貴方の触り心地




・ろんさんリクエスト
団長の何かに惹かれて、触れたりする。そんな夢主の行動に戸惑う団長の反応





背中の出る服を着せられているわけではない。
お昼前にのんびりしている時、夜更けに暇していると後ろから抱きしめられる時。
過ごしやすいのもあるけれど何より背中を出していると誘惑になるのだ。
服を買っていいと言われれば、わざと背中の出る楽そうなドレスを選ぶ。
そうするとエルヴィンは喜ぶ。
笑顔を見るのが楽しいが為に、どんどん背中の出る服が増えていった。
服の作りだとか、柄だとか、背中が出ているという理由だけで選んでいくと種類も豊富になる。
どこかの貴婦人には程遠いけれど、仮にもエルヴィンの側にいるのだ。
身なりくらいは綺麗にしておかないといけない。
伸びた髪はきちんとうなじが出るように結んでおいて、風呂にでも入っておけばあとは予想通り。
「綺麗な背中だ。」
低い声でそう言う、その声を聞きたいが為もある。
首筋の匂いを嗅がれ、後ろから抱きしめられた。
「いい匂いがする。」
「ミケ分隊長みたいなことしちゃ駄目」
子供をしつけるように言うと、拗ねられたのか抱きしめられる力が少しだけ強くなった。
抱きつかれれば最後、満足するまで離してくれない。
満足する前に腕から逃れようものなら、次の日腰が砕けて歩けなくなるまで色々される。
嗅ぐだけで満足するような人じゃないから好きというのもあるし、お仕置きに近いことをされ続けるのも嫌ではない。
抱きしめる手を撫でて、浮き出た骨を指でなぞってみると、指先が温まった。
「いいじゃないか。」
そうねと相槌を打つ代わりに腕の中で動いて向き合えば、優しそうに笑うエルヴィン。
私を後ろから抱きしめている時の顔は鏡でも使わないと確認できないけど、こうして真正面から抱き合えば顔は確認できる。
「誰か来たらどうするの」
「誰も来ない。」
甘えるように胸元に顔を埋められ、誰も来ないと名言できるのはそれだけ私に心を許したということなのだろうかと思い、首から肩をゆっくりと擦った。
筋肉のある、見たよりも厳つい腕も撫でると、まるで子供のように抱きつかれた。
日々の激務で疲れて甘えるのが安らぎになっているのなら、労わる。
疲れた目が優しさで満ちて、その目で私を見つめてくれるのなら、何度でも甘えさせる。
見返りがなくても、当然抱きしめるのだ。
大きな体を全部何もかも抱きとめることはできなくても、優しく抱きしめることはできる。
「こんなにも私用で訪れるのはなまえだけだ。」
「私用というか殆どここよ」
向き合って抱き合う今もなお、エルヴィンの手は背中にあって、大きな手は私の背中を温める。
「私の背中、好き?」
何度も聞いた当たり前のことを、面白半分で聞く。
答えは変わらないだろうし、なんて返ってくるかも分かっている。
それでも、聞かずにはいられない。
「もちろん。」
微笑んだエルヴィンの頬を撫でて、唇をつつく。
愛しい言葉ばかり紡ぐ唇は時に残酷なことも言い放つし私に卑猥な言葉も浴びせてくるのだと思うと、凄く興奮する。
私の邪な性欲なんか知らずに、エルヴィンはつついた唇で静かに言葉を紡ぐ。
「なあ、なまえ。」
「なに」
「なまえは、そのだな。」
珍しく物事を率直に言わないエルヴィンに首を傾げると、頬を染められた。
恥ずかしがるなんて、とても見れない貴重な瞬間だ。
そう、とてもじゃないけれど、こんな頬を染めた顔なんて他の人には見せられないだろう。
頬を染めたエルヴィンが、私にだけ話しかけた。
「なまえは、私のどこが好きなんだ?」
質問され、意味を受け取り、一瞬だけ思考回路が止まる。
どこが、と言われたって全部としか言えないし、そんなことはエルヴィンだって承知のはず。
「え、今更?」
質問に更に質問で返してしまい申し訳なくなりながら、意図が分からずにいた。
好きなところをあげろと言われれば、延々とあげられる。
けれど、そんな分かりきった愛の言葉なんて聞き飽きているだろう。
本当に今更な質問に、戸惑ってしまった。
わからなさそうな顔をする私の背中をいつもの調子で撫でるエルヴィンに軽くキスをすると、急にエルヴィンは私の背中について語りだした。
「白くて、肌触りもいい。うなじから背中にかけての細さと、その細さがあるのに胸も揉み心地があるのが最高だ。」
体を実況されるかのように、エルヴィンの手も移動していった。
背中にあった手はうなじに登って、背中を撫でる。
何度も背中を撫でた手は、脇腹を通って横から胸を揉み寄せて、エルヴィンの目下に谷間を見せ付ける形になった。
大きな手は私の両胸なんて寄せてしまえば、すぐに覆えてしまう。
片手が背中にまた移動して、中指が肩甲骨の間を通れば、エルヴィンが微笑む。
「私はなまえの背中が特に好きだ。白くて綺麗で、この窪みに指を滑らせるのに興じることが多い。」
肩甲骨のあたりを行き来する触れ慣れた中指と、同時に触れる人差し指の先の熱を感じながら、背中を好きにさせる。
えろおやじ、と罵りたくても、喉のあたりで言葉がつっかかる。
親父なんていう歳でもないので、すけべと言うしかない。
「なまえは、私のどこが好きなんだ。」
素直にそう聞かれて、改めてエルヴィンの顔を見つめなおした。
綺麗な目、精悍な顔立ち、凛とした男らしい雰囲気でいて、それでいて清潔そう。
どこが好きなのかと聞かれても、全部。
でも、それでも、どこか一つ好きなところをあげろと言われたら、そこしかないというところはあった。
それは私の好みだし、口にするのもどうかと思う。
確かに、聞かれると思う。
兼ねてよりそこがかっこいいと思うこともあったけれど、言わずにいた。
見つめあう時、抱き合う時、必ず目にしている。
変えようのない特徴に、確かに虜になってはいた。
口にしなくてもいいと判断している。
好きなところがどこかと聞かれれば、答えるしかない。
「眉毛」
「え?」
「眉毛、かな」
太くてキリっとした眉毛。
目つきに相まって、とても好き。
真剣な目つきになった時は、眉間に皺が寄ったりもして、男性的な部分と認識している。
寝起きに眠そうにしている目に添えるようにあるのも、好き。
この顔立ちにある太い眉毛が、とても好き。
私の眉毛はまったく凛々しくない普通の女の眉毛なので、エルヴィンの眉毛と比べると糸みたいだ。
でもエルヴィンの期待していた答えとは、相当違ったようで、エルヴィンは指で眉を擦りながら真顔になっていた。
「眉毛・・・。」
ぽつりと呟いて、すぐ消えていく。
辺りが静かなら安心して声を聞けるけれど、初めて聞く不安定な声に心配を煽られた。
そんなに不安なことを言ってしまったんだろうか。
「男の人らしくて、キリッとしてて好き」
好きだということを伝えても、なんとなく駄目そうだった。
指で眉を擦るうちに手で顔半分を押さえ、どこを見つめてるか分からない目をしたので、またも心配を煽られる。
「眉毛か・・・。」
思っていた答えとあまりにも違ったのか、それとも眉毛が実はコンプレックスだったのか。
伺えない私はまだまだでも、眉毛が好きというのは予想外だったのかと思う。
「なんて言われると思ったの」
煽られる心配を掻き消すように聞くと、はっとした後即答された。
「手、とか。」
私を撫でるその手と、自分で顔を押さえていた手。
手も男の人らしくて好きだけど、それでも男性的な眉毛が好き。
「手も好き」
見慣れているはずの体の節々を見ていく。
手、喉仏、首筋、顎のライン、唇、頬、耳、こめかみ、それとやっぱり眉毛。
綺麗な髪の毛と丸出しの額も好きだけど、どこが男性的かと言えば眉毛なのだ。
「耳も好きかな、あと唇も」
パーツひとつひとつで見ていくのは、あまりにもあっさりしすぎている。
どうせ一部を好くのなら、全てを好いたほうがいい。
「エルヴィンの全部が好き」
キスしなれた頬にキスをして、お返しのキスを待つと、頭を撫でられながら唇にキスされた。
ようやく私を見た目を捉えて頬を撫でてあげると、笑われた。
笑うとすこしだけ優しそうになる眉毛と目が、好き。
「眉毛キリッとしてるよ」
「そうか、眉毛か。」
笑顔に笑顔を返すと、またしても真顔で呟かれる。
エルヴィンの顔はかっこいい。
間違いようのない事実だけど真顔になられても、かっこよさが増すだけだ。
「眉毛・・・。」
ぽつ、ぽつと呟くエルヴィンが何だか心配になって、つい焦燥感を煽られる。
「嫌なの?」
コンプレックスの核心でも突いてしまったかと思ったけれど、残念そうにされただけだった。
「いや、私はてっきりハンサムな顔が好きと言われると期待していた。」
気取ったわけでもなく純粋にそう言う彼は、天性の顔立ちをしている。
その顔立ちがありながら、背中を撫で回した挙句胸を揉み寄せる。
すけべおやじ、と称号でも与えてあげたい。
「顔も好きだけど、エルヴィンが好きだよ」
「それは嬉しい。」
ハンサムな顔の雰囲気を一番醸し出しているのはその眉毛なのだと、何故気づかないのだろう。
もしかして、幼少の頃よりその眉毛と一緒で魅力に気づいていないのか。
それはそれで面白いし、可愛らしいから、別にいい。
顔を見つめれば、必ず目を見る。
その目の真上にあるものなのだ、必ず目に入る。
嫌いにならないわけがない。
じっと見つめれば、どんどん触り心地の良さそうなものに見えてきた。
「眉毛触っていい?」
「えっ?」
「いい?」
いいよと言われる前に、眉毛を触った。
驚きという静止を振り切って、好きな部分に触れる。
私の素早い手を止めることは出来なかったようで、すぐに成すがままになった。
指が眉毛に触れると即座に顔を顰められ、それで眉間に寄った皺も面白くなって、つつきまわすように眉毛を触る。
改めて触れてみて、眉毛の触り心地がとてもいいことに気づかされ、何度も何度も触った。
太い眉毛のラインを撫でまわし、眉間もついでに触る。
これまでにないくらいエルヴィンの体の一部を丁寧に触っていると、呻くように呟かれた。
「眉毛はやめろ、やめ、やめるんだ、なまえ、やめるんだ。」
やめろと言われても、やめない。
だってあなた、いつも私がやめてって色っぽく可愛く言ってもやめてくれないすけべおやじじゃない。
「触り心地最高」
次は髪の毛でも触り散らかしてやろうかと思いながら、ひたすらに愛しい人の顔を触った。





2013.12.26




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