#4





気のやさしい、とても素直な仔猫の物語だった。



ある日仔猫は意地の悪い野良猫にウソの知恵を入れられ、夜空の三日月を金色の魚だと思ってしまい、以来仔猫はその「金の魚」を渇望するようになる。


毎夜まばゆい星たちに囲まれた美しい金の魚を見上げ、母に『取って』とせがみ、素直な仔猫はそれを架空のものであることを疑わない。



野良猫は「仔猫はバカで滑稽だ」と嘲笑い、月は「そんな仔猫がいとおしい」と笑う。
ひとつの真実に対する受け止め方のちがいが、とても対照的だった。




様々な思いを巡らせ、仁王はふうっとため息を吐いて本を閉じた。

嬉しいような気もしたし、苦しかったような気もする。
なんだか複雑で、どうにもかみ砕けない。ただ、ページを捲るのがもったいないと思った。

それから――野良猫と月のやりとりが、一瞬自分と幸村に重なって見えた気がした。






ひやりと舞い込んできた冷気が、換気していたことを思い出させた。先程よりも更に幾分か、外の気温が下がっているのだろう。
ぶるりと身体を震わせ、席を立つ。
しかしこれまた見知った人物の姿が目に留まり、カラカラと窓を閉める手を止めた。


「赤也」

「えっ」

「こっち、上」

声の源を辿ろうと、一生懸命きょろきょろしている赤也に笑った。
もう一度導くと、気付いた赤也がパアッと顔を明るくさせる。赤也のこういうところが、たくさんの人に可愛がられる所以なのだろう。

仁王自身も、テニス部の後輩としては元より、赤也を可愛がっているという自覚はある。赤也の素直さや毒気のなさを、皆と同じように好ましいと思っていた。


「仁王先輩、おはよーございます!」

「おはようさん。赤也も随分早いんじゃな」

「朝練の時間に自然と目が覚めたんっすよね、目覚まし掛けてなかったのに。最初は二度寝しようとしてたんすけど、目が冴えてきちゃったんでいっそ自主練とか?しちゃおっかなー?って」

赤也がニヤニヤしながら得意気にラケットバッグを見せてくるものだから、急に自分もうずうずしてきた。

確かロッカーに、置きラケットが1つあったはず。


「赤也、俺がコテンパンにしちゃるけえコートで待っときんしゃい」

「まじっすか!コテンパンにするのはこっちっすよ!」

早く来て下さいねー!と満面の笑みで催促する後輩を見て、あの絵本に出てくる仔猫はまるで赤也のようだと心の隅で思った。










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