いつか見下ろされる




圭さんリクエスト
・身長の高い夢主がアルミンをかわいいかわいいしてたらイケミンに仕返しされる





「アルミンは可愛いね〜」
綺麗な金髪の頭を撫でて、つむじをつんつんと押す。
柔らかい髪の毛の中心をひたすら押すと、頭を抱えられた。
「やめてよ!」
嫌がっているのか楽しんでいるのか、よくわからない。
アルミンはいつもそう。
大人しい男の子で、博識で、それでいて可愛い。
背も低いし、よくいじめっ子には何かされている。
そういう時はエレンとミカサがいじめっ子を蹴り飛ばしにくるけど、アルミンが本気で抵抗して成功したところは見たことがない。
小さくて可愛いものに征服感をくすぐられることは、人間としてよくあることだ。
「だってアルミンのつむじ丸見えなんだもん」
「だからって押さないで。」
「押すなっていうほうが無理」
目線を下げればすぐ見えるつむじを、押してつついて悪戯する。
つんつん、つんつん、人差し指でつむじを押すと、アルミンがこれ以上縮まる気がした。
どうせ成長期の男の子なんて、すぐ私を追い越してしまうだろう。
追い越されるまでの僅かな楽しみ。
「やめてったら!」
「そうだアルミン、物知りアルミン、知ってる?ここって下痢になるツボらしいよ」
つむじを無礼に押しながら、笑顔でそう言うと、頭を抱えたアルミンがうわあああと叫びながら私から逃げた。
明日は下痢で一日動けなくなってしまえと思いながら、アルミンのつむじ目掛けて追い掛け回す。
路地裏まで逃げ込んだアルミンを追って、颯爽と走る。
いつもなら追いかけっこはハンネスさんが止めにくるけど、今日は運よく止められない。
埃っぽい路地裏を走るのは好きで、なんとなくどきどきする。
本当は入っちゃ駄目って言われているけど、追いかけっこになったら関係ない。
悪いことが起きたなんて聞かないし、子供なんだから危ないことにならないと私は思っている。
逃げるアルミンの後姿も可愛い。
走り方は男の子だけど、髪の毛の柔らかそうな見た目が女の子みたいで、今すぐあの頭を撫でまわしたくなる。
「とまれー!つむじ押させてよー!」
「うわああああやめてー!なまえ!やめるんだー!」
そんなに下痢が怖いのか知らないけれど、私からすごい勢いで逃げている。
逃げる姿も可愛らしいアルミンをつっつきまわしたい。
いじめているわけではない、私より背が低くて物知りで良い子なアルミンが可愛いのだ。
歩幅は私のほうが大きいから、逃げられてもすぐ追いついてしまう。
後ろから飛びついて、アルミンが持っていた本ごとアルミンを抱き寄せて笑った。
体の大きさは同じくらいだけど、私のほうが背が高くて、つい悪戯したくなってしまう。
「お人形?あはは」
綺麗な金髪、太い眉毛だけが男の子らしい部分で、あとは見ただけなら女の子だと思うようなアルミン。
何度かからかった際に一番しっくりきた言葉は、お人形。
エレンより痩せているし私より背が低い。
容易に抱きしめられるアルミンは、まるでお人形のよう。
ぎゅうっと抱きしめると、照れくさそうなアルミンの声がした。
「なまえ!やめてよ!」
「やめなーい!やめなーい!」
「やめてよー!」
「恥ずかしがりアルミン〜!」
「なまえは僕を何だと思ってるのー!」
「お人形アルミン〜!可愛いね〜!」
最近はアルミンも恥ずかしがっているようで、昔からのように抱きついたりちょっかいをかけると、すぐ照れる。
照れられたり怒られたりすると、もっと悪戯したくなる。
あれ、もしかしてこれ、そこらへんの少年と変わらない思考回路なんじゃないかな。
頭の良いアルミンに気づかれたくないと思う半分、悪戯は楽しい。
「エレンにも言ってやろ、アルミンはお人形って!」
「絶対エレンはそんな口車に乗らない!」
「わかんないよ?」
「うわー!なまえの妄想が現実になっちゃうー!」
「妄想ってなによ!」
思わずアルミンの脇腹をくすぐると、身をよじって逃げられた。
エレンは冗談にのるタイプではないけれど、おふざけには意外と付き合ってくれたりする。
それも、ミカサがいない時であることが前提。
ミカサがいると、ふざけることがあまりできない。
そういう時はミカサのスカートでも捲ればいいと思って捲ったら、素早い動きで叩かれたことがあった。
私は背が高いから、つい背が低い子を構いたくなる。
太めの眉尻を下げながら、アルミンが私を見上げた。
「なまえ!もう、やめてったら!」
何故か赤い顔をしたアルミンが、腕に抱えていた本をまた抱えなおし、すこし拗ねる。
拗ねられると、すこし不安になる。
本気で嫌と言われたら、もう構えない。
「僕は男だよ。」
そう言うアルミンの顔の子供っぽさが、悪戯心を刺激される。
少なくとも、まだ構えそうだ。
同い年のはずなのに、頭も性格も私よりずっと大人なはずなのに、見た目はとても大人しめで可愛い。
「私よりちっちゃいんだもん、可愛いよ」
男の子は可愛い、という言葉を言われるのが好きじゃないことは、知っている。
それもアルミンみたいな子は特に。
自分より背が低くて、ついでに私より可愛い。
そんな男の子を可愛がらないわけがない。
お母さんみたいな気持ちでアルミンに構っているけど、本人の心中はそうでもないだろう。
強くてかっこいいはずの男の子が可愛いのは、いいことかどうかと聞かれれば、いいことではない。
それがいいのだ。
「・・・なまえは知らないんだ。」
物知りアルミンが、知識を披露するのか。
そう思ってうんうんと聞こうとすると、じっと見つめられた。
アルミンの顔が真剣だったので、聞き返す。
「知らない?」
聞き返した私が、まるで阿呆に思えてきた。
目の前には頭のいいアルミン、対して私は悪戯熱心。
見つめてくるアルミンの顔を見て、目尻がきりっとしてて、それでも可愛いなあなんて思う。
きりっとした目尻を覆う睫毛が薄くて長くてくっきりしていて、綺麗。
可愛いやら綺麗やら、女性に対する賛美の言葉ばかり浮かんでくる。
それだけ可愛い部分が目立つのも、珍しい。
珍しさを覆い隠すような博識を持つ金髪の彼。
アルミンがずっと手に抱えていた本を広げて、私に向かって手招きする。
その手招きする手をくすぐってやりたいところだけど、博識なアルミンがせっかく本を開いた。
大人しく近づいて本を覗き込むと、そのまま地面に座った。
地面に座るなんて汚いな、と思ったので、アルミンの隣にしゃがんだ。
それにここは路地裏で、いつ誰が入ってくるか分からない。
屋根のない隠れ家みたいなところで読書とは、これいかに。
しゃがむと同じ目線になって、近くで見える金髪はより一層綺麗だった。
男の子の綺麗な金髪は、正直羨ましい。
スカートのままでしゃがんだので、裾を気にしながら広げた本が見える位置を確保した。
地面に近い足が、冷たい。
靴の裏は温かいはずなのに、地面はどうしてこうも冷たいのか。
寝そべったら、きっと背筋から首筋までぞくっとくるくらい冷たいんだろう。
「読もう。」
広げられた本は、どうもおとぎ話の寄せ集めの本のようだった。
読んだことのある話が、いくつかあった。
当然、読んだことのない話もあって、それには食い入るように文字を追ってみた。
物知りで本を読んでばかりのアルミンが、なんで作り物のおとぎ話なんて読んでいるんだろう。
私のような、並みの思考の人が楽しむものなんじゃないのか。
「おとぎ話じゃない、私も昔読んだよ。これがどうしたの?」
アルミンは、本の中の一編を開いた。
そのおとぎ話は、恐ろしい野獣がお姫様に惚れて入れ込む話。
昔々に読んだ気がする。
おとぎ話がどうしたんだと言いたげな私に向かって、アルミンが本を押し付けた。
意外とずっしりとした本に、手の力を持っていかれる。
こんな重い本を、アルミンは平気で持ち歩いていた。
重くないんだろうか。
それとも、実は意外に力があるんだろうか。
女の私よりは、力があるに違いない。
「お姫様には野獣も惚れるんだ。」
おとぎ話のページを見つめて、挿絵を見る。
醜く描かれた野獣が、町娘のような女の子にドレスや宝石を与えている絵が描かれている。
本のページの所々は古びていて、沢山読まれた形跡があった。
アルミンが読みすぎたのか、古くからある本なのかは、わからない。
重くて古い本を私に押し付けて何の用があるのか。
「魅力には勝てないからね、勝てないのなら別の方法だ。」
なにかよくわからない、と言おうとして顔を上げると、悪戯を仕掛けたときのように赤い顔をしたアルミンが目の前にいた。
きらきらした金髪の前髪、それに睫毛だって金色で、目は本に出てくる挿絵の宝石みたい。
そこだけ男だと言いたげな眉毛を隠したら、もっと可愛いんだろうな。
可愛いね、と言ってあげたかった。
真剣なアルミンの表情に、悪戯する気を持っていかれてしまって、何も言えずに見つめかえす。
しばらく見詰め合ってたら、アルミンが突然頬にキスしてきた。
私の頬に、突然訪れた初めてのキス。
ふわりと私の首に触れたアルミンの髪の毛先が、くすぐったい。
びっくりして動けない私と、キスをしたまま動かないアルミン。
手に抱えた本の重さなんてどこかにいってしまったように感じられた。
アルミンの唇が頬から離れて、私とアルミンの間に風が吹く。
あれだけ冷たいと思った地面が、今度は涼しく思える。
尻から地面にへたりこんでしまいそうになりながら、必死に我を保つ。
誰も見ていないはず、エレンに見られたりしたら、どうすればいい。
幸い私とアルミンしか近くにはいないようで、静かに心臓が高鳴った。
キスされた頬は、まだほんのりと温かい。
「なまえより背が低くたって、いつか抱きかかえられるくらいになるから。」
そりゃあ、こんな重い本を持ってひょいひょい歩けるんだったら、そうですよねと言いたい。
けれど、いつもの調子で言葉が出てこなかった。
可愛いアルミンが、いきなりキスしてきた。
これ以上の驚きがあるだろうか。
いつも悪戯をふっかけて遊んでいた私は見事に黙り込んでしまい、アルミンに微笑まれた。
アルミンの人差し指が、私のおでこをつん、とつつく。
「僕は男だよ。」





2013.12.10



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