首輪のない秘密






9巻の当真くんプロフィールの好きなもの一覧ネタ





風紀委員に片足を突っ込む前から、彼の存在は知っていた。
あの髪型にあの態度、一部の生徒からは怖がられ、煙たがられ、目の仇にされている。
ヤンキーという言葉は似合わないが、その感じの人。
きっと、どの学校にもこういう人はいるのだ。
腕っ節は強くて、授業よりも大事なものがあって、そのために生活している。
誰に何と言われようと、気にしない。
いちゃもんをつけられても、返り討ちにしているのだろう。
見知らぬ生徒に怖がられても、気にも留めず生活する彼が何をしているのか、知らない。
ふらっと消えるときもあれば、突然現れて真面目に体育を受けていたりする。
真面目に出席したと思えば数分後には寝ながら授業を受け、でもどういうわけか、成績が壊滅しているわけではない。
同じクラスになってからというもの、彼が赤点で悲鳴を上げる姿を目にしたことはなく、寝てるか食べてるか、こっそり弄る携帯で誰かと連絡している姿くらいしか見ていない。
生活の中心が学校ではなさそうなことは、伺えた。
風紀委員である以上、当真くんの話題は避けられない。
誰かあいつをどうにかしてくれ、誰かあいつの髪型をやめさせろ、そんなことばかり。
リーゼントの下の頭に何が詰まっているのか、少し興味があった。
頭の組み方が普通なら、どこかで躓いているはずだ。
素行不良に近いまま学校生活を両立させるのは、文武両道よりも難しい。
この前も、その前も、教室で見かけたときは寝ていた。
図書室で足を放り投げるような体勢のまま寝ては、周囲を威圧に巻き込む。
校内のどこにいっても、彼の威圧は消えなかった。
委員長であっても風紀委員であっても、誰であっても、注意が彼の耳にきちんと届くことはない。
あのリーゼントのような派手な髪は、一体なんなのか。
正直馬鹿にしたいところだけど、何か言われたり殴られたりしそうだという思い込みから、大袈裟に注意することもできなかった。
その思い込みが思い込みであることに、私は気づくことになる。
「あれ」
店内、もといカフェ内に入ると、見覚えのある姿があった。
その姿を見て、思わず声が漏れる。
フロア内の沢山の猫は、もう見慣れた。
種類や毛色も様々な猫と空間を共にできるのが、このカフェの売り所。
私は、長ったらしい委員会の打ち上げをすっぽかしては、よくここに来ている。
うるさい打ち上げは、どうも好きになれない。
それならば、静かに猫と遊ぼうではないか、ということでカフェを訪れる。
放課後が暇なら、時間と財布を見て、このカフェに来ていた。
猫じゃらしで遊ぶ猫もいれば、昼寝の真っ最中な猫もいる。
数人の客が他にもいたけれど、一際容姿の目立つ人がいた。
見覚えのある顔、リーゼント、体格、足の長さ。
白いシャツに使い古しのようなジーンズを履いた、当真くん。
当真くんの膝には、三毛猫が乗っている。
顎の下を撫でられると、ぐるぐると喉を鳴らした。
こちらの声にも聞き覚えがあったのか、それとも、ここにいる猫並みに耳がいいのか、私の声にすぐ反応した。
私を見て、当真くんは三毛猫を撫でる手を止めた。
撫でる手が止まった三毛猫は、不満そうに尻尾を振る。
当真くんは、私であることを何度も確認したあと、苦しそうに挨拶をした。
「よ、よう。」
苦しそうな挨拶に面白くなり、微笑んでから、猫たちを驚かせないように静かに歩いて、当真くんの隣に座る。
当真くんの膝の三毛猫は、今にも寝そうだ。
「どうも」
挨拶を返しても、気まずそうに目を逸らされるだけだった。
同伴者は、いなさそうだ。
いつものリーゼントのまま、カフェ内に溶け込んでいる。
ソファの近くに、いくつか猫じゃらしが置いてあるところを見るに、今は三毛猫と共に休憩中なのだろう。
一人でここにくるということは、つまり。
「猫、好きなの?」
淡い希望を抱いて、当真くんに問いただす。
膝に乗る三毛猫を放り投げてカフェから逃げるわけにもいかない当真くんは、三毛猫の顎の下を撫でて、ぐるぐる鳴かせた。
「好き。」
「私も猫が好きなの」
当真くんの膝でぐるぐる鳴く三毛猫を見て、かわいいなあと呟くと、そっと猫じゃらしを差し出された。
受け取ると、他の猫が熱い視線を送ってくれる。
試しに、足元にいたロシアンブルーの猫の目の前で猫じゃらしを振ってみると、すぐに猫の目が動いた。
しゅっしゅっと素早く動かすと、それを目で追う。
もっと早く動かすと、捉えようとして手を伸ばす。
その仕草が可愛くてニコニコしていると、当真くんの膝に更にもう一匹猫が座った。
とてもじゃないが、逃げられる状態ではない。
それをいいことに、殆ど話したことのない当真くんに話しかけてみた。
「意外だなあ、当真くん、猫が好きなんだ」
「おう。」
「私、日本猫が好き、茶色の猫とか」
「俺も。」
無愛想に頷いた彼の頬が、少しだけ赤い。
膝の上に猫を二匹乗せた当真くんと、猫じゃらしを持つ私。
学校生活からは、想像もつかない姿。
見た目だけなら煙草と酒のほうが好んでいそうなのに、人は見た目に囚われないのかもしれない。
風紀委員をしているのに、そう思うと当真くんは猫を撫でる傍ら私に話しかけた。
「なまえさん、猫好きなんだ。」
私はまた、あれ、と言いそうになった。
こちらが一方的に当真くんを覚えているのは間違いない、けれど、当真くんは私を覚えていたようだ。
事務的な会話しかしたことがなく、授業中に寝ている姿なら何度も見た。
きちんと名前を覚えられていたことと、なまえさんと呼ばれ、少し驚く。
「うん」
「俺は毛並みで猫を選ぶ。」
「毛並みなの?」
「ああ、愛想がいい奴は毛並みもいいじゃん。」
なんの動揺もないふりをして愛想よくしたものの、当真くんとは殆ど面識がない。
実質、中身のある会話をしたのはこれが始めてだ。
なまえと呼んでくれた。
驚きつつも、当真くんの膝でぐるぐる鳴く猫に目をやる。
可愛い。
濡れたピンクの鼻をつんつんと触ると、冷たくて気持ちいい。
額を撫でると、目を細めて髭を動かしている。
猫の可愛さと癒しを理解できるのなら、友達になれるかもしれない、そう思ったときだった。
「つーか、なまえさん、打ち上げに行ってるはずじゃねーの?委員会の奴ら騒いでたじゃん、なんでここにいんの?」
返事も返せずにいると、当真くんが静かに噴出した。
学期代わりの打ち上げがあることは、毎年のことだった。
風紀委員がサボりとは何事だと言われないだけ、マシかもしれない。
開き直り、猫じゃらしを片手に背筋を伸ばす。
「行ってない、ここに来たかったの」
「へえ、風紀委員は行かないとやばくねえの。」
「適当に言い訳しちゃった」
「サボりかよ。」
「まあ、そうだね」
「なーんか、学校と内輪が大好きな女子だと思ってた、委員とかしてるし、女子同士で固まってそう。」
「そうでもないかな」
「バレたらやべえだろ、委員会とか時間と規則クソうるせーし人目は気にしておけよ。」
当真くんには、真面目腐った勉強ばかりしている女子だと思われてたのだろう。
率先して委員をする人は、どこかしら他人の目を気にしている。
例えば、内申とか、内申とか、生徒同士の格差とか。
周りの子から、どう思われるかとか。
それから、少しだけ逃げたい自分がいた。
目の前には、どう思われるかなんて気にもしない人がいる。
私よりも、ずっと勇気のある人。
「お互い、ここに来たのは内緒、かな」
「内緒でもねえよ。」
「猫好き当真くん」
そう言うと、当真くんはむっつりとした顔をして、猫を撫でた。
すると、また一匹、当真くんの隣に座り込む。
しかめっ面で長毛の猫が当真くんの隣を陣取る。
猫三匹と、同じクラスの女子に囲まれ、当真くんは逃げられない。
そのうちリーゼント頭に猫パンチでも食らうのではないかと思うくらい、カフェの空間に溶け込んでいる。
ここの勤め猫に好かれるということは、なかなかの期間通いつめているはずだ。
カフェの子達は、皆客慣れしている。
遊んでくれても懐いてくれることはあまりなく、当真くんの膝が正直羨ましかった。
膝に乗った三毛猫が、うにゃーと鳴く。
鳴き声が可愛くて目をきらきらさせると、当真くんに鼻で笑われた。
当真くんが顎の下を撫でると、三毛猫はすぐに満足して目を細める。
カフェの猫にこれだけ懐かれる当真くんは、相当な猫好き。
猫は、猫が好きな人だけじゃなく、扱いを分かっている人じゃないと懐かない。
いいなあ、かわいいなあ、と三毛猫を撫でると、そっぽを向かれてしまった。
当真くんは先ほどから私と目を合わせては逸らしているので、実は猫が好きだとばらされたくないようだ。
顔を覗き込むと、顔を赤くして苦笑いをされた。
道連れにしてやる!なんて言い出さない限りは、これは私と当真くんの秘密になる。
にやにやした口元には、焦りが見えた。
当真くんは、何か言いたいようだ。
言わなくても、猫好きのことはわかる。
突然現れた秘密を守るように念を押されなくても、守る気でいた。
「暇なら、ここに来るの付き合ってもいいぜ?」
「じゃあ」
「おう。」
「明日の放課後、一緒に来ようよ」
「いいぜ。」
秘密を守る提案を、当真くんから持ち出した。
私はそれを快く了承し、猫じゃらしで当真くんの膝の上にいる三毛猫を構った。
「うん、よろしく」
三毛猫はもにゃもにゃ鳴きながら猫じゃらしを掴み、何度も猫パンチを繰り出してきた。







2015.01.16






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