気まぐれは許さない





単行本9巻にて判明した当真くんのプロフィール好きなもの一覧ネタ再び




「さっみい!」
「寒いねえ」
身を小さくして震える当真くんの隣を、同じ歩幅でついていく。
長い足がひょいひょいと動く。
小走りともいえない足取りの私は、寒さで肩を狭くする当真くんを微笑ましく見ていた。
革ジャンに履き慣らしたジーパンという格好で、手袋もマフラーもしていない。
防寒対策はあまり考慮されていない、スタイルの良さを目立たせる服装。
革の手袋でもしていれば、色々と完璧だったであろう当真くんは、足早に歩く。
「こんな寒い日に俺を連れ出して、どうしようってんだ!」
「私は、イルミネーションが見たいなあって」
鼻の頭を赤くした当真くんが、通行人も気にせず呻く。
通り過ぎる人は、皆マフラーか帽子を身に着けていて、当真くんだけ秋から飛んできたような服装だった。
暗くなる時間に二人でイルミネーションを見に行かないか、と誘えば、二つ返事でいいよと言った。
「だけどこんなに寒いなんて聞いてねえー。」
寒さに息を白くして呻く当真くんの腕の隙間に、自分の腕を滑り込ませると、そのままカイロのように挟まれた。
足の力を抜けば、当真くんに引きずられたまま運ばれてしまう。
上手く歩幅を合わせないと地面に向かってキスをする手前、平静を装って話しかけた。
「夜なんだから、もうすこし着込んだらよかったのに」
革ジャンが一体どの程度の防寒をしてくれるのかは、分からない。
腕から伝わる体温は、辛うじて高かった。
「いやいや、普通これくらいだろ。」
「夜に出かけたりしないの?」
「しねーよ、夜道はあぶねえって教わったろ。」
「当真くん、意外と真面目ね」
優雅に授業をサボり、どこかで昼寝をして、ふらっとまたどこかへ消えていく。
何かを真面目にしているところは殆ど見ない。
学校で見る当真くんとは、まるで別人。
真面目というと、むっとされた。
「なんだよ、俺が不真面目みてーな言い方。」
「リーゼント」
「髪型は関係ねえよ。」
こんな日にも、髪型はきちんとセットされている。
もしかして、当真くんは髪型に合わせた服装しかしないのだろうか。
それなら、寒い季節が苦手なのも納得だ。
「なまえの髪型はなんなんだよ、帽子で大体見えてねえじゃん。」
偉そうにそう言って帽子の飾りをつつく当真くんの手を避けて、帽子の飾りを守る。
「そりゃあ外だもの」
はあ、と息を吐くと、すぐに白くなった。
寒い季節だ、いつものこと。
「ほら、あそこ座ろう」
ベンチを指差すと、当真くんが足を止めた。
すぐに縮まった歩幅に期待を抱いて、腕を引いてベンチまで連れて行く。
長い足の歩幅に合わせて疲れた足を休めるため、すぐに座ると、当真くんも隣に座った。
突然、当真くんが上半身を折って叫ぶ。
「だああーっ!つめてえ!ケツがつめてえ!」
ベンチに座った当真くんが悶絶した。
丈の長いコートを着ている私から、想像もつかない冷たさがお尻を襲っているのだろう。
座ったまま悶える当真くんを見て、思わず笑った。
「なんだよ、なまえは冷たくねえのか!」
「ちゃんとコート着てるし、厚手のストッキング履いてるから」
寒そうにする当真くんの手を、手袋をつけた手で触る。
腕を押さえて寒さに耐えてた当真くんが、私から目を逸らした。
一緒に見に行きたい、と行って了承を貰えたのは、単なる気まぐれなのかもしれない。
好意を寄せる私の気持ちには、きっと気づいていない。
女の子くらい手玉に取りそうな当真くん。
同年代よりも、ずっと大人っぽくて、ふらふらしていても、だらしないわけでもない。
ベンチに座って寒そうにする当真くんの横顔と、凍りそうなリーゼントを見つめた。
「ね、当真くん」
「なに。」
「イルミネーションじゃなくて、カフェにでも行く?」
「いや、いいよ。」
「ほんとに?」
「なまえは、ここに来たかったんだろう。」
「うん、来たかった」
「じゃあ文句言わずに、ここに居ようぜ。」
ぱっ、と視界を光が照らす。
その光に気づいた当真くんが正面を向いて、声を漏らす。
「あ。」
点灯時間を迎えた。
一番大きな木が、色々な色の光を纏う。
「おー、綺麗だな。」
伸びやかな声でそう言う当真くんは、可愛らしかった。
通行人が足を止めて、次々にイルミネーションを見る。
道の端や、それまでベンチに座っていた人、談笑していた人達も、近寄って写真を撮り始めた。
待つ人は待っていたのだ。
当然、これが今日だけのものというわけではない。
きらきら輝く木を見ている当真くんに、恥ずかしい気持ちをぐっと抑えて告げる。
「来週まで光ってるらしいけど、当真くんと来たくて」
そう言うと、当真くんは何故かそっぽを向いてしまった。
輝き始めたイルミネーションを見つめはじめて、喋ってくれない。
イルミネーションの光の加減だろうか、当真くんの頬が赤くなった気がした。
それも束の間、青になったり淡い緑になったりするイルミネーションは、私達を照らす。
他の通行人が立ち止まって写真を撮る中、私は自分の鞄を探った。
持ってきたものを手にして、イルミネーションを見つめている当真くんに差し出す。
「それでね、これ」
「あ?」
頬と鼻の頭を赤くした当真くんは、私が差し出した小さな袋を見つめる。
私からそっぽを向いていた当真くんは、暫し無言になった。
雑貨屋の袋か、それに近い何かだと分かったのだろう。
私と、袋を交互に見つめて、緩く笑った。
「・・・くれんの?」
頷くと、当真くんは袋を受け取ってくれた。
中に何か入っていることを指で確認して、袋を開けて、冷たい手に中身を転がす。
小さな袋から出てきた、猫のブローチ。
当真くんは猫が好きだから、と思って買ったものだった。
なんでもないような顔をして、当真くんは猫のブローチを指で挟んだ。
大きな手とは対照的な小さな猫が、短い爪の指に捕まる。
まじまじと見たあと、当真くんはいつもの口調で猫をあやすように弄った。
「なんだこれ、可愛いじゃん、俺に似合わねえって。」
やってしまった、と思った。
見るからに不満そうな、くだらないものを見る目をして、ブローチを見る。
当真くんの指の間でくるくる回される猫のブローチが、イルミネーションの光の影で鈍く輝く。
一見して素行不良の体現のような彼は、猫が好き。
態度が悪いと称されても仕方ないだけで、悪い人ではない。
悪いことばかりする人達とは、仲良くせずつるみもせず、あくまでも自分の好きなように過ごす。
そういうところが好きで、
「あーあー、なまえ、センスわっりぃなあ、こういう可愛いもんは男はつけねえよ。」
当真くんに、手を握られる。
冷たい手から、冷たい温度が伝わりそうな気がして、すっと体の中が冷える。
手を開かされ、そっと、返された。
手袋をした手の平の上に、ぽつんと乗ったブローチ。
一気に泣きたくなる気持ちが押し寄せる前に、当真くんは言った。
「それ、つけて。」
返す、いらない、とは言われなかった。
明確な拒絶がないだけ、マシかもしれない。
それでも確かに、当真くんの手からは離れてしまった。
泣きそうな気持ちを抑えて、そっと手袋を脱いで、冷たい空気に晒された手でブローチをつける。
俯いて、自分の胸元にブローチを飾る。
小さい猫が胸元で光った。
「こう、かな?」
コートの左に、ブローチがついた。
あげるはずのものを受け取ってもらえなかった私を、当真くんは面白そうに見つめる。
ああ、やっぱり、駄目なのか。
「なまえのほうが、そういうの似合うじゃん。」
にやついた口元は普段見るとおりで、泣きそうで潤みかけた目に映る当真くんも、普段通りだった。
「そのブローチつけてるなまえ、すげえ可愛い。」
冷たい指で、鼻をつんつんとつつかれる。
当真くんの指を目で追って寄り目になると、次は額をつつかれた。
冷たい指が、私に触れる。
驚いて何も言えずにいると、当真くんはまた私から目を逸らした。
当真くんの頬と鼻が赤い。
また私を見た当真くんは、真剣な目をしてにやついていた。
「物くれるくらいならさあ、なまえが俺のプレゼントになって。俺は物には執着しないタチなんだ。」
イルミネーションの光が、当真くんと私を照らす。
無言の空気を、上手い具合に誤魔化す光に感謝した。
通行人の会話が、聴こえては遠ざかる。
もしも通行人が何か凄い話をしていても、全て聞き逃してしまうだろう。
光に照らされる当真くんを、見つめるしかなかった。
物に執着しないのなら、ブローチは受け取ってもらえなくて当然だ。
それでも、それでもだ。
とんでもない言葉を聴いた気がしながら、驚きのあまり何も言えずにいると、当真くんが笑った。
面白くて笑ってるのか、気まずくて笑ってるのか、恥ずかしくて笑っているのか、わからない。
私が驚きのあまり、馬鹿面をしているのだろう。
寒い季節に不釣合いな熱い顔面と、頭に集まる血を体温で感じていた。
にやつく当真くんは、更に付け加える。
「あとさあ、いい加減、当真くんじゃなくて勇くんって呼んでよ。」
真っ赤な顔のまま、当真くんに向かって改めて呟く。
「勇くん」
冷たい空気が、気にならない。
コートの下の体が熱いくらいになってから、勇くんはまたにやついた口元を見せる。
「そうそう、言う事きかねえのは猫くらいで十分だ。」
またも偉そうなことを言う勇くんの顔が、なんとなく赤かったことは指摘せず、手袋を膝に置いたまま勇くんの冷たい手を握る。
冷たくなった手を、お互いに温めあった。






2015.02.07





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