#07



幸村のクラスから出て渡り廊下を歩いている最中、突然小雨が降り出した。
これでまた気温が下がる。置き傘は先日パクられたばかりだし、せめてパーカーでも着こんで来ればよかったと、仁王は憂鬱な気分になって肩を落とした。

視聴覚室前の廊下にさしかかると、ちょうど鍵を閉めている幸村の姿が見えた。



「ここ、本当に人通らんよな」

「仁王」

「忘れもん、届けに来た」


ポケットに突っ込んでいた右手を出し、脇に挟んでいた絵本を差し出す。

「『その本は図書室の貸し出し物だ。貴重品の管理をしっかりするよう伝えておけ』・・拾ってくれた人からのありがたーい伝言じゃ。部室棟で見つけたって言うとった」


イリュージョンを使って真田の声マネをすれば、幸村は意外な人物であったことに噴き出した。


「真田、怒ってた?」

「幸村の名前は伏せて受け取ったけえ、持ち主が幸村ってことには気付いとらんきに」

「そうか、真田が・・・ありがとう、言ってもよかったのに」



礼を述べ絵本を受け取った幸村に、別に気を利かせた訳ではないと言おうとしたが飲み込んだ。



そう、気を利かせた訳ではない。
でもあのときの自分は、きっと意図的に幸村の名前を伏せた。

自分はどうして言わなかったのだろう。
けれど突き詰めて考えてはいけないような気がして、思考をシャットアウトさせた。



「でも、どうして真田が預かってたことを知ってたんだい?」

「朝、校門の前で会うての。えらいファンシーな袋を手に提げとったけえ、それについて聞いちょったらその袋の中に入っとったぜよ」

「ファンシーな袋・・・ああ、もしかして佐助かな」

「そう、甥っ子の。今日はテニ部のやつらがいっぱい早起きしとった」

「ふふ、生活リズムが出来上がってるんだろうね。真田と会ったってことは仁王も早く学校に行ってたんだろう?もしかしてコート行った?」

「おん、赤也と」


そう言うと、幸村は俺も早く家を出とけばよかったと残念がった。



「先生に見つかってダメになってしもうたけどな。テニスコートから職員室までそんなに距離ないけえ、球打ち合う音が聞こえてきたんじゃろ」

「じゃあ、やっぱりしばらくは学校では出来ないね」


学校では。そうか、失念していた。


「河川敷のあたりにでも行こう。俺にも打たせてよ」


幸村のテニスをイリュージョンとして取り入れるためのチャンスである。魅力的な提案に、二つ返事で承諾した。
丸井たちも誘ってみよう、きっと喜ぶに違いない。


「でも赤也は連れて行けん」

「どうして?」

「このままだと赤点確実じゃ」








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