煮詰まる被虐心





サドマゾってる




ライナーの拳が、私の肋骨めがけて振り下ろされる。
他の人が見たら確実に止めに入るであろう光景に、背筋から腰にかけて寒い快感が伝う。
どす、と鈍い大きな音が鼓膜を震わせる。
強烈な鈍痛が腹部に響いている間に、大きな手が横っ面を叩いた。
鼻の穴から棒でも入れて掻きまわされたかと思うような、つんとした痛みののち、熱さが流れ落ちる。
垂れ始めた鼻血が口に入って、鉄の味が広がった。
シーツに垂れる血は鮮血で、ぼたぼたと汚していく。
血についてどう言い訳するかよりも、白いシーツ、それもいつもライナーが寝ているところを私の血で汚している。
その気味の悪い事実に、やけに支配欲がせり上がってきた。
体を横にさせたまま、痛みと快楽で咽ながら短く喘ぐ。
痛いけれど、気持ちいい。
血まみれの口元から漏れる滑稽な喘ぎに、惨めな感覚を感じ取り、また興奮した。
喘ぎは聴きようによれば呻きにも聴こえるだろうし、この状況が好き。
垂れ流してる鼻血から脳漿までも流れてしまいそうだ。
髪を掴まれ、頭を持ち上げられてから、ライナーの拳が一発顔に当たる。
おでこに重いものが衝突したかのように、脳が揺れそうになった。
鼻腔から溢れる鼻血に、顔が汚れ、唇から内側に垂れた血で味覚が反応する。
舌の上で血の味を堪能していると、ライナーが心配そうな顔をした。
「おい、なまえ、もういいか?」
血まみれの顔で快感と格闘する私を見て、心配そうな顔をするライナーはやはり優しい。
私の、殴ってほしいという頼みを聞いてくれただけはある。
「ん、あっ、の」
血まみれで、血で鼻腔内が固まりそうになるくらい、頭がくらくらする。
もっと性的なことをお願いしようとしたら、脳が上手く動かず言葉が出てこない。
両腕で、なんとか上半身を起き上がらせると、頭で渦巻いてた血がすっと体の中に落ちた。
思考がはっきりして、それから言葉が出てくる。
セックスしている時以上に気の抜けた顔のまま、締まりのない笑顔でお願いした。
舐められなくても、私は既に濡れている。
「罵って」
私の口から出た欲望を、ライナーは受け止める。
一瞬困ったような顔をした気がしたけど、まだ加減に慣れていないだけだろう。
「雌豚。犯してやるから有難く思え。」
首を掴まれて押し倒され、折るかのように足を開かされた。
骨盤が軋む感じがして、それからライナーの体重が私の体にかかる。
太ももの裏側を乱暴に掴まれ、ライナーが意地悪そうに笑う。
「なんだよ、このぶよぶよの足。引きちぎってやりてえ。」
異性の一方的な罵倒が好きだと気づいていた私にとって、もう一目惚れだったのだ。
人が悪くなさそうな顔、厳つい雰囲気、それでいて力のありそうな体。
惹かれずにはいられなかった。
そして、この人なら他言しないと思った。
無理矢理に開かれた足の間に、僅かな異物感。
足の裏側が攣りそうになるけど、それも快感だから息を止めて耐える。
酸素がいかず頭がぼうっとしている間に、下半身に異物感を感じた。
異物感は押し入るとすぐに消え、何かの感覚だけを残す。
それが押し入り私の中を広げていっぱいにして、息をする間もなく摩擦運動が始まる。
間はずっと、息を止めていた。
性器と下半身のぶつかりからは、卑猥な水音と粘着質な音が這うように聞こえる。
動かれると、挿入された部分と摩擦されるところが、気持ちいい。
重い瞼をこじ開けて、睫から霞む先を見た。
ライナーが口元を歪めて、すこしだけ笑いながら覆いかぶさっている。
「なんだよこのでけえ乳。握ったら潰れそうだな。」
片手でぐっと握られ、潰される痛みが刺すように広がる。
楽しみと、支配欲と独占欲と、ほんのすこしの心配。
それが混ざり合った表情は、とても、とても母性本能を刺激される。
少々乱暴な行為でも、感じることは感じる。
もっとも、私が感じているのは血まみれになりながら行為をされていることであって、行為そのものではない。
愛しい人に慣らされれば感じれるようになるのだ。
「ああっ、う、あああっ」
膣内を抉るライナーのペニスの太さに、背中から腰にかけてじんわりとした温かさが広がった。
深く挿入して短く摩擦したり、激しく、私の体が揺れるまで揺さぶって摩擦したり。
中では気持ちよくなるわけがないと思っていたけれど、今は違う。
本当は行為に及んでいる最中も殴ってくれていいのだけれど、大丈夫だろうか。
次は言ってみよう。
ライナーの顔を見ると、余裕がなさそうに腰を振って貪っていた。
つい最近まで、ライナーは童貞だったのだ。
もちろん、私もライナーに会うまで処女だった。
最初は、顔立ちとか肩幅とか握り拳と筋肉と、あと人が悪くなさそうな顔。
それに惹かれて、きっとこの人なら私の底に隠された欲望を叶えてくれるに違いない。
殴って、罵って、詰って。
殴られることに興奮を覚える私には、この人が運命の人だ。
そう確信して、近づいた。
不純な動機を持つ私の顔を、ライナーは見逃さなかった。
殴って、蹴って、血まみれの私とセックスしてほしい。
欲望の満たしあいに、多少の血。
そこも了承してくれるだろうと思った。
「ライナ、アァァ、やぁっ、そこっ中っ、いいっ!」
「気持ちいいか?」
「気持ちい、きもちいっ」
口からだらしなく涎を垂らす私は、さぞ滑稽だろう。
顔は血まみれだし、見えてないけど多分腹に大きな痣くらいは出来てる。
滑稽なら、罵って。
私を貶して。
否定されてるのに貴方は私を性的な目で見る。
それが、たまらないの。
「ライナー、だめ、いく、いく、いくっ・・・!」
「なまえ、いくのか?」
「気持ちいいよお、駄目ぇ!」
「ほら、なまえは雌豚だろ?ちゃんと足を開いて俺に見せながらいくんだ。」
腰が鈍く痛んで足が上手く開けず、小さい子がトイレするような足の開き方をした。
それでも上手く開かない足に、筋肉の強張りを感じる。
両足をこれでもかと開き、ライナー側から丸見えにしたあと、ひたすらペニスを感じた。
息を止めていないと、すぐ大きな声が出てしまうからずっと息を止めているけど、くらくらして仕方ない。
浮腫んだ脳の奥底で、愛の言葉を必死に考え溜める。
それは言葉として出てこないまま、体の中に沈む。
本当はそういうものじゃないのだろうけれど、血まみれの口から何を言っても信憑性なんてないだろう。
膣内の一番奥を刺激されながら、絶頂が体の芯から広がっていく。
びくびくと痙攣する私の体を抱きしめ、腰を打ち付けるライナーに、子宮が締まる。
「は、っう。」
ライナーが中で果てると、すぐに精液が膣から溢れ出した。
体の中で、萎えていくライナーのペニス。
そうすると、隙間から精液が漏れてくるのだ。
汚らしい自分の性器を想像して、また興奮する。
好きな人に汚されるのが、大好きで、ライナーも大好き。
朦朧とした意識で、覆いかぶさるライナーを抱きしめた。
なんだか重いなあ、くらいしか分からなくて、ようやく息をするのを再開する。
筋肉質な体は抱きとめるには大きくて、それがまたいい。
なまえ、と言って私にキスをすると、血まみれなのにも関わらず舌を入れてきた。
舌を吸いあったあと、私を真剣に見つめるライナーを見て、口走る。
「殴って、ライナー、殴ってぇ」
私のお願いは、すぐ聞いてくれた。
一瞬躊躇ったけど、ライナーは私の腹に一発お見舞いしてくれた。
「げほっ・・・うっ、ライナー、好き」
「咽るか喋るか、どっちかにしてくれよ。」
「うん、好き」
私の異常な性欲は、どこまで続くんだろう。
なんとか体を起こし、倒れこむようにライナーに寄りかかる。
筋肉しかない体は温かいな、なんて思いながら、血が巡ってきた頭で呆然とした。
軋む手で、ライナーのペニスを扱いてから咥えると、首にも鈍痛が走った。
寝違えたような痛みだったけれど、気にしない。
咥えて舐める私の頭をひっつかんだと思ったら、顎を掴まれる。
「アンアン言って咥え込んでる雌豚のくせに、よく喋るな。」
今にも顎が砕かれそうで、ぞくぞくしていたら突き飛ばされた。
男の人が思い切り突き飛ばしてくれると、けっこう飛ぶ。
もうすこしで頭がベッドの縁にぶつかりそうだったけれど、突き飛ばされて背後にライナーがいるのを確認して、そっと尻だけ突き出す体勢になった。
何も言わずともそうする私を、本気で淫乱だと思いそう。
いや、思われても仕方ない。
圧迫感すら、もはや快感。
割り入るように挿入されたものに、つい息を止めてしまう。
口の中に混じるように入る自分の髪の毛を吐き出しながら、毛先が濡れるのを横目で見る。
この体勢だとライナーが見えないけれど、ライナーの大きな腕なら顔のすぐ横にあった。
大きな腕が本気を出したら、私なんて簡単に死んでしまうだろう。
死に様に近いものを想像しながら腰を擦り付けると、派手に二回腰を打ちつけられた。
体の中で、大袈裟に動かれる。
ベッドの匂いでも嗅いでいるかのように、だらんとした私の体をライナーが抱きしめた。
だらりと涎が口の端から垂れ、顎まで垂れる。
ふと目をやったシーツは、血だらけ。
ライナーの右手が私の性器に伸びてきた。
嬲るときは思い切りやって、とお願いしているので、強い力で擦られる。
それでも手先の動きがゆっくりなのは、性格からのものなのだろうか。
太くて大きい指にクリトリスを蹂躙され、思わず絶叫する。
がたがた震える腰はお構いなしに、ライナーの指が責める。
潰れそうなくらい撫でられ、ペニスは私の中で暴れまわるように動く。
挿入中のクリトリスほど敏感になっているものもないので、触られるたびに全身が跳ねる。
「ああああああ、やあ、んっふぅぅぅぅ、あああ」
だらしない喘ぎ声が、漏れたまま止まらない。
「気持ちいいのか?ケツの穴まで丸見えだ。」
「んうう、うん、気持ちいい」
「なまえのケツでやってやるよ、ここも初めてだろ?」
「!?」
ライナーの指がアナルに触れて、私はつい腰を引く。
あの大きな逸物が、そんなところに入るわけがない。
大体立体起動の訓練のとき、そんなところでセックスしてたら、訓練中の脱糞は避けられない。
膣内をペニスで摩擦し続けるライナーの指が何故かアナルに置かれていて、ぞわぞわする。
「ライナー、だめだよ、お尻はやだ」
「なんで?」
「な、なかっ、お、お、おまんこに出してええ」
「あ?聞こえないな、ちゃんと言ってみろ。」
「おまんこ、なかっ、ライナーのでいっぱいにしてえ!」
必死が付きまとうような懇願を、ライナーは聞き入れてくれたようで、指が離れた。
激しく腰を打ち付けられ、子宮の奥に当たりそうなくらいのピストンが責めてきた。
膣内を摩擦されて、奥を突かれて、ほんのり気持ちよくなる。
血が抜けてぼうっとした頭じゃ、感じることしかできない。
「ほら、中に出してやるよ。」
一段と奥に挿入され、子宮口を刺激される。
揺れる体と、止まらない喘ぎ。
きゅうっと乳首が締まり、クリトリスが熱くなる。
「っあああ、ああああ!!!!」
奥に広がるライナーの精液はすぐに垂れ、結合部から精液が垂れた。
フロウバックがペニスを汚すけれど、あとで私が舐めるから気にならない。
量が多いのだろう。
垂れた精液を指ですくって、乳首に絡ませてから舐めたら、ライナーが凝視していた。
「なに?」
「なまえは、本当に・・・エロい・・・。」
ライナーの恥ずかしそうな顔を見て、笑ってしまった。
「ん、ほら」
ペニスについたフロウバックを舐めていると、目の前でライナーの逸物が臨戦状態になった。
それについ笑ってしまうと、恥ずかしそうに股間を隠された。
「もうしないの?」
「なまえ、まずタオルで顔を拭いたらどうだ。」
手で顔に触れると、たしかに血まみれだった。
タオルで黙々と拭いていると、ライナーがタオルを奪い取り、わざわざ拭いてくれた。
優しさにときめきつつも、垂れる鼻血でどれだけのエネルギーが流れてしまうのだろうと思うと、私は駄目な兵士だと思った。

「はぁ、痛い」
「そりゃあ、殴ったし殴れって言われたからな。」
シーツを交換し、なんとか紛れて寝ているものの、セックスの余韻のおかげで今にもライナーを襲ってしまいそうだ。
逞しい体、精悍な顔、たまらないの。
私の変な性癖にも付き合ってくれる、ライナーが大好き。
「ライナーの拳、最高に気持ちいいの。」
腕を触って、上目遣いのまま筋肉に唇を寄せる。
「この筋肉、拳、足、一目惚れよ!ライナーを見た瞬間思ったわ、私の運命の人だって」
そうして、にこ、と笑ったら鼻血が垂れてしまった。
思ったよりも鼻血の息が長い、と思っているとライナーがタオルで私の顔を拭いてくれた。
「ちゃんと手当しような、無理をさせてすまなかった。」
これだから、ライナーのこと、大好きなの。









2013.10.20


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