ゾウってね、





突然、何の脈略もなく紡がれたことばがそれだ。
慈郎が突拍子もなく別の話題に転換したりするのは毎度のことなので特に驚くこともなく、
「どうした?」と問うたら。
にかっとわらう、慈郎の顔が目前に広がった。

ちかちかする。とても、まぶしい。
慈郎は、こんなわらいかたをするときが一番まぶしい、と思う。

暖かい日差しが照りつける、この屋上の一角の陽だまりとよく似合っていた。慈郎は、ゆっくりと口頭で言った言葉の続きを紡ぐ。

泣くんだって。

ゾウってね、泣くんだって。
繋げてみる。その真意が分からず、首を傾ぐと、また慈郎はわらってみせた。
色素の薄い、やわらかい髪がふわりと揺れた。









あるゾウの親子の話を聞いた。

端的にまとめるとこう。
アフリカのサバンナ、たくさんの動物が生息する中で。
ライオンに狙われて深手を負ったある子ゾウは命からがら母の元に逃げ帰ってくるのだが、そのとき既に間に合わない状態であったその子ゾウはゆっくりと息絶えていく。
母ゾウは涙を流し、亡骸の傍をずっと離れなかったそうだ。



ゾウってね、泣くんだって。


さきほど慈郎が言ったその言葉を、こころのなかで反芻してみる。
びっくりすることに、これはほんとの話だそうだ。
慈郎から聞くところによると、ゾウだけが、仲間の死を悼むらしい。
死んだゾウの亡骸に顔を寄せ、その亡骸を労わるようにして鼻で撫で上げる。
子殺しさえ当たり前な野生の地で、そういう仲間意識が強い動物はゾウだけなのだという。
ゾウにも感情があるのだろうか。聞き入ってしまった。


まるで人間みてーだ。
そうつぶやくと、やはり慈郎はいつもの笑顔を浮かべて。
うん、そう言ってこくりと頷き、穏やかにわらったのだった。




いたみとまどろみ










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以前違うところで書いたものをリサイクル。




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