本当はプライベートで使うものだろう。
私よりもずっと大人の男の人だ、そういうことがあってもおかしくない。
誰と使うんだろう。
この見た目で、この感じの人だ。
特定の人なんていないのかもしれない。
そう考えたほうが自然に思える、と思いたいくらいだった。
「これ、あれにつけるんでしょ」
「そうだよ。」
「破れたりしないの?」
「しない。」
「へー」
子供の無知に見せかけた質問を、余裕でかわす。
私が興味を持って面白半分で聞いていることを、冬島さんはとっくに分かっている。
それなら、余計面白い。
大人が怒らないことをいいことに、からかった。
「つけてるとこ、見せてよ」
「はあ!?」
ついに冬島さんが大きな声を出した。
楽しいことに、顔が真っ赤だ。
大の大人が、子供相手に焦っている光景が、目の前にある。
これをからかわずして、やっていられない。
「見たい、見せて」
「え、いや、なまえ、あのさあ。」
「見たいー!見せて見せて見せて!!!」
駄々をこねつつ、冬島さんに食いつく。
腕に胸を押し付けて、わざと反応を見る。
困って焦っていても突き飛ばさないのを見て、からかいは最骨頂に達した。
「エロいの見たら男の人っておっきくなるんでしょ?」
制服のスカートを捲ろうとすると、冬島さんは面白いくらいに逃げた。
両手で顔のあたりを隠しながら、凄い勢いで後ずさる。
からかっているだけなのに、こうも面白い反応を見せてくれると、からかい甲斐があるものだ。
スカートの端を持って、部屋の端まで後ずさる冬島さんを追いかける。
「だー!うわー!いいって!もういいって!俺が悪かった!」
何故か謝る冬島さんに向かってしゃがみこんで、じりじりとにじり寄った。
赤い顔をした冬島さんが、もう許せと呻く。
私が進むたびに後ろにいく冬島さんに、飛び掛った。
「なんでー!見せてよー!」
「やめろもう!やめろや!」
冬島さんに掴みかかって、スカートを捲くろうとすると、手を叩かれた。
力はなく、上手い具合に痛くない。
本気でからかっても、よさそうだ。
懲りずに叩かれた手でブレザーを脱ごうとすると、今度は両手で肩を掴まれた。
大きな手が、私の肩を掴む。
突き飛ばされるか、と思ったときだった。
「あのー、お二人は何してんすか。」
聞き覚えのある、スカした声がする。
振り向くと、当真くんがぽかんとした顔でこちらを見ていた。
「あ」
散らばったコンドームと、スカートの端を持って迫る私と、部屋の隅に追い詰められた冬島さんを見て、当真くんは鼻で笑った。
呆れ顔で笑う当真くんを見て、ようやく状況の馬鹿さ加減に気づく。
冬島さんは足元にあった猫のキャラが印刷された袋を掴んで、当真くんに投げようとした。
「そうだ、勇おまえこれ・・・。」
コンドームを握る冬島さんを制止して、何もなかったかのように見せる。
だが、もう遅い。
当真くんの苦笑いは爆笑に変わり、空中をコンドームが舞った。
コンドームの袋を見た当真くんは笑いに笑いまくり、咽る。
「やーめーてー!!!」
私の叫びも虚しく響き、散らばるコンドームは床に鎮座している。
笑い転げる当真くんはすぐに部屋から退出し、残された私は恥ずかしさを胸に冬島さんを叩いた。






2015.02.08




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