一人暮らしの白石くん








カラン。
解けた氷がコップにぶつかり、小気味良い音を立てた。
この音を聞くと、唐突に夏を思い起こす。

「どーぞ」
「おー!うまそ!」

即席で作ったチャーハンの皿に、スプーンを添えて謙也に差し出す。
自分も一旦キッチンに戻り、同じくらい盛った自分の分のチャーハンをテーブルに運んで来ると、謙也はまだかまだかと受け取ったスプーンを片手にそわそわしていた。

思わず笑ってしまう。待たせてごめんな、と言うと、謙也は慌てて「そんなことないで!」と首を横に振った。
そういうところが、ひどく愛しい。
素でそう思った自分に少し驚く。彼の持っている素直さが、自分にも少し移ったのだろうか。

そういうのって、なんかええなあ。


二人で手を合わせる。
うん、なかなかいい出来だ。

「いただきます!」
チャーハンにスプーンを入れ、彼はひどく幸せそうにそれを口に運ぶ。
その光景を見て、何だか自分まで嬉しくなった。ほんまに作り甲斐のある奴やで。

謙也が家に来る度、料理の腕が上がってきているような気がする。
人に料理を出す手前、というのも勿論あるとは思うけど。頑張ろうと思えるのは、やっぱりこの笑顔の為やと思う。
現役主婦ばりにスーパーへと足を運んで、あれこれ作ってみようと思い立つ影には、自然と謙也のこの笑顔が浮かぶようになっていた。そしてそんなときに作った料理は、何故だかおいしく思えるのだ。

「なー白石、」
「ん?」
「この部屋、広いな」
「そっかあ?そんなことないと思うで」

「や、なんていうか…うん、広いわ」

一度スプーンを置き、謙也は部屋を見渡してそう言った。
オレにはよく分からないと首を傾ぐ。謙也に倣って部屋を見渡してみても、やっぱり分からなかった。
暫くして口を開いた謙也は、わかった、と呟くように言った。

「広い狭いやなくて。さびしいねん、この部屋」
ああ、と思う。
それなりに散らかってて生活観はあるけれど、謙也の言う「さびしい」っていうのがなんとなく、分かった気がした。
一人暮らしだからとか、そういうんやなくて。

「白石は、さびしくないん?」

そう尋ねた謙也の方が、よっぽど寂しそうに見えたのは気のせいやろうか。

「よお分からんな。特にそう思ったことはないけど」
「そうか。白石はすごいわ、俺一人暮らしとか寂しすぎて出来る気がせえへん」
「別にすごいわけとちゃうで、慣れや慣れ。それに、謙也、こうやって家来て俺の作ったご飯うまそーに食ってくれるやんか。そういうの、うれしかったりするんやで」
「ほんまに?そんなら良かったわ」
安心したように笑みを見せる謙也。ああもう、なんやろう。このこみ上げてくる気持ちは。


次おまえが家に来たときは何作ってやろうかな、とか。
よろこんでくれるやろうか、とか、そしたらあの笑顔が見れるやろうか、とか。
そんなことを考えながらこのボロい部屋で料理作ったりするの、楽しい。
それだけで、ここにいる意味はたくさんあるんやで。

この部屋に帰って来て、灯りが点いてなくてもおかえりの言葉がなくても。寂しくさせないのは、謙也のお陰。

背中に手を回して、シャツを握り締めてきた謙也のその腕が。ほんとうに、いとしくて堪らない。

「…あついな」
「…おん」

あつい。ほんまに、あつい。
心なしか、顔も熱い。せやけど、俺らはこの部屋の暑さのせいだと言い訳を作った。




カラン。


もう一度氷が解けて立てたコップの音を合図に、どちらからともなく口吻けた。
もうすぐ、夏が来る。










***
別所で書いていたものをリサイクル
エセ方言で申し訳ないです、もっとお勉強します。
わたしの中での白石くんは料理ができるイメージないんですが(失礼)、謙也くんのためなら頑張れちゃうんじゃないかなあと思います。
ゲロまずなのに頑張って食べちゃう謙也くんも良い。敢えてゲロまずな物体X作っちゃう白石くんでも良い。3―2の可能性は無限大ですねSUKI


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