可愛いあなたへ




・ぜろさんリクエスト
浮気性ヒロインと頑張るライナー






水を一口飲んで濡れた唇で、熱い唇を冷ますようなキスはしてやらない。
涼しい口の中と触れれば温かくなる冷たい唇から、肝が冷えそうな言葉だけを紡ぐ。
「アニの唇って、柔らかいのよ」
ぷるんとした柔らかくて意外にも分厚い唇を思い出して、胸が高鳴る。
思い出すのは数日前のアニとのキス。
ライナーのこめかみが、すこしだけ動いて、目元が険しくなる。
頑なに動かない口元は彼の意地。
本気を出せば私なんて殴り飛ばせそうな肩と腕と手をしているのに、そんなことはしない。
意外にも紳士的で優しい彼を、試すような目つきをした私は彼の隣にいる。
「幼馴染なのに知らないの?」
私の気持ちも知らない癖に知るわけがない。
試して、遊んで、その中で一番気に入ったのは、女ではなく男らしい彼だった。
顔つきも見た目も、愛らしさとは程遠い彼。
男らしくて、強くて、成績もよくて、描いたような優等生。
私は可愛い女の子が大好きで、可愛らしさを丸出しにしたまま隠さない子には食ってかかっていた。
尻の軽い女。
男から見れば、妙に清潔感のある女にしか見えないのだろう。
女から見た場合のみの、野獣。
軽い、訓練場の砂よりも軽い私は、可愛い女の子とあればすぐに寄り添っていた。
繋ぐ手は柔らかくもすべすべでもなく、手入れされてるわけでもないから、敏感なところを撫でられると強い刺激がある。
たまに良い匂いが恋しくなって、他の女の子とキスをしても、ライナーは怒らない。
言う言葉が見つからないのか、私に本当は呆れているのか。
呆れているのなら、別れればいい。
言葉が見つからないのなら、感情をぶつければいい。
なのに、関係はこのまま。
埃や砂よりも軽い私は、未だこのままだ。
「俺はなまえの唇が一番だ。」
閉ざされていたと思った唇が、ぱかっと開いたと思ったら、これだ。
私を繋いで引き止めておくような言葉が、ライナーから飛び出してくる。
あなたよりも、可愛い女の子を目にしているのよ、きっとここにいる誰よりも遊び人。
なのにあなたは、私をずっと引き止めて愛の言葉を囁いている。
ちゃんと愛の言葉は受け取っているから、大丈夫。
愛の言葉を貰えば貰うほど、私は調子に乗って可愛い子ぶる。
「また言っちゃって」
「なまえは綺麗だし、可愛いから、俺は好きなんだ。」
「本当?」
「当たり前だろう、綺麗なものの前で嘘をつく奴なんて、どこにいるんだ。」
「嬉しいわ、ライナー」
どこかの作り物の女のようにそう言うと、ライナーは私を見た。
情熱的な瞳をしたまま、私の手を握る。
温かい手は、水の入ったコップを静かに温めた。
大きくて手の平も指も大きい手に包まれた私の手は、そのままぼきりと折れてしまいそう。
折れもしない、砕けもしない、私の手。
それに、ライナーの気持ちもそう。
「なまえ、可愛い。」
愛の言葉を囁くあなたは、当然かっこいい。
普段は兄貴肌で、みんなのまとめ役で、かっこ悪いとこなんか見せられないライナー。
そんなあなたが、私なんかにどうしたの?
私は可愛い女の子が好きなの、例えばジャンとか、エレンとか、男の子には興味がないんだから。
でも、そうね、あなたみたいな男性に近い人なら少し興味があるかも。
年上で体格もいいライナーなら、と思ってそれまで女の子にしか触れない手をあなたに触れさせた。
「私、可愛い?」
「最高に可愛い。」
「当たり前でしょ、私は可愛いんだから大切にして」
気取ってそう言うと、ライナーはどうしてかしら、照れくさそうに笑った。
頬まで染めて、あなたらしくない。
そんなところも可愛いと思えるようになったから、付き合った甲斐があった。
みんなの兄貴の、意外な一面。
私しか知らない意外な一面。
私なんかに見せていいの?
今まで撫でて、キスして、可愛がってきた女の子とあなたを比べるわよ?
「なまえ。」
はい、なあに、なんて言う前にライナーは私を軽く抱き寄せて問いただした。
ぐっと近づいた顔に、風呂の匂いでもしてきそう。
「なまえは俺といるの、嫌?」
たまに、こんな質問をしてくる。
他の人とキスをすることと、あなたを嫌いになることは、別物でしょうと何度も言った。
それでもきかないの。
あなたが一番男らしくて安心できるわと言っても、あなたはわからない。
抱きしめる愛しさと抱きしめられる愛しさを一緒にしろというのかしら。
「嫌なら一緒にいないわよ」
抱きしめかえして頬にキスすると、ぷちゅと音がした。
唇で感じたライナーの体温は、とても熱くて。
そのまま熱をぶつけてもいいけれど、私は熱をぶつけられるのには慣れてないから、あまり思ったようにいかないわよ。
熱をぶつけあうのが好きなのなら、どうして私を選んだの。
女の子の熱は柔らかくて、底なしで、手探りでぶつかる快感を引き寄せるのが楽しい。
また違う熱を、ライナーは教えてくれた。
私はライナーに、引き寄せられる熱を与えてしまった。
そうか、与えてしまったから、ライナーはいちいち確認してくるのね。
「夕方は空いてるのか、暇なら、その。」
案の定、お誘い。
逞しい体に抱かれるのは好きだし、男の人とのセックスも楽しい。
お誘いは嬉しいことだし、ライナーのことも好き。
「夕方?」
夕方の予定は、ご飯を食べたあとの僅かな自由時間のこと。
当然、女だから予定はいっぱい。
「夕方はクリスタと遊ぶわ」
予定を告げると、ライナーは残念そうな顔をした。
残念そうに眉毛が下がって口元をとがらせたライナーは、名残惜しそうに私を抱き寄せた。
首元にキスされて、耳にもキスされる。
音が思い切り聞こえて、恥ずかしい。
男の人はこんな風にキスするんだなあ、と思ってライナーの後頭部を撫でると、もっとキスされた。
降り注ぐキスは気持ちいいし、ライナーが抱きしめてくれるのも気持ちいい。
「なまえは、友達が好きなんだな。」
キスされて嬉しいところに、油を注がれる。
そう、これだから、ライナーにいじわるしたくなるの。
「誰がクリスタとは友達だって言ったっけ」
「は?」
言葉を脳内で何度か反復させていたようで、抱きしめたまましばらく動かなかった。
抱きしめられたまま、このあとのクリスタとのデートプランを考える。
お風呂に入って、髪を梳かしあって、そのままクリスタの大好きな愛撫。
アニはキスが好きだけど、クリスタは愛撫が好き。
見た目に反して、あの金髪の天使ちゃんは大胆なのだ。
一分もたたないうちに、そっと体を離されて、涙目のライナーが目の前にお目見えした。
うるんだ目を、舐めたい。
舐めたら吼えられそうに思うけれど、彼は優しい。
本当は舐めてもいいんだけど、それじゃ可愛がるには早すぎ。
この可哀想な表情を見るたびに、ぞくぞくする。
可愛い、この顔だけは可愛いのだ。
今まで見てきた、触れてきた女の子よりも、ずっと可愛い。
大きな男の人が弱みを突かれて、自分の気持ちをぐらつかせられた相手に見せる唯一の不安定。
その弱さを餌にして、私はまた厭らしく笑う。
今にもぐちゃぐちゃに歪んでしまいそうなライナーの顔を、見つめる。
「なまえ、俺のこと、嫌い?」
「何回言わせるの、嫌いなら一緒にいないわよ」
「俺、なまえの嫌なことはしたくないから、なあ。」
「嫌いじゃないわ、ライナーは大好きよ」
何度も言った、ライナーへの肯定の言葉。
一度もあなたのことを拒否していないのに、どうしてあなたはそうも不安になるの。
私のことが好きなら、黙って私を愛せばいいじゃない。
私も、あなたが側にいてくれるのなら、愛しているから。
その愛と、私の愛玩の愛は、ライナーに向けたくないの。
それをあなたはわかってくれているのかしら。
「なまえの一番じゃないんだな、俺は。」
「一番に決まってるじゃない、ライナーは考えすぎよ」
しょんぼりしたライナーにキスをすると、遅れてがっつかれた。
今日はセックスおあずけと知ってからの熱いキス。
そっと抱きつかれ、大きな体を私の手で出来るだけ撫でた。
キスはもっと熱くなり舌は絡まり、愛しそうに唇を吸われた。
し慣れてないであろうライナーのキスは気持ちが伝わってきて、私はとても好き。
柔らかさはあまりないけど弾力のある唇は、愛しい。
「ライナーのことは大好きよ」
「俺もなまえが好き。」
「ん、ライナーの唇が一番好き」






2013.12.21



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