愛の眼差し



八重さんリクエスト

・夢主が東さんを好きだなぁとぼんやりとした頭で再認識して、幸せを噛み締める。




髪が乾いたのはいつ頃だっただろうか。
抱き枕を抱いて、春秋のベットの上でごろごろしていると、春秋の気配がすっと現れた。
背中から、私を抱きしめて、それから向き合わせる。
見慣れた顔が、私を見ていた。
抱き枕は体から反れて、私の枕になった。
揺さぶられる最中は、この柔らかい抱き枕を頭の後ろに置いて寝ていたほうがいい。
寝転がっていて、そのまま誘われるときは必ず向き合うように抱き寄せられる。
もしかしてこの人は、後ろ向きの体位が嫌いなのだろうか。
必ず、恥ずかしいところまで、丸見えになる。
色んなことをしてみたい、とか、性的好奇心がないわけではない。
でも、春秋とのセックスには満足していた。
夜、なんの音もしない時に衣擦れの音だけが部屋の中に響く。
私から頬にキスをすれば、春秋の舌が口内に侵入する。
お茶の味が、するような、しないような、よくわからない唾液の味も、苦になったことはない。
鎖骨と胸を触る大きな手に、首筋に何度も落とされるキス。
恥ずかしくて後ろを向こうとすると、すぐ仰向けにされてしまう。
うつ伏せになろうものなら、ゆっくりと前をむかされ、膝の上に乗せられる体位になる。
まだ慣れない、恥ずかしい。
何度もしたはずのことが、恥ずかしい。
こういうときのパターンは決まっている。
お互いが流れるようにいつの間にか全裸になっていて、触りあって、寝て、私が堪らなくなったら足を開いて、春秋の腰を肢体で抱え込む。
伏目がちに、時に目を閉じて、体の中に入っている春秋のそれを感じる。
挿入には、慣れない。
入り口が広がり、奥へとペニスが進むときは、息を止める。
処女あがりのきつさは、いつまで続くのだろう。
腰が疲れて仰向けになれば、覆いかぶさって何度もキスをしてくる。
その間の会話は、ない。
春秋は、年の差はそこまでなくとも、大人の男性。
きっと、春秋は今までこういうことをする女の人はいたのだろう。
いても不思議ではない。
クールそうな見た目とは裏腹に、面倒見のいいお兄さんだし、リーダーシップもとれるし、頭もいい。
その人にも、こんな感じだったのだろうか。
そんなことは、どうでもいい。
もしかしたら相手なんて今までいなかったのかもしれない。
そんなことを思うのは、私はそうだから、でも、春秋は何も言わない。
私を愛してくれる。
抱きしめて、キスをして、たまに撫でてくれたりちょっかいをかけられたり。
私を愛して、今は私を愛して欲しい。
甘える春秋を抱き寄せて、誘う。
視線だけの会話。
抱きしめて、視線を合わせて、また足と手を絡める。
脱げた服が床に落ちた気がしたけど、一瞬でどうでもよくなった。
快感に身を任せていると、自然と瞼は閉じる。
目を閉じても、春秋を思える。
寂しい思いなんて、どこにもないのだ。
まだ、自慰行為の癖が抜けていない。
目を閉じて、春秋のことをまだ東さんと呼んでいた私は、自分の細い指で下着の中に指を滑り込ませていた。
その時の癖は、抜けていないのだ。
目を閉じれば、私に覆い被さる春秋がいて、私の中で動く春秋を妄想して、性器を濡らす。
クリトリスを触り、狭い中に指を入れて、真似事をして、達する。
自慰行為なんて、滅多にしなくなった。
今は隣に春秋がいる。
でも、そう、目を閉じれば、春秋がそこにいるのだ。
のしかかられるよりも近い、頭の中に春秋がいる。
でも、その春秋には触れることができない。
今は、春秋に触れられる。
胸の下のほうに、キスマークをつけられた。
ぺろ、と舌を出して春秋は私のお腹を舐める。
そんなことをしませんと主張したげな薄い唇から覗く舌は、胸も腹も舐めては痕をつける。
真面目そうなものしか映さないと言われても疑わない春秋の目は、私の体を見ては、興奮していた。
細くて、男の人に比べたら役に立たなさそうな柔らかい体を、春秋が食べるように舐める。
舐められて、そのまま食べられてしまう。
そんな気さえ、する。
春秋の黒髪を通り過ぎ、おずおずと、手を自分の股に伸ばした。
繋がっているそこに指先だけで触れると、零したのかと思うくらい濡れていた。
性器の上を広げて、春秋を見つめる。
真っ赤な顔の私を見つめたまま、春秋の指がクリトリスに触れる。
声にならず、詰まって行き場を無くした喘ぎが吐息となって漏れた。
ぬるぬるの性器を、大きな指で撫でられて、下腹部が締まる。
大きくなって、余裕がなさそうに息をして、腰を動かされて揺さぶられる。
昂ぶれば昂ぶるほど、性器の擦りあいだけでも快感になる。
挿入されて、擦られて、覆いかぶさる愛する人の体温があれば、自然と絶頂の糸を手繰り寄せてしまう。
私の中にあるペニスは、どうなっているのだろう。
春秋のほうから見たら結合部分なんて丸見えなのだろうけれど、恥ずかしい。
滲んだ涙が流れそうになり、目を細めた。
「なまえ。」
春秋の、興奮した静かな声。
じっと、見る。
春秋は私をじっと見つめている。
絡む足は温かく、繋がった部分から滲む熱。
触れられるたびに、温もりが腹の底から広がる。
春秋は、大人の人だ。
快楽には、慣れているのだろう。
胸を揉まれたり、吸われたり、クリトリスを弄られたりするたびに、快感に慣れない私は目を閉じてしまう。
そういうときだ。
「なまえ。」
囁くように、春秋が私の名前を呼ぶ。
快感に押されながらも目を開けると、まっすぐな瞳で見つめてくる。
お互い、見詰め合ったまま、動く。
切ない気持ちと、満たされる気持ち、それから性的な快感。
言葉のない会話。
ベッドの上では、言葉なんていらない。
見つめる春秋の瞳は、まっすぐに私を見ていて、私もまっすぐに春秋を見る。
汗ばんだ額、男らしい胸板、春秋の昂ぶりを包む私。
真似事みたく、作り物みたく、喘いだり腰を振ったりしない。
いつだったか、女友達と見たアダルト映画は、色々と酷かった。
下品な音を出して、液体を撒き散らし、猥語を機関銃のように連発し、穴という穴で交わる行為と、同じのはず。
同じなはずなのに、こうも違う。
ふざけ半分で目にしたアダルトビデオのセックスとは違う。
健全な性行為といえば、おかしいのだろうか。
きっとこれが普通で、愛しあうというコミュニケーションで、この行為は普通なのだと、まっすぐな瞳の奥の脳で感じる。
まっすぐ、見つめあう。
バックでしたら見つめあうことはできない。
ああ、春秋が後ろ向きでしない理由はそれか、と頭の途方もないところで合点がいって、目尻に涙が浮かぶ。
気持ちいい、言葉にするまでもないこと。
腕を回して、春秋を抱きしめる。
春秋は、私を抱いてゆっくり動く、ゆっくり息を吐いて、吸って、私の名前を囁く。
擦れるたびに、達するほどではない焦らしのような快感が伝う。
腰と足が触れ合って、膣内にずるずると快感が押し付けられる。
擦れて、愛液でぬれたそこが絶頂を得ようと疼き始め、臍下は締められた。
体を跳ねさせるには足りない快感を与え続けられて、足の筋肉だけがぴんと伸びる。
私の足がぴんと伸びたのを見て、春秋は奥に挿入したまま僅かに動かし始めた。
臍の下の、その中が、きゅうっと冷えるようだ。
春秋の親指がクリトリスを転がし、背中が跳ねる。
熱い体に注ぐ快感は、冷たい刺激に感じてしまう。
膣内で動くペニスが膨らんだように思えたときには、春秋が珍しく切羽詰ったような顔をしていた。
男の人の、一番色っぽい瞬間。
ぐ、と一番奥のあたりに押し付けるように腰が動いて、中に広がる。
その間も、それから暫くも、私は春秋を抱きしめたままだ。
大きな背中、愛する人。
体に残る熱は、冷める気配がない。
途方もない頭に浮かぶ言葉も、ない。
なにもない幸せ、ただ、愛してると体がいっている。
熱が治まった春秋が、私の膣から萎えたペニスを引き抜いて、ティッシュを手にし、性器を軽く拭いた。
丸めてゴミ箱に落ちたティッシュからは、性の匂いがする。
体の中から春秋が消えて、性器の内側に精液が滲んだ。
頭は気だるく、動けずにいると、春秋が抱きしめてくれた。
大きな腕に抱えられ、安心しきっていると、唇と唇が触れる程度の優しいキスをされた。
「ごめん、気持ちよくて・・・夢中だった、苦しくなかった?」
「大丈夫、すごく」
恥ずかしさは、本音を言うときだけ捨てなければならない。
「気持ちいいから」
紅潮した頬を撫でられ、そっと枕に頭を乗せられる。
私の横に寝た春秋は、私を撫でた。
大きな手が、労わるように私の頭と、髪と、頬と、肩を撫でる。
春秋の指から、私の匂いがする。
優しそうな春秋と、さっきまでの春秋が頭の中で同居している。
ぼうっとしていると、春秋が右腕を伸ばして、力瘤のある部分をつついた。
嬉しくなり、するすると移動し、春秋の腕枕を堪能する。
後頭部を撫でられ、気持ちよくて目を細めて甘えてから、胸板を触る。
男の人の筋肉質な胸板に、指を埋めるようだった。
射精しそうなときの、余裕のない顔。
あの色っぽい顔が見たいけれど、自分から率先して見れる顔ではない。
春秋の顔を見つめていると、私の匂いがする指が離れた。
「なまえ、大好きだよ。」
ぽつりとそう言われ、驚いて目を丸くすると、春秋の優しそうな笑顔が飛び込んできた。
照れくさく笑って、腕枕に頬をすり寄せる。
「うん」
春秋の額に浮いた汗のひとつをぬぐって、体を少し起こしてキスをした。
首にゴム紐でもつけられているかのように、素早く腕枕の位置に戻り、照れ笑いをする。
照れる私を撫でて、春秋は私の背中に手を忍ばせた。
「もう一回したい。」
私の匂いがする指が、頭から胸の谷間まで降りる。
谷間に指を滑らせ、丁寧に胸を揉む。
「私も」
今度は目を閉じないでしよう、と頭の中で呟いた。







2014.12.01



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