ありえない、ありえない




コードさんリクエスト
・ベルトルトとアニが夢主をとりあう話






一際綺麗な金髪の後ろ頭を追いかける。
後ろから見ると、小柄で引き締まった体だとわかる歩き方を真似してひょこひょこ歩くと、後ろ目でじろりと見られた。
「アニ、アニ」
名前を呼んで、追い越して顔を覗き込むと、いつものように睨まれた。
「なに。」
喉の奥で響くような、静かな声。
可憐な少女とは思えないような声と、冷たい性格。
それでも、どこか嫌味を感じないアニが、なんとなく好きだった。
「一緒にご飯食べよう」
「嫌。」
「えっ」
誘いはあっさりと断られてしまったかに思えたとき、ようやくアニが私の顔をしっかりと見た。
大きな青い瞳が、転がって光る石のようにきらめいて、表情が視線に宿る。
「冗談よ、行きましょう。」
「そうこなくっちゃ」
嬉しくて、アニの手をひっぱって食堂まで歩く。
歩幅は、私のほうが少しだけ大きい。
私の歩幅にアニが合わせることは、ない。
誰かが見れば、私がアニを連れまわした挙句引きずってるように見えるのだろう。
連れまわす私の手を、アニが叩き落すことはなく、怒られることもない。
他の子は、みんなアニは無愛想で怖い子だって噂するけど、そんなことはありえない。
凶暴からは遠いところにいる子、でも凄く強い子で、無愛想に見えて話はしっかり聞いている。
みんな分かっていないのだ。
アニは、とっても可愛い子だって、みんな気づいていない。
外側ばかり見ていたら、どんな子かなんて知り得ないのに、みんな知った気でいる。
もしかしたら、ミーナあたりは気づいているかもしれない。
そのミーナ本人とは道中合わず、無事アニの手を引きずり食堂に到着した。
隣同士で座って、冷めかけた食事に手をつける。
ひたすら訓練に励んだあとは、どんなに不味くても食べ物は美味しく感じてしまう。
そうだよね、とアニに聞いたら、別に。と返されたこともあった。
相槌のような返事をしていても、アニは綺麗に食べるし、会話にも一応応答してくれる。
だから、きっと、いつか自分から何か話してくれるに違いない。
勝手にそう思っていた。
パンをちぎって食べていると、広いテーブルなのにわざわざ私達の前に人影が現れた。
背が高くて、足が長い。
細身の優男としか形容できない人。
「なまえちゃん。」
ベルトルトが、薄い微笑みを浮かべて私達の前を伺った。
「アニも一緒なんだ、僕もいいかな。」
いいよ、と言おうとしたときには口の中にパンが入ったままで、頷くことしかできなかった。
もごもごと声を出して、いいよと目で教えるつもりだったのに、アニが遮る。
「やめてよ、あんたと一緒なんてありえないわ。」
パンを飲み込んで、アニの肩に触れた。
「まあまあ、アニ、そう言わずに」
アニは私を一瞥し、不満そうに食事を再開した。
「ベルトルト、ね、ここ」
目の前を指差すと、ベルトルトは目の前に座ってくれた。
「うん、ありがとう」
大人しそうに見えるベルトルトは、適当な世間話をふると、普通に喋ってくれる。
思った以上に平静な人で、何かあっても取り乱すような人ではない。
どこから温和な精神を保っているのか、分からない人だけど、変な人ではないので、たまに話していた。
なんでもアニと同郷だとかで、アニのことは知っている、と言っていたこともあって、私のほうから距離を縮めたこともある。
ちぎって食べているパンが半分ほど減るころには、人が段々と集まってきた。
角のテーブルでは、そばかすの子がクリスタに水を一気飲みさせて笑っているし、エレンとジャンは今にも喧嘩しそうな勢いで話している。
賑やかな場所は嫌いじゃないので、出来ればずっとここにいたい。
でも、アニは賑やかになるとすぐ食堂から去ってしまう。
引き止めるわけにもいかず、そういう時はパンを片手にアニを追う。
今日も追うことになるだろう、そう思っていた。
ところが、いくら騒がしくなろうとも、エレンとジャンの喧嘩をミカサが制止するくらいになろうとも、アニは動かなかった。
ゆっくり、ゆっくり、食べている。
同じようにベルトルトも食べているし、先ほどからの食事のつまみ程度の世間話も続いていた。
世間話の僅かな隙間を埋めるように、アニがぽつりと呟く。
「次の休み。」
「ん?」
「次の休み、あるでしょう、なまえはどうするの。」
「私、うーん、お母さんに送るものとか買いに行こうかな」
中心街にまで出れば、物珍しいものでも見つかるかと思い、休みは殆ど出かけている。
そのことをアニは知っているはずなのに、何故わざわざ聞くのだろう。
一瞬謎が浮かび上がったけれど、パンと一緒に飲み込んだ。
「荷物持ち、手伝おうか?」
ベルトルトが、突然の有難い申し入れをしてくれた。
もしかして、手に重いものを持たずに買い物ができるのだろうか。
それなら有難い、と喜んでお願いしようかとしたら、またしてもアニに遮られた。
「私が行くから、あんたはいい。」
ベルトルトを突き放し、アニまでもが突然の申し入れをしてきた。
これには驚くしかなく、せっかくの有難い気遣いをしてくれたベルトルトが気の毒になり、アニに言い返す。
「何いってるの、アニ。三人で行こうよ」
「嫌。」
ずん、と低い声で、嫌と言ったアニを、どうすることもできなかった。
「アニは一人でいるのが好きなんだろう、なまえちゃんを一人にさせるなんて、僕はしないよ。」
頼もしい、そう思う暇もなく、アニがベルトルトに噛み付く。
「誰がいつそんなこと言ったの。」
「行動。」
「なにそれ、気味が悪いわね。」
「なまえちゃんといる時以外は、一人じゃないか。」
「チッ。」
ベルトルトに対して舌打ちをしたアニに、妙な悪戯心が沸く。
小さく動くこめかみと、唇と、綺麗な目を見て、ざわざわと内側が燃える。
「冷たいなあ、そんなアニにはこうだ!」
パンをテーブルに置いて、アニの脇腹を両手でくすぐった。
「え、いや、ちょっと、ねえ!!」
隙のある限り全てをくすぐると、アニは腋を締めて私の手から逃げようと体をひねらせた。
体勢の利はこちらにあるので、攻め立てるようにアニをくすぐる。
指ざわりのいいアニの首をくすぐったり、服の中に手を入れようとすると、面白いくらいにアニは体をよじって逃げ回った。
私の様子を見て、ベルトルトは苦笑いをする。
アニがパンを手放し、逃げようとしたところをまたくすぐり、結局テーブルから離れて転がり落ちてしまった。
落ちたのは私とアニだけで、じゃれあっている間に見えるのはアニと、天井と、ベルトルトの足。
私が笑いながらくすぐると、アニは反撃するかのように私の顎を突き飛ばして、私から身を引いた。
蹴り飛ばされるか殴られるかと思ったけれど、睨まれるだけで怒られない。
ふざけている、と理解してくれたようだった。
面白くて笑っていると、背後からサシャが物欲しそうな笑顔を浮かべて話しかけてきた。
「アニ、これ食べていいですか?」
テーブルに置かれたアニの食べかけのパンを見て、サシャがうきうきしている。
残り物は、いつもサシャが食べてしまうのだ。
「やめてよ、どっか行って!!」
アニの怒号に近い声を掻き消すように、サシャに笑いかける。
「サシャはいつもそうなんだから」
起き上がって、私の分のパンをあげると、サシャは目を輝かせて食いついた。
「なまえさん!ありがとうございます!」
「美味しい?」
「とってもおおおおお!」
手に持ったパンは、サシャに食い尽くされ、指についたパンくずも食べられてしまった。
動物に餌をやるような気分で構っていい気分になっていると、アニのじっとりとした視線に気づく。
アニの視線には、すぐ気づく。
何せいつも猛獣のような気配をしているから、視線の温度も消せていない。
じっとりとした視線をベルトルトに向け、何故かベルトルトとアニが睨みあっていた。
「二人共どうしたの」
二人は同時に、静かに言い放った。
「なんでもない。」
何があったのかは知らない、でも、二人の間には何かがあるようだった。









2014.07.10

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