そうして貴方は猫になる



愛子さんリクエスト
・現パロで、ベルトルトに甘えられる話







人通りが、少ない。
下校時刻というのはそういうもので、二人きりで歩いていれば、景色は二人のためにセッティングされたように見える。
景色は重く、流れていくようで、隣を歩く人と私だけの世界。
住宅街を帰路にすれば、あとは私とベルトルト、ふたりだけ。
「今日ね、コニーが消火器の入ってるとこのボタン押して、先生に怒られてたよ」
くだらないことを面白おかしく言うと、ベルトルトは微笑んでくれた。
「面白いことするね、コニーは。」
「いつもああだけど面白いよね」
「元気すぎると、明るく見えることもあるよ。」
「それとね、先生がいない間、サシャがずっとお菓子食べてたの!」
コニーを叱るために先生が教室からいなくなれば、教室はたちまち無法地帯と化す。
携帯を取り出す人や、雑談を始める人、寝始める人もいる。
どこから持ってきたんだ、と言いたくなるような量のお菓子をここぞとばかりに貪るサシャの顔を思い出して、笑う。
底抜けに明るい彼女は、いつもおなかを空かせている。
サシャの鞄に詰まったお菓子やパンは、一日でなくなってしまう。
彼女のように、明るくなりたい。
そうすれば、きっと好きな人に告白する勇気だって手に入る。
好きな人の前でよく笑うようにしたら、ベルトルトは、可愛いねって言ってくれた。
「サシャならやりそうだね。」
「いつも何か食べてるじゃない、購買で何が美味しいのかは、サシャが全部知ってるのよ」
「おすすめを聞かないといけないね。」
「明日の昼休み、購買行こうよ」
うん、と笑うベルトルトの優しい顔。
私が大好きな、柔らかい優しい笑顔。
気を使ってくれているのか、優しいのかまでは分からないけれど、ベルトルトは何かと優しい。
背が高くて足も長いから、私がベルトルトの歩幅に合わせてちょこちょこ歩いていると、ベルトルトは私の歩幅に合わせてくれる。
高いところにある物は、すぐ取ってくれる。
たまに手を引いて歩いてくれる。
彼からしたら全部当たり前のことなのだろう、けれど、些細な行動ひとつひとつが好き。
こうして私の話を聞いてくれたり、一緒に話したりする。
一緒にいるだけで、心がぽかぽかする。
嬉しくて、にこにこしたまま歩いていると、目の前を何かが通過した。
通過した何かは、壁伝いに歩いている。
「あ」
ゆらゆら揺れる尻尾。
柔らかそうな手足と、胴体。
ぴんと立った耳。
「猫だ!」
驚かせないように近づいて、しゃがみこむと、猫はこちらの様子を伺った。
黒と白の毛をした、大きい猫。
毛並みはそこまでよくはないけれど、くりくりした可愛い目をしている。
一瞬、猫が警戒したように体を曲げたけれど、私がしゃがみこんで見つめると、警戒を解いたように座り込んだ。
猫特有の足の丸さが、とても可愛い。
生憎、サシャのように鞄にお菓子は詰め込んでないから、猫に餌はあげられない。
可愛いのでそのまま見つめて、猫も動かないところを察して、そっと首を撫でた。
猫は目を細めて、撫でる手から逃げずにいる。
耳の裏、顎の辺りを掻くように撫でると、猫は僅かに喉を鳴らした。
「可愛いね。」
喉を鳴らす猫を見て、ベルトルトはそう言った。
猫は背の高いベルトルトに驚く様子もなく、喉を鳴らしている。
「野良かな」
「首輪してないから、野良じゃないかな。」
喉を鳴らす猫を、ひたすら撫でた。
指先に触れる毛は、柔らかくて温かい。
毛布を撫でても、同じような感触は味わえるけれど、温かさまでは伝わってこない。
猫に構いながらベルトルトを見ると、猫と私を見つめていた。
撫でるのに参加しないのだろうか。
もしかして、猫が嫌いなのだろうか。
こんな可愛い生き物に触らないなんて、と思ったけれど、動物が苦手なのかもしれない。
撫でる手を止めると、猫はそっと去っていった。
音もなく綺麗な足取りで、茂みに消える。
猫を目で追いながら、近くのベンチに座ると、ベルトルトも隣に座った。
見えなくなるまで目で追って、ひょっこり顔を出してくれないかな、と茂みを見ていると、ベルトルトに声をかけられた。
「ね、なまえちゃん。」
「なに?」
見上げたベルトルトは、いつもの優しそうな顔をしていた。
座っていても、少しは見上げる。
何せこの人は背が高いし、肩車でもしてもらおうものなら、天井に頭がぶつかってしまう。
ふっと、ベルトルトの顔が私の視線より下に下がった。
私の肩でも嗅ぐように、顔を近づける。
「え?なに?」
何も言わず、ベルトルトはじっと私を見てきた。
優しい目で、凝視される。
こういうことは、初めてではない。
それでも、これが何かしらの合図であることは間違いない。
いつもなら、ベルトルトが軽くキスをしてきたりする。
ベルトルトは、ただ私を見つめるだけだった。
何も言わず、じっと見つめて、何かを待っているように。
私が言葉を失っている間も、ずっと、見つめてきた。
ここまで見つめられたことはあっただろうか。
その瞳に、物欲しそうな、でもそこまで浅はかではない何かを感じ取る。
なんとなく、ベルトルトが何をしてほしいのか分かった。
勘だけで、動く。
猫を撫でた手をハンカチで拭いてから、右手をベルトルトの頭に乗せて、髪の毛を整えるように何度も撫でた。
「よしよし、なでなで」
触り心地の良い髪の毛を撫で、後頭部を揉むように推し撫でる。
髪の毛まで柔らかくて、まとまった毛先は猫の毛並みのようだ。
左手でベルトルトの顎を撫でてあげると、気持ち良さそうに目を細めた。
「気持ちいい。」
「そう?」
「もっと。」
ベルトルトの両手が、ぎゅ、と私の腰を抱きしめる。
こんなに大きな男の人に抱きつかれたことなんてないどころか、ベルトルトに抱きつかれるだけでどきどきしてしまう。
随分と大きな子供に甘えられてしまった、と思いながら、ひたすら撫でて構い続けた。
人通りの少ないところでよかった、と思いつつ、子供をあやすように撫でる。
「よしよし」
「なまえちゃん。」
「なに?」
「好き。」
私の顔がどんどん赤くなるのを見つめて、ベルトルトは笑う。
恥ずかしいけれど、腰に抱きつく大きな子供を突き放すわけにはいかない。
大きな手が、私の体を掴んで離さないのだ。
こうなってしまえば、甘えさせないわけにはいかない。
つむじのあたりを整えるように撫でると、肩に寄りかかられた。
すぐ近くに、ベルトルトの顔がある。
大きな耳を私の鎖骨あたりに押し付けて、当然離れない。
懐かれたように抱きつかれ、段々ベルトルトの腕から体温が伝わってきた。
もしかしたら、私の体温が漏れ出して、ベルトルトの体を熱くしてしまっているのかも。
いつかこの大きな手に、ありとあらゆる所を触られてしまう可能性だってある。
そういったことが、ないかもしれない、気持ちだけで動くのはよくない。
それでも、ここまで甘えられてしまうと、本能的なものが刺激されて、止まらない。
ここが外じゃないのなら、人に言えないようなことをしていただろう。
甘えてくるベルトルトが可愛らしくて、ついつい撫でる。
もし、人が通ったら恥ずかしい。
撫でるのは終わり、と手を離しても、ベルトルトは私の腰から離れない。
腰を引いて逃げてしまったら、可哀想な気がするくらい、今のベルトルトは可愛い。
下がった眉尻と、しっかり見つめてくる瞳。
光の加減だろうか、瞳が潤んでいるような気がする。
先ほどの猫よりも、可愛い。
しばらく見詰め合って、まだまだと言いたげな真剣な顔つきを見て、笑ってしまった。
「まさか、さっきの野良猫にやきもち焼いたの?」
途端に、ベルトルトがしょんぼりした顔をして、赤面した。
「違うよ、違う。」
まるで子供のよう。
可愛く思えて、もう一度撫でてあげた。
「いつでも甘えていいからね」







2014.06.13

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