変身サンタ



・もえさんリクエスト
現パロ日常で社会人同棲な二人。ほのぼの。




遠くで車か、またはバイクであろうエンジンの音がする。
朝方の静けさに緩やかに響くその音は、目覚ましにもならない。
ぐっすり眠るライナーの耳には、聞こえていないのだろう。
横向きの体、顔はしっかりと見える。
枕に埋めた顔と、短い髪の毛が浮くような金色なのは、薄暗い部屋の中でもわかった。
窓のほうを見て、カーテンから射しこむ淡い光に疼かない瞳を閉じてから、またライナーを見つめる。
起きてる間ずっと皺が寄っていたと思われる眉間をずっと見つめていたら、気配を感じられたのか、ライナーの瞼が重そうに開いた。
一度開いて、一度閉じる。
淡い光は感じられるようで、また瞳が開いた。
今度は光がしっかりと虹彩を照らしたようで、ぼやけた視線はすぐに枕元の私を捉えた。
「おはよう、ライナー」
おはようと言われて、はっとしたようなライナーが唸ってから仰向けに寝転がる。
「ああ、おは、おはよう。」
ライナーの目が必死に時計を追っているのが分かるけれど、残念なことに時計は窓際にあるので、重たい体を一度起こさないと時間は確認できない。
側にいる私を見て、今にも冷や汗をかきそうなライナーが私に聞く。
「いつから寝てた?」
「帰ってきてすぐ」
そう伝えると、疲れた両手で顔を覆い盛大に溜息をついた。
手を見ると、すこしだけ爪が伸びていて、切る時間もないくらい時間を奪われていたことが察せる。
「昨日もう、ばったりだったよ」
「起こさなかったなまえは最高だけど、俺は最低だ。」
「そんなことないよ、お疲れ様」
起き上がって時計を見てから絶望したように項垂れるライナーの肩をそっと撫でると、悲しそうな目で見つめ返された。
これだけ疲れることが、特別なことではない。
一緒に暮らしていてお互い働いていると、どちらかが風呂で寝こけていたりすることも、ないわけではないし、珍しくもない。
激務でもない、ただ疲労する。
「大丈夫、疲れたんでしょ」
相手の気持ちを労わる心が、一番大切。
それはわかっているけれどライナーは、どうも気になることを口にした。
「ごめんな、クリスマスなのに。」
「まだクリスマスが始まってから六時間よ」
時計は、午前六時。
まだ朝で、行きかう人も車も少ない時間帯。
近くの物音もしない静けさの中、まったりとしていた。
「朝か、うわーあ・・・。」
身なりを確認して、自分がスーツのままベットに倒れこんで寝ていたことを確信するや否や、それまで猛烈に抱き合っていた毛布を手放す。
すぐにスーツを脱いで、シャツとパンツ姿になる。
見慣れた姿のライナーは、今度こそ冷や汗をかいていた。
「風呂、沸かすか。」

泡の入浴剤で泡を積んで遊ぶ私。
ライナーは私を観察するかのように、優しく見つめた。
私が延々と触っては消える泡を、潰さないように持って積み上げる姿が何かしらの動物でも彷彿とさせるんだろう。
手が伸びてきたと思ったら、ライナーの大きな手で頭に泡を乗せられた。
つむじの上に、雪だるまみたく泡を乗せられたと分かって、つい笑う。
頭に雪だるまを乗せた自分を想像すると、もっとおかしい。
お返しにライナーの口元に泡をくっつけると、しばらく動かないまま目を瞑って、それから噴出した。
空気で押し返された泡は私とライナーの間を舞って、また泡の海と化した浴槽の湯の泡の表面へと落ちる。
思わず笑って手で飛ぶ泡を塞いで、積んでいた泡を押し返した。
揺れる湯と表面の泡で、また体が温まる。
湯船の湯の中で手をぐるぐると回せば、泡が増えた。
泡でもこもこになった私の周りをかき集めて、自分で頭に泡を乗せる。
しゅわ、と髪の毛の中に消える泡と、頭に乗る泡を感じて、へらへらと笑った。
増えた泡をせっかくだから、とまた積んで、今度は手の平の上に乗せてライナーの目の前にこれみよがしと出した。
「はい、あわあわケーキ」
泡をケーキのクリームと比喩するのは、なんとも抽象的。
あわあわのケーキは、ライナーにつつかれて崩れてしまったので、手の平に残った泡を口元につけた。
口元、頬、喉と泡を上手くつけて、泡で鎖骨あたりも隠す。
頬に泡がはりついたをの確認してから、ライナーに笑いかける。
「私、サンタさん!ライナーにプレゼントをあげるよ!」
そう自称すると、ライナーは一瞬呆気に取られたような顔をしてから、子供みたく笑った。
疲れてても冗談を受け取ってくれる優しさはあるようで、安心した。
「ほう、何をくれるんだ?」
「お風呂出てからのお楽しみ」
「今がいい。」
「駄目だよ!お風呂出てから!」
「俺は今がいい。」
そう強請られてしまうと、ライナーがとても可愛らしく見えてしまう。
好きな人からの甘えと推しには、弱い。
どうしようかなあと迷うふりをしてから、そっと湯船を抜けだした。
湯船から出ると途端に消えていく泡をシャワーで流してから、バスタオルで適当に雫をふき取り、体にタオルを巻きつかせてからリビングにある冷蔵庫へと向かった。
「なまえ?」
風呂場からライナーの呼ぶ声がする。
タオルを体に巻きつけたまま部屋をうろうろするなんて、なんともはしたない。
でもクリスマスのサプライズくらい、はしたなくしていたい。
冷たい冷蔵庫に手をかけて、中からとっておきのプレゼントを取り出して、落とさないように持ちそっと風呂場へ向かう。
歩きなれた風呂場への道が長く感じた。
窓際の時計は、まだ七時前。
時間はまだある。
顔だけひょっこりと風呂場に覗かせると、ライナーと目が合った。
先ほどのライナーの子供のような笑顔を思い出して、こちらも嬉しくなりながら、顔を緩ませた。
体に巻きつけたタオルを落とさないように腋を締めながら、プレゼントをお披露目する。
「メリークリスマス!」
風呂場の熱気ですこし溶けそうだけれど、手作りの真っ白なクリスマスケーキをライナーに見せた。
思っていたプレゼントとは予想がずれたのか、ライナーは驚いた。
大袈裟な驚き方ではなく、純粋な気持ちでケーキを見つめて、二人ぶんのいちごとブルーベリーの乗った手作りらしいケーキと至近距離で顔を合わせる。
「作ったのか?」
「夜中にクリーム塗ってた」
「美味そうだな。」
「今日は贅沢に、ここで食べる?」
泡風呂につかりながらケーキを食べる、という贅沢もいいところの行為にお誘いすると、なんなく乗ってくれた。
いつもこれくらい乗り気だといいのにと下世話なことが一瞬思考を過ぎる。
皿もフォークも持ってきてないのに、そんなお誘いに乗るなんて。
ライナーらしくない!なんてことなの!と恥ずかしそうに喚きたいけれど、そうもしていられない。
贅沢に、すこし非常識に、泡風呂につかるライナーの目の前にケーキを出してお誘いした。
「はい、あーん」
ケーキにお誘いされたライナーは迷うことなく、真っ白なクリームを見つめてから、食べるところを品定めする。
その目つきは何かを思い出す。
とても真剣、そしてかっこいい。
作ったケーキに真剣になられると、こうも嬉しいものなのか。
ああ、いつものライナーだ。
クリームが一番多そうなところを見つけたライナーがすぐにケーキに食いついて、落とさないように上手に食べようと丁寧に唇を動かす。
見覚えのある、なんだかどきどきする唇に、私の胸が高鳴る。
火照った私の頬でケーキが溶けないか心配だけど、その前にケーキはライナーが食べ終わるだろう。
「美味しい?」
そう聞くと、口元のクリームを指で掬いながら微笑んだ。
「ああ、美味しい。」
疲れも全部吹っ飛ぶ愛しい人のためなら、ケーキはいくらでも作れそうだった。




2013.12.26



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