鉄が溶ける





うみこさんリクエスト
・ナナバさんと百合






何も考えずに走り回って遊んで、食べて、手伝いをして、寝る。
それがここにくる前までの生活だった。
質素で、なにもない。
見える景色も私自身も何も変わらず、このまま生きていく、そう思っていた。
何も変わらないから、ずっと遊んで、野山を駆け回って、遊んで食べて、また眠る。
それが当たり前だと、子供のままなら思い続けるだろう。
ある日、遊んで帰ってきて着替えたら、下着に血がついていた。
転んでもいないのに、変なところに染み付いた、血。
それを母親に話すと、それまでの質素な生活に色が垂らされるような話をされた。
全ての女性が通る道だと言われ、仕組みのようなことも話される。
私以外の女は、全てこの色が垂らされたような世界で生きていたのか。
そう気づくと、私という存在はただの一欠けらにすぎないと悟った。
あなたはもう子供が産める体になったのだから、母は当たり前のように言う。
私が私でないような感覚に襲われているの、とは言えなかった。
子供がどうして出来るのかを、詳しく聞いたときの反応が薄かったのを母は見逃してはいなかったようだ。
家には兄妹もいっぱいいた。
朝から晩まで働いていて、いつもいない父親の稼ぎで、幼い兄妹は食べる。
日に日に冷たく接され、冷たくなった自分の体と共に友達と遊ぶことも減っていった。
口減らしの意味もあったのだろう、そう感じ取り、私は調査兵団へと逃げるように入団した。
「それが理由なの?」
頭の上から、ナナバの声がとろけるように漏れる。
ナナバの股からひょいと顔を上げて、おかしいかしらと言わんばかりに首を傾げると、笑ってくれた。
「なまえ、それじゃ信念も何も無いよ。」
「そうかな」
「今まで、よく生き延びてたね。」
あなたもね、と言いたかったので、ナナバの性器を舐めた。
目で伺いながら、舌を動かして、手で太ももの裏を撫でる。
太ももの裏から膝の裏を撫でて、付け根のところを指で撫でると、ナナバの腰が動いた。
反応が可愛らしく思えて、何度も撫でると、逃げるように腰を引かれる。
「弱そうに見えた?」
口を離して聞き出すと、ナナバは何ともしない声で答えた。
「逆だよ、なまえはもっと、強い何かを持ってると思っていた。」
足首にひっかかっていたナナバの下着を放り投げて、丸裸のナナバの腹を舐めた。
窓から僅かに差し込む光のおかげで、細い体には不気味なまでの陰影が覆っている。
「きっと私は、そういう奴なのよ」
自分でも分かっていないようなことを、ナナバは聞いてくる。
本質に踏み込まれても、私の中は何もなかったかのように、ただすっきりとしていた。
人間である以上、心のどこかは乱雑に転がっていたり散らかっていたりするのに、私にはそれがない、と言われたこともあった。
自分以外の班員が死んでも、仲間が死んでも、悲しくもなんともない。
当然、私は同期から遠巻きにされていた。
皆どこかで、人間であるために感情を暴走させている。
どうすれば自分の心が動かないか、知っているだけなのに、口を揃えて皆は言うのだ、私はおかしい、と。
感情を無駄に動かす必要がないだけの人間は、異質に見えるのだろう。
おかしくはない、ただの普通の人間。
でも、私は、こんなにも異質。
ナナバにキスをして、首筋を舐めてから鎖骨に舌を這わせた。
嗅ぎ慣れたナナバの匂いのする唇と、白い肌。
私の体を通り越して、ナナバの手は自分の性器へ伸びた。
空いた片手で、私の顎を掴む。
逃がすまい、と吸い付く唇と、垂れ流れそうな唾液にまみれた舌が私の口内に入る。
応えるようにキスをして、顎を掴まなくてもいいようにすると、ナナバの手は私の太ももを撫でた。
太ももから腰、臍の下へと伸びた手の行き着く先は、言うまでもない。
腕と腕が交差して、たまに触れ合う。
ナナバの肌は柔らかくて、白い。
怪我をすれば目立ってしまうくらい、肌が綺麗。
肌が綺麗ね、どうして?それに爪もいつも切りそろえているわね、どうして?最初にそう聞いたことがある。
空虚に近い私を魅了した、唯一の人。
触りあって、指の間に愛液が垂れる。
垂れて、指の間がじんわりと湿り気を帯びて、手の平が蒸れた。
指を離せば、ぬち、と粘膜の音。
熱い手のひらを解放させるように手を離し、濡れた指先でナナバの胸に触れる。
白い肌に血管が浮いて見え、揉むと柔らかく張りがあった。
小ぶりな柔らかい胸を揉むと、いつも恥ずかしそうにする。
くすぐったがっていても、ナナバは私を抱きしめながら寝転がった。
短く切られた金髪の毛先が、シーツの上に広がるように形を変える。
ナナバの腕から抜け出して、馬乗りになった。
冗談っぽく笑いながら、ナナバの上で腰を振る。
「やだ、なまえ、そんなのやめて。」
「なんで」
「動くたびに、揺れてるよ、凄く興奮する。」
自分の胸を見て、ナナバの顔を見て、それから苦笑いした。
ナナバの上から降りて、お互いの性器を近づけるため、向き合ってから腰をずらして足を挟みこむ。
ナナバの爪先が私の顔に近くなったあたりで、性器同士が触れ合った。
熱の奥に、ぬるりとしたものを感じる。
「なまえは足が長いね。」
「ナナバのほうが長いわよ、だって、ほら」
ナナバの足の指を咥えて、わざとらしく舐めると、熱っぽく笑う。
「あはは、なまえ、汚いよ。」
「どこも汚くなんかない」
爪先から口を離して、腰を動かす。
動かしあう度に、幾度となく触れる場所から、熱と快感と、汗のような何かが染みる。
股関節が軋みそうなくらい、僅かに力を入れて動く。
ナナバが目を閉じて、僅かに閉じられた薄い唇から吐息を漏らした。
粘液の音は、体の中に消えていく。
ベッドを軋ませないように上手く、体だけ動かす。
「はあ、あ、ん」
小刻みに漏れるナナバの声や、表情を見ているだけで、私は興奮する。
別に体なんかいらないくらいナナバのことが好き。
身悶えするように、ナナバは腰を動かして快感を探っていた。
その様子を見て満たされる私は、本当に女なのだろうか。
溺れたような目をしたナナバが、細い腕を動かした。
「なまえ、こっち。」
強請るように手を引かれ、起き上がった。
腰を曲げると、じわりと粘液が広がる。
男なら、何かしらが出たりしていそう。
でも女は、際限がない。
それだけは、ナナバと何度も体を重ねて分かっていたことだった。
ナナバの性器に手をやって、私が覆いかぶさる。
喘ぐよりも吐息のほうが多いから、真剣にナナバの唇から漏れる吐息を聴く。
中指で一番感じるところを擦りながら、人差し指で尿道のあたりを擦る。
言葉にもならない声を、ナナバは漏らし続けた。
気持ちいいところを触ると、目を閉じる。
つつくと息を漏らして、撫でると喘ぐ。
強請るように腰を動かしたときは、意地悪せずに気持ちよくしてあげた。
いつも冷静な顔をしている彼女の表情が崩れるときは、この瞬間しかない。
「綺麗」
肩にある、ナナバの古傷にキスをした。
唾液で濡れた唇が、傷口だった場所に沈みこむ。
柔らかい肌についた傷を、このまま食べてしまいたかった。
「傷だよ、なんで汚いものにまで、そんなこと言うの。」
「ナナバが、綺麗だから」
色素の薄い唇に、自分の唇を重ねた。
ナナバの舌先が私の唇に触れて、私がそっと舌と触れさせると、絡み合った。
この行為は、子供ができる行為だと、母から教わった。
それなら、私とナナバがしているこの肉感と熱の世界は、一体なんなのだろう。
あの時の感覚を殺すまで、いや、殺してもきっと、ナナバのことが大好きなのは変わらないのだろう。
一欠けらに過ぎない私が持つ、壊れない気持ち。
この気持ちは、全ての女が通る道だ。








2014.06.26


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