ぎゅってしてあげる




遅れたハロウィンネタ





今日は、内地ではハロウィンというお祭りらしい。
お祭りなのかな?
私がそういうことをしてたとしても随分前だから、わかんない。
お菓子を交換する目的だったかな?
お菓子をちょうだい!ってしたら、お菓子をあげなきゃ悪戯してもいいんだって。
なまえは見た目が子供だからお菓子がたくさん貰えるな、ってオルオに言われた。
むかむかしたので、その日のオルオの夕飯のパンを半分齧った。
ハロウィンの日は、お菓子をあげるあげないで結ばれちゃうカップルもいるみたいなの!
私にはそんなの、別の話だけど、ミケさんのことを考えると顔が赤くなっちゃう。
ミケさんは大好きだけど、私とはカップルとか、そういうのになれるのかな。
キス以上のことなんて、なんて、よくわからない。
ミケさんと、もっと抱っこの時間が増えたりするのかな。
考えるとまた顔が赤くなっちゃう。
ハロウィンらしいので、食堂ではみんなすこし騒いでた。
ご飯を食べる前にすこし寝て、半分寝ぼけながら食堂に行くと、ペトラがいた。
すぐさま駆け寄って抱きつくと、口にパンを押し込まれる。
いつものことだ。
もごもごしていると、同じテーブルにミケさんとハンジさんが何故かいることに気づいて、行儀よくちぎって食べた。
パンをちぎって食べていると、向こうのテーブルでオルオが話し始めた。
「これは俺がここにきた当初の話なんだが・・・。」
ペトラに抱えられたまま、パンを食べつつオルオの話に耳を傾けた。
「まあ、俺のことだからな。あんときは同じ班のやつのミスを帳消しにするために教官に言われたとおり死ぬ直前まで走ったんだ。
走るたびに、当然疲れてくるんだ。
俺はすぐ体力が回復するから、なんてことはないんだが・・・。
走り終わって、倉庫あるだろ、倉庫。あの裏で一休みしてたら、女の声が聞こえるんだよ。
女の声だ。女子の声じゃない。
いや、おかしいな、と思って倉庫のあたりを見渡しても、誰もいないわけだ。
とうとうこの俺が疲れたのかと思って、寮に戻ろうとしたときだ。
そこのバルコニーの階段を登ったら・・・いたんだよ。」
全員がごくりと唾を飲み込む音が聞こえる中、偉そうに話すオルオを蹴っ飛ばしたいと思いながらパンを食べていた。
なんでこうしてこうも、オルオは偉そうな口調なんだろう。
誰の真似だろう。
ああ、たぶん兵長だ。
あの目つきの悪い怖い人だ。
偉そうなオルオは、きめたようにひっそりと声を低くして話のオチをつけた。
「血まみれで、顔がわかんないくらいどろどろの調査兵団の服を着た女が・・・。」
オルオの話に、数名の女子がきゃあきゃあ声をあげて、男子は嘘だろ、と笑いつつも笑顔がどこか固い。
怪談話なんてよくあることなのに、なんでまたオルオが鼻につく喋り方で聞かされねばならないんだろう。
「ねえペトラ、オルオは疲れてて幻覚でも見てるの?」
「たぶんそうじゃないかしら。」
パンを食べ終わって、行儀よくテーブルに向き合うと、ハンジさんはグンタを捕まえて巨人について話していた。
あの人の話は長いから、グンタは今日も寝不足だろうなと思いつつ、ミケさんに視線を移した。
なぜかミケさんの動きがぎこちない。
パンを食べるにしてもスープを飲むにしても、いちいち動きががたっとしている。
スープの中にパンをつっこんで食べるならまだしも、何故かパンの皿の上にスープをかけてパンを食べている。
挙動不審とはまさにこのこと。
さっきまではこんな風じゃなかったのに。
そう、さっきまでは。
オルオの話を聞いてから、変だ。
周りはオルオの話をきっかけに、自分が体験した奇妙な体験の話ばかりで溢れ返っている。
特に女の子達は、きゃあきゃあと怪談話に興じている。
ふと、耐え切れなくなったようにミケさんがテーブルから立ち上がり、外へと向かった。
食べてたご飯はそのままだったし、足は速い。
ペトラの膝から降りて、ミケさんを追いかけた。
外に出て追いつけるかと思って外に出ると、ミケさんは出口の側でつっ立っていた。
「ミケさん?どうしたの?」
当然のごとく何も喋らないミケさんに不安を感じたけれど、失礼なことに何故こんなに固い雰囲気になっているかは察してしまった。
そして、同時にこみ上げる笑い。
大きな背と、大きな体格に似つかない、隠れた本質。
必死に笑うのを抑えて、ついからかってしまった。
「ミケさんの、うしろにいる女の人だれ?」
さっと青ざめたミケさんが、ゆっくりと後ろを振り向く。
振り向き、しばらく後ろを見つめる。
なにもいないのに、ずっと見つめていた。
目を凝らして、暗闇から何か出てきたらそれこそどうするんだろうと思ったし、今ここで私が驚かしてしまうこともできた。
びくびくしているミケさんがなんだか可愛く見えて、私が楽しくなる。
誰もいないことを確認してから私を見たその顔は、驚きと焦りに満ちていて、とうとう笑ってしまった。
「ミケさん怖いんだ、怖いの嫌いなんだあ!」
「やめろ・・・なまえ、やめろ・・・。」
「怖いの嫌いなんだあ、ミケさん、だめなんだ」
「なまえ、やめろ、駄目だ。」
「怖いんだ、ミケさん、怖いんだあ!」
けらけら笑う私をそっと抱えて、静かにしろと指を口に当てられ、へらへらしながら笑うのをやめた。
抱えられるとすっぽり収まってしまうくらい小さい私が、ミケさんの首元にぎゅっと抱きつく。
こんなに背が高くて、強くて、みんなを仕切ってる人が怖がりだなんて。
なんだが、とっても楽しいことを知ってしまった気分。
「オルオの話、怖かった?」
「・・・」
すっかり怖がって何も喋らないミケさん。
意外な一面を見たようで、私はなんだか楽しくなってしまった。
「怖くないよ、ミケさん」
ぎゅうと抱きついたあと、ミケさんの鼻先に軽くキスをする。
ハロウィンは、怖い話をする日でもあるのだろうか?
そうじゃないならオルオの独断ということになるので、やはりオルオは近いうちに格闘訓練で蹴り飛ばす必要があるようだ。
「一緒だから怖くないよ」
「・・・ん。」
抱っこされたまま撫でられたあと、髪をくしゃくしゃにされる。
大きな手で撫でられるのは気持ちよくて、つい嬉しくなってしまう。
「わあ、くすぐったいよ」
喜んで手でじゃれあうと、今度は首の後ろや脇をくすぐられた。
食堂の皆に聞こえるんじゃないかってくらい、笑ってしまう。
くすぐったくて、ミケさんの腕の中で暴れる。
「あはは、ミケさん、くすぐったい」
散々くすぐられたあとに、ぎゅうと抱きしめられた。
いつも抱きしめられる側なのに、なんとなくミケさんが私に抱きついてるような気がして。
よしよし、と頭を撫でると、いきなりキスされた。
笑いすぎて口元が緩んでいたので、口の中にぬるりと舌が入ってきても驚かなかった。
「ん、んっ」
ぽんぽん、とミケさんの肩を叩いて、視線で訴える。
いくら人がいないとはいえ、ここは食堂の前だと。
それに気づくとすぐキスをするのをやめてくれたけど、今度は私の顔が赤い。
いきなりキスされるのは恥ずかしい。
まだ慣れない私は、こどもなのかなあ。
「・・・怖いのまだ、怖いの?ほら、ミケさん」
オルオの怪談話にすっかり怖がったミケさんが私を抱きかかえて、ゆっくりした足取りで部屋に戻る道を歩みだした。
そうだ、今日はハロウィンだから、怖い話は忘れてお菓子でもおねだりしてみよう。
「ぎゅうしてあげるから一緒におやすみね?」
一緒に寝るときの、ふたりがひとつの毛布に入ったときの温かさを思い出しながら、また私はへらへらと笑った。

ミケさんの部屋につくと、私は真っ先に毛布に転がった。
ころころ転がって、毛布を堪能する。
寮のベッドは固いので、ミケさんのベッドをこれほどまでに堪能して、顔を埋める。
ミケさんの匂いがするベッドで転がってから、ジャケットを脱ぐミケさんに向かって叫んだ。
「トリックオアトリート!」
「ん。」
振り向いたミケさんが不思議そうな顔をしたので、今日がハロウィンであることを説明したら、本が積まれた一番上にある籠に手をやって、啄ばむように何かを取った。
啄ばんだものは小さな飴で、私はそれを喜んで口に入れた。
私が笑顔で飴を食べるのを見て、先ほどの怖い気持ちはどこへやら、ミケさんは笑っていた。
「おいしい」
ミケさんから貰ったのもそうだし、好きな人から貰った飴。
美味しくないわけがない。
もごもごと飴を食べていると、ミケさんが、私に手を差し出す。
「ほら、トリックオアトリート。」
一瞬ぽかんとして、口から飴が落ちそうになる。
「・・・ない!!!」
口の中の飴をつい噛んでしまったけど、ないと断言した私を見てミケさんが鼻で笑った。
悪戯されてしまう。
悪戯って、なにをされるんだろうと妄想してる私をよそに、飴をもごもごと口の中で転がす私を見てまたしても鼻で笑う。
ミケさんは、私を軽々と抱きかかえると、抱っこしてくれた。
「ほら、抱っこの刑だ。」
意外にも、ゆっくりと抱きかかえてくれた。
あったかくて、疲れてるせいかちょっと埃くさいけと、安心する匂いに包まれて嬉しくなる。
口の中で少し砕けた飴を噛んで、食べきる。
味が残って、口が甘く感じる。
「えへへ」
「今日のは、秘密だ。秘密にしてくれ。」
私を抱っこしたまま、ミケさんがベッドに寝転がった。
「うーんとね、あのね」
私の言い分を聞きながら、ミケさんはベルトを外し、楽な格好になる。
その早業ったら、すごいのだ。
調査兵団の偉い人は皆早脱ぎの技を覚えているのかな?
ハンジさんに今度聞いてみようっと。
「ミケさんが怖がってるとこも、好きだよ」
そう言うと、気まずそうにミケさんは笑ったけど、それはそれなようで、また頭を撫でられた。
撫でられてふにゃりと気を抜かすと、また鼻で笑われた。
虫でも取るかのようにミケさんの鼻をつまんで、また笑った。
鼻から手を離して、大好きな人を見つめる。
「ミケさんの匂い、好き」
抱きついて寝転がると、すぐに眠気がやってきた。
子供みたいだから、すぐ眠くなってしまう。
もう大人の歳なのに、子供っぽくてどうしようもないけど、それでも私はミケさんが好き。
「ねむい」
そう呟いて意識を手放そうとすると、必ず聞こえる。
「おやすみ、なまえ。」
安心する、落ち着く声を聞いて、私はまたあったかいまま眠るのだ。





2013.11.20


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