#08 赤也の話をしている内に、結局勉強会に変更しようという話に落ち着いた。 幸村の方から皆へ誘いのメールをしてくれるというので、その件については有難く任せておく。 幸村が本を返しに行くと言ったので、残りの昼休みの時間、特に予定の無い仁王も着いて行くことにした。 階段を上っていく度に澄んでいく空気。 立て付けが悪く、開けるのに少し苦労する扉。 そのどれもが、懐かしかった。 「・・・ものすごく久しぶりじゃ」 「あんまり興味ない?」 「いや・・・」 本、というよりはむしろ書物独特の香りや雰囲気が好きで、1年次にはよく足を運んでいた。室内の空気を、めいっぱい吸い込む。 気が向けば、ここで本もそれなりに読んでいた。視聴覚室の存在に目をつけてからは、自然と疎遠になってしまったけれど。この話をすると、幸村は「そういえば」と何かを思いついたような顔をした。 「前に欲しいものがあるか聞いたとき・・・仁王、図書室がいいって言ってたね」 「ああ・・そうじゃな」 言われてみればあの日、仁王は幸村の質問に対してそう答えていた。 あのときは無意識だったが、これを機にまた通ってみるのも良いかもしれない。 「俺、ここで死にたいって思うたことがある」 「なにそれ、自殺願望?」 「いや、全然」 自分にとって、死というものは遠くにある。 けれど、もしいつか息絶える日が来るなら、そのときは。 「・・・うん、そういうことなら。何となくだけど、分かる気がするよ」 返事の代わりに、小さく頷いた。 またいつか、疎遠になる日がくるのかもしれない。 それにこの願いは、本当に叶わなくても構わないとさえ思っている。 けれどこの場所が、自分にとって安らげる場所であったことだけは覚えていよう。 絵本の背表紙を大事そうに撫でて返却口へと向かっていく幸村を目の端に捉えながら、そう心に刻んだ。 |