好いとおよ、


仁王は俺の耳元にそっと近づき、まるで内緒話でもするかのようにそう告げてきた。うららかな昼下がり、屋上で飯食ってるときのことだった。
たおやかな響きで以って、俺の心にレシーブアンエレクトリック。仁王から発せられた5文字のことばが、一瞬であたまの中を埋め尽くした。



それで俺らの関係が変わっていったかと言ったら、否だ。
その後も、俺たちはどこまでもクラスメイトでありチームメイトだった。
気が向けば一緒にサボったり、可愛い後輩をからかったりもする。
どこまでも、これまでと変わらなかった。

そうして俺らは今日もまた屋上にいる。揃ってフェンスに凭れ掛かり、購買で購入したクソ甘い紙パックのジュースなんか啜って、どうでもいいような、とりとめのないことばかりを話して。
フェンスの向こうの空では名も知らない鳥が翼を翻し、下を見れば花壇の水遣り当番がホースでジョウロに水を汲んでいた。


仁王は、何も変わらない。
変わらなさすぎて、屋上での一件は白昼夢の幻だったのだろうかと思ったくらいだ。

俺は、少しだけ変わった。
あいつの一挙一動が、気になって仕方なくなってしまった。




この前のあれは気まぐれだったのか、それとも、或いは。
ただでさえ読めない仁王のことを考えてもしょうがない。キリがない。
それでも、何事もハッキリさせないと気が済まない性分の俺はジャッカル宜しく頭を抱えた。

けれど、ひとつだけ理解していることがある。
仁王のアレは、友達以上を望むためのことばではない。あいつが俺に、何かを望んだことなんて一度もなかった。
そしてもうひとつ、確信していること。あいつは、俺のことがすき。



「猫ってプライド高い生き物じゃん」
「おん」
「自分の死期を察すると、遺体を人目に晒したりしないように隠れるんだと」
「そりゃすごいの」
「…なあ仁王、お前って」
「猫に、似てるわ」

ずい、と顔を近づけてみた。言うなれば、気の迷いってヤツ。

「丸井」
「なに」
「丸井、好いとおよ」
「…タチ悪いね、おまえ」


仁王の正面に立ち、押し付けるようにしてかさついた口唇をそっと塞いだ。がしゃん、とフェンスの音が響く。
こんなに間近で、仁王の顔を見るのは初めてだった。


「俺がほしいって言えよ、仁王」


したら俺、認めるから。
どうしようもなく、お前に惹かれてるんだってことをさ。



 
望むならあげる





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