加減を知らない
働きすぎて疲れた城戸さんを責めてる疲れている素振りも見せることはない人に、無理をするなだとか、休めだとか、言うほうが無理がある。
仕事のことしか考えていない人は一定数いて、働けば働くほど加減が消えていく。
そうして、体のどこかを病んで、何かが取り返しのつかない事態になる。
真面目な人ほど疲れきって、崩れてしまう。
それも人生だと言えるほど、病に対して寛容にはなれなかった。
健康に生きていれば、見えない不幸は、まったく見えなくなる。
ある日突然見える不幸は、人を変えてしまう。
この人の場合は、それが性に出た。
「飲んだでしょう」
軽くキスをして、シャツの隙間から指を這わせて胸を触った。
筋肉質な胸を撫でても、鼓動は伝わらない。
表情のない顔についた傷に触れると、神経質そうに目尻が動く。
「効いて、ないのかもな。」
違法ではない、普通の精力剤と、違法ではない錠剤。
どちらも性的なものに使用するものだ。
合わせて飲んだのなら、鼻血を出してもおかしくない量。
空の瓶とパッケージが、床に散乱している。
正宗の唇を舐めると、精力剤の濃くてわざとらしい味がした。
そこらへんの栄養ドリンクよりも、不味い。
この味が好きだという男は、いないと信じたかった。
煙草よりも酒よりも、キスが不味くなる。
飲んでも、効いていない。
無反応のそこを弄って、申し訳程度に正宗に囁く。
「病院行ったらどうなの」
正宗の肩を抱いて、背中を何度も撫でる。
胸を押し付けると、正宗は私の体を抱きしめて寝転んだ。
跨って、太ももと股を擦り付けても、硬いものは当たることもない。
私の長い髪に指をいれて、何度も遊ぶ。
神経質の塊のような手は、いつも清潔だ。
服を脱ぐときも、ネクタイをすぐ緩める手とか、仕草が好き。
鼻先をつついて、正宗に微笑みかける。
「あれ、やる?」
見つめたまま、意味ありげに言うと、正宗は顔を強張らせた。
精力剤のせいか、正宗の肌は暖かい。
「練習したでしょ、大丈夫よ」
寝転がって抱きしめている手を、するりと腰に移動させる。
逃げようとする正宗の腰を掴んで、下着を下ろした。
何度も、練習はした。
それでも、そこから先には進まず、いつも途中で終わっていた。
これをすれば、多少の問題は解決するかもしれない。
淡い希望は、希望的観測でしかなく、確証もないまま事を進めることができなかった。
じりじりと逃げようとする正宗の腰を、逃がさずに捕まえて、膝を掴んでゆっくり足を開かせる。
短くしておいた爪が、膝に少しだけ食い込む。
正宗は驚いたように足に力をいれ、困って赤面していた。
何も言わず、悪戯にひっかかって恥ずかしがる子供のような顔をしている。
足を閉じようとすれば、また膝を掴んで開かせる。
何度も繰り返したあと、観念したように、正宗が足を開いた。
褒美のように臍下を撫でると、足だけがぴくりと動く。
あまりにも無防備で、笑ってしまいそうなくらい間抜けな体勢を見ても、私は笑わなかった。
持ってきたローションのボトルに手を伸ばし、蓋を開ける。
新品の蓋は、思いのほか軽かった。
正宗の顔が、酷いくらい真っ赤だ。
腕で顔を覆ったのを見て、そのまま四つん這いにするよう体を誘導すると、潤んだ目で私を見た。
そんなことはお構いなしに、伏せた犬のような体勢にさせてから、痴漢になりきったように尻を触る。
「おい、っう、おい・・・。」
腰骨から太ももを、労わるように触るだけで、正宗は声を漏らした。
爪の短い指で尾てい骨を触ると、腰が逃げる。
腰が逃げれば、膝の裏を触る。
びくびくと反応する正宗で遊んでいると、詰まるような吐息がこちらにまで聞こえてきた。
ん、ん、と寝言でも漏らさないような声が、漏れる。
今まで見たこともなかった、正宗の恥ずかしそうな声と、顔と、体。
からかうように肛門をつつくと、腰をくねらせるようにして、すっかりへたりこんでしまった。
「なまえ、み、るな。」
今更申し訳程度に、手で尻を覆い隠した。
正宗の手が、必死に本来見えてはいけないそこを隠す。
「見えてる」
隠そうをする手を何度も払いのけていると、渋々手をどけた。
丸見えになったそこが恥ずかしいのか、太ももの筋肉が張っているのがわかる。
「なあ、なまえ、これ。」
正宗が自らコンドームを差し出して、痛くしないでくれ、と呟いた。
コンドームを受け取り、正宗に寄りかかってキスをした。
不味い精力剤の味はしない。
大丈夫よ、と言っても、正宗の体は相変わらず強張っている。
指にコンドームをはめて、持ってきたローションを垂らした。
尾てい骨の辺りからローションを垂らして、わざと臀部全体にぬめりを与える。
ふざけたように尻の割れ目をコンドームをつけた指先で弄ると、正宗は顔をシーツに押し付けるようにして、呻いた。
「なまえ、その・・・。」
弱々しい、不安そうな声。
コンドームをはめた指を、滑りにまかせて挿入した。
ただの締め付けのある穴としか思えず、何度か指を中で探らせて、第二関節のあたりまで入ると、急に締め付けられた。
空いた手でローションを垂らして、慣らす。
正宗が私にしていたように指を動かすものの、ここは濡れる場所ではない。
ローションが空になるつもりで、垂らした。
締めつけるばかりで、水音はしない。
ローションと皮膚が擦れる滑り気のある音が増えるだけで、これといった変化はなかった。
コンドーム越しに伝わる肉感も熱も、それほど不自然ではない。
性欲と離れた肉への探究心が刺激され、指を奥に進めると、何かに触れているような気がした。
押すと、僅かに弾力に似た何かがある。
「どう?」
「大丈夫だ・・・。」
正宗の呻きは、明らかに大丈夫ではなかった。
例えるならば、胃に入った異物を今にも口から出そうとしているような、そんな声だった。
一度やめよう、そう判断して、指を引き抜こうとしたときだった。
「んあっ!」
弾力に似た何かを指が通り過ぎたとき、正宗が反応した。
引き抜きかけた指を押し戻し、何度かそこを押す。
正宗の息が、何度か止まっては吐き出すように切羽詰る。
息を吐き出すたびに、腰が動く。
「する?」
私が聞くと、正宗はシーツに顔を埋めたまま頷いた。
刺激しないように、コンドームをはめた指を引き抜き、ゴミ箱に捨てる。
一応と持ってきた、男性器の真似をしたような型がついた下着を手にした。
ペニスバンドというその名前が嫌いで、手にするもの億劫だったそれを、履く。
不安定としかいえないその下着は、取ってつけたような見た目で、不快感に似た愉悦を感じた。
正宗の尻にも、型にもローションを垂らす。
「いれるよ」
頷いた正宗の後頭部を凝視するわけにもいかず、結合部を見る。
入るのかどうか、それだけが心配だった。
挿入される側の自分が、感覚だけで腰を進める。
ぐっと広がった肛門の広がりを見て、皮膚が悲鳴をあげそうになったらすぐにやめよう、そう思って挿入しているうちに、型の半分は挿入できた。
痛い思いをさせたらいけない、とローションを垂らして結合部分を指でなぞると、正宗が苦しそうに喘いだ。
「はっ、う。」
シーツを握り締める正宗の手の甲が、白い。
浮き出る血管と赤くなった耳を見つつ、腰を動かす。
「っはあ、う、くっ、う。」
シーツに吐き出されるような喘ぎ声は、次第に大きくなっていった。
腰を動かしたり、真似事のように突くと、正宗の喉から声が漏れる。
「んぐ・・・ぐっ・・・はっ。」
男性のここは、どういう風に感じているのだろう。
少なくとも、ここで性交するのは初めての今は、苦痛が半分以上で、喘ぎにも苦しみが混ざっている。
提案したときには盛大に拒否されたものの、暴れないということは最悪な気分でもないことが伺えた。
嫌だ嫌だと言っていたときからは、想像もつかなかった状況。
肛門挿入なんて同性愛者しかしない、というのが認識だったことが原因らしい。
それでも解決策があるかもしれないと言うと、了承したのだ。
「ね、こっち向いて」
正宗の腰を掴んで、挿入したまま腰を動かした。
仰向けにさせようとすると、シーツに顔を埋めたままの正宗が情けなく喘いだ。
「う、うっ!」
顔を埋めたままの正宗に、何かぞくぞくしたものを感じて、腰を掴んで動かした。
女のように、緩く動く腰と骨ばった足。
男の人の真似事のように突くと、正宗の爪先が丸まった。
「んあっ!」
正宗の太ももの裏を押さえ、掴んで、ローションの滑りだけを頼りに腰を動かす。
ただ取り付けているだけの下着。
男ではないから、どう腰を振れば調度いいのか、加減が分からない。
もし、私が男なら、刺激に耐えられず途中で射精してしまうのだろう。
精々腰が疲れる程度で、延々と正宗の尻を虐めぬいていた。
安物の型が、何度も正宗の直腸内を行き来する。
精力剤と錠剤を混ぜるという暴挙にも反応しなかった正宗が、苦し紛れに反応している。
突いているうちに、正宗が観念したように目を開けて、シーツを掴んでいた両手を腹と下半身に移動させた。
血管が浮いた手の甲から見える指の間が、赤い。
突かれながら、自分で性器を弄る。
見たこともないような正宗の顔に、胸が高鳴った。
気分が高揚しているのは間違いない、それと同時に、何故か加虐心までが加速した。
潤んだ目と、助けを求めるような口元。
懇願しそうな表情に、快楽が混じる。
蕩けた顔をした正宗は、突けば突くほど真っ赤な顔をして、耐えていた。
「うううう、う、うあっ、あっ!」
結合部分に、ローションを垂らす。
開封したばかりなのに、半分以上ない。
垂らしすぎかもしれないが、このままでいいはずだ。
濡れる部分ではないところに垂らしていれば、一つくらいすぐ空いてしまう。
アダルトビデオの男優の動きを思い出して、真似をする。
普段じゃ考えられないような、腰の動き。
太ももが痛くなって、腰骨が軋む。
相変わらず、自慰行為のように性器を弄っていたが、勃起はしていない。
男性の真似事をしているうちに、腰が痛んだ。
正宗はどうやっていたか、思い出しながら動かす。
激しく突いても、正宗が顔を顰めるだけで、ゆっくり優しく肉壁を撫でるように突くと、正宗は僅かにも喘いだ・
額から頬に伝った汗に気づいて、この体勢が疲れることに気づく。
またひとつ汗が伝って、唇に滲んだ。
あひる座りが女性にしか出来ないように、腰を突き、振る動きをするように女性は出来ていない。
それでも動くことは、もはやスポーツに近かった。
突けば突くほど、正宗の顔は蕩けていく。
楽しくて、たまらない。
「はっ、はっ、ああ!」
涙と、涎と、食いしばった歯の間から漏れる声に、加虐心が刺激される。
「やめろ・・・やめろ・・・。」
「嫌なの?」
「う、や、ぐっ、ん、ああ、なまえ、きもちいい、あああ!」
痛いのか、不快感が勝ったのかと思うと、正宗はいやいやと首を振った。
正宗の声は次第に上擦っていき、私の名前を呼んだときには目に浮かべた涙が、ぽろりと落ちる。
「ちが、ちが、うっ!あ、あ、あ、あ、あ、なまえ、あ、も、あ。」
シーツを握る締める手が、震えていた。
「ふ、ぐうううっ、う、うっ。」
一際籠もった声を出した正宗が真っ赤な顔をして、今にも泣きそうな顔をした。
勃起していない性器から、とろとろと精液が漏れ出している。
「よかったね」
思わずそう言うと、正宗の腰が震えた。
「もっとやってくれ・・・。」
掠れた声は、たしかに正宗の声で、初めて見る男性の蕩けた顔も、取り返しのつかないものなのだろう。
愛しい人にキスをして、涙の零れたあとを指で撫でた。
2014.09.14
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