我侭と貴方




kyoさんリクエスト
・お互いのメリットのために付き合っていることになっいるけど実は両想いだということに気づいていないアルミンと頭のいい女の子話





飛んでくる声も撥ね退ける力すら、無いわけではない。
ただそこにあればいい。
蚊のように五月蝿い周りの声は、耳を潰せば聞こえなくなるだろうか。
耳を潰しても、目から、空間から、目線から、それらは延々と伝わり続けるだろう。
アルミンと付き合う、そうなったときに感じたことはそれだった。
成績優秀な、ミカサとエレンに近づくために側にいる。
そう思われているに違いない。
その証拠に、初対面のアルミンは私の目すら見てくれなかった。
しつこく、しつこく、時に悪戯っぽく、アルミンに構い続けた。
構えば構うほど、面白い反応をする。
まるで女の子みたいな、柔らかい仕草に、男の子の行動。
それが、私の中にある何かを刺激した。
丸っこい鼻をつっついて、眉毛を触れば、逃げられる。
追いかければ、逃げられる。
観念すると、アルミンは眉毛を下げて諦めたように私から逃げなくなる。
恥ずかしいのか、うざったいと思われているのか、なかなか振り向いてくれないアルミンに、私は燃え上がった。
女の子の前では、少しだけ俯いて、つっぱねるようにエレンに話しかける。
仕草が可愛らしい男の子だと思って、私は純粋に恋をした。
純粋かそうじゃないかなんて、本人にしかわからない。
成り行きや、その場のことで付き合うようになる人たちなんて、腐るほどいる。
そんな人達と私は違う、そう主張したかった。
アルミンは頭がいい。
私と付き合うことになった時は、真っ先にメリットを考えていた。
そのメリットがなんなのかは、私は知らない。
迫ってもこないところを見る限り、おふざけの延長戦であると判断されてしまったことが察せる。
おふざけで付き合っている子なんて、たくさんいる。
そうじゃないのよ、と言えるくらい素直にはなれない。
真面目な、頭のいい、大人しいアルミン。
今日もからかってやろうと、本を読んでいるアルミンの後ろに忍び寄る。
男の子にしては細い体と、綺麗な髪の毛。
いつも隣にいるエレンとは大違い。
当然、この空間には似合っていない存在だった。
アルミンは、どうしてここにきたのだろう。
隙があれば聞こう、そう思ったのはいつのことだっただろうか。
本を読んでいるアルミンの肩に手を置いて、するすると下ろし、胸のあたりで両手を組む。
手の平に、男の子独特の骨っぽさを感じる。
私の細くて長い、折れそうな指と、その間にできた擦り傷が、急にあっけなく思えた。
綺麗な手なのに、アルミンの指には傷ひとつない。
もしかしたら、他の場所にあるのかもしれないけれど、見た感じは無傷だ。
男の子は強い。
もしアルミンが怒れば、肩においた私の手なんか簡単に振り払ってしまうだろう。
そんなことをしないのは、わかっている。
他人の気持ちにあけすけでいればいるほど、私の気持ちは強くなった。
アルミンのことは、分かっている。
さらさらの金髪の下。
顔は見えないけれど、真っ赤になっていることを知っている。
「なに読んでるの」
ちらりと見ると、小難しそうなことばかりが並べられた本を広げていた。
読み続けていると目が悪くなりそうな、小難しい本。
男の子にしては白い指が、古びたページを捲る。
「また外の世界のやつ?」
「そうだよ。」
振り向いてくれたアルミンは、私の目を見てくれる。
こうして、探ってくれるようになったのは最近だ。
付き合うことの意味を、本人なりに見つけようとしている。
これが彼の思春期というものなのだろうか。
思春期の共に古びた本なんて、一体どういう大人になるつもりなんだろう。
博識な、生き字引になれば、生きるのに困らない。
そう言える生活を歩みたいのなら、何故こんなとこに来たのだろう。
聞きたいことも知りたいことも山ほどある。
私が全て目の色から察していることに、気づいていない。
「なまえは読まないの?読もうよ、こういうの、僕しか読まないんだ。」
「じゃあ読み聞かせてよ」
わがままを言って隣に座ると、アルミンは驚いたように本の端を握り締めた。
足を組んで、本とアルミンを見ながら、にやにや笑う。
本当は微笑んでいるつもりだけど、そうにしか見えていないだろう。
だって、アルミンは可愛い。
つい構って、悪戯したくなる。
わがままな私を、アルミンは持て余していた。
男の子なのに女の子に対して構えないでよ、と言おうとして、からかった。
「わたし、字が読めないの」
にんまりと笑ってそう言うと、アルミンの表情が曇った。
伏目がちにしたあと、私の顔色を伺う。
実は可哀想な子なのか、と思い始めたようなアルミンの顔。
教養がないが故に、字も読めない子なんて、珍しくもないだろう。
自らに歩み寄った人に、そんな人がいるんじゃないかという危惧。
やはりこの人は、頭がいい。
「え、っと」
頭のいい人が模索しはじめる顔ほど、面白いものはない。
困った眉毛を隠している、金髪の前髪をかきあげてみると、アルミンの額は冷たかった。
「冗談よ」
私のおふざけを真に受けたアルミンが、ほっとした顔で本を閉じた。
興味が本ではなく私に移ったところで、額から手を離す。
「アルミンは素直だね」
素直、と言われてもあまり嬉しくなさそうなアルミンの目の色を見た。
不安とも、臆してもいない、はっきりとした目線。
きっとこの人は頭がいい。
でも、駆け引きには弱いのかもしれない。
私と付き合うことになったときも、こちらの意図が見えていなかった。
今のアルミンからは、伺えることが少ない。
「なまえはさ、ねえ。」
「なにかな」
「なまえはどうして僕と仲良くしてるの?」
珍しく率直な質問をぶつけられ、ついアルミンの頬をつつく。
ふに、と柔らかい感触が指にあたり、胸のあたりがきゅんとする。
「ああ、そっか」
私が抱いているのは、ただの恋心よ。
「僕、変なこと言ったかな。」
素直じゃない自分に呆れて、またわがままっぽく笑う。
アルミンの側にいるミカサは、こんな笑い方はしないだろう。
だったら、異質に見えても仕方がない。
「いやあ、なんでもない。」
古びた本の隣にあるアルミンの手を、そっと握った。






2014.07.27

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