怒りと共に






リサさんリクエスト
・そっけない態度の団長と、兵長にちょっかいを出されて豹変する話




「ね、あのね、お茶に合うお菓子買ってきたの」
お菓子の袋を抱えてそう言うと、エルヴィンはこちらを見ずに返事をした。
「ああ、そうか。」
「二人で食べるぶんも買ったの、食べよう」
「悪いが、今はそんな時間はない。」
「じゃあ、明日は?」
「会議がある、会えない。」
そっけない、なんともそっけない。
忙しいのはわかる、だからこそ、少しくらい気に留めてほしい。
そんなわがままを主張できるほど、私は気が強くない。
「そう」
相槌を打って、エルヴィンの仕事の邪魔にならないうちに執務室を去った。
執務室から近い資料室に駆け込んで、思わず涙目になる。
仕方なく買ったぶんのお菓子を食べて、胃に押し込んだ。
お菓子の味が口に広がるたびに、胸が痛くなる。
包装された袋を投げ捨て、最後の一口までお菓子を口に放りこんだ。
飲み込んで、それから虚しさが押し寄せる。
埃くさい部屋の隅で、泣いては息を止め、涙を流し、たまに息を吐き出して、何度か息を吸う。
ぽたぽたと床に落ちる涙が、埃の上に染みを作った。
ここは資料室だから、誰も来ない。
そう思って悲しみの掃き溜めにここを選んだけれど、思い違いだったようだ。
「なにくすぶってんだ、なまえ。おい、邪魔だ。」
聞き覚えのある声に、本当は背筋を伸ばさなきゃいけない。
そんな気力も、沸いてこなかった。
泣きじゃくった顔を晒すように振り向くと、資料の束を机に置いてこちらを静観するリヴァイ兵長がいた。
「ひでえツラだな。」
冷たく、そう言い放つ。
「誰かに殴られたか。」
「そんなんじゃないんです、別に」
私のいる部屋の隅まで、大股で音も無く近寄り、鋭い目をこちらに向ける。
刺されそうな視線を、潤んだ視界で受け止めた。
「言え、女の泣き顔なんて胸糞悪いんだよ。」
垂れる鼻水を、すすりたい。
無礼なことをリヴァイ兵長の前でするわけにはいかず、だらしない顔をしたまま枯れそうな締まる喉で答えた。
「あの、エル、団長が」
「エルヴィンがどうした。」
「・・・そ」
この人は、私がエルヴィンとそういう仲なことを知っているのだろうか。
どうせ、察しがつかされていて、耳にはしているだろう。
大体、ここまで泣きじゃくっているのだから、どう言い訳しても無駄。
溶け出した不安は、もう止まらない。
「そっけなくて、その、本当に」
寂しいんです、とまでは言えなかった。
そんなことで大人が泣いちゃいけない、そう分かっていても、不安で仕方ない。
この大きな不安を目の当たりにしたのが、エルヴィンではなくリヴァイ兵長。
自分が情けなくなり、つらい。
不安と嫌悪に押しつぶされそうになっている私を見て、リヴァイ兵長はぴしゃりと言い回す。
「ああ、つまり、なまえ。お前は欲求不満だと。」
「違います、そうじゃなくて」
「ヤるだけ女なのかってことかどうかだろ、お前が不安になってんのは。」
喉が、ぐっと締まる。
唇を噛んで、なんとか答えるか相槌でも打つか、どれかをしようとしても、できなかった。
「くだらねえな、エルヴィンは咥えさせる隙も見せないのか。」
頭の中に置かれた鉛のようなものが、ずんと重くなる。
重い重いそれは、涙を押し流す。
なにもかも、魅力の無い私が悪い。
私は、団長という高嶺の花に近づけて嬉しかった、でもそれがエルヴィンにとってなんの為になるというのだろう。
ただの寄ってくる女の一人に過ぎない。
そんなこと、もう分かっている。
「わた、私が、悪いんです」
唇の隙間から、鼻水がすこしだけ垂れる。
どれほどまでに情けない顔をしているのだろう。
私が悪いと言ったら、リヴァイ兵長は鼻で笑った。
「べそべそ鼻水垂らして泣いて、それか。」
鼻で笑ったけど、目が笑っていない。
正直、この人は怖い。
憧れる人もいるのだろう、でも、私には怖い人にしか見えない。
ぐらぐらする頭で、不穏な感覚を感じる。
普段暴れることのない強い人ほど、怖いものはない。
「自分が悪いとか言えば、自分の保身になるものな、そりゃあ。」
リヴァイ兵長は、ポケットから取り出した布、いや、ハンカチだ。
ハンカチを私の顔に押し付けた。
「ほら。」
涙と鼻水が吸収され、ハンカチに染みが広がる。
顔から汁気が消えて、すこしだけ熱さが消えた。
「ありがとうございます」
目から下をハンカチで拭いて、目を閉じて睫毛についた涙を押さえた。
ふっと目を閉じた、その時だ。
尻に、何かぶつかるような違和感を感じた。
それと同時に、腹にも密着感がある。
「ひっ、う」
驚いてハンカチを手放し、目を開くと、目の前にリヴァイ兵長がいた。
顔が近い、目が怖い。
リヴァイ兵長の手が、私の尻を掴んでいると分かるまで、数秒の時間を費やした。
「でけえケツだな、あいつこんなもん揉んでんのか。」
力強い指が、尻の割れ目に移動して、持ち上げるように揉む。
指が、尻をまさぐって、それから、服の上からとはいえ、指が然るべき場所に到達する。
「わ、う、う、リヴァイ兵長」
逃げなきゃ、火がついたように恐怖心が燃え上がる。
兵長の力は強く、揉み方も多少乱暴だ。
こんなふうに、エルヴィンは揉まない。
こんなふうに乱暴にしない。
本能が叫び、ぞっとして、リヴァイ兵長の腕の中で暴れまわって、突き飛ばそうと渾身の力で腕を振り払った。
腕はびくともしない、リヴァイ兵長が本気を出せば、私なんか軽く押し倒されてしまう。
リヴァイ兵長が、そんなことをする人のはずがない。
なら、目の前で起きているこの出来事はなんだ。
からかわれているだけ、そう思いたい、誰にも言わないからやめてください、そう言いたかった。
でも、また言えなかった。
このままリヴァイ兵長ごと資料室から飛び出してもいい、その勢いで扉に向かって身を進めたら、腕と尻を揉む力が緩んだ。
何も見ず、何も振り返らず、部屋を飛び出し、真っ白な頭のまま逃げた。
長い長い廊下、目的地は決まっている。
自分の呼吸する音だけが、耳に響く。

扉を思い切り開けば、当然エルヴィンはいなかった。
会議なのだろう、扉を閉めて、背にかかりずるずると座り込んで、また涙が溢れ出す。
扉の隅まで這って、座り込んで泣く。
泣きつかれて、すこしだけ眠ろう、そう思ったときだった。
扉が開いて、部屋の主が私に気づく。
「なまえ?」
座り込んで俯く私に、エルヴィンが駆け寄る。
「どうした。」
心配そうな声。
こんな心配をかけて、私は最低だ。
「何があった、どうした。」
何かを喋ろう、なにか言わなきゃ、そう思えば思うたび、呼吸が増える。
その様子を見たエルヴィンが、私を抱きかかえ、ベッドに座り、背中を撫でてくれた。
増える呼吸と早い心拍数、ぼろぼろと落ちる涙と締まる喉。
何度も労わるように背中を撫でる、大きな手。
ひきつった呼吸は次第に止まって、どれくらい経ったか分からないうちに体は落ち着いた。
今わの際のような息のまま、エルヴィンの胸によりかかる。
熱で支配された頭が、ぼやぼやと内側から破裂に向かいそうだった。
「落ち着いたか。」
優しい声が聞こえて、僅かに頷くと、大きな手は頭から背中まで、丁寧に撫でてくれた。
鎮まった恐怖心のあとには、安心が湧き出る。
脈がゆっくりと、元通りになるのを感じた。
「取り乱すなんて、品が無いわよね、ごめんなさい」
「そんなことはいい、どうしたんだ。」
エルヴィンが、優しく問いかけてくれる。
「その」
言えない、言えない。
喉に詰まった言葉が胃に落ちて逆流しそうだ。
もし言って、嫌われてしまったら。
先ほどのことを、言うのか。
「う」
でも、言わなきゃいけない。
言わないと私がまた決壊してしまう。
ここにいるのは、安心できる人。
「リヴァイ兵長に」
その名前を出しても、エルヴィンはまだ怒らない。
「お尻揉まれて」
脳内に蘇る、知らない指の動き。
それが私のそこに触れた、なんて、言えない。
「う、う」
詰まる言葉と共に、体が強張る。
すっと冷えた胃に刺さるような言葉が、落ちてくる。
「何故そんな状況になった。」
恐る恐る、エルヴィンの顔を見た。
いつもの顔だけど、なんとなく目が怖い。
ああ、怒っている。
こうして抱きしめられるのも、最後かもしれない。
それなら、もう、いい、何もかも言おう。
「資料室で、泣いてたら、ハンカチ渡してくれて、拭いてたら」
「なんで泣いてたんだ?」
核心に迫る質問に、押さえていたものに火がつく。
烈火のごとく燃えあがったその感情が、なんなのかは、まだわからない。
大人のつもりでいたけれど、私はまだまだ子供のようだ。
エルヴィンの顔から目を反らして、両手で顔を覆って、歯を食いしばる。
発作的に出た言葉が、私とエルヴィンの間に響く。
「え、える、エルヴィンが構ってくれないしそっけないからああ!!」
なんて情けない理由だろう。
零れてしまった思いは、漏れ出してわかる。
とても、とても、情けなくて幼稚だ。
きっと嫌われてしまう、そうしたら、この体と思いをどうしようか。
考え始めたときだった。
「すまなかった。」
エルヴィンが、ぽつりとそう言った。
「寂しい思いをさせてしまったな、すまなかった。」
「え、う」
「もっと抱きしめてやるべきだった、私が悪い、すまない。」
静かになる心に、安心だけが灯る。
向き合うように抱きなおされ、あやされるように頭を撫でられる。
熱い目元が、冷えていくのを感じた。
いつものエルヴィンが、側にいる。
たったそれだけで、震えあがるような感情は引いていった。
「なまえ、もう泣くのはよしてくれ、原因である私が言うことじゃないが、泣き顔は見たくない。」
その一言に、何かの糸が切れ、エルヴィンの胸に顔を埋めた。
動く気にもならず、手だけを回す。
私とは比べ物にならない、大きな体。
ぎゅっと、小さい子供が甘えるように抱きついた。
「なまえ。」
丁寧に、そっと起こされ涙のあとを指で拭かれる。
目から頬に向かって指が伝い、唇に触れた。
指の次に触れるものに期待して、目を伏せて待っていると、エルヴィンが私を強く抱きしめた。
「尻を揉まれたと言ったな。」
「えっ、うん」
「どんな風に?」
「強く、ぐいって揉むかんじ」
「こうか?」
抱きしめていたはずの両手は尻に移動して、大きな手は私の尻を掴んだ。
揉んで持ち上げるように、ぐっと指が尻に食い込む。
「ひっ、う」
「これだけか。」
耳元で、そっと囁かれる。
エルヴィンの顔は見えないけれど、これだけは分かる。
怒っていると同時に、欲情している。
男の人独特の性欲が表れたのを感じ取り、頭が熱っぽくなった。
「指とか動かされて」
期待している自分に、嫌気が差した。
嫌気も、どこかに消えて、せり上がってくる肉欲に頭を垂れた。
「こうか。」
エルヴィンの胸に顔を埋めて、指の動きに耐える。
先ほどの揉み方よりも、ずっといやらしい。
大きな手と長い指が、尻の肉を犯すように動く。
「んっ、んんん」
「指はどうした。」
「あ、私のそこ、触ってきて、それで」
エルヴィンの指が、触れるか触れないかの力で服の上から性器を何度も撫でた。
行き来する指の動きが、そのまま力を入れることはない。
焦らされるように何度も撫でられ、吐息が漏れる。
「こうか、ここを。」
わざと、焦らしているのだろう。
嫌気もどこかへ行くように、触れなれた指と体に不安はどこかに消えてしまった。
「は、う」
ベルトが外され、ズボンを脱がされ、パンツだけになる。
パンツの上から撫でる指が、湿ったところを捉えた。
大きな手が、ゆっくりとパンツを脱がす。
恥ずかしくて目を瞑って、半開きの口から喘ぎに似た声が漏れ始めた。
指は、濡れた性器に触れるか触れないかの力で何度も撫でた。
私が言うのを待っている。
エルヴィンは、今どういう気持ちなのだろう。
怒りながら、いやらしい気持ちになっているのだろうか。
それなら、私も大体一緒だ。
「やだあ、この体勢やだよ」
縋りつくようにそう言って、蕩けた目をエルヴィンに向けた。
エルヴィンはというと、冷静を装っているものの、股間の部分が盛り上がっている。
エルヴィンの顔と股間を何度か見たあと、ズボンの上から撫でた。
「どの体勢ならいいのか、言うといい。」
私を抱きしめたまま、ゆっくりとベッドに寝転がった。
エルヴィンの腕の中から起き上がって、丸出しの下半身を恥もなくエルヴィンに向けた。
「これがいい」
尻を顔に向けるという、下劣もいい体勢になって、それから尻を突き出した。
腰を掴まれ、性器に舌が這う。
愛液の溢れる膣の入り口に舌が這えば、舐めやすいようにとエルヴィンの顔に乗った。
「綺麗にして」
涙声でそう哀願してから、手を伸ばせば届く距離にあるエルヴィンのベルトを外した。
ズボンを下ろせるところまで下ろし、勃起したものに手を伸ばす。
わざと悪戯っぽく扱くと、舌は感じるところを舐め始めた。
いじる手の中にあるものは、どんどん大きくなる。
「ね、もう」
いいだろうと思い腰を浮かせた。
優しく掴んでいたはずの両手は、しっかりと掴んで離さない。
「まだだ。」
尻をあげると、エルヴィンが起き上がって私をうつぶせにした。
エルヴィンの舌が、私の尻を舐める。
舐めたり、キスしたり、尻の肉を甘噛みしたり。
尻がどんどん、唾液まみれになっていく。
その感覚を、気持ちいいと思ってしまった。
一通り舐め終わったようで、唾液まみれでぬるぬるした尻に何か熱いものを押し付けた。
「綺麗にしたぞ。」
尻を突き出して誘うと、濡れたそこに異物感を感じた。
心地のいい異物感が、内臓を押す。
挿入されるものが深くなり、尻とエルヴィンの腹が触れ合う。
熱のぶつかり合いは、激しくはなかった。
ゆっくり動くそれは、中で大きくなって、私の中でまた熱を帯びる。
うつぶせのまま感じていると、首元にキスをされた。
顔をエルヴィンのほうに向けると、唇にキスをされ、舌が触れ合う。
私の背中とエルヴィンの胸板が触れて、汗が擦りあった。
エルヴィンの舌は、唾液まみれもいいところだった。
柔らかくて、湿っぽい私の舌と、私の尻を舐めた舌がぬるぬると絡み合う。
そうしているうちに、どく、と私の中でエルヴィンのものが脈打った。
汗まみれの体に、注ぎ込まれる。
快感の冷たさが、腰から背筋にかけて走った。
挿入されたものが引き抜かれ、またキスをされる。
ぐらぐらした頭を冷ますようなキスに、私はそっと目を閉じた。




「なまえに手を出したのは、どういうつもりだ?」
「ああ?簡単だろ。」
「何がだ。」
「エルヴィン、お前、挑発と煽られるのにすぐ乗るだろ。」
「何を考えている?」
「まあ、なんだ、女くらい置いてけぼりにしてやるなよ。」
「気遣いどうも。」




2014.07.16



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