お菓子の日




「えー!?今日はお菓子をあげる日なんですか!?」
クリスタが手にしたお菓子の袋を見るなり、サシャが飛びついてきた。
小分けされた小ぶりなお菓子の袋を持つクリスタが、丸い目を更に丸くする。
「なに、サシャ、知らなかったの?」
目を輝かせたサシャがクリスタの持つ袋に手を出す前に、ユミルが袋をひょいと取り上げた。
小分けされた中のひとつを取られても、クリスタはなんてこともない顔をしている。
持ち方から察するに、中身は重くなさそうだ。
「あれだけ皆騒いでたのに、何も聞いてなかったのかよ。」
「なんですか?なんでですか?」
飛びついて離れないサシャにお菓子の入った袋をひとつあげたクリスタが、食欲だけで動くサシャに説明した。
「アルミンが言い出したのよ、今日は好きな人にお菓子をあげて告白する日だって。なんか、昔の風習?だっけ、そんなの。」
「そんな日があるんですか!」
袋から取り出されたお菓子は、サシャが食べるたびにぽりぽりと音がした。
匂いはパンを甘くしたような匂いだけれど、あれはなんというお菓子だろう。
鼻につく美味しそうな匂いにつられて近寄ると、ユミルと目があった。
にやりと笑われ、クリスタの腕の中にある小分けの袋のひとつを取って差し出された。
受け取ると、手の中からふわりと甘い香りが漂ってきた。
「そうなのよ。」
「そこでクリスタが提案したんだ。」
「男子に内緒で、みんなだけで交換するお菓子を作ろうっていったのに。」
そうして残念そうな顔をしたクリスタに同調するように、ミーナが割って入り、サシャに抱きつく。
「ハンナが!」
ミーナの口から出た、ハンナという名前を聞いて、サシャもハッとしてお菓子を食べる手を止めた。
「フランツに!」
ここまで言えば、誰でもわかる。
「ばらしちゃったわけね・・・」
私がそう言うと、無駄に前向きなサシャがまたしても食欲に突き動かされた。
「つまり、誰でもお菓子が貰えるわけですね!」
「おい、そうじゃねえだろ。」
ユミルがサシャの頬を引っ張ると、ミーナが楽しそうにサシャをつっついた。
頬を引っ張られてもなお、ほごほごとお菓子を食べ続けるサシャに感心せざるを得ない。
「好きな人にお菓子をあげる日なんだって。」
「ミーナの言うとおりよ。」
「でも、みんなでお菓子を交換しようってことにしたの。」
「つーかよお、それが男子にばれたのなら、今頃あいつらの空気尋常じゃねえだろ。うかつに男子に近寄れねえぜ。」
たしかに、ミーナの言うとおり、そのほうが穏便だし、楽しいこともあるだろう。
交換するくらいのお菓子なら、私にもきっと用意できる。
ここはみんなに便乗して、楽しくお菓子でわいわいすると、楽しいのは間違いない。
しかし、男子の空気だ。
そのことがばれたのなら、今頃男子は各自冷戦状態。
誰がお菓子を貰うかで戦争が起きても仕方ないような体勢か、既に冷戦が起きている。
和気藹々とした私達からは想像もつかないであろう男子の心情を察して、私はそっとお菓子の袋をポケットに仕舞った。
「今みんなの懐を狙えばお菓子が手に入る・・・!」
「おい、誰かこの芋女を取り押さえろ。」
「色んなとこから!お菓子の匂いがしますよー!」
ふざけてサシャを伸ばしていたユミルが、ミーナごとサシャを抱きかかえた。
きゃあきゃあ叫んで面白がるミーナに対して、サシャはずっと目でクリスタの抱えたお菓子を追っている。
たとえ交換するにしても、あげるにしても、今のサシャには話しかけてはいけない。
「お菓子かあ」
好きな人にあげてもいい日。
そう聞いて、色々思わずにはいられなかった。
「なまえは誰かにあげないの?」
まだ大量にあるお菓子の袋を抱えたクリスタに、なんの疑問もなさそうに聞かれた。
どうしよう、と考える反面、気持ちは決まっていた。
「私は」







身長が高くて大人しいあの人に

いつも頼れる兄貴でいるあの人に

あの人にあげると、見せかけて






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