#06






昼休み、食事を終えた仁王は再び幸村のクラスを訪ねていた。
満腹の状態で、教室中に充満するお弁当の香りを嗅ぐのは辛いものがある。元々、食に関しての執着が人一倍薄いのもあって、胃液がこみ上げてきた。

室内を見渡してみても、幸村の姿は見当たらない。もしかして、視聴覚室に居るのだろうか。
早く立ち去りたいと思ったが、念のため、ドアから一番近い席の生徒に幸村の所在を尋ねてみることにする。


「なあ、幸村どこに居るか知らん?」

「幸村?んー、昼休み始まってすぐに教室を出てったっぽいけど、それから見てない」

「分かった、ありがとさん」


幸村は、きっと視聴覚室にいる。早く、この絵本を返してしまいたかった。
それじゃ、とドアに手を掛けたが、思わぬ静止が掛かった。


「・・・アイツさ、ときどきこうやって急に居なくなるときあんだよ。何でか知ってる?」

「いや・・・俺も分からんのう」

「そっか」




視聴覚室のことは当然伏せたが、それにしても中途半端な受け答えをしてしまった。

その男子生徒が、詮索などではなく本当に心配して問うているのだと感じさせるものだったから。
だから、戸惑ってしまったのだ。





「アイツは、大丈夫じゃ」



一体何が大丈夫なのだろう。
何に対しての『大丈夫』なのだろう。

けれど、今の自分にはこれしか言えなかった。
これで安心させられるとはまるで思えなかったけど、それでも何か言わないといけない気がした。










自分の知らないところで、自分が誰かに守られている。


幸村は、知っているのだろうか。



そして自分もまた、知らないところで誰かに守られているのだろうか。






――そうだとしたら、それはきっと幸せなことなのだろう。





銀杏の葉が、窓の外で静かに揺れた。










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