優しさと優しさ




まるさんリクエスト
・ミカサと、見かけも性格も少年のようだけど女の子らしいヒロインとの百合





おっとこおんなー、おんなおとこー、からかう声。
いつものことだ。
相手がコニーだろうがジャンだろうが、どうでもいい。
黙れ、てめーら、うるせーぞ、蹴っ飛ばしてやる、決まり文句のように脅しながら追いかけると、じゃれあいになる。
本気で馬鹿にしているわけではないことくらい、わかる。
からかう声を一蹴したあと、鍛錬していたミカサに駆け寄った。
タオルを手に肩を抱き、お疲れ様と励ます。
「ありがとう。」
ミカサはタオルを受け取ると、首に巻いてからタオルの端で顔を覆った。
それから、するすると顎、首、胸元の汗を拭く。
垂れた汗が光って、腹筋がぬめりと光った。
視線だけ、ミカサの体に囚われていると、耳に転がり込むような声の束が突っ込まれた。
「なまえって男の子みたいじゃない?」
「わかる、いつもミカサの側にいてさ!」
「なーんか見てるとあれだよね、なまえってミカサの彼氏みたい。」
声の束は、藁のようにがさがさしていて、気分が悪い。
こんなもの、もう慣れた。
汗を拭き終わったミカサが、疲れも見せない目をして背伸びをする。
肩甲骨に浮かぶ筋肉が、逞しい。
「なまえ、すこし背中を押して。」
言われたとおり、背伸びをするミカサの肩甲骨を押す。
押しても、強く押してもびくともせず、まるで軽い鉄の底をつついているようだった。
強めに押しても、びくともしない。
「私の彼氏だって。」
よろける瞬間を待ち、力を混めて押していると、ぽつりと、低い鈴の鳴るような声でそう言う。
聞こえていたのか、と残念に思う気持ちと、熱が顔に集まっていくのを感じた。
ミカサよりも細く、骨っぽい私は、髪も短くして動きやすくしているため、よく男女とからかわれていた。
うるせえと怒鳴って追い掛け回せば笑い話で済むあたり、皆冗談で言っているのだろう。
傷つくことはない。
だって、ミカサが、側にいるから。
「そう見えるんだろう」
「否定しないの?」
「ミカサの側にいつもいるのは、事実じゃないか」
「そうね。」
湿ったタオルを握り締め、普段着の横に置く。
洗濯しておこうか、と伸ばした手を、そっと握られる。
「おとこおんな、それは違う。」
がら空きの手に、ミカサが指を絡ませる。
骨っぽくて細い私の手に、汗ばんだミカサの手が這いよった。
まだ熱いミカサの指から、体温が伝わる。
手の平に、一日もすれば治るだろうというくらいの浅い傷がある。
「なまえは女の子、私を気にかけてくれる、優しい女の子。男の子は、放っておけない、例えば、エレンみたく。」
エレンみたく、と言ったミカサの目を覗き込む。
確かに、目は私を見ていた。
「顔が赤い、なまえ、振り向かないで、このままこれを洗いに行きましょう。」
汗で湿ったタオルを握り、普段着を抱えたミカサは足早に兵舎裏に向かった。
優しい女の子、ミカサはそう言った。
ミカサの隣にいつもいる、アルミンよりは男らしいし、エレンよりは少年っぽい。
男おんな、女おとこだとか、いつもからかわれていた。
女としての自信がないとか、そんな話じゃない。
でも、初めてミカサを見たとき、私は心が男だから、こんなにもミカサに惹かれるのかと思った。
隣にいたエレンが、羨ましかった。
突き飛ばしたら死んでしまいそうな、他の女の子とは違う。
強くて、でも強さを威張り散らすこともしない、一貫してというわけでもないが、物静か。
きっと、ミカサは私の理想だったのだろう。
声の束が、どんどん遠ざかる。
まだみんな、訓練の延長線上にいるはずだ。
しばらくは教官の目に怯えながら、自主鍛錬に励んでいる。
埃っぽい廊下は、音が籠もりやすい。
足音が、空間に響く。
嗅ぎ慣れた埃の匂いと、籠もった足音。
たまに差す光と、ぼんやりとした影。
「なまえは、女の子。」
「・・・何度も言わなくていいよ」
「何度でも言う。」
ミカサが立ち止まり、私を見る。
背は、同じくらいだから、立って隣に並ぶだけで見詰め合えてしまう。
何度も見た、黒い瞳。
光の下では仄かに茶色に見える目、ぼやけることのない黒い髪。
見たことのない顔立ち。
いずれにしても、ミカサは人の目を寄せ付ける容姿だ。
「この部屋、空いてる。」
ミカサの背後、兵舎裏に行く途中にある、いくつもの部屋。
大体は教室や講義室に使われていたりするのだが、たまに空き部屋がある。
そういうところで、そういうことをする。
ミカサの言葉は、大体が合図。
睫毛同士が触れ合いそうな距離まで近づいたあと、唇が触れ合う。
ちゅ、と口の中で音がしたあと、受け入れるように舌を出す。
私のぎこちない反応を押さえ込むように、まるで教えられるようなキスをした。
唇が離れたあと、ミカサに手を引かれ空き部屋に招き入れられる。
適当な机の上に普段着と湿ったタオルを置いたミカサは、私をそっと抱きしめた。
ぎゅっと締め付けられる胸のせいで、体が強張る。
お返しのように、ミカサを抱きしめた。
ミカサの胸は、柔らかい。
細くて骨っぽい、まだ中途半端な体をした私とは違う。
抱きしめると、柔らかいのと、尻の肉が張っていて揉み心地がいい。
鋼鉄のような腹筋に対して、女の子らしいところは、それなりに女の子らしいのだ。
ミカサの手が、私の背中から下半身へと移動する。
しゃがみこんだミカサが、器用に私のベルトを外した。
何度か、こういうことはしている。
ベルトとズボンは、音を立てて足元に落ちた。
「ね、ミカサ」
私の声は消え入るように、ミカサは私を抱えあげ、机の上に寝かせた。
廊下からの淡い光が、寝起きの朝に浴びせられる朝日を連想させる。
反射的に手で股の間を隠してしまうけれど、手をどかせられてしまえば、それまで。
しゃがみこんだまま寝たような体勢で、下着を下ろされる。
ぬるりとした感覚が、股の皺の間を通った。
ミカサの指が、性器を行き来する。
濡れている肉壷に、ゆっくりと指が埋められた。
私の中で蠢くミカサの指を吸い込んでしまえばいいのだろうか。
ずるずると蠢いたあと、中を刺激する。
その間、ミカサはずっと私の顔を見ていた。
どこを弄れば、感じるのか。
指先を使った探りあいは、私の息が荒くなるまで続く。
当の私はというと、蠢く指が快感の糸を探り当てるものだから、目を閉じて、閉じては開けて、滲む度に瞳を潤ませる。
気持ちいいと、腰が浮く。
背中が伸びて、太ももに力が入る。
丸まった爪先は、痺れの行き着く先。
ぐじゅ、と愛液が漏れて溢れる音がすると、ミカサは指を抜いて、溢れた愛液まみれの指で性器の内側を撫でた。
丸い指先が、ぬるぬると動く。
「は、んっ、っ、あ」
潤んで掠れていく目をよそに、指が何本か挿入された。
指は肉壷の中で何度も動き、親指で肉芽を刺激される。
中の感覚は意外と鈍くて、何本入っているかとかは、わからない。
ぐちゅ、ぐちゅ、と音がするから、三本くらい入っているのだろうか。
男としたことがないから、比べることはない。
比べることがなくても、ミカサとの行為が汚いものであるという認識は生まれなかった。
肉壷の中の、ざらりとした一部分を指の腹で擦られる。
潰されるように肉壁を押され、尿意に似た別物の感覚が押し寄せた。
指が這い、伝い、押して擦るたびに、ぐちょ、と卑猥な音がする。
「ふああ、あああ」
耐え切れず、漏れる喘ぎ。
口を押さえると、ミカサに叩き落とされた。
喘ぎを聴かせろということなのだろう。
追い討ちをかけるように中を刺激され、途切れ途切れに喘ぎが漏れる。
「やだ、恥ずかしい」
絶え絶えにそう言うと、ミカサはいじわるをするように肉芽をぐりぐりと押した。
息を詰まらせ、喉を晒す私に、ミカサは不思議そうにした。
「嫌?どうして、私は嫌じゃない。」
焦らすように、快感の場所を探り弄るミカサ。
潤んだ目で視界を広げると、いつものミカサが私の股の間にいた。
涎が垂れそうな私の口から、聞きなれない声色の自分の声がする。
「こんな、声、女の子みたいな」
声色が、割れそうになる。
短い髪に、女らしいとはいえない体つき。
あてはめるような感覚なら、ミカサの立場は私だ。
喘がされることに屈辱を感じることはない。
ただ、恥ずかしい。
好きな人の前でだけは、女の子になってしまう。
ミカサは、体を折って私の涎まみれの唇にキスをした。
唇が離れるとき、ちゅぱ、という音がしてから、ミカサが囁く。
「なまえは、女の子。」
頬にかかる黒髪は、ミカサのもの。
体の、浅くて深い場所にある指は、ミカサの指。
薄くて綺麗な唇が、囁く。
「誰が見たって、どう見たって、女の子。」
潤んだ目から、零れそうになる。
それは生理的なもので、ミカサが指で蓋をしなければ肉壷のほうから溢れ出すだろう。
「ミカサ、あ、あ」
体の中で指が動くたび、喘ぐ。
普段では出ないこの声は、ミカサにしか行き場がない。
「なまえに、名前を呼ばれると、嬉しい。エレンへの好きと、なまえへの好きは、違うの。」
「わた、し、は、ミカサが好きだよ」
「不思議なの、私も、好きって沢山あるの?」
沢山あるのかもしれない、と自己解決したミカサは、私にキスをした。
ああ、洗おうとしていたタオルは、どうしたっけ。
きっと行為が終わる頃には、乾いているかもしれない。
股の間から、垂らした水が落ちて広がるような絶頂が、脳裏にこびりつく。
痺れるような快感に悶えながら、ミカサの熱っぽい視線を感じていた。







2014.12.13



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