食糧倉庫は誰もいない




咲さんリクエスト

・鈍感な夢主に痺れを切らせたアニとサシャが夢主を襲う話
 ほんとに鈍感です






「お腹、空かない?」
アニが珍しく、そんなことを言う。
綺麗で、あまり喋らなくて、なんでも一人でやってしまうアニが、そんなことを言った。
空腹にめっぽう弱い私は、目をきらきらさせてアニにしがみつく。
でも、珍しいな、そんなことを思いながら、アニの頬をつついた。
「アニがそんなこと言うなんて、珍しいね」
今にも呆れそうなアニの顔を、何度もつついて、いじる。
すべすべの頬をいじりまわしても、まだ怒らないところを見るにアニは何か言いたいようだ。
何度もつつくと、アニは指を払い落とした。
いつもなら、指を掴まれて捻られているところだ。
やけに珍しい、と思いつつ、アニの目を覗く。
「私のことじゃなくて、なまえはどうなの。」
「空くに決まってるよ!」
「取りに行く?」
優等生のアニから、思わぬ一言。
アニから、こんな一言が出るなんて、珍しいにも程があるどころか、ありえない。
「いや、ばれたらどうするの」
こちらも負けじと珍しく、疑ってかかる。
もしかしてアニは、私の空腹を馬鹿にしているのではないか。
「ばれない。」
至って真面目にそう言うアニを探る気にはならなかった。
空腹か、疑いか。
友人を疑うことは、友情に反する。
アニにそっと頭を下げて、教えを乞う。
「ばれない方法を教えてください、レオンハート様」
しばらく頭を下げても、アニは何も言わなかった。
もういいのか、下げた頭を上げてアニを見ると、既に私を置いてどこかに行くところだった。
私が頭を上げる頃だと見越していたのだろう、アニは振り向くと「ついてきて。」と言って、歩みを進めた。

「なんてことなの」
埃まみれの扉を押し開けて、私が放った一言だ。
先に歩いていたはずのアニは、慣れていたかのように潜り進めたおかげで、服に塵のひとつもつけていない。
扉から這いずり出て、箱の隙間から顔を出す。
備蓄されている、あと数日あとに出される分のパンが箱に積まれていた。
地下通路があるところを見るに、備蓄倉庫のようだ。
地下からも行けるようにしてあったけれど、今は使われてなさそうな倉庫は、パンの匂いがした。
「どこから地下通路を!?」
涎が垂れるのを押さえながら、アニを褒め称えようとすると、静かにしろと手つきで知らされる。
「さあね。」
「さあねって、アニが見つけたんでしょ?」
アニが、はあーっとため息をついて、積まれたパンのひとつを掴む。
無造作に齧っている姿を見て、私もパンに齧りつく。
乾いておらず、舌触りの柔らかいパンが、そこにあった。
感動して食べていると、アニがぼそりと呟き、もう一つのパンを手に取る。
「鈍感すぎる。」
煌くような目が、私を見て、眼光が私に向かって照らされた。
パンを齧っていただけの私が、なにもしていないのに後ろに向かって転んだ。
ふわっと浮く足元の不安定さと不快感のあと、誰かの手が私の背中を支える。
がくん、と倒れこむようにバランスを崩した私は、何故か後頭部も足も床に強打せずにいた。
「あ?はあ?」
急に反転した視界と、頭の後ろには柔らかい何か。
目に飛び込んできた嬉しそうな笑顔に、私はいつもパンをねじこんでいたことを即座に思い出す。
「なまえさん!待ってましたよ!」
サシャが、食べ物を目にしたようにぎらぎらしていた。
それも、見たことのないアングルからのサシャの顔。
ぎらついた目と、にやけた口元。
いつものサシャに違いないのだが、何かが違う。
私が後ろに倒れているからだろうか。
頭の後ろにある柔らかいものは、サシャの胸だと気づいたときには、ずるずると掴まれ寝かされていた。
起き上がろうとすると、サシャが腕を押さえる。
押さえられてしまっては、パンが食べられないではないか。
不満を露にしようとしたとき、私の腹の上に陰が出来た。
股を開いて膝立ちになったアニが、私の腹の上にいた。
真面目腐った顔をしたアニは、手に取ったパンをサシャの口に押し込んだ。
いまいち、状況が掴めない。
ここは地下通路を通らなきゃ来れない、幻の倉庫。
乾いていないパンがあって、ここは人が滅多に訪れない。
そこに、サシャもいた。
ということは、導かれる答えはひとつ。
「え?なに?サシャも共犯?」
「そうね、共犯者よ。」
「ってことは、サシャがここ見つけたの!?」
齧りかけてたパンを、口につめこまれた。
口だけで食べていると、アニがサシャと目を合わせる。
「・・・どうする。」
探るようなアニの視線が、サシャとぶつかった。
「どうするも何も、ですねえ。」
私の後ろにいるサシャの細い手が、私の腹を掴む。
それから移動するように、私の腋を抱えた。
「わっ!」
いつになく、真剣で、それでいて怖い顔のアニが、抱え込まれた私の腕を撫でる。
肘を撫でられて、体勢を変えようと動くと、アニの手が腰を押さえた。
「え?なに?」
聞いても、答えは返ってこなかった。
アニの指先は、泥ひとつついていない。
兵士にしては綺麗な指が、私の首と鎖骨をなぞって、シャツのボタンに手をかける。
「なになになに、うわ」
サシャが、後ろから腰を撫でた。
骨盤のあたりを、こねるように撫でられる。
服の下の下着の線をなぞるような、その撫で方に何かが刺激された。
シャツのボタンは、アニの手によってどんどん外されていく。
露出していく肌の隙間に、サシャの手が潜り込む。
柔らかい指が、私の鎖骨の隙間を撫でた。
「ぶははは!くすぐった、うわはははは!」
思わず飛び出た笑いを、抑えることができない。
アニが私の上半身を制するように乗って、指先で私の反応を弄ぶ。
遊ばれている子供のようだ。
手つきがあまりにも面白くて笑っているうちに、察した。
これは、くすぐらせて私がへばったあとに二人だけでパンを頂く作戦だ。
そうに違いないと思い、負けじと抵抗する。
腰や背中、腹や太ももを撫でられるたびに笑いながら抵抗してると、覆いかぶさったサシャの手が太ももを撫でた。
反射的に足を閉じると、サシャは面白そうな顔をして私を見る。
「ああ、このあたりですか?」
サシャが、そこまでくすぐったくもない太ももを何度も撫でたあと、手を内側に移動させる。
トイレを我慢してるときみたいな体勢になり、恥ずかしい。
笑いながら抵抗していると、笑いすぎによる涙が浮かんだ。
それを見たアニが、一瞬手を緩める。
「大丈夫ですよ、私の村ではよくあることです!」
「あんたそれ説得になってないわよ。」
人を笑わせてパンを奪うのは、サシャのいた村ではよくあることなのか。
そうなると、これは弱肉強食の儀式。
私を試しているんだ。
受けて立とうとすると、アニが、私のシャツの下に手を入れた。
冷たい指が、私の腹に這う。
うひゃあ!と身を縮めようとすると、サシャがぐっと私の腕を押さえ込んだ。
力が、随分強い。
アニは、真剣な顔で私の胸をまざぐる。
何かがおかしい、パンを食べるのに、押さえ込む必要はあるのか?と気づく。
冷たいアニの指が、私の胸に触れた。
もにゅりと揉まれて、ぞくぞくした何かが耳の後ろに張り付く。
「えっ、なに、なに」
なんだこれは、と察知し、アニから逃げようと体を起こそうとしても、サシャがしっかりと押さえていて動けない。
足を暴れさせても、床を叩きつける音しか生み出さずに終わる。
あれ、なんかおかしい。
ここにあるパンは、食べなくていいのだろうか。
私に構っている時間を全部パンに当てれば、お腹が膨れるのに。
どうしてだ、と思った時だった。
誰かの足音がした。
アニもサシャも、その音に反応する。
サシャの手が、私の口元だけを覆う。
ぎっ、ぎぎぎ、と開いた扉の音に、全員が押し黙る。
ばれてはまずい、ここには地下通路を使って来たのだ。
「おい、誰かいるのか?」
誰かはわからないが、見回りの声だ。
影も見えないが、誰かがいるのは間違いない。
一致団結と言わんばかりに、声も息も存在も押し殺す。
無人ではないかと思った見回りは、扉をゆっくりと閉める。
耳を済ませると、変だなと呟く声、足音が遠ざかり、気配もすこし遠ざかり、また遠ざかった。
倉庫には私たちだけ。
そうなると、アニが実験でも失敗したかのように唸った。
「駄目ね、これ。」
肩を落とすアニが、何を考えているかは分からない。
ただ、私が笑って暴れたせいで、全員埃まみれだ。
こんな埃っぽいところにパンを置いていたら、乾くに決まっている。
衛生管理は誰だ、とっ捕まえてやると思いながら、緩んだ二人の手から逃れた。
べとりと埃がついた腕を見て、顔を顰める。
「ねー、アニ、サシャ、寝転んだら服が埃まみれだよ、お腹膨らませたら、風呂いこうよ」
上着についた埃を払って、提案すると、サシャが顔を赤くした。
アニが、半分呆れて物を言う。
「ねえ、なまえ、あなた鈍感すぎない?」
「そうかな」
「そうよ。」
「だって、今行ったら風呂貸切状態だよ?行かないの?」
ため息交じりのアニの声は、心配になるほど落ち込んでいる。
なまえさん・・・とサシャは顔を赤くしながらも肩を落とした。







2014.12.22




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